「え?」
金色の王様が、きょとんとガリさんを見上げる。
「助けてほしければ、カネを鳴らせ」
ガリさんの声でゆっくり言われると、怖いわー。
「どうするの? お城の中には入らないの?」
ガリさんに任せて後ろでこそこそ。
「毒でも飲まされたら終わりだからな。戦士がいなくてどう困るのか、見る」
「私は?」
「この先に、家が一軒だけある。そこで子を産め」
そこまでっ! 後何カ月あるとっ!
「もう羅季(らき)には帰らないの?」
「シャキが落ち着くまではな。大体、ハルがもっと危ない時期に入るぞ。動くな」
ああ、そうなんだ? そっか、今、六カ月を過ぎたところで、一番安全な時期、かな? そういうのはキラ・シの方がよく知ってそうだから言う通りにしておこう。
リョウさんの馬で、言ってたお屋敷に入る。
お金持ちの、砂漠の別荘地みたいな、緑あふれる砂岩の宮殿だ。プールまである! 1000人ぐらいざこ寝できそう。
これを『家が一軒』って…………どうにか、キラ・シに、部屋と家とお屋敷とお城の違いを覚えてもらいたい……
どうせここじゃ暇だよー、と思ったら、地図とか、あった。え?
「あちらは、若戦士が交代で守るだけだ。全部こちらに移した。忙しいぞ、ハル」
「任せてよ!」
「マァッ、女官や、ミアまでっ…………」
マキメイさんが、ミアちゃん抱きしめて泣いてた。
「どうやって連れてきたの?」
「馬で」
うん、そうだね。それ以外ないね。
まぁ、あの川越えみたいに、馬で走ったんだろうな。私達は牛での移動だったから、追い越せたよね。
「そこの村に炉があった。平原だから攻めてくればすぐに分かるし、鉄剣を今から打たせる。シロオカカエノブキヤ、らしいから、新しい戦士がくればわかるだろう」
ガリさんが、腕を組んで王様を睨み下ろしてるのが、遠くに見えた。ガリさんだけ、たった一人、あそこに立ってる。
多分、もう何も言うことないけど、王様が下がってくれないから、そこに立ってるだけなんだろう。けど、『何も言わない巨人』って怖いよね。
車李(しゃき)の使者の時も思ったけど、ガリさんって本当に『族長』だわ。本人何も考えてないかもしれないのに、立ってるだけで他を威圧するって、凄いスキル。そうだ、ガリさんのチートスキルに『威圧』も入れておこう。
まぁ、キラ・シはみんな、黙って立ってたら、怖い。その中でも、ガリさんは特に怖い。
あ。他の戦士が宮殿から出て行った。
「レイ・カの応援だ」
「サル・シュくんじゃなく?」
あっちの隊長はサル・シュくんだよね?
「サル・シュは勝手にやってる。あいつは数に入れられない」
一人遊撃隊か。
あ、ガリさんの前に、なんか積まれてる。
ガリさんが動かないから、貢ぎ物持ってきた。きっとガリさんは何も言ってないんだろうに。あ、まだ門からでっかい荷馬車が出てくる。
「あの荷馬車、直接こっちに来るみたいだよ?」
「さっき、ここの住人があのシロに逃げたからな、キラ・シがここにいると伝わったのだろう」
ガリさんも、こっち来た。ガリさんの前に積まれてたナニカが、また馬車に乗せられて、こっちに来る。王様は、ようやく帰ったみたい。
届いたのは、金塊の山と、当座の食べ物。お酒、スケスケ服の女官さん? ハーレムの女の人かな? 早速ガリさんがクンクンして、あっちの部屋に三人連れ込んだ。
ああ、こんな速さでそういうことするんだ?
「リョウさんも行ってきたら?」
「いや、これをどこにしまうか……ここにあると邪魔だ」
そういうことをマズ考えるのが、本当に凄いよ。リョウさんがいなければきっと、ここに積み上げたまま、上から使って行っただろうに。
「私がお屋敷の中を見てまいりますわ!」
マキメイさんが駆けてった。
「マキメイさんにお給料あげてくれる? リョウさん」
「オキュウリョウ?」
「働いた分のお金」
「ハルの好きにしろ」
ふ……と、リョウさんが右側向いた。マキメイさんは、まだあっち、リョウさんの真後ろの方へと歩いてる。
「マキメイっ!」
「はいいっ!」
「中を見たい。なにがどういうものなのか教えろ」
リョウさんがマキメイさんの方へ歩いて行った。
「本当に働き者だね、リョウさんって」
「あいつがいないと、シロもここも目茶苦茶だろうな」
ル・マちゃんが、貢ぎ物にあったらしい果物にかぶりつきながら私の左手に抱きついた。
「おー、ハル! 元気だったかっ! 軽くなってるぞっ!」
「ショウ・キさんも、相変わらず大きいねーっ!」
後ろから脇を持って抱き上げられた。
「ショウーッキッ!」
向こうからリョウさんが怒鳴ってる。でも、帰ってはこない。マキメイさんと、通路の向こうを右に曲がってった。
「ハルに手なんて出さねぇっつーのっ」
「ショウ・キさん上機嫌ね、いいことあった?」
「シャキの残党狩り全部やってきたっ!」
スッキリ! って顔してる。
「ショウ・キは残党狩り好きだから」
ってル・マちゃんが、なんか、既に三個目の果物食べてた。
「ああ、ガリさんもサル・シュくんも嫌いだもんね」
「だろ? だから俺がしなきゃなんねーんだよなっ!
一人殺したらそれだけ俺の命が伸びる! 楽しいのにな!
どうやったら一発で、骨に当たらずに殺せるかとか」
そこが楽しいんだ? 逃げるのを追い駆けるのが好きなわけじゃないんだ?
「即死させるのは、キラ・シの倣い?」
「倣い……じゃないが、即死させないと痛いだろ」
「……そうだね」
殺される人が痛いのを最小限にするために、『即死』、なんだ?!
「あいつらは『その世』に行く。
恨まれるだけ『その世』に引っ張られる数が増えるからな。俺の顔も見ないうちに一発で殺すのが一番いい。
あいつらだって、刀持ったんだから、殺される覚悟はしてる。痛くないだけ、キラ・シに殺されて良かっただろ」
そういう考え方なんだ。
「キラ・ガンにつかまってみろよ、声が出なくなるまで刻まれて、骨一つずつ外されて……だぜ?」
いやそうに肩をすくめて首を振るショウ・キさん。
「それって本当なの?」
「ナニが?」
「キラ・ガンがその……残酷なのって」
「昔からだぜ。
キラ・シでも、何人かやられたからな。助けに行ったら、手足なくなって転がされてるとか、生かされたまま、首吊りで矢の的になってるとか、実際に見た」
実際に見たならしかたないか……
敵だから悪く言ってるだけかと思ってた。
そういう『ウソ』もキラ・シはつかないんだ? だとしたら、キラ・ガンってどんだけ邪悪なの?
「サル・シュだって手足折られて瀕死だった。よく治ったよな、あいつ。あれだけ壊されたらもう立てないと思ったけどな。顔だけは一発も殴られてなかったのが、また悲惨だった。
だから、死にたい奴はキラ・シに来る。山の全部族が、キラ・シなら即死させてくれるって知ってる」
「なに? なんで死にたいなんてあるの?」
「女がいなくなったとか、戦士がもう年取って戦えないとか、病気とかで死にたくねぇから、戦仕掛けてくるんだ。
『来世は殺された奴の側で産まれる』からな。
つまんねぇ奴に殺されたら、来世はつまんねぇことになる。
みんな、キラ・シの族長に殺されに来るんだよ」
「それって、どうするの?」
「今からキラ・シを攻めるからすっきり殺してくれ、って前触れが来る」
「その人達、山を越えてキラ・シまで来れたんだから、元気なんだよね?」
「元気ったって……先がなかったら生きてても意味ねぇだろ」
「先がないって?」
「女がいなけりゃ部族は滅びる。男だけ生き残っても仕方ない。強さの頂点を超えた戦士なんて、どこの村も引き取っちゃくれねぇしな」
なんか、反論したいけど、言葉がない。
「俺も、もう強さの頂点は超えたから、今キラ・シを追い出されたら…………まぁ、どこも拾っちゃくれねぇな」
ショウ・キさんが、笑った。
「まだ六位じゃないよっ! 最強キラ・シで上位にいるのに!」
「すぐ追い抜かされるさ。せめて口がうまくならねぇと、生き延びられねぇからな、ハルの真似をして、喋るの鍛練してんだよっ!」
ゲハハハハッ……と笑って、呼ばれたからあっち行っちゃったショウ・キさん。
「どうしたハル?」
まだ食べながら、ル・マちゃんが私の前に座り込んで覗いてくれた。私、座り込んでた。
「キラ・シの戦士って悲しすぎる……」
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