【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。78 ~御幸するための輿~

 

 

 

 

  

 

  

 

「まだかよっ! まだ誰も帰ってこねーのかよっ!」

 ショウ・キさんのフラストレーションは凄かった。

 ただの城の守り、じゃなく、居残りだもんね。

「こういうのはリョウ・カの役目だろっ! なんで副族長が一緒に出陣なんだよっ!」

「族長と副族長って、一緒に出陣しないの?」

「どっちかが村を守るだろ」

「でも、リョウさん、ガリさんと出陣、してるよね? 山でも」

「ガリメキアが族長になったのは、三年前! その前は、どっちも四位五位だったからな。

 あいつら……村の仕事したくないからって勝ち上がりで手を抜いてやがった……」

「どういうこと?」

「三年前までは、ガリ・アもリョウ・カも俺より下だったんだよっ!」

「どうして?」

 明らかにショウ・キさんよりあの二人強いのに。

「だからっ、東を見て回りたいから、手を抜いてたんだよっ! 長兄も次兄もガリ・アに甘かったし、俺もつい甘やかしてたから、俺らの次。反対する奴らよりは強いから、反論させない、っていうので、旅に出てやがった」

「村の仕事をしないって、許されるの?」

「その分、女の権利を放棄してたからな……最初に三人子供を生ませて、そのあと、ずっと放棄」

「それで許されるんだ?」

「元々は、もちろん、族長決めはあるけど、女の取り合いだから、女を譲られたら、そいつらは黙る。その上で上位が味方になれば、大体のことは許される」

「ショウ・キさんもガリさんに甘かったんだ?」

「あいつ、かわいかったんだよ、子供の頃」

「そこ?」

「どこ?」

「顔のかわいさ?」

「かわいいとか、かわいいじゃねーかっ!」

 そうだ、ショウ・キさんもサル・シュくん系だった。ちっとも説明がわからない……

「昔のガリって、今のサル・シュみたいなんだったんだぞっ! 白いわ、かわいいわ、口が達者で、誰より獣狩ってきて、ホント、好き勝手してた。よく笑ってたしなー。

 リョウ・カとゲラゲラ笑いながら村を出ていくのが、朝の始まりだった。声もでけぇしアイツ!」

「え? ショウ・キさんって何才?」

「38!」

「38っ! 凄くない?」

 40で死ぬ、ってリョウさん泣いてたのに!

「凄いだろ? 長生きだろーっ! そろそろ死ぬからなっ、早く子供産ませないとなっ!」

 そんな明るく……

「今だと、俺が長老だろ。俺は長生きするぞっ! ガリの夢が叶うのを見るんだからなっ!」

「ガリさんの夢って?」

「キラ・シが大地を埋めつくすこと」

 壮大だ……両手を広げて天を仰いで、幸せそう。

「今年の子が来年産まれる。15年後には、大地を埋めつくしてるだろ?」

「うん……確かに」

「それを見てから、死ぬ」

 大きな拳を作って、ガハハハ笑うショウ・キさん。

 53だよ? キラ・シで言うと、本当に長老になっちゃう。

「ル・マがよく言ってる、俺と父上の子がキラ・シを伸ばす、ってのも、見てみたいんだよなぁ」

「え? でも、親子は禁忌でしょ?」

「山を降りるのだって禁忌だったんだぜ? 今さら、そんなことどうでもいいだろ」

 軽く肩をすくめて見せたけど、みんな、うんうん頷いてる。そうなの? そんな気にしてないの?

「ル・マの先見でガリが村を助けた。そして、今回も、ル・マの先見を信じたガリが、12年もココを探して、そして、連れてきてくれたんだぜ?

 ル・マがほしいってんなら、やればいい。それでキラ・シが安泰だっていうなら、俺は大賛成だね!」

「リョウさんは、反対っぽいよね?」

「あいつはサル・シュの筋だからな。サル・シュがル・マを欲しがってる限り、ガリには渡したくないだろ。俺は関係ねーからな」

 え? そんな理由? リョウさん、それで反対してるの?

「ガリさんも嫌がってない?」

「そりゃ、村ではイヤだろうよ。長老が絶対反対だし。そんなことしたら山で総スカンくらっちまうだろうから。でも、ココじゃ俺が長老だぜ。山の倣いなんてどうだっていいだろ」

 複雑だなー……

 いや、単純か。

 駄目、って人と、いいって人がいるだけだもんな。

「女を、外で育ててるだけでも、禁忌なんだぜ? それをガリは押し通した。だから、ル・マが『モノ』を言えたんだ。先見ができた。

 ガリがル・マを洞窟に閉じ込めてたら、俺たちはここにも降りてきてないし、まず、矢流で流れて全滅してる」

「ヤリュウって?」

「水が雪崩みたいに押し寄せてくる。雪解けの時季とかにな。あれで一回、村が流れたんだよ」

「どうやって助かったの?」

「ル・マが先見をしたのを、旅から帰って来たガリ・アが族長に教えて、一応移動したら本当に来た」

 そんなこと、前も言ってたな……

「ル・マが夢を見ただけじゃあ、族長まで伝わらなかった。その時にガリが帰って来たのもうまく行ったよな。

 ル・マが夢を見たから、ガリが帰って来たんだろう。

 だから、ガリが降りると言ったとき、俺は一番についていくと言ったぜ!」

 ショウ・キさんが右手を振り上げたら、みんなもオーッ、てハウリング。

「……ショウ・キさん、喋るの巧いね」

 他のことは説明になってない説明ばっかりなのに。

「これは1000回ぐらい喋ったからなっ!」

 ガハハハッ! って腰に手を当てて笑う、みんなも笑う。

「ショウ・キの奴、酔うたびにこれ言うもんなっ!」

 そうなんだ?

「他の部族もこれで説得して回ったんだぜ! エライだろ!」

「エライエライ」

 サル・シュくんみたいに笑うショウ・キさん。こんな大男のなのに、かわいい!

「ル・マだけじゃ用を足さない。ガリだけじゃ先見ができない。

 その二つが一緒になるなら、その子がキラ・シを救うって、当然だろ。

 その子が成人して、戦に出るのを見るんだぜっ!

 俺が刀の持ち方を教えてやるっ!」

 まだ産まれてない子供の成人の話。

 なんか、ショウ・キさんの見方が変わったわ。

 そんな未来を見てたんだ? 死に神も切り捨てるよね、ショウ・キさんなら。

 あ、ル・マちゃんが玄関に出てきた。

 泣きながら、ショウ・キさんに抱きつく。

「好きなようにしろ、ル・マ。お前のすることを、俺はいつでも応援してるから」

 ル・マちゃんの頭をポンポンしてるショウ・キさん。玄関の外からオイっ! って声が飛んだ。

「笛だ、四位と五位来いって」

「サル・シュいねーぞ?」

「ハルとル・マだろ」

「ハルか」

「私?」

「それ、俺が聞いてる」

 ル・マちゃんが、ショウ・キさんの胸をトントン叩いて、目をぐしぐしこすった。

「馬を走らせずに、ハルを連れて来い、って」

「どうして私?」

「シャキのシロを見せたいって言ってた」

「ハルを馬に乗せるとか、大丈夫か?」

 ショウ・キさんが青くなってオロオロしてる。とたんにいつもの説明ベタだ。本当にあのセリフは1000回言ったんだろうな。そして、ガリさんの味方を増やしたんだろうな。

 そっか、ショウ・キさんが今はキラ・シの長老なんだ?

「どうして? 馬ぐらい、乗れるよ? 私一人じゃないなら。山を降りてきたじゃない」

「お前、腹に子がいるだろっ!」

「えっ、ハルナ様が馬でっ! 無理ですよっ! 流産したらどうするんですかっ! 陛下が御幸するための輿を使いましょう!」

 マキメイさんが出てきて、物凄い大がかりなことになった!!

 小さな部屋を牛で引っ張るって!

 中は布団を敷きつめてふわふわになってる。たしかに、動いても揺れが体に来ない。

 そして、マキメイさんもついてきた。

 キラ・シの全員で、輿を河渡してくれた。大変だなー……ル・マちゃんも、寝るときは来るけど、座ってるのつらい、って、大体は馬で走ってる。

 あ、キラ・シの指笛だ。

『制圧、進む』。

 車李の第二陣とぶつかったんだろうけど、圧勝してるみたい。

 やることないのがつらい……ノートに、今までのことをまとめてみた。ル・マちゃんともいっぱい喋った。やっぱりル・マちゃんは、サル・シュくんじゃなく、ガリさんの子供がほしいって。うん、もう、それは仕方ないよね。ル・マちゃんの希望が第一だから。

 歩けるところまで輿と一緒に歩いてみた。一時間ぐらいが限界だな……つらい。戦士が、あちこちの村から水とか飼い葉とか持ってきてくれる。

「馬で走ったらすぐなのにっ!」

 ル・マちゃんの叫びも、ただ荒野に吹かれてくだけだった。

  

 

  

 

 

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