【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。140 ~蛸殴り~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 服を持ってお風呂に走って、マキメイさんに温石とかいろいろ用意してもらった。

「そういえば、マキメイさん。車李(しゃき)から援軍が来るんじゃない?」

 お風呂上がりに拭いてもらいながら情報収集。

「はい。何人かのかたが、おでかけになりましたよ」

 そっかー、もう出たかっ! さすがキラ・シ。そういや最初も自分で見張ってて対処してたよね。

 とりあえず、大広間の左側の壁に大きな地図を書く。

「チズ? 凄いなこれは!」

 驚いているリョウさんの後ろに、ガリさんが、入ってきた。え? 今帰って来たの? ずっと居たの? まだ、帰還する時間じゃないよね?

「なんでガリさん、出陣してないの?」

「レイ・カで足りる」

 これは、私は何も言ってないよ?

『最初』はガリさんが走ったよね? 今回、私は何も言ってないけど、レイ・カさんが走ってる。

 あ、山のたき火で、車李軍弱いって、留枝(るし)からゼルブ攻略まで話したっけ? もう何回もやってるから、どこまでナニを話したかわからなくなってる。

「おー、なんだハル、もうフロ入ったのか? 夕べも入ったのに」

 ル・マちゃんが、降りてきてすぐ私の左手に抱きつく。くんくんして髪の毛触った。

「濡れてるとペシャッてしてるからかっこ悪いよね……」

 髪形なんて、キラ・シは誰も気にしてないだろうけど。

「アレ、ありがとうな、すっっごい、あったかくて気持ちいい!」

 生理パンツと温石帯、マキメイさんに頼んでたんだ。よかった、今回も喜んでもらえたっ!

「サル・シュっ、いつも遅いな……おま……」

 ル・マちゃんが私の腕から振り返ったとき、サル・シュくんがおおーーきなあくびしながら階段から降りてきて、……その場にいた全員に、刀を突きつけられた。首にっ!

 ガリさんも、リョウさんも、ル・マちゃんまでっ!

 さっきまでル・マちゃん、私の腕に抱きついてたじゃないッ!

 サル・シュくんはただ、両手を肩まで上げてパチクリしてる。

「な……ナニ? ガリメキアまで、なんで?」

「ハルにナニをした?」

 ガリさんの、静かな声なのに、地響きしそうな詰問。

 びっくーっ! て、サル・シュくんが跳び上がった。その目で私を見る。

「私は何も言ってないよ!」

 あ、びっくりしてるサル・シュくんの左頬に…………私の平手の跡が綺麗に残ってるっ! もう一時間ぐらい経ってるのに、まだそんな残るの?

「ハルにナニをして殴られた?」

 リョウさんも、冷たい声。

「えっ……なんで、わかるのっ!」

「お前の左頬に手の跡があるんだよっ! ハルに殴られたんだろっ!」

 ル・マちゃんが叫びながら、サル・シュくんのおなかに前蹴りっ!

「言っちゃ駄目だよっ! サル・シュくんっ!」

「ゴフッ……ゲフッ…………いや……でも、これ、言わないと殺される…………げっ…………ぐっ……」

「言え」

「ナニをした」

「葡萄を一つずつ食べるようなハルが殴るなんて、よほど酷いことをしたに違いない」

 リョウさん…………そんな……やめて…………

「だめっ、サル・シュくんっ! だめだよっ!」

「ハルの中に小便した!」

 全員が、一斉に私を見た。私の顔を見て、私のおなか、見る。とっさに両手でおなか隠した。

「ナニ叫んでるのよっ! そんな大きな声でっ!」

「もう一度フロだっハル!」

「ル・マっ! 中まで洗ってこいっ!」

「百石投げてやろうかお前はっ!」

 サル・シュくんが蛸殴りにあってる。

 完全に、ル・マちゃんに、変な扉開かせたっ!

  

 

  

 

  

 

 レイ・カさんは車李(しゃき)戦からニコニコ帰還して、ボコボコのサル・シュくんに目を見開いてた。でも、誰も顔を殴ってないのは逆に凄いよね。

 私の平手のあとがまだ残ってるのよ……

「……なんでハルに殴られたんだお前……」

 レイ・カさんまで、誰に何も聞かずにそう言うし。

「どうして私だってわかるのよっ!」

「これ、こう叩いたんだろ?」

 レイ・カさんがサル・シュくんの左頬の赤い跡に掌を合わせる。

「キラ・シなら、こう」

 レイ・カさんは容赦なく、サル・シュくんのおなかに拳をえぐり込んで、蹴った。サル・シュくんは避けもせずに受けて呻いてる。

「するから」

「…………そうですか…………」

 よく立ってるなサル・シュくん……ちょっと浮いたのに。

「顔を殴らないのはわざと?」

「首から上を殴ると、手が痛い」

 なーるほど。

 サル・シュくんが美人だから顔を避けたんじゃなく、誰の顔も殴らないんだ? 硬い骨ばかりだもんね。たしかに。平手をした私の手も、たしかに痛かったわ。

『以前の私』なら、あんなことがあっても叩かなかったと思うけど、ずっとキラ・シと一緒にいて『まず手を出す』ことが日常化してるからかな、ホント、とっさに手が出た。

「凄いな、顔を手で叩いたらあんな跡がつくのだな」

 レイ・カさんがサル・シュくんの顎をつかみあげて左頬を見てる。奴隷を値踏みしてる異国の王子様みたい。サル・シュくん、なされるがまま。

「え? 平手……で叩いたらそうなるよね? 跡がつくのは私も初めて知ったけど」

「ヒラテ?」

 え? 平手で叩かないの? 全部ゲンコツ? そっか……そんな、平手なんて生易しいこと、キラ・シはしないか……

 肩とか背中とかは掌で叩くけど、そんなの『現代』でもわざわざ平手とは言わないもんね。

「誰も鍛練せずに、ナニやってる?」

 ショウ・キさんが入ってきた。

「さぁ殴れっ!」

 サル・シュくんが逆切れして大の字になった。

「ああ、聞いた聞いた。朝だろ?」

 サル・シュくんコクリ。

「俺もしたことあるからわかるかわかる」

 サル・シュくんの頭を撫でたショウ・キさんも蛸殴りにあった。

 ガリさんの飛び蹴りとか、初めて見たわ。

  

 

  

 

  

 

「こういうとき、ハルの部族ではどうやって仕置く?」

 サル・シュくんとショウ・キさんが折り重なってるエントランス。

 さすがのサル・シュ君も、もう立ち上がろうとしない。

 腕を組んで二人を睨み下ろしているリョウさんが閻魔様みたい。

「え? もう私は叩いたし、いいよ…………サル・シュくんぼろぼろじゃない……ショウ・キさんまで……」

「いや、まだ甘い」

 甘いかなぁ…………私が叩いただけでも、やりすぎかと思ったのに。

 なんかもう………本当に、ボロ雑巾みたいになってるよ? キラ・シ全員から殴られろってことで、朝からずっと玄関に立ってたサル・シュくん。それと、追加されたショウ・キさん。

『百石』よりは軽い、ってリョウさん言うけど、そんなので殺されたらたまったもんじゃないってば。

 私も、びっくりはしたけどっ! 別に、私が痛かったわけではないし……びっくりはしたけど……

 あんな毛皮着ててもその衛生観念に、逆に驚いたぐらい。

 リョウさん引いてくれそうにないし、ガリさんもなんか凄く怒ってるし……私がとどめ刺さないといけないのかな?

「じゃあ、正座?」

  

 

  

 

  

 

 

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