リョウさんがっ、私をル・マちゃんごと抱きしめた。
ひゃっ! ガリさんが、全開っ! キタっ!
元々風通しの良い部屋だけど、駆け抜けた突風にガリさんの髪が舞い上がって……刀を切り払う寸前の、腰の位置。
凄い……笑ってる…………楽しそう……
そっか、次に出てくる人は、さっきの人より強いから? 強い人とやり合うのは楽しいから……今、凄く、嬉しいんだ?
この、ガリさんの前に、全裸でって……怖すぎる。
地獄の閻魔様が戦闘態勢とったみたいだよっ!
「ふぁっっっ!」
出てきたっ!
壁のまわりにずらりと、全裸で出てきた黒髪の人達。
肌は、白かな? キラ・シほどとは言わないけど、筋骨隆々。でも、細い。あ、女の人もいる!
というか、どこから出てきたの?
壁を越えて飛んできたの?
だって、入り口は、真正面に一つだけだよ?
なんで壁沿いにぐるっといるの?
「お頭の猿ぐつわを取ってもらえたら、お頭が答えます」
全裸の女の人が、掌をこちらに向けたまま、サル・シュくんに答える。
「これ、俺がもらっていいよね?」
サル・シュくんがガリさんを見た。
いや、それは後にしようよ、サル・シュくん。
「取ってきた奴に最初の権利がある」
リョウさんも、答えなくていいっ!
これ、翻訳必要? してないけど、いいよね?
「サル・シュくん。その、グルグル巻きの人がお頭だから、その人から話聞いてくれって」
「こいつの口を開けたらナニが出てくるかわかんないからイヤ。その女に答えさせろ。他の奴は枝噛まして口をふさげ。吹き矢してくるぞ、こいつら」
それは、怖い。
キラ・シが全裸の人達の口をふさいだ。
「ナニが聞きたいの?」
「お前ら何者だ」
アバウトに見えて、的確な質問だよね。
「だから、お頭に……」
女の人の右隣にいた男の人が、くてくてくて……って倒れた。首から血を吹いてる。サル・シュくんの周りにあったのは、グレープフルーツ食べてたスプーン。え? 木のスプーンだよ? ナイフじゃなかったよね? なんで首に刺さるの? というか、いつ投げたの?
女の人が、全身にどろっと汗をかいて、失禁した……
「早く答えて! この人、容赦なんてないよ!」
「あ……」
ガタガタ震えてる女の人。
次の瞬間、彼女の左隣の男の人が倒れた。サル・シュくんが、いっぱいスプーン持ってる。
なんで、よりによってスプーンなのっ! ナイフだってそこらへんにあったでしょ?
「喋らねぇのと、死体は一緒だぜ?」
もう、仕方ないので、サル・シュくんの言葉をそのまま翻訳する。
「我等はゼルブの民。留枝(るし)の王との契約により、動いていました」
もう一つ、ゆっくりと投げようと手をあげたサル・シュくんが、腕を止めた。
「それで?」
「それ以上は私にはわからないのですっ。お頭だけが王と話をしていたのですからっ! 本当です!」
スプーン、投げられた。あっちでもう一人倒れる。血、クサイ……
ガリさんも全力のままだし、吐いた。
でも、口からは出さない。こんな、敵になるかもしれない人に私が弱いって思われたら、集中砲火浴びる。もう、強くはないと分かってるだろうけど、でも……これ以上弱みは見せたくない。
ガリさんが、全力やめてくれた。そこにいるのがわかるぐらい。リョウさんが水を飲ませてくれた。良かった、喋れなかった。
サル・シュくんとバチッと目があって、ニコッと笑ってくれた。力が抜ける。
ガリさんの全力も胃に来るけど、サル・シュくんのあの無表情が怖いんだ、私。
「指をバキバキにして縄を抜けてたのは、なんだ?」
そんな瞬間、サル・シュくんが見てたんだ? ああ、だから、あんな変なグルグル巻きなんだ?
「指の関節を外して、繩抜けを、します」
サル・シュくんが眉を寄せて私を見た。多分、カンセツとかナワヌケとかがわからないんだろうけど、ここでは聞いてこないっぽい。
サル・シュくんが、女の人をずっと見てる。そして、グルグル巻きの人を親指で指さした。
「……! ソイツに皮袋をかぶせて口を外せ。その袋を首で絞めろ。軽くずっと苦しめろ」
サル・シュくん、言うことえげつない。
「革袋じゃ空気足りないよ」
「それまでに喋ればいい」
「一分持たないって、喉も絞めてるのに」
「私が頭です!」
女の人が叫んだ。
なんですって?
「彼を殺さないで、私の息子です」
サル・シュくんが手を振ったら、グルグル巻きの人の喉を絞めるのはやめたみたい。ただ、まだ、いつでも締め上げられるようにヒモは張ってる。
「我等は傭兵です。留枝の王に代々雇われていました」
「ヨウヘイは、お金で雇われる戦士のこと」
サル・シュくんが私を見たから、説明する。
「じゃあ、キラ・シに雇われろ」
「……はい…………もう、そのつもりでついてきました」
女はコレだから……ってサル・シュくんがいやそうに呟いた。
「用ができたら呼ぶ」
サル・シュくんが手を振ったら、全裸の人達がみんなどこかに行った。
一瞬で、消えた!
「あそこまで飛んだぜ」
ル・マちゃんが私の膝から立ち上がって……壁の上にいた。
いつ飛んだの?
上に飛んでどっか行ったの? 今の人達?
そっか……あの人達よりサル・シュくんが速いんだ? だから、それより速いル・マちゃんには見えてたんだ?
『山ざらい』とかも怖いけど、『速さチート』怖い。
スプーンが喉に刺さるスピードって、どれぐらいなの?
「ガリメキア、どうする?」
サル・シュくんが、喉をさらして後ろのガリさんを振り返る。ガリさんが、戦闘態勢を解いた。気配も消してくれる。
助かった…………倒れそうだった。
「よくやったぞ、ハル」
リョウさんがギュッとして、背中を撫ぜてくれる。
でも、グルグル巻きの人は、まだそこにいた。
「その人、どうするの?」
「こいつがオカシラだ」
「え? あの女の人じゃなく?」
「こいつが一番強い」
サル・シュくんの言葉に、誰も反論しない。
「さっきの全部、嘘だったの?」
「騙しあい?」
ヘラヘラ、ってサル・シュくんが笑う。
私のいないところでしてほしいけど、通訳するなら、私がいないと駄目なんだ…………
これは、慣れないと仕方ないな……
お頭さんはサル・シュくんよりチョット小柄? かな。
「じゃっ、コイツも俺のなっ!」
サル・シュくんがキャピッと笑って、グルグル巻きの人の縄をつり上げた。後ろから蹴って歩かせる。
出て行っちゃったよ??
「何するのっ! サル・シュくんっ、何するのっ」
「ハル、気にするな」
そうですか……
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