【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。79 ~一枚岩~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「よく来たな、ハル! 腹は大丈夫か?」

 リョウさんがっ……リョウさんっ……アーッ!

「リョウさんっ!」

 ふー、リョウさんクサイ!

 まぁ、私ももうクサイけど……リョウさんのにおいだー……

「また痩せたな、ハル」

「アハハ…………動いてないから食欲なくて………………無理やり、食べてはいたんだけど……」

 動いてないとかより、やることないのが一番つらかった。ル・マちゃんもずっといてくれるわけじゃないから、マキメイさんが居なかったらものすごくつらかった。羅季(らき)の歴史とか、ずっと聞かせてくれたんだ。書簡では読んでたけど、生の声は違うよね。

「そら、あれがシャキのシロだ」

 リョウさんも、馬を下りて、私の手を引いて歩いてくれた。

 たしかに、凄い、お城、だわ……

 古代エジプトにあんな高い塔の技術なかったよね?

 オベリスク止まりで。たしかに、塔の上まで居住区があるっぽい。

 窓がある……けど、崩れてる!

「まさか、ガリさんの『山ざらい』、届いたの?」

「ああ、今見えてるのはまだ立ってるが、その手前のは、上が崩れたら下から崩れた」

 ガリさんのチート極まれり!

「ハルが言っていたように、途中で一万、次に二万の戦士とあった。

 ここに来たら、あの、右側のハシのところに、並んだからそれをさらえたら、次が出て来たが、少なかったからそのまま突入して、刀を持ってる者を全部殺した。その間に、ガリが左に回って、上を崩した」

 うわぁ……

「族長がいるらしき建物は近づけなかったから、一端引いた。

 今、周りを制圧してる」

「何日前?」

「10日前だな。いいところに来たぞ、ハル」

 十日前っ! いや、遅いでしょ、それ。

 というか、車李はどうするつもりなんだろう?

 あ、ガリさんが走ってきた。向こうのはサル・シュくんかな? 全然、方向が違うけど、どこまで行ってたの?

「あっちにルシがあるっ! 夜は空っぽだ、落とせるぜっ!」

 サル・シュくんが馬から降りながら叫んだ。

 斥候速い! というか、車李が弱すぎて、総攻撃に参加してなかったでしょ?

「あと、ルシからサイコウのほうへ3000ぐらいが出た。やった方がいいよな?」

「今すぐ追ってきて! 全滅させてっ! 羅季(らき)が取られちゃうっ!」

 それが、私を殺した時の攻撃かもしれない。時期的に、ちょっと遅いけど、今回は前回と色々違うから。

「しゃっ! サール・シュッ! レイ・カっ!」

 サル・シュくんが自分の名前叫んだら、よってきてたキラ・シの戦士がついて行った。『サル・シュ軍行くぞ』ってことなんだろうけど、この、キラ・シの、言葉のはしょり方に毎回感心する。

「レイ・カっ!」

 レイ・カさんも、自分の名前叫びながらサル・シュくんを追い駆けた。

「ガリさんは行かないの?」

 相変わらず、ガリさんは腕を汲んだまま二回頷いただけ。

「レイ・カが行けば大丈夫だ」

「それでも100人いないよ? ……それで3000人倒せるんだ?『山ざらい』無しで?」

「『山ざらい』は、城にしか使ってないぞ」

「え? 一万と二万はどうしたの?」

「殺した」

 そうですか。

『山ざらい』がなくても3万が殺せるんだ? 凄すぎるキラ・シ。

「こっちの奴らは弱い。一振りで10人殺せる。十回振れば100人。200人が十回振れば二万が千切れる。終わりだ。疲れもせんわ。サル・シュなんか、途中からいなくなった」

 本当、退屈、って顔をしてるリョウさん。殺された方はたまったもんじゃないよね、それ。

 そしてやっぱり、サル・シュくんは勝手に消えたんだ。ほんとうにあの子は…………っっ!

「弓とか槍とかくるでしょ?」

「矢は……刺さらなかったな。蚊か、あれは」

 蚊ですか。

 多分、矢が刺さったところなんだろう、リョウさんが指さして見せてくれる。かすかに引っかき傷? みたいなのが残ってるだけ。

「ヤリというのはあの長いのか? たしかに、多少面倒だが、軸が木だからな、素手で殴っても折れる」

 そんな弱い木は槍の軸に使ってないと思うけど……まぁ相手がキラ・シだもんね。特にリョウさんなら、『三本の矢』だって小指で折りそう。

 キラ・シがたかってザワザワしてきた。馬がうるさい。クサイ。

 みんな、近くの村に居たらしくて、持ち寄った水とか食べ物とか互いに渡して馬にもやってる。私の前にも、なんか甘そうなものが積み上げられた。干した果物みたい。甘い!

「お城から見えるこんなところで人だかり作ったら、なんかしてくるかも」

「今さら、出てくる戦士はおらん」

「お城のあっちから入ったかもよ?」

「裏も見張ってる」

 そういうところに手抜かりはないですか、そうですか。

 あ、なんか、お城でラッパが鳴った? 鐘もカランカラン鳴ってる。優美だなー。羅季(らき)には鐘なんてなかった。あれ、凄い金属の量が必要だもんね。

「あれはなんの音だ?」

「ラッパと鐘だよ。カランカランの方が鐘」

「カネ? あれは、遠くまで届きそうだな」

 音に対して、それしか感想がないのが、本当にキラ・シらしい。

「そうだね、金属の鐘だからね…………でも、その分、『呼び集める』とかで使われるんだよ。車李が戦士を集めてるかも」

「そんな気配はまったくない」

 ないんだ? そっか。なんか、軍隊が来るの、一日まえからわかるとか言ってたな……『前回』。

 車李の街門が開いた、ってキラ・シが殺気だった。

「戦士は全部殺したぞ? ナニが来る?」

 リョウさんが、腕を組んだまま、首だけで振り返る。ガリさんは私の前に罪上がっていた干した果物をつまんで食べた。全然、危険を感じてなさそう。

 全部殺してないかも、って心配がないのも凄い。本当に草の根分けて殺したんだろうな。

 リョウさんとガリさんはのんびりしてる。サル・シュくんもあくびしてる。

 キラキラしたのが右側の正門から出てきた。

 黄金の輿じゃない? あれ。

 30人ぐらいで担いでる。

 少し向こうで止まって、男の人が降りてきた。ガリさんとリョウさんが、私の前に立って、他の人達が周りを囲む。怖い怖い。マキメイさんが凄い震えてる。

「私は車李の王、ハネム。貴殿らに無条件降伏する」

 ハネム? 雅音帑(がねど)王は?

 クロス翻訳開始。

「ガネドというオウはどうした」

 リョウさんの声に、ヒィッ、てハネム王がおびえた。

「…………と……十日前にっ……城の下敷きになって、し……しし……し……死にました!」

 凄いっ! ガリさんの『山ざらい』が当たったんだっ! 本当に雅音帑王があそこに居たんだっ! 大臣エライっ! 本当に言っちゃいけないことを教えてくれてたんだ! ありがとう!

「一枚岩のあの塔が崩れる筈などないのにっ…………」

 一枚岩なんだ? もしかして、この『丘の上の城』自体が、一つの岩山を切り出したの? えっ? そんなこと、できる? 城壁も一枚岩? そりゃ、崩せないわ………籠城したら、最強だよね。

「その塔を崩したのが、我等が族長、ガリ・アだ」

「えっ!」

 リョウさんの紹介に、ハネム王は頭を上げて、ガリさんを見て、三メートルほどあとずさった。海老かっ!

「……どうやって………?」

 ガリさんは、少し首を傾げて見せる。

 これ、説明がわからないだけなんだろうけど、相手に取ったら凄い威圧感なんだよね。リョウさんが下がってきて、私を抱きしめた。布を口に突っ込まれる。ナニ?

「うわっ……あっ!」

 ガリさんが、気迫全開に、した!

「きゃあっ……」って、マキメイさんがあっちがわに転がっちゃう。

 ちょっとして、ふわっと収まった。

 ハネム王は、もっと向こうまで転がってて、ガタガタ震えてる。失禁してた。

 あれは怖い。

 無条件降伏ってだけで、首を取られる覚悟してるのに、あんなのぶつけられたら、もう心は折れちゃっただろうな。

「シャキを守ってやる」

  

 

  

 

  

 

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました