悪いことをした自覚はあったんだ?
『これで、ガリメキアの子供産むのは遠ざかったけど?』
サル・シュくんは、分かってたはず。
それでも『自分の叔父が喜ぶ』から、教えたんだ?
ガリさんが、あり得ないほど全力疾走。
うっわ……お城の中、走り回ってるまわってる。
羅季(らき)城と同じように、このお城も回廊がぐるっとまわってるから、延々と走り続けることができる積んだ。何回か玄関を通りすぎた。
サル・シュくんが外に逃げないってことは、放置したら殺されることで、隙あらば、ガリさんが諦めてくれることを願ってるんだろう。
…………無理だよね……きっと……
「リョウさん大丈夫?」
完全に失神してる。呼吸も脈もある。
どう見ても、ガリさんより打たれ強いはずのリョウさんを、あの一瞬で気絶させるとか……
一週間ご飯食べられないコース、とかいうアレだと思う。
「誰か手伝って? リョウさんを横にしてくれない? 吐いたら死んじゃう」
みんなビクビクしてたけど、リョウさんをゴロンと俯せにしたあと、パッと離れた。
女官さんに、いらない布を持ってきてもらって、顔の下に敷く。案の定、吐いた。
その上に、似たような状態のサル・シュくんが投げられる。もう吐いてた。水を貰って二人の口元を拭く。
ガリさんがハァハァ肩を揺らしてるみたいだけど、怖くて振り返れない。さっきからもう、ずっと気迫全開、痛い痛い。
「二つ貸しだ、と伝えておけ」
「……わ………かりました……」
「ハル」
「はいっ!」
思わず立ち上がったら、腰を抱かれてキスされた。
目覚めたら、騎羅史のお城のベッドだった。良かった。
なんか最近、いつ富士見台に戻るかとヒヤヒヤする。
隣には、安定のル・マちゃんカイロ。あったかい。
おなかなでなでしてくれてた。
「ル・マちゃん……私どうなったの?」
「父上に口を吸われて寝たから、ベッドまで運ばれてた」
そっか…………あのあとか…………
「リョウさんとサル・シュくんは?」
「まだ玄関で寝てるんじゃないか? 父上、すげぇ怒ってたな!」
「だよね? 凄い怒ってたよね? リョウさんとかサル・シュくん、おなか大丈夫かな?」
「10日ぐらい食えないだろうな」
「ソレだけで済むの?」
「父上が本気で蹴ったら、腹が破れる」
「たとえじゃなくて? 見たことあるの?」
「羅季(らき)の町を見てたとき、夕方だったかな、悲鳴がするから駆けつけたら女が押し倒されてたから、父上が男を横様に蹴ったら、千切れた」
羅季の人達、柔らかいからねぇ……
「そのあとどうしたの?」
「女を父上の服でぐるぐるにして、家まで連れてった」
紳士。安定の紳士。
マキメイさんに話を聞いたら、その女の人、あとでお城までお礼に来たらしい。ガリさんの服と、新しい毛皮の服と持ってきてくれたって。
もしかして、ガリさん、たまにまったく違う服着てるけど、あれって貢ぎ物?
キラ・シの武勇伝って、本当にやってるから凄いよねぇ……普通さ、『蹴ったら体千切れる』とかって、比喩だよ。
その千切れた男の人、野ざらしで町のみんなが見に来て、『キラ・シすげー!』に拍車かかったらしい。とりあえず、誰もキラ・シから不当に殴られたりしてないし、その人が随分悪党だったのもあって、キラ・シへの不評にはならなかったって。
多分、もう、羅季の町も、『キラ・シの身内』なんだろうな。私は知らなかったけど、羅季城の周りに、キラ・シに抱かれたい女の子が集まってるっていうから、なんか凄いね。今も、キラ・シの移動先に行きたいって、見回りのキラ・シの戦士に連れられて騎羅史城に来る女の子とかいるんだよね。
キラ・シの総意として女の子は城に入れない、養わない。だから、女の子たちは自動的に、詐為河(さいこう)東の開拓地に送られるんだけど、凄い働いてくれてるらしい。だからキラ・シもよく見回りに行くようになったし、ちょっとした『農村』になってるって。100%キラ・シファンの『制圧先』。
なんか、アイドルに出待ち入り待ちして貢ぐファンみたい。『制圧』でパトロネス増やすとか、おかしい。
男の人もどんどん来てて、家をいっぱい建ててるみたい。
なんか不思議だなぁ。自動的に村ができるとは、思ってなかった。だから、車李(しゃき)の人足をあてにしてたんだけど……
町の女の人じゃこうはならなかっただろうから、先に人口密度の低い村を制圧したのが正解だったんだね。ガリさんの『大きい村は後回し』が良かったんだ。
どうにか玄関に下りたら、まだリョウさんとサル・シュくん、積み重なってた。吐いてる吐いてる。くさいくさい。
「リョウさん、サル・シュくん、起きて、起きて……キャッ!」
ル・マちゃんが、サル・シュくんを蹴り陥とした。
「ごめんなさいっガリメキアっ! 悪いのはリョウ叔父です!」
サル・シュくんが、叫びながら飛び起きる。
まぁね、実行したのはリョウさんだからリョウさんが悪いんだけどね。教えておいて、そんな言いぐさ、アル?
「ハルか……というか、ル・マっ! 蹴っただろっ!」
「今さら、一つ青痣増えてもいいだろ」
「なんの夢を見てたのサル・シュくん」
「ガリメキアにボコボコにされる夢」
「それ、夢じゃないよ」
「夢の中でまで蹴るってひどくない? 何回体ちぎれたか……」
「その訴えは、ガリさんがかわいそう」
ハー……って、鉄球吐き出すような溜め息のサル・シュくん。
「リョウ叔父まだ寝てるってすげぇ。何されたの?」
「こう、おなかを殴られたあと、肩を持たれて、膝蹴り。倒れたところを蹴り転がした」
ヒッ、てサル・シュくんが肩をすくめた。
「リョウさんが浮くって凄いよね……
サル・シュくん、食事、いつぐらいからできそう?」
「とりあえず、明後日はまず無理そう」
「リョウさんもかなぁ?」
「まだ寝てるんだから、もっと酷いだろ」
「ベッドに運んで上げてよ。あ、サガ・キさんっ! リョウさんを部屋に連れてってあげてくれない?」
ぞろぞろ帰って来たキラ・ガン組に頼んでみた。
「断る。そいつはガリメキアに不義理をしたと聞いた。ここにさらされているのが似合いだ」
ああ……そういう理由かー……
『不義理』なの? 扱いとして、かなり悪くない?
「何してるハル!」
リョウさんの腕を階段へ引っ張ってみる。ル・マちゃんも手伝ってくれた。びくともしないっ! けどっ! 引っ張る! 一ミリ動いた? きっとル・マちゃんの力だろうな。でも、女二人じゃ、リョウさんは動かせないっ!
「こんなところに二日も寝てたら体おかしくなるよっ!」
「よせ、ハル。お前もう孕んでるんだぞっ!」
そう言いながらも、サル・シュくんも手伝ってはくれない。『さらし者』って、キラ・シはかなり、厳格な決まりがありそう。
「お父さん死んだら意味ないでしょ!」
「まぁっ、ハルナ様! 何をなさってるのでございますかっ!」
マキメイさんが寄ってきた。
「殿方がこのような放置をっ? なんてことでしょうっ! でもハルナ様は、今ご無理をなさってはなりません」
マキメイさんにまで止められた。
私も限界だったから手を離す。全然動かない。
昨日と同じポーズで寝てたし、既に右側に褥瘡ができてるんじゃないかな。真上向けたら、吐いたときに死ぬし、とにかく、左側に……転がしたい……
「今度はナニしてんの? ハル」
引っ張るのを諦めた私に、サル・シュくんが覗き込んでくる。
「同じ体勢だと、体が腐っちゃうから、向きを変えさせてる」
「ああ、それなら」
サル・シュくんがごろん、と足で転がしてくれた。
「……サル・シュくんも力持ちだね」
「男だから」
ル・マちゃんがカチン、と来てたけど、反論はしないらしい。
「リョウさん持ち上がる?」
「ショウ・キでも担げる」
「ショウ・キさんまで? 嘘でしょ? そんな細いのに?」
「細かねーよっ!」
サル・シュくんがリョウさんを、なんかして肩に担ぎ上げた。
「本当に担いでるっ!」
サル・シュくんの右肩の幅、リョウさんの脇腹ぐらいしか引っかかってないのにっ!
「担げるっつっただろっ!」
「そのままお部屋までお願い?」
サル・シュくんが私をみて、大きな溜め息をついたけど、階段を上がって部屋まで運んでくれた。全然危なげないのが逆に怖い。男の人の筋力って底知れないな……
まさに、チーターが象を担いでる感じ。
リョウさんをベッドに落として、サル・シュくんが肩を回した。
「あー……また、ガリメキアに怒られる…………」
「怒られる?」
「怒られるよ…………さらし者は触っちゃいけないんだから」
「それは、キラ・シの倣い?」
「……そうなのかな……とりあえず、ダメなんだ……」
「でもやってくれたんだよね、ありがとうっ!」
「そりゃ……ハルがあれ以上して、子が流れたりしたら本当に殺されるし……あれ以上さらしたくなかったし……」
思いっきり夢ではリョウさんのせいにしてたけど、本当にいい子。
翌日、サル・シュくんは、ガリさんにまた蹴られて玄関にさらされてた。
「リョウがまだ寝てるって?」
レイ・カさんが帰って来て、すぐにリョウさんの部屋に来てくれた。
もう、リョウさんは起きてベッドに座ってて、肩を叩いて笑う。
「ついさっき起きたのよ」
「そりゃ、ガリメキアに本気で食らったならそうなる。サル・シュはまだ寝てるぞ」
「……あれは、リョウさんをここに運んだから……リョウさんごめんね」
「なぜ、ハルが謝る」
「私が嫌がってたら、リョウさんしなかったでしょ?」
グビ……と、無理やり水を飲んで、吐きそうになったのを口を押さえて呑み込んでる。まだ胃が悪いよね、そりゃ。あんだけおなか蹴られたら。
「ガリさんが私に何度も『次は俺だ』って言ってたんだから、私だって、止めなきゃいけなかったんだよね?」
「ハルは悪くない」
「だって……」
「した」
リョウさんが、拗ねた子供みたいにくちびるを尖らせる。
「した……」
レイ・カさんが、ちょっと笑って腕を組んだ。
リョウさんが大きな溜め息をつく。
『「勝ち上がり」の時にハルがまだ孕んでいれば、ガリも諦めるかもしれない』
『最初』の時、リョウさんはそう言って、延々と私を抱かなかった。
それを考えたら、確かに、サル・シュくんが教えてくれたことは渡りに舟だったのかもしれない。
「サル・シュくんが蹴られたのはなぜ?」
「あいつもされたのか?」
「うん、リョウさんの上に捨てられてた」
リョウさんはやっぱり右側が全面的に青黒くなってた。もうちょっと寝てたら、褥瘡になってたよね。
「『さらし者』のリョウさんを、ここまで運んでくれたのも、サル・シュくんだよ。だから、また蹴られてた。
助かったけど、本当に、サル・シュくんには申し訳ないことになっちゃって……」
「また? 二回もガリメキアがやるなんて、珍しい……」
「ハル……もういい、玄関で、他の奴らの相手をしてやってくれ……ガリもそこにいる筈だ」
「今のガリさん、怖いよ……」
「……だが、ここにいても仕方がない」
そりゃ……そうだけど…………
「立ってるのもつらいし」
「つらいことをしないと鍛えられないのだろう?」
「…………そうですね……」
レイ・カさんとお話がしたいのかな?
なら、仕方ないよね。
「すぐ俺も降りるから、ハル」
リョウさんが、手を振ってくれた。
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