【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。139 ~天使降臨~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 本気声で怒鳴られて、慌ててドアを開けてもらった。

 なんか、気迫全開のサル・シュくんっ! なぜっ! 怒鳴り声でお湯が波打ってる!

「見えないトコに行くな! 今度やったら、アレ、全部殺すぞ。逃げたら、草の根わけても探し出して孕ますからなっ!」

 女官さんを指さしてメッチャ怒ってる。

 ミアちゃんをマキメイさんに『盗られた』って思ったとき以上の迫力だ。

「わ……わかった……わかったよ…………

 逃げたわけじゃないのよっ! ここにいるしっ!

 女の子が入ってるときは、女のコ以外入れないようにってのが、ここの倣いだからっ、サル・シュくんから隠そうとしたんじゃないんだよっ! 今度から気をつけるからっ……落ち着いて……」

 うっわ……こっわいっ!

 鼻面にしわを寄せて吠える紀州犬みたい。

 ル・マちゃんも、思わず私に抱きついて震えてた。こんなサル・シュくん、初めて見たんだ?

 やっばいっ、本当に激怒してるんだ、サル・シュくん。

「女だって分かってたから殺さなかっただけだっ! 男に触られたら、全員殺すぞ!」

「それはわかってる……絶対しないっ! 大丈夫っ!」

 それはリョウさんでも凄かったから、知ってる。絶対しない。しない。ホントしない。

 これってもう、キラ・シのデフォルトなんだな。

 ル・マちゃんを好きなサル・シュくん。

 ル・マちゃんが誰にでも抱っこされたりしてるの、普通に見てたよね。だから、彼もこうなると思わなかった。

 あれだけ迫り倒してるから、他の人はル・マちゃん口説かないとは思ってたけど、あの時点でも『俺の女』ではなかったんだ?

 そっか。『俺の女』はみんなそうなんだね。了解。

 マキメイさんもみんな、腰抜かして壁になついてた。

 彼女たちを全員睨み付けて、私を睨んで、頭を下げて、ハーッ……って、大きく息をついて、お湯を靴先で触るサル・シュくん。

 泥が出てるからやめて……

 そうだよね、キラ・シって『所有物』がほぼ無い生活で、『俺の女』だけが所有物なんだもんね。全部の独占欲がそこに来るんだね。ホントわかった。理解した。

「ごめんなさい……本当に気をつけるから……今でも、逃げたわけじゃないんだよ。ここ、行き止まりだし」

 サル・シュくんが、眉をつり上げたまま、左目だけ細くして、私を睨み続けてる。

 息がつまる。

 しかも私、全裸なのが超怖い。

 うわ……もう、どうやってこの怒り解いたらいいの?

「これに入るのか? 裸で?」

 彼がお風呂を見渡した。大きく息を吸って、吐いて、腕を組んで、爪先でとんとん。

 まだ眉間にしわが寄ってるけど、怒りは解けたみたい。

 視線がお風呂の湯面に逸れただけでも圧が無くなって楽になった。

 呼吸止まってたかも。ル・マちゃんも私の肩に大きな息を吐く。

 びっくりしたよねー?

 ホント、キラ・シの大声って武器だよね。衝撃波だよ。

 しゃがんでお湯を指先でちゃぱちゃぱするサル・シュくん。猫動画のメインクーンが水で遊んでるみたい。

『知らないこと』への興味が勝ったのかな。前から、気分転換の早い子だったから、もう怒ってないのかな?

 かわいい、と、思って、いい?

 とにかく今のは…………怖かった………………お風呂じゃなかったら失禁してた……

 ガリさんは雷だけど、サル・シュくんは吹雪だわ。今の凄かった。怖かった。あんなことで怒ると思わなかったから、余計、胃に来た。

 サル・シュくんが全部脱いで入ってきたけど、私もル・マちゃんも、かけ湯なんてできる余裕無い。

 お湯の中に立ってるサル・シュくん、水の反射で筋肉がきらきらに浮かび上がって…………本当に、ミケランジェロのダビデ像みたい。もうちょっと細いかな。でもすっっごい、筋肉。細マッチョというには太い。ただ、キラ・シの中では、かなり細い。成長期前だし。

 リョウさんとかガリさんも凄いけど、私、これぐらいの体が一番好き! 映画『ランボー』の時のスタローンよりちょっと細いぐらい。あの『細身』のスタローンも、『エクスペンダブルス』とかではシュワちゃんレベルの横幅になってたから、サル・シュくんも、太くなる可能性はあるんだよね。

 これであれだけ剣を扱うんだなぁ…………足は凄い太い。

『勝ち上がり』の時も、よく跳んでた。

 サル・シュくんがお湯にかがもうとして、髪を簪でアップにする。『今回』は、濡らすのがいやみたい。

 それでお湯にしゃがまれたら、もう……肩の筋肉が見えないし、普通に、『凄い美人のお嬢さん』だった。

「サル・シュ、そうするといつもより綺麗だぞ」

 ル・マちゃんが、ホッと息をついて、ニシャッと笑った。

「そう?」

 めっちゃセクシーな流し目もらってしまった!

 写真撮りたい。ポスターにして飾りたいっ!

 そうだ、私、キラ・シでサル・シュくんの顔が一番好きなんだった。馬で、ずっと顔が見えなかったから、なんか平気だったけど……うっわ…………彼と、あんなこと、してたの? というか、されるのっ!

「それって、サル・シュくん、流し目だと思ってしてる?」

「ナガシメ?」

 そんな言葉、キラ・シにないのかー。なら知ってはしてないよね。

 えっと、セクシーなんてわからないだろうし……どう説明したら……

「凄く、色っぽい……」

「いろっぽい?」

 え? これもないの?

 そっか、女の人に対する形容詞はまったくないんだ?

 ニッコニコしながらお湯の中を近づいてきて、後ろから抱きしめられた。

 ビクッ、て、お湯が波立つほど跳ねたサル・シュくん。

 私、何もしてないよ? ル・マちゃんが何かした? ル・マちゃんも、両手をお湯から出して、首を横に振ってる。

「どうしたの?」

「ん? いや……ハル、凄い気持ちいいっ。森で触ったより気持ちいいっ!」

「はい?」

 めっちゃ胸とおなかと太股揉まれてるっ!

「ナニコレッ! 前も柔らかかったけどっ! ナニコレッ! ツルツルしてるっ!」

「だろっ!」

 ル・マちゃんまでうなずきながら腕触ってくる!

「えっ? ナニっ!」

 お湯の中でメッチャあちこち揉まれてるっ! 左手はル・マちゃんだよね? 他、全部、サル・シュくんっ? ねぇっ! ねぇっ! お尻に一本出てるっ! そんなのでそこつつかないでぇっ!

「キャァッ!」

 お湯の中に突き飛ばされた。アブアブ溺れたから誰かにすがりついたらマキメイさんだった。慌ててお風呂のフチにすがりつく。マキメイさんもびしょびしょだ。

「ありがとう……マキメイさん…………びしょびしょになっちゃったね、ごめんなさい」

「それは全然かまいません。ハルナ様こそ大丈夫ですか? 吐かれたくありませんか?」

 木の桶が目の前に出された。本当に、用意周到だな。

 そりゃ、ここで私が吐いたら、掃除するの女官さんだもんな。

「大丈夫。びっくりしただけ。サル・シュくんは?」

「あちらに」

 サル・シュくん、お風呂の真ん中で、あっち向いて俯いてる。うなじが真っ赤! 元が白いから、トマトみたいになってる。多分、この大陸にトマトはないんだろうけど。

「よしっ!」

 なんか気合入れて立ち上がった。

 いやいや、そのスタローン筋肉でそのマダムヘアやめようよ。

 お湯を蹴立てて私に一直線。突然抱き上げて廊下に出た。

「どこ行くのサル・シュくんっ! びしょびしょだよっ! 髪も洗ってよ!」

 女官さんが大きな布で拭くために追い駆けてくる。

「邪魔されないトコっ!」

 階段上まで行って、どこかの部屋に入って、ベッドに下ろされた。女官さんをドアの向こうに追い出して、閉める。

「これが寝るところってなんで知ってるの?」

『最初』はみんな床で毛皮にくるまって寝てたくせに。

「リョウ叔父から聞いた!」

 そう言えば、塔を案内したときにそれは教えた……かな?

「今日から抱いていいって、族長言ってくれたからさっ!」

 口が顔の輪郭からはみ出しそうな笑顔。

 もちろん、翌日、物凄い筋肉痛になりました。

 若いって凄い。

  

 

  

 

  

 

 サル・シュくん、私より二周り大きいだけだから、背中抱いたらぎりぎり指が重なるの。なんか、凄い、安心感、あった。

  

 

  

 

  

 

 うっわ……朝日に照らされる天使降臨。

 サル・シュくん、綺麗だとは思ってたけど、本当に綺麗だわ。この距離で見られるとか……幸せ…………

 あ、ヒゲ、ほんのちょっとあるんだけど、なんか、やわやわだね。赤ちゃんの産毛みたい。それに、なっっがい睫毛っ! こっちは真っ黒だし、ふっといし、ビシッと生え揃ってる。絶対、つまようじ十本乗る。

「イタタタタ……」

 横顔が見たくて起き上がったら、筋肉痛でビキッ……ってなった。

「寝てろよ」

 抱き寄せられて、顎の下に納まってしまう私。そういえばサル・シュくん、朝遅いとか言われてたね。

 私はもう、バッチリ目がさえてるんだけどな。朝型だから。寝てるのつらい……

 つらい…………

「寝てろって」

「もう眠れないよぉ! 起き上がりたいっ! ゴロゴロするの嫌いなんだよっ!」

「じゃあ、寝かせてやる」

 キスから……まぁ、一連の流れで、たしかに失神……しそうになった…………のに……

「あ……」

 違和感……ナニ?

 サル・シュくんが、ヤバイ、って顔、してる。

「……サル・シュくん?」

「…………ごめん…………うっかりした……」

「うっかり何したの?」

「ごめんなさい」

「ナニ、したの?」

 初めて人を、平手で殴ったわ。

  

 

  

 

  

 

  

 

 

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