服を持ってお風呂に走って、マキメイさんに温石とかいろいろ用意してもらった。
「そういえば、マキメイさん。車李(しゃき)から援軍が来るんじゃない?」
お風呂上がりに拭いてもらいながら情報収集。
「はい。何人かのかたが、おでかけになりましたよ」
そっかー、もう出たかっ! さすがキラ・シ。そういや最初も自分で見張ってて対処してたよね。
とりあえず、大広間の左側の壁に大きな地図を書く。
「チズ? 凄いなこれは!」
驚いているリョウさんの後ろに、ガリさんが、入ってきた。え? 今帰って来たの? ずっと居たの? まだ、帰還する時間じゃないよね?
「なんでガリさん、出陣してないの?」
「レイ・カで足りる」
これは、私は何も言ってないよ?
『最初』はガリさんが走ったよね? 今回、私は何も言ってないけど、レイ・カさんが走ってる。
あ、山のたき火で、車李軍弱いって、留枝(るし)からゼルブ攻略まで話したっけ? もう何回もやってるから、どこまでナニを話したかわからなくなってる。
「おー、なんだハル、もうフロ入ったのか? 夕べも入ったのに」
ル・マちゃんが、降りてきてすぐ私の左手に抱きつく。くんくんして髪の毛触った。
「濡れてるとペシャッてしてるからかっこ悪いよね……」
髪形なんて、キラ・シは誰も気にしてないだろうけど。
「アレ、ありがとうな、すっっごい、あったかくて気持ちいい!」
生理パンツと温石帯、マキメイさんに頼んでたんだ。よかった、今回も喜んでもらえたっ!
「サル・シュっ、いつも遅いな……おま……」
ル・マちゃんが私の腕から振り返ったとき、サル・シュくんがおおーーきなあくびしながら階段から降りてきて、……その場にいた全員に、刀を突きつけられた。首にっ!
ガリさんも、リョウさんも、ル・マちゃんまでっ!
さっきまでル・マちゃん、私の腕に抱きついてたじゃないッ!
サル・シュくんはただ、両手を肩まで上げてパチクリしてる。
「な……ナニ? ガリメキアまで、なんで?」
「ハルにナニをした?」
ガリさんの、静かな声なのに、地響きしそうな詰問。
びっくーっ! て、サル・シュくんが跳び上がった。その目で私を見る。
「私は何も言ってないよ!」
あ、びっくりしてるサル・シュくんの左頬に…………私の平手の跡が綺麗に残ってるっ! もう一時間ぐらい経ってるのに、まだそんな残るの?
「ハルにナニをして殴られた?」
リョウさんも、冷たい声。
「えっ……なんで、わかるのっ!」
「お前の左頬に手の跡があるんだよっ! ハルに殴られたんだろっ!」
ル・マちゃんが叫びながら、サル・シュくんのおなかに前蹴りっ!
「言っちゃ駄目だよっ! サル・シュくんっ!」
「ゴフッ……ゲフッ…………いや……でも、これ、言わないと殺される…………げっ…………ぐっ……」
「言え」
「ナニをした」
「葡萄を一つずつ食べるようなハルが殴るなんて、よほど酷いことをしたに違いない」
リョウさん…………そんな……やめて…………
「だめっ、サル・シュくんっ! だめだよっ!」
「ハルの中に小便した!」
全員が、一斉に私を見た。私の顔を見て、私のおなか、見る。とっさに両手でおなか隠した。
「ナニ叫んでるのよっ! そんな大きな声でっ!」
「もう一度フロだっハル!」
「ル・マっ! 中まで洗ってこいっ!」
「百石投げてやろうかお前はっ!」
サル・シュくんが蛸殴りにあってる。
完全に、ル・マちゃんに、変な扉開かせたっ!
レイ・カさんは車李(しゃき)戦からニコニコ帰還して、ボコボコのサル・シュくんに目を見開いてた。でも、誰も顔を殴ってないのは逆に凄いよね。
私の平手のあとがまだ残ってるのよ……
「……なんでハルに殴られたんだお前……」
レイ・カさんまで、誰に何も聞かずにそう言うし。
「どうして私だってわかるのよっ!」
「これ、こう叩いたんだろ?」
レイ・カさんがサル・シュくんの左頬の赤い跡に掌を合わせる。
「キラ・シなら、こう」
レイ・カさんは容赦なく、サル・シュくんのおなかに拳をえぐり込んで、蹴った。サル・シュくんは避けもせずに受けて呻いてる。
「するから」
「…………そうですか…………」
よく立ってるなサル・シュくん……ちょっと浮いたのに。
「顔を殴らないのはわざと?」
「首から上を殴ると、手が痛い」
なーるほど。
サル・シュくんが美人だから顔を避けたんじゃなく、誰の顔も殴らないんだ? 硬い骨ばかりだもんね。たしかに。平手をした私の手も、たしかに痛かったわ。
『以前の私』なら、あんなことがあっても叩かなかったと思うけど、ずっとキラ・シと一緒にいて『まず手を出す』ことが日常化してるからかな、ホント、とっさに手が出た。
「凄いな、顔を手で叩いたらあんな跡がつくのだな」
レイ・カさんがサル・シュくんの顎をつかみあげて左頬を見てる。奴隷を値踏みしてる異国の王子様みたい。サル・シュくん、なされるがまま。
「え? 平手……で叩いたらそうなるよね? 跡がつくのは私も初めて知ったけど」
「ヒラテ?」
え? 平手で叩かないの? 全部ゲンコツ? そっか……そんな、平手なんて生易しいこと、キラ・シはしないか……
肩とか背中とかは掌で叩くけど、そんなの『現代』でもわざわざ平手とは言わないもんね。
「誰も鍛練せずに、ナニやってる?」
ショウ・キさんが入ってきた。
「さぁ殴れっ!」
サル・シュくんが逆切れして大の字になった。
「ああ、聞いた聞いた。朝だろ?」
サル・シュくんコクリ。
「俺もしたことあるからわかるかわかる」
サル・シュくんの頭を撫でたショウ・キさんも蛸殴りにあった。
ガリさんの飛び蹴りとか、初めて見たわ。
「こういうとき、ハルの部族ではどうやって仕置く?」
サル・シュくんとショウ・キさんが折り重なってるエントランス。
さすがのサル・シュ君も、もう立ち上がろうとしない。
腕を組んで二人を睨み下ろしているリョウさんが閻魔様みたい。
「え? もう私は叩いたし、いいよ…………サル・シュくんぼろぼろじゃない……ショウ・キさんまで……」
「いや、まだ甘い」
甘いかなぁ…………私が叩いただけでも、やりすぎかと思ったのに。
なんかもう………本当に、ボロ雑巾みたいになってるよ? キラ・シ全員から殴られろってことで、朝からずっと玄関に立ってたサル・シュくん。それと、追加されたショウ・キさん。
『百石』よりは軽い、ってリョウさん言うけど、そんなので殺されたらたまったもんじゃないってば。
私も、びっくりはしたけどっ! 別に、私が痛かったわけではないし……びっくりはしたけど……
あんな毛皮着ててもその衛生観念に、逆に驚いたぐらい。
リョウさん引いてくれそうにないし、ガリさんもなんか凄く怒ってるし……私がとどめ刺さないといけないのかな?
「じゃあ、正座?」
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