私のおなかが大きくなってきたら、リョウさんがずっとお城にいてくれる。
「制圧行っておいでよ」
「生まれないか?」
「まだ全然生まれないよ。それぐらい、わかってるでしょ? あと何カ月あると思ってるの? 何人も子供居るくせにナニ言ってるの?」
「いや、だが……そんな…………腹が破れないのか?」
「…………妊婦さん、見たこと、あるよね? 山で三人お子さんいたんでしょ?」
「あいつらは……これぐらいだったから、腹が脹れてるのなんてわからなかった」
リョウさんが、掌を横に広げて見せる。
たしかに、キラ・シはみんな、このおなかに驚いてた。というか、『下』の人はそんな太ってないから。
私を見て凄く騒ぐ。
「うるさいわね。あなたたちの女の人も見てきなさいよ。こうなってるから!」
って言ったら、本当に見に行って、もっと大騒ぎになった。うるさい……
全員が全員、『細い女の妊婦』を知らなかったらしい。
なんでキラ・シの山の女の人ってそんなに太ってるの?
そう言えば『前』に聞いたことがあったかな。その時に、ああ、アフリカにものすごく太ってる女の人がいるのと同じ理由ね、って思ったんだった。
せっかく、ずっと歩いてたのに、みんなが歩かせてくれなくなった。私が階段に居ると支えてくれようとするから邪魔で仕方がない。
「歩かないと死ぬからっ! 歩かせてっ!」
そう言ってようやく、いつもどおり、練兵場を歩けるようになった。ここで怠けたら、また、お産のときに体力切れて死んじゃうじゃないっ! もう、冗談じゃないのよあんなのはっ!
マキメイさんも似たような出産予定日だから安心。というか、前は一緒に出産開始したもんね。
私もドキドキだったけど、キラ・シがなんか、みんな制圧にも行かないでお城にいて、私に対してヒヤヒヤしているので笑ってしまう。
「制圧行かないの?」
「近場は行ってる」
みんなもう、私のおなかばっかり見てる。
今回はやったよ!
私生きてたよ!
リョウさんの赤ちゃん、かわいーっ!
黒い!
「男の子だっ! 名前は? リョウさん」
「え? あ…………ハル」
「私と同じ名前はやめてほしい、ややこしいから」
「いや…………ハル……よくやった…………」
「ああっ……うん、ありがとうっ! ……抱かせて?」
「えっ?」
「え? ってナニ? 抱かせてよ私の赤ちゃん」
「重いぞ。無理だ」
「座ってるから大丈夫だ……よ…………ぁ……」
くらっとした。
頭元気なのにな……
「はっ! ここどこっ!」
まさか、富士見台の家?
「騎羅史(きらし)のお城でございますよ。ハルナ様。よかった……お目覚めになられましたね」
「マキメイさんっ!」
同じベッドに彼女がいてくれたっ! 良かった!
ここ、私の部屋だ。お城の上の方の。
「お隣で申し訳ありません……」
「いてくれてありがとうっ! 心強いーっ!
ずっと手を握っていてくれたよねっ! ありがとうっ!」
「三日もお休みでございましたよ。みなさんご心配なされて、大変でした」
三日! あれだけ運動してもちょっと足りなかったのかな……今度はもっと運動しよう。
あ、左隣にル・マちゃんも寝てた。狭い!
「赤ちゃんは? 赤ちゃんは?」
「リョウ様が抱いてらっしゃいますよ。片時もお離しにならずに。おしめの交換とかも凄くお上手で驚きました。ル・マ様、ル・マ様、リョウ様をお呼びくださいませ」
マキメイさんがル・マちゃんを揺さぶる。
「んぁ? あっ! ハルが起きてるっ!」
「おはよう、ル・マちゃん」
「リョウ・カーっ!」
耳を塞ぐ余裕がなかった……寝てるのにくらっとする。
「リョウ・カっ! リョウ・カっ! リョウ・カっ! ハルが起きた!」
ル・マちゃんが叫びながらお城を駆け回ってる。
もちろん、最初に飛び込んできたのはサル・シュくん。
枕元で子供みたいに泣き崩れた。ガリさんまですっごい駆け足で飛び込んできた。びっくり。
頭撫でてくれて、頬にキスしてくれた。これぐらいは、いいよね。リョウさん。
他の戦士たちも駆け上がってきて、ハル! ハル! ハル! って、なんか、大合唱に!
やっと来てくれたリョウさんが、抱きしめてくれて、安心、した。
リョウさんと私の子は、マルちゃんになった。
絶対に、リョウさんみたいな熊さんになるのに、マルちゃん。もう髪の毛もふっさふさ。
マキメイさんとサル・シュくんの子、リオ・シュくんと並ぶと、まぁ……黒いわ、太いわ、へちゃむくれだわ。赤ちゃんの時点で足の長さってわかるのね!
けど、かわいいッ!
というか、リオ・シュくん、生まれたばかりなのに天使!
リョウさんもサル・シュくんも、赤ちゃんあやすの巧い! 私が寝ててもお乳上げてくれるの。
「……わたくし、何も赤ちゃんの世話をしておりませんが……よろしいのでしょうか?」
マキメイさんが逆に不安になるぐらい。
「キラ・シは男の人が育児するんだって」
「そのようでございますよね……逆に、抱かせても下さらないのですけれど……」
「だよね。それ問題だよね」
「ミアの時は、初産でもあり、夫も死んでおりましたので、臨月前に羅季王城にやっかいになりまして、女官と育児と大変だったのでございますが…………わたくしここ数日、ここに寝ているだけです。女官仕事もさせていただけていませんわ」
今でも、ナニをどうしたらいいのか? の指示を仰ぎにはこられてるけど、リョウさんとか、ベッドから出してくれないんだよね。
「マキメイさんも『キラ・シの母』だから。甘えるといいよ。リョウさんたち、家族なんだから」
「ガリ様にも、リョウ様にも頭を撫でていただきました…………恐れ多いことにございます……」
恐れ多いんだ?
キラ・シのみんなも、羅季(らき)や覇魔流(はまる)まで、様子を見に行って、何人生まれた! と自慢し合ってる。
四万人が生まれる超ベビーブーム!
「そうだ、リョウさん。地図の短冊、差し替えないと」
「もうそれぞれがやってる。自分の名前のを次の制圧に使ってる」
「そうじゃなくて……どの村に誰の子供が何人居るとか、書き留めないと」
「なぜ?」
「三年後に、回収するんでしょう? どこに誰が何人いるか、まとめないとわからなくなっちゃうよ?」
「それは、自分の子だからわかる。戦士たちに連れてこさせればいい。その時に、女が来るなら、くればいい」
「……ガリさんとか、三千人いるでしょ? 全部覚えてるの?」
「自分の子はな」
あっさり言ったよ。
「だから、必要なのは、新しい女だけだ。今さら誰も、他人の女を盗らない。次も同じ女に子を産ませる」
「女の人、嫌がらない?」
「行くたびに近隣の獣を持っていくから今のところは、嫌がられた者は少ないようだ」
ああ……養育費。
「マルちゃんの名前、リョウさんがつけてくれたけど、ガリさんも、三千人分名前つけるの?」
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