【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。108 ~父上の方が、好き~

 

 

 

 

  

 

  

 

 寝室。

 良かった……また富士見台の家かと思った。

 おなかはまだ少し痛いけど。

「出血はありませんでした。多分、赤様もご無事ですよ。冷えたところにガリ様のアレですもの……堪えましたよね」

 マキメイさんが、温石を二つも持ってきてくれて、横からサンドイッチされた。ル・マちゃんも隣で、おなかに両手を当てて温めてくれてる。

「最後まで見たかったのに……」

 リョウさんが強かったから、ガリさんもうっかり全開しちゃったんだろうに…………リョウさん、凄く楽しそうだった。

 私が倒れたのとリョウさんの『負けた』宣言がほぼ同時だったのが、私のせいで切り上げたんじゃないか、って思ってる、自分の奢りにいやになる。

 振り返らなかったリョウさん。

 そこに、私は関係ないよね。

「男の人の足を引っ張るのって…………いやだね…………」

 もっと先に下がっていれば良かった。

 お城の中で倒れたのなら、こんな誤解を引きずらなくて済んだ。

 あの、ガリさんの全開の迫力に負けない日って来るのかな……?

「ですが、殿方も、ハルナ様をお守りするために、戦っておられるのですよ?」

「私が居なくてもキラ・シは戦ってたよ」

 山を降りたのは私が原因じゃないもの。

「……あっ、ごめんね、マキメイさんっ。励ましてくれてたのにっ」

「いいえ…………、そんなことお考えにならずに、お休みになってくださいまし。孕めば、誰でもイライラしたり、つらくなったりします。今、ハルナ様は普通ではないのですから、深くお考えにならないでくださいまし」

 でも、ガリさんに既に、年子で子供産ませる宣言されてるし、そのあとリョウさんもそんなことしそうだし。つまりは私が子供埋める間、私はずっと妊娠してるんじゃない? なら、今のうちに慣れておかないと、だよね。

「……うん…………キラ・シの大きい人達にやつあたりするよ」

 主にサル・シュくんとか。

「サル・シュ様とかね」

 心読まれた?

「許してくれる?」

「してくださいませ。あのかたは、痛い目を見た方がいいです」

 サル・シュくん、何してるの一体キミは。

「何も言わずに突然、一カ月もいらっしゃらなくなるとか………………ひどいです……」

 マキメイさんもおなかを押さえて泣きだした。

「だよね。私も驚いたよ」

 留枝(るし)を陥としに行ってたんだけど、出るなら出る、って行ってくれていいよね。

 サル・シュくんは『前』もそうだった。

『出陣の見送り』をさせてくれないんだ。

 フッと居なくなって、たまに帰ってくる猫みたい。

『殺したいほど憎んでいる男でないなら、出陣は、綺麗に見送れ』

『最初』のガリさんが、あんなに欲しがった、見送りの言葉。

 サル・シュくんは、求めないんだ? ル・マちゃんにはどうなんだろう?

 寝物語に聞いてみた。

「サル・シュ? 出陣の時にナニカ言ってきたことはないな」

 あの馬鹿っ!

「前日、はがれないから、わかるけど」

「…………それは、挨拶の一つじゃないの?」

「でも『出陣する』とは、聞いたことがない」

「ル・マちゃんは、何も言わないの?」

 コツンと額を合わせてみる。長い睫毛。

「何も言われないから」

「待ってる、とか、帰って来い、とか」

 視線がうろっと動いて、くちびるを噛むル・マちゃん。

「父上にだけ、言うから」

 そっちか……

「みんなには、もちろん、出ていくときは言うけどっ……大体、俺が寝てるときに出ちまうし……」

 そうだ。ル・マちゃんが生理でつらいときに出陣してることが多いんだった。

 新月に動くらしいから。

「ハルに言われて、気づいた」

「何を」

「サル・シュに、期待させちゃいけないって……」

 そっちの覚悟かー……

 うっかり溜め息ついちゃって、ル・マちゃんに覗き込まれた。

「あの時、ナニ言われてた?」

「いつ?」

「昼間、勝ち上がりで、サル・シュがずっとハルの側にいただろ?」

「ああ……留枝(るし)での戦果とか、どうやって戦うかとか…………『勝ち上がり』は殺せないからめんどうくさいとか…………」

「とか?」

「ル・マちゃんをどうやったら抱けるようになるか考えて? とか」

「ハルにっ?」

「うん……私に」

 ル・マちゃんがベッドに起き上がって、バシバシと温石を叩いた。

「ハルが考えたら、俺、避けられないじゃないかっ!」

「断ったから、大丈夫」

「ホントに?」

「ホントに」

 フシュー、と息を吐くル・マちゃん。

「頼まれても、そんなこと、考えつかないよ」

「そうか? ハルならなんでもできるんじゃないか?」

「ないない。私にそんな力ないです」

「だって、ハル、いろんなことしてるぞ?」

「私がしてるのは、『成ったこと』を『書き留めてる』だけだよ」

「それが凄い」

「でも、私から何かしたことはないよ。キラ・シがしたことを、思い出しやすいようにしてるだけ。決めてるのは、ガリさんだし、リョウさん。誰かの考えを変えさせる、なんてことは一度もしてないし、できない」

「…………そうなのか?」

「ル・マちゃんがサル・シュくんを好きなのか、ガリさんを好きなのか。どっちだと決める力もないし、する気もないよ。ル・マちゃんのことだもの」

 ニパッ、とル・マちゃんが笑った。そしてバフンッ、とベッドに倒れ込んで、温石を抱きながら、私にぐりぐり額をおしつけてくる。鼻でキスして、二人で笑った。

「ハルは、俺にサル・シュの子を産んでほしいのか?」

「私がどうのこうのいう問題じゃないけど…………ル・マちゃんもサル・シュくんが好きでしょ?」

 むに……とくちびるを自分でいじるル・マちゃん。

「……もっと、父上の方が、好き……」

 それは違うよ、って私が言うのもどうかと、思っちゃうよね……

『父上も好きだけど………………サル・シュとは……違う……』

 そう言っていたル・マちゃんを知っているのは私だけだし、『あの時』と『今』は、違うし……

「サル・シュは、他の女いっぱいいるからいいだろ」

「なら、ガリさんもいっぱい女の人いるよ」

 思わず言っちゃった。

 くちびる噛んで、ベッドに丸くなっちゃうル・マちゃん。

「父上は……父上だし…………」

「サル・シュくんもサル・シュくんだよ」

「ハルは……」

 ル・マちゃんが、私の手を取って私の指を、噛んだ。

「俺がサル・シュの子を産んだ方がいいのか?」

  

 

  

 

 

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