【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。82 ~「全裸で出てこい」~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 このお屋敷気持ちいーい。

 壁も高いんだけど、この大広間。天井がない。

 三メートルぐらいの壁にアーチの出入り口がついてて、五メートルぐらい上に布でテントが張ってある。凄く涼しい。アーチの出入り口も布でパーティーションにしてて、直接風は吹かない。日の下はあっついけど、家の中は快適!

 屋根のある部屋もあるけど、殆どは屋根がない。さすが砂漠。

 キラ・シが練兵場に使っている大広間も、屋根がない。でも、空は、布が掛けられてて、明るいのに、直射日光は入らない。凄いなー。

 風は結構あるから、超涼しい!

 大体、キラ・シはここで鍛練してる。

 湿気がないから、乾燥して喉がイガイガするけど。それで言うと、羅季は湿度高かったよね。一階にお風呂があるし、そういや、壁はいつも濡れてたかな。

「留枝(るし)制圧完了!」

 久々に……というか、この砂漠の屋敷には初めてきたサル・シュくんが、褒めなさーい、とばかりに、キラ・シの前で両手を広げて見せた。

「えっ! サル・シュくん、追撃部隊を止めに行っただけでしょ?」

「ああ……うん。何人か逃げたから追い駆けたら、オウサマ殺してた」

 だから、その説明じゃわからないって!

 リョウさんもガリさんも、驚きもしない。そうですか。これって普通ですかそうですか……

『王城を陥とす』って、そんな簡単なことじゃないからね?

「ハルが、もう一つシロがほしいって言ってたから。あげる」

「もう車李(しゃき)があるしっ!」

「二つあってもいいだろ」

「よくないよっ! 留枝の管理どうやってするのっ!」

「シャキにさせよう」

 ガリさんがしれっと言った。そのまま、側にあった棚に腰掛ける。何人か出て行ったけど、残った人はその場に座り込んだ。私はもとから、クッションに座ってたけど、ル・マちゃんも、私の隣に座って私の膝枕ごろん。

「そうだな。あのシロを持たせてるなら、他のシロも持てるだろう。キラ・シで陥として、シャキに世話をさせよう。オウを呼べ」

 リョウさんも賛成かー。

 まぁ……それを実は私も狙ってたけど、ちょっと意味合いが違うわ……

 私は、シャキの傭兵として、シャキが言ったお城を攻めることを考えてたんだけど……先に陥として押しつけるとか……

 結果は一緒だけど……

 しかも、王様、凄い速さで来たし! 超土下座。地面に額をすりつけてる。

「留枝を取ったので世話をしてね」

「……はい……?」

 だよね。そうなるよね?

「留枝の王城をキラ・シが制圧したので、大臣とか派遣して管理して? 税金とか、車李で徴収して、政策もやってね」

 やわらかく言ってみた。

 何か言いたかったみたいだけど、ハネト王は何度も頷いて下がった。

 凄い首を傾げてる。

「あ! キラ・シの笛の連携、車李の人にしてもらえばよくない? 笛の聞こえる範囲に家を建てて、つないで貰えばいいのよ」

「水は?」

「水と食料は車李から馬車で配達すればいいじゃない? キラ・シが走り回らなくても、一発で隅から隅まで連絡できるよ! 車李は人がたくさんいるんだから!」

 リョウさんが二度頷いて、ガリさんを見上げた。ガリさんが否定しない。OK!

 ただこれは、使い物にならなかったので立ち消えた。

『指笛』の重要度はもちろん教えたんだけど、『すぐにやってくれない』し、『正しくやってくれない』んだよね。

 そりゃそうだよね。あの指笛のピピピの回数を正しく聞き取るとか、すぐにはムリだもんね。

『変な笛吹かれたら邪魔!』ってサル・シュくんが怒った。ごめんなさい。

 ただリョウさんが『今後子供が増えたときに、もう一度やってみよう』とは言ってくれた。ありがとうっ!

「そうそう、留枝で変なのつかまえたんだけど、どうする?」

 サル・シュくんが手を上げたら、キラ・シの戦士が、黒い服の誰かを連れてきた。なんかものすごくグルグル巻きにされてる。顔は黒い布のマスクつけてる。明らかに密偵かナニカ、って格好だね。サル・シュくん、これを先に言うべきじゃない?

「誰だ?」

 リョウさんが眉を寄せる。

「無謀にも、サル・シュに切りかかった馬鹿」

 レイ・カさんも冷たい。

「オウサマ殺したあと、変なのがいるのは分かってたんだけど、隙をうかがってるみたいだからレイ・カ達下がらせたら後ろから来た」

「サル・シュくんが、よく殺さなかったね……」

「いっぱい殺せて機嫌良かったからっ」

 キャラッ、と笑った。

 悪かったら殺してたんだろうか? これだけグルグルにできるなら、即死させられたよね?

「ハル」

「はい!」

 サル・シュくんが、笑ってなかった。

 胸の中がぞくっと冷たくなる。

 ガリさんが、棚から立ち上がって刀を抜いた。私の目の前の、向こうの方にいたキラ・シが、伏せた。リョウさんとかは、そのまま……だけど……

 えっ? まさか、ガリさんがここで『山ざらい』、する? つまりは、周りを敵に囲まれて……る、の? だから、座ったの?

「こいつを殺されたくなければ出てこい、って、大声で言え」

 サル・シュくんが私に告げる。

「羅季(らき)語で?」

「ルシで分かる言葉」

「留枝(るし)が何語か知らないけど……」

 どうしよう。私が普通に喋ったら、日本語になる気がする。

「あ、マキメイさん! ちょっと、力貸して? ああ、この人、もう縛ってるから、怖くないよ」

 青ざめて震えている彼女に、サル・シュくんが言った言葉を、羅季語で叫んでもらった。

 10人ぐらいっ……黒いのが出てきた!

 どこにいたのっ!

「なんだ、お前ら」

 サル・シュくんが座ったまま、膝に肘を置いて、彼らを見上げる。みんな、それぐらい、頭を下げてる。返答によっては、『山ざらい』が……ここで、出る!

「私の言葉、通じてたら、頷いて」

 マスクの人に聞くと、ややあって頷かれた。良かった、何語かわからないけど、通じてる。

 クロス翻訳開始。サル・シュくんの迫力在る声を私の声で通訳するの、気が引けるわ……

「俺が、拳握るまで黙ってたら、即死」

 サル・シュくんが左手を上げて、小指から、折っていく。二秒で一本、十秒ぐらいしか待たないってこと。

 全部、指が畳まれたっ!

 何も、言わない。

 あ。

 壁の後ろから出てきたキラ・シが蛮刀で喉掻き切った!

 ガリさんは、まったく動いてない。

『山ざらい』来るかと思ったから、……いや、ちょっと、この『待機時間』、心臓に悪い……

「次っ!」

 サル・シュくんが怒鳴った。慌てて私も通訳する。

「次も雑魚で様子見るなら、殺す」

 様子見?

「全裸で出てこい」

 凄いこと言う、サル・シュくん。

  

 

  

 

  

 

 

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