【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。2 ~初陣~

「せっかくこんな大きな家があるのにっ! なんで玄関でたき火なのよっ! 寝室あるよ! 多分、暖炉があるよ! ベッドもあるよっ!」
 引き戸じゃなくてドアだから、多分洋式の部屋だ。ベッドだ! ベッドがあるよベッドが!
「シンシツ?」
「ダンロ?」
 ですよねー、知らないですよねー……
「家なのか? これは。
 なぜこんな大きな家が必要なんだ?」
「サイズになぜって言われても…………ここ、まだ玄関フロアだし……もっと大きいよ、中は」
「もっと大きい? どう?」
「どう……って、あの、ガリさんが突っ込んだあのテッペンまで行けるんだから」
 リョウさんもサル・シュくんも、天井を見たあとで、目を見合わせて頷いた。
「キラ・シの家ってどんなんなの?」
「4人が手を広げたぐらいの広さの穴を掘って、屋根を作るだけだ」
「竪穴式住居?」
「タテアナシキジュウキョ?」
「『大陸』では、大きな部族の族長は、大きな家に住むんだよ」
 言い切ってみた。多分、とか、と思うよ、とか言ったって、この人達通じないんだもん。
「とにかく、ドア開けようよ」
「うわーっ! 明るくなったらまっすぐで気持ちわりーっ! なんだこれっ! なんでこんなまっすぐなんだっ!」
 ル・マちゃんがばたばた馬で駆け回って叫んでる。
「杉よりまっすぐっ! しかも固いしっ! これ岩なのか? こんな岩がなんでできてる?」
 『杉よりまっすぐ』なんだ? そっか……竪穴式住居は丸いから、『直線』ってのが無いんだ? 石とか岩の加工技術はないんだな、キラ・シには。
「キラ・シの家も、床はまっすぐなんじゃないの?」
「ユカ?」
「……家の中の足元の地面はまっすぐに掘るんじゃないの?」
「水平は取るが、ここまでまっすぐにはしないな。踏み固めて終わりだ。毛皮を敷くしな」
「水平は取るんだ?」
「そうしないと柱を立てても崩れる」
「どうやって水平取るの?」
「家の周りに溝を掘って水を満たす」
 そんなことするんだ? へーっ! いや、ごめん。蛮族ってどこからどういうのが蛮族なのか、私の中で定義されてなかった。というか、蛮族がどこまでナニができるかとか考えたことなかった。
「その、家を掘るときに、下をできるだけまっすぐにはするでしょ?」
「そうだな」
「このお城も、『できるだけまっすぐ』にしたらこうなったんだよ」
「だが、岩だ」
「うん、岩を削ったんだよ。まっすぐに」
「岩をまっすぐにしただと? ケズル?」
 これ以上疑問をもたれたら、私には答えられないぞっ!
「ねぇ、リョウさん、下ろしてよ。私、このお城のこと、多分、いろいろわかるから、見てきてあげる」
「こんな気味の悪いところで女を下ろせるかっ!」
「もー………………じゃあ、あちこち歩いてよ」
「あちこちって、ここしか無いだろ」
「ドアが九枚あるじゃない」
 こんな綺麗なお城、なんともないのに。あーあー、馬で入ってるから床が泥でぐっちゃぐちゃっ。絨毯とかもう、……ああ…………
「そこのドア開けて! その一番大きなドア! 多分それが奥への廊下だよ」
「ドア?」
「……戸板、開けて?」
「トイタ?」
 え? ドア、開けてないの?
「このお城、制圧したって言ってなかった?」
「死体しかない」
 うん、そうね。そこに二人死んでるね。今、小さい子たちが引きずって外に出してる。
 なんか……死体がそこにあっても平気になってる私。現代だったら大騒ぎなのに。もうモノ扱いだな……ごめんなさい。ご冥福をお祈り申し上げます。
「サル・シュくん、その戸板開けて?」
「トイタ?」
 リョウさんと同じ反応だ。竪穴式住居にはドア無かったっけ? あるよね? ただ『ドア』とか『戸板』って『名前』じゃないんだ? どうやったら通じるだろう?
 つまりは、ガリさんが上から降りてきたけど、絶対、ドア確認してないわ。廊下にいた兵士だけ切り殺して出てきたんだ。
 そして、『トイタ』すら知らないなら、ドアを『閉めている』筈が無い。この玄関フロアのどこかのドアが開いてたからガリさんはこの玄関から出て来られたんだ。
 今、全部、『閉まっている』。
 『誰か』が、『閉めた』んだ。ガリさんが出て行ったあとに。
 つまりは、凄い人数が、城内に、居る、筈。
「部屋確認してないんじゃないっ! 誰か隠れてるよ! 待ち伏せされてるかも!」
 とたんに、みんな戦闘態勢に入った。
 あ、怖い。私の言葉でみんながそんなふうになるとか、後ろのリョウさんがすっっごい熱くなった! サル・シュくんがル・マちゃんをリョウさんの隣に押しやってる。私とル・マちゃんを中心に円陣……キャーッ! 怖いっ!
「ど……どうしたらいいの? これでこのお城の軍隊が帰って来たら挟み打ちだよ?」
 玄関にしては細い廊下、と思ったけど、そうか、戦時のお城だから、いっきに大人数が入ってこられないようになってるんだ? 来たとしても、二人ずつしか入れない。でも逆に、ドアの向こうに敵がいたら、一人ずつしか殺せない。
 うわ、こわっ! ここに50人ぐらい、しかも子供がほとんどなのに、軍隊に挟み打ちとかっ! 
「それは無い。外の近辺に敵はいない……というより、人間がいない」
「でも、このお城には居るよ? 誰かがドアを閉めたんだから。外も、確認できてないんじゃないの? 木陰とか、潜んだらわからないじゃない」
「木陰に潜む奴がわからなかったら、キラ・シはもう滅びてる」
 ……そっかー…………
 何を言っても『キラ・シが滅びる』に通じるのが怖い。
 サル・シュくんとル・マちゃんが、大きなドアを指さしてる。ナニも言わない。今、こっちの気配消してるっぽい。全員がいきなり、シン……て息をつめてる。外へのドアも、大きい子が開いたまま、警戒してる。
 そっと馬で近寄ってきたサル・シュくんがリョウさんに耳打ちした。
「あの向こう側に敵がいる。武器持ってる」
「なんで武器ってわかるの?」
「金属音がするし、殺気がある」
 殺気かー……そんなんがわかるんかー。私には全然わかんないわー。
「今まで、なんでわからなかったの?」
「動物だと思った」
「キラ・シと気配が違いすぎる。あまりにバタバタ動いてるから、人間だと思わなかった」
 そういう見過ごし方があるんだ?
 山は獣がいっぱいだから?
「どうやってあっちに行く? 出て裏にまわるか?」
「ドアを開けなきゃ」
「ドア?」
「もう、それやめて。あそこ、開くから」
「ヒラク?」
 『開く』がわからないの? どうしたらいいの?
「あの木の部分が動いて向こうにいけるから」
「木? どこに木がある?」
「その、木の板のドア……戸板」
「キノイタ?」
 え? 『板』がわからないってこと? それとも私の言葉が通じてない?
「この壁が石で、そこが木です」
「木はこんなまっすぐじゃない。杉の木でも丸いのに」
 あー……『まっすぐ』の基準が『杉の木』なんだ?
「その部分は、木を加工して作ったまっすぐな木なんです」
「カコウ? どうやって木がこんなまっすぐになる?」
 え? 木も削らないの?
「…………作り方は後で説明しますから、とにかく、戦闘態勢のまま、そこを開けましょう。あそこが入り口です」
「入り口? あれが?」
 通じた!
「入り口に蓋をしてるの」
「入り口に蓋っ! フタッ! 岩で蓋をしているのか?」
 蓋は通じた? ドアはフタでいいの?
「リョウさん、あの蓋に近寄って下さい」
「近寄ってどうする」
「蓋、開けるから、私が」
「動く部分に女を近づけられない。サル・シュ」
「おうっ! どうすんの?」
 この過保護!
 サル・シュくんが馬でガツガツドアの前に立った。もう気配消すのやめたの? わざと大声立ててる。ドア叩いてる。たしかにあっちでガチャガチャガチャッって金属音、してるわ。
「その、こう、でっぱってるのを握って、……そう、それを、動く方向に動かしてみて? 上か下」
「動く方向? ……おおっ、動いた」
「そのまま、引っ張るか押すかして?」
 引っ張ったら開いた……あっ!
 リョウさんが、馬を反転させてル・マちゃんの馬の角持って離れた。
 ドアの中に、人が、いた! やっぱり居た!
 サル・シュくんに向かって槍で攻撃してきた! 兵士が隠れてるんだっ! 多分、まだたくさんいるっ!
 当然のように攻撃してきた人を殺してサル・シュくんが中に入っていく。
 あれ、私がドア開けてたら、絶対殺されてたよね? リョウさんは過保護じゃなかった!
 キャーッ! 全部のドアが開いて、兵士出てきたーっ! 鎧の兵士っ! 白い鎧の人っ! 何人? 100人ぐらいいるよっ!
「ヒャッホーッ!」
 サル・シュくんが、甲高く笑った。なんで?
 あ……馬の上から一閃したら、サル・シュくんの目の前の10人ぐらいが吹っ飛んだ! そのうち半分ぐらい即死だ! うわっ、ル・マちゃんもっ! 他の子たちもっ! ああっ…………
「ッシャーッ! あーっ、やっと戦えたーっ! シャーッ!」
「リョウ・カ! これ、俺の初陣にならないのかっ?」
 真っ赤な刀を振り回して血を落としながら、ル・マちゃんもニッコニコして怒鳴ってる。馬のたてがみで刀の血拭いて、膝の毛皮でもう一度拭いてる。刀ってそんな扱いでいいの? でも結構綺麗になってるな。
「こんな雑魚を初の誉れにする気か」
「雑魚でも敵だろっ! ハル守っただろ!」
 私っ?
「リョウ叔父っ! 穴の奥見てくるっ! 全員殺してくるぜっ!」
「駄目だよっ! リョウさんっ、サル・シュくん止めてっ!」
「なぜだ」
「お城には戦わない人がたくさんいるんだよっ! その人達殺したら、あとが凄く大変っ!」
「どう大変なんだ?」
「料理作ったり、掃除したりの人なんだよ。戦士じゃない人がいるの。そういう人は向かって来ないから、殺しちゃ駄目だよっ!」
 昼間の戦でキラ・シの人達は逃げた敵軍を追い駆けて全員殺してた。あれをこの城でしたら、とんでもないことになる。
「戦わない奴でも毒を盛ることはできる。敵を生かす道理がない」
 ですねー、そうですねーっ! どうしたらいいのかなーっ! 
「半分以上女の人だからっ殺しちゃ駄目っ!」

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