【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。209 ~出陣の挨拶~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 僕がいるよ、って?

 そうね、まだ、あなたがいるわね。

 サル・シュくんも、いるし……後一人は、産めるかな……

 三年後には、二人の子供を抱えて、私一人ね……

 私一人ね……

 バルコニーの向こうで、街の人が鬨の声をあげてる。紅渦(こうか)軍、紅渦軍、夕羅(せきら)、夕羅、夕羅……って、変わって行った。

 どんどん、死体が運ばれていく。

 ナンちゃんも、荷馬車に、藁みたいに積まれて行った。

 王宮にいた女の人や子供たちはみんな、詐為河(さいこう)東の村に連れて行ったから、ここには大人しかいない。その、全部は、殺された。

 サル・シュくんと私、以外。

 降りてきた夕羅くんにサル・シュくんは叫んだ。

「さらし首を作っておいてやったぜ!」

 だから、ナンちゃんの首を斬らなかったのね。

 さらされるよりは、捨てられる方が、マシよね。そうよね。

 マシよね……

  

 

  

 

  

 

 キラ・シが全滅したあの時、サル・シュくんの命が二年延びて喜んでたけど……

 二年って、すぐね。

 夕羅くんが『あの宣言』でキラ・シの子供たちを守る、って言った、直後。

 サル・シュくんは練兵場で夕羅くんに斬りかかった。

 私を練兵場のそばのクッションに下ろした後、真ん中に歩いて行って、いつもどおりそこらへんの兵士をなぎ倒して……

 夕羅くんが出てきたら、土をえぐるぐらいダッシュして、飛び掛かったわ。

 まるで、隼が獲物をつかむみたいに……

 この二年、ずっと夕羅くんと鍛練をしていて、お互い手の内は全部知ってる。

 夕羅くんは切り落とされた右手に、長いとげの生えた鉄の腕をはめてた。それを楯代わりに使うから、ヘタに斬り込むと刀を折られて大変、ってサル・シュくんが笑ってたわ。

 日付なんて気にしなかったサル・シュくんが、部屋の壁を刻んで数えてた。

 自分の死ぬ日を、数えてた。

 良かった。

 ちゃんと、死ねた。

 夕羅くんの刀に胸を貫かれて、倒れた、サル・シュくん。

 ガリさんと同じ顔ね。

 笑ってた。

 楽しめたのね。

 嬉しかったのね。

 残る私のことなんて一瞬でも考えてくれなかったのよね……

 今日やる、なんて、一言も言ってくれなかった。

 別れの言葉は、なかった。

『前』からそうだったもんね。

 サル・シュくん。

 出陣の挨拶すら、してくれなかった。

 自分の死期を悟ってふらっと出て行く猫みたいに、消えようとしていたサル・シュくん。

 大丈夫。

 忘れてあげるから。

 君の綺麗な顔だけ覚えてるから。

 君のことで、泣かないから。

 明日からは。

  

 

 

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