【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。77 ~『山ざらい』で一発~

 

 

 

 

 車李の二万の軍隊が進軍してくる前に、車李戦のおさらいをしてみた。

『おさらい』なのは私だけで、ガリさんたちは『初めて』だから、軍議なんだろう。

 なんで、喧嘩もできない私が、戦のプロのキラ・シ相手に、軍議の講師やってんだろう。人生って不思議だなぁ。

「こっちの戦い方として、お城の前に布陣する時、こんな感じになる」

 私が描いた車李城の、正面跳ね橋を指示棒で指す。

 1辺12キロの街壁の周りに空堀があって、街壁の大門についてる跳ね橋が降りてる。そこから、なだらかに下り斜面が200メートルぐらい? ここに布陣したから、ガリさんの『山ざらい』で一発、3千人が殺せたんだ。

「斜面だから、ガリさんの普通の『山ざらい』で一発の筈。そのあと、援軍が出てくると思うけど、1000もいないから、それもすぐさらっちゃって。

 そのあと、ここを『山ざらい』で崩せる?」

 前回、雅音帑(がねど)王がよくいる、って大臣さんに聞いた、王城の塔の上を指した。

「どれぐらいの高さだ?」

「この城壁が12キロ、高さが八メートル……だけど、キラ・シの長さの単位ってナニ?」

「たんい?」

「長さはどういうの?」

「身の丈一つ、二つ……か?」とリョウさん。

 ああ、山は小さそうだもんね、単位が……

「山一つ、二つだろ」と、サル・シュくん。

 それは大きすぎるし、『メートル』って単位にはならない。山の大きさは千差万別。

「えっと……12キロだから………身の丈でいうと………」

 あ、ミル・シュくんだ。彼の身長が一メートルぐらいか……120センチぐらいだと丁度良かったんだけど……

 ガリさんが二メートルぐらいかな?

「ガリさんの身の丈、6000倍ぐらい、この城壁の長さ。高さは八メートルだったから、身の丈四つぐらいかな」

 分かりにくいっ!

 聞いてた全員が天井を見上げた。面白い。

「羅季(らき)のこの王城の外壁の100倍ぐらい」

 テキトーだけど。

「ならば、その山の先端までもその半分ぐらいか?」

「ほぼ真ん中にあるしな」

 リョウさんとレイ・カさんがなんか計算してるらしい。ガリさんとサル・シュくんはぼんやり聞いてる。

 ああ、長老筋が計算巧いんだ? なら、サル・シュくんも分かるはずだよね? ということは、長老筋じゃなくて、リョウさんの血筋が速いんだな。レイ・カさんも理数系なんだ?

「城壁から、ガリの身の丈、四つこちらから、302向こうの、高さ9つ分、か……」

 それを暗算で出すの凄い。どういう計算式か知らないけど。

「300まで届くか?」

 ガリさんが口に手を当てて疑問を呈した。あなたのワザですよ。

「やってみたら?」

 って言っただけなのに、みんな私見た。

「あ、ごめんなさい。そんな簡単に出せるものじゃない……の?」

「普通の戦では出さんよな」

「狙って出してはいるが、敵が小さいと出そうとは思わないから……」

 なんか前は、戦のたびに出してたから、簡単なのかと思ってた。

 やっぱり、チートスキルは『溜め』がいるんだ?

 そうだよね。そうじゃないと、駄目だよね。

 つまりは、そんじょそこらで『練習』できるものじゃないってことね。

「じゃあ、最初に出したとき、どうだったの?」

「リョウが怪我をしたらカッとなって、振ったら村が壊滅した」

 だよね。最初からそんなもの出そうと思って出ないよね。

 素直なガリさん。本当にもう、リョウさん大好きなんだから。

 熊さんが照れてる。かわいい。

「俺はガリメキアのそれを見たから、自分で出そうと思って出したら出せたぜ!」

 サル・シュくんが両手上げて笑ってる。

「早く振ったらいいんだな、って思った」

 単純で、正答なんだろうけど、それが狙って出せるのは、やっぱり凄いよ。

「面白くなきゃ出ないから、勝ち上がりで族長とかとやったら、出しそうで怖い」

「一回出しただろ、お前はっ!」

 リョウさんがサル・シュくんの背中をガッツリ殴った。

「ガリさん相手に出したのっ!」

「……げほっ…………ちらっとだっただろっ!」

「ガリが避けなければ粉みじんになっていただろうかっ!」

「ガリメキアの後ろの岩は刻まれてたしな」

 岩を刻む!

「だって、なんか、興奮したらすっげぇやりたくなったからっ!」

「お前は、本当にっ! 戦に入ったら見境なくなるの、どうにかしろっ! 撤退ぐらい聞け! そうかと言えば、やーめた、ってすぐ帰ってくるしっ、消えるし! ……本当にっ!」

 サル・シュくんはバーサクかかるんだ? 漫画ではショウ・キさんみたいな体格の人がよくなってるけど、サル・シュくんみたいな速い人がなったら、避けようがないじゃない。コワッ!

「弱い奴相手にしたって面白くねーだろっ!」

「面白さで戦をするなっ!」

 そらそうだ。指揮をするほうからしたら、使えないよね。

「だから、勝ち上がりで本気出してねーだろっ! めんどくせーんだよっ! 殺さずに殺そうとするのって!」

 本気出してないのに四位とか!

 サル・シュくんが、プーッと膨れてリョウさんからそっぽ向いた。

 まぁ、それは今、どうでもいいよね。

「とりあえず、ガリさん。できたら、でいいから、車李(しゃき)の王城行ったとき、ここ、狙ってみて。前からだとこの門の上のが邪魔だから、真横から」

「無視すんなっハル! お前が聞いてきたんだっ!」

「でね、このお城、大きいんだけど、取る気ある?」

 リョウさんが、サル・シュくんの口をつかんで押しはなした。

「実際に見ての話だが、この大きさは、キラ・シではどうにもならん」

 前も、そう言って、帰って来たんだよね。

「この、車李のお城を拠点にしたら、大陸中動きやすいよねぇ」

「それはそうだが…………こんな真ん中にあったら、四方から攻め上げられないか?」

「城壁も高いから、それは大丈夫。お隣のナガシュって国と、1000年戦争し続けてるけど、まだここにあるから」

「ほう…………」

「城壁が固いから、破れないみたい。車李がこの大陸で最大の国だって」

「最大の国を先に取るのか?」

「戦士全部殺して、王様……族長殺したら、次の族長を脅せばいいじゃない?」

 雅音帑(がねど)王は賢王だけど、次がいない、って書かれてたし。前回も、車李軍ほぼ壊滅だった筈なんだ。あのままガリさんが進んでたら。

「だが、キラ・シがこの大きな村の族長になってもどうもできんぞ」

「族長にならなくていいじゃない。戦士を全部やっつけて、『守ってやる』って言えば……はっ!」

 そっか! 政治をしなきゃいけないから、『政治』って言葉を知らなくても、ガリさんとかリョウさんは、やりたくないんだ? 大きすぎるから。でも、傭兵に入るなら、どう?

「車李の戦士を全員殺して、キラ・シが守ってやる、って言えば、よくない?

 族長は王様がやればいい。

 キラ・シは戦いだけできるよ。

 200人しかいない、ってのは知られちゃいけないけど、車李の戦士を全部殺してるんだから、キラ・シがいなかったら、ナガシュに簡単に負けちゃうよ。

 車李の国自体がなくなる。それがいやなら、キラ・シに守られるしかないよね。戦いなら、キラ・シは誰にも負けないんだから」

『車李の看板』で戦ができるなら、もっと簡単になるはず。

「城壁が頑丈なのは、車李とナガシュと煌都(こうと)だけみたいだから、そのどれか一つが欲しい。それなら、平地の真ん中にあってもきっと大丈夫の筈」

 サル・シュくんが凄い笑ってる。ナニ?

「ナガシュは砂漠のど真ん中。

 車李も半分砂漠だけど、車李王城自体は、ちょっと北が砂漠で、南は岩盤。その南に穀倉地帯がある。覇魔流(はまる)が珍しいものたくさんあって、その、覇魔流と煌都(こうと)の流通の要になってるから、車李は農業国じゃなくて貿易国なんだよね。

 砂漠はキラ・シの馬では無理があるけど、車李はぎりぎり砂漠じゃないから、動きやすい筈」

 全部机上の空論だけど、どうだろう。

 あの、同盟の使者の速さを考えると、車李はもう、あの時点でアップアップしてた筈。もう一押しすれば陥ちたんじゃないかな。

 あのあと、私が死んだときに敵襲を受けたけど、あそこで既に車李に移動してれば、そう簡単に敵襲は受けない。

「車李とかナガシュは毒殺が横行してるから、それが一番怖いけど、戦士をとにかく全員殺せれば、キラ・シを殺せば国が滅びるから、殺せない筈」

 みんなが、黙ってた。

「あ、ゴメン。一人で盛り上がっちゃって。そういう可能性もあるってことで」

 ガリさんが出て行った。

「あー……ゴメン……」

「いや、ハル。ガリは喜んでる。いい案を出してくれた」

「え?」

「車李のシロを見に行くってことだよ」

 サル・シュくんがバチンッ、ってウインク。めっちゃ上機嫌。ナゼ?

「ハル面白れーっ! どれか一つ欲しい、って……くるみ取るみたいに…………でかい村を…………っ」

「それで笑ってたの?」

「いや……ハルには、キラ・シが凄く強い戦士だ、って思われてるんだな、って」

「実際、凄く強いじゃない」

「うん」

 サル・シュくんニッコリ。

 またリョウさんがギューッって。なんで喜んでるの?

 そこに入ってきたショウ・キさんが、彼らから肩を叩かれてうろたえてた。

「このシロを守れよ、ショウ・キ」

「えっ? そりゃ、守る、けど…………」

「ガリ・アっ!」

 ガリさんが自分の名前叫んだ。鍛練してた全員が馬に飛び乗って走ってく。サル・シュくんもリョウさんも行っちゃった。『見に行く』って人数じゃないよね……総攻撃じゃない?

「えっ! 出陣っ? 俺が居残りっ? ひでぇっ! ガリメキアっ!」

 ショウ・キさんの地団駄でお城が揺れた。

  

 

  

 

  

 

 

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