「よく来たな、ハル! 腹は大丈夫か?」
リョウさんがっ……リョウさんっ……アーッ!
「リョウさんっ!」
ふー、リョウさんクサイ!
まぁ、私ももうクサイけど……リョウさんのにおいだー……
「また痩せたな、ハル」
「アハハ…………動いてないから食欲なくて………………無理やり、食べてはいたんだけど……」
動いてないとかより、やることないのが一番つらかった。ル・マちゃんもずっといてくれるわけじゃないから、マキメイさんが居なかったらものすごくつらかった。羅季(らき)の歴史とか、ずっと聞かせてくれたんだ。書簡では読んでたけど、生の声は違うよね。
「そら、あれがシャキのシロだ」
リョウさんも、馬を下りて、私の手を引いて歩いてくれた。
たしかに、凄い、お城、だわ……
古代エジプトにあんな高い塔の技術なかったよね?
オベリスク止まりで。たしかに、塔の上まで居住区があるっぽい。
窓がある……けど、崩れてる!
「まさか、ガリさんの『山ざらい』、届いたの?」
「ああ、今見えてるのはまだ立ってるが、その手前のは、上が崩れたら下から崩れた」
ガリさんのチート極まれり!
「ハルが言っていたように、途中で一万、次に二万の戦士とあった。
ここに来たら、あの、右側のハシのところに、並んだからそれをさらえたら、次が出て来たが、少なかったからそのまま突入して、刀を持ってる者を全部殺した。その間に、ガリが左に回って、上を崩した」
うわぁ……
「族長がいるらしき建物は近づけなかったから、一端引いた。
今、周りを制圧してる」
「何日前?」
「10日前だな。いいところに来たぞ、ハル」
十日前っ! いや、遅いでしょ、それ。
というか、車李はどうするつもりなんだろう?
あ、ガリさんが走ってきた。向こうのはサル・シュくんかな? 全然、方向が違うけど、どこまで行ってたの?
「あっちにルシがあるっ! 夜は空っぽだ、落とせるぜっ!」
サル・シュくんが馬から降りながら叫んだ。
斥候速い! というか、車李が弱すぎて、総攻撃に参加してなかったでしょ?
「あと、ルシからサイコウのほうへ3000ぐらいが出た。やった方がいいよな?」
「今すぐ追ってきて! 全滅させてっ! 羅季(らき)が取られちゃうっ!」
それが、私を殺した時の攻撃かもしれない。時期的に、ちょっと遅いけど、今回は前回と色々違うから。
「しゃっ! サール・シュッ! レイ・カっ!」
サル・シュくんが自分の名前叫んだら、よってきてたキラ・シの戦士がついて行った。『サル・シュ軍行くぞ』ってことなんだろうけど、この、キラ・シの、言葉のはしょり方に毎回感心する。
「レイ・カっ!」
レイ・カさんも、自分の名前叫びながらサル・シュくんを追い駆けた。
「ガリさんは行かないの?」
相変わらず、ガリさんは腕を汲んだまま二回頷いただけ。
「レイ・カが行けば大丈夫だ」
「それでも100人いないよ? ……それで3000人倒せるんだ?『山ざらい』無しで?」
「『山ざらい』は、城にしか使ってないぞ」
「え? 一万と二万はどうしたの?」
「殺した」
そうですか。
『山ざらい』がなくても3万が殺せるんだ? 凄すぎるキラ・シ。
「こっちの奴らは弱い。一振りで10人殺せる。十回振れば100人。200人が十回振れば二万が千切れる。終わりだ。疲れもせんわ。サル・シュなんか、途中からいなくなった」
本当、退屈、って顔をしてるリョウさん。殺された方はたまったもんじゃないよね、それ。
そしてやっぱり、サル・シュくんは勝手に消えたんだ。ほんとうにあの子は…………っっ!
「弓とか槍とかくるでしょ?」
「矢は……刺さらなかったな。蚊か、あれは」
蚊ですか。
多分、矢が刺さったところなんだろう、リョウさんが指さして見せてくれる。かすかに引っかき傷? みたいなのが残ってるだけ。
「ヤリというのはあの長いのか? たしかに、多少面倒だが、軸が木だからな、素手で殴っても折れる」
そんな弱い木は槍の軸に使ってないと思うけど……まぁ相手がキラ・シだもんね。特にリョウさんなら、『三本の矢』だって小指で折りそう。
キラ・シがたかってザワザワしてきた。馬がうるさい。クサイ。
みんな、近くの村に居たらしくて、持ち寄った水とか食べ物とか互いに渡して馬にもやってる。私の前にも、なんか甘そうなものが積み上げられた。干した果物みたい。甘い!
「お城から見えるこんなところで人だかり作ったら、なんかしてくるかも」
「今さら、出てくる戦士はおらん」
「お城のあっちから入ったかもよ?」
「裏も見張ってる」
そういうところに手抜かりはないですか、そうですか。
あ、なんか、お城でラッパが鳴った? 鐘もカランカラン鳴ってる。優美だなー。羅季(らき)には鐘なんてなかった。あれ、凄い金属の量が必要だもんね。
「あれはなんの音だ?」
「ラッパと鐘だよ。カランカランの方が鐘」
「カネ? あれは、遠くまで届きそうだな」
音に対して、それしか感想がないのが、本当にキラ・シらしい。
「そうだね、金属の鐘だからね…………でも、その分、『呼び集める』とかで使われるんだよ。車李が戦士を集めてるかも」
「そんな気配はまったくない」
ないんだ? そっか。なんか、軍隊が来るの、一日まえからわかるとか言ってたな……『前回』。
車李の街門が開いた、ってキラ・シが殺気だった。
「戦士は全部殺したぞ? ナニが来る?」
リョウさんが、腕を組んだまま、首だけで振り返る。ガリさんは私の前に罪上がっていた干した果物をつまんで食べた。全然、危険を感じてなさそう。
全部殺してないかも、って心配がないのも凄い。本当に草の根分けて殺したんだろうな。
リョウさんとガリさんはのんびりしてる。サル・シュくんもあくびしてる。
キラキラしたのが右側の正門から出てきた。
黄金の輿じゃない? あれ。
30人ぐらいで担いでる。
少し向こうで止まって、男の人が降りてきた。ガリさんとリョウさんが、私の前に立って、他の人達が周りを囲む。怖い怖い。マキメイさんが凄い震えてる。
「私は車李の王、ハネム。貴殿らに無条件降伏する」
ハネム? 雅音帑(がねど)王は?
クロス翻訳開始。
「ガネドというオウはどうした」
リョウさんの声に、ヒィッ、てハネム王がおびえた。
「…………と……十日前にっ……城の下敷きになって、し……しし……し……死にました!」
凄いっ! ガリさんの『山ざらい』が当たったんだっ! 本当に雅音帑王があそこに居たんだっ! 大臣エライっ! 本当に言っちゃいけないことを教えてくれてたんだ! ありがとう!
「一枚岩のあの塔が崩れる筈などないのにっ…………」
一枚岩なんだ? もしかして、この『丘の上の城』自体が、一つの岩山を切り出したの? えっ? そんなこと、できる? 城壁も一枚岩? そりゃ、崩せないわ………籠城したら、最強だよね。
「その塔を崩したのが、我等が族長、ガリ・アだ」
「えっ!」
リョウさんの紹介に、ハネム王は頭を上げて、ガリさんを見て、三メートルほどあとずさった。海老かっ!
「……どうやって………?」
ガリさんは、少し首を傾げて見せる。
これ、説明がわからないだけなんだろうけど、相手に取ったら凄い威圧感なんだよね。リョウさんが下がってきて、私を抱きしめた。布を口に突っ込まれる。ナニ?
「うわっ……あっ!」
ガリさんが、気迫全開に、した!
「きゃあっ……」って、マキメイさんがあっちがわに転がっちゃう。
ちょっとして、ふわっと収まった。
ハネム王は、もっと向こうまで転がってて、ガタガタ震えてる。失禁してた。
あれは怖い。
無条件降伏ってだけで、首を取られる覚悟してるのに、あんなのぶつけられたら、もう心は折れちゃっただろうな。
「シャキを守ってやる」
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