【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。83 ~我等はゼルブの民~

 

 

 

 

 リョウさんがっ、私をル・マちゃんごと抱きしめた。

 ひゃっ! ガリさんが、全開っ! キタっ!

 元々風通しの良い部屋だけど、駆け抜けた突風にガリさんの髪が舞い上がって……刀を切り払う寸前の、腰の位置。

 凄い……笑ってる…………楽しそう……

 そっか、次に出てくる人は、さっきの人より強いから? 強い人とやり合うのは楽しいから……今、凄く、嬉しいんだ?

 この、ガリさんの前に、全裸でって……怖すぎる。

 地獄の閻魔様が戦闘態勢とったみたいだよっ!

「ふぁっっっ!」

 出てきたっ!

 壁のまわりにずらりと、全裸で出てきた黒髪の人達。

 肌は、白かな? キラ・シほどとは言わないけど、筋骨隆々。でも、細い。あ、女の人もいる!

 というか、どこから出てきたの?

 壁を越えて飛んできたの?

 だって、入り口は、真正面に一つだけだよ?

 なんで壁沿いにぐるっといるの?

「お頭の猿ぐつわを取ってもらえたら、お頭が答えます」

 全裸の女の人が、掌をこちらに向けたまま、サル・シュくんに答える。

「これ、俺がもらっていいよね?」

 サル・シュくんがガリさんを見た。

 いや、それは後にしようよ、サル・シュくん。

「取ってきた奴に最初の権利がある」

 リョウさんも、答えなくていいっ!

 これ、翻訳必要? してないけど、いいよね?

「サル・シュくん。その、グルグル巻きの人がお頭だから、その人から話聞いてくれって」

「こいつの口を開けたらナニが出てくるかわかんないからイヤ。その女に答えさせろ。他の奴は枝噛まして口をふさげ。吹き矢してくるぞ、こいつら」

 それは、怖い。

 キラ・シが全裸の人達の口をふさいだ。

「ナニが聞きたいの?」

「お前ら何者だ」

 アバウトに見えて、的確な質問だよね。

「だから、お頭に……」

 女の人の右隣にいた男の人が、くてくてくて……って倒れた。首から血を吹いてる。サル・シュくんの周りにあったのは、グレープフルーツ食べてたスプーン。え? 木のスプーンだよ? ナイフじゃなかったよね? なんで首に刺さるの? というか、いつ投げたの?

 女の人が、全身にどろっと汗をかいて、失禁した……

「早く答えて! この人、容赦なんてないよ!」

「あ……」

 ガタガタ震えてる女の人。

 次の瞬間、彼女の左隣の男の人が倒れた。サル・シュくんが、いっぱいスプーン持ってる。

 なんで、よりによってスプーンなのっ! ナイフだってそこらへんにあったでしょ?

「喋らねぇのと、死体は一緒だぜ?」

 もう、仕方ないので、サル・シュくんの言葉をそのまま翻訳する。

「我等はゼルブの民。留枝(るし)の王との契約により、動いていました」

 もう一つ、ゆっくりと投げようと手をあげたサル・シュくんが、腕を止めた。

「それで?」

「それ以上は私にはわからないのですっ。お頭だけが王と話をしていたのですからっ! 本当です!」

 スプーン、投げられた。あっちでもう一人倒れる。血、クサイ……

 ガリさんも全力のままだし、吐いた。

 でも、口からは出さない。こんな、敵になるかもしれない人に私が弱いって思われたら、集中砲火浴びる。もう、強くはないと分かってるだろうけど、でも……これ以上弱みは見せたくない。

 ガリさんが、全力やめてくれた。そこにいるのがわかるぐらい。リョウさんが水を飲ませてくれた。良かった、喋れなかった。

 サル・シュくんとバチッと目があって、ニコッと笑ってくれた。力が抜ける。

 ガリさんの全力も胃に来るけど、サル・シュくんのあの無表情が怖いんだ、私。

「指をバキバキにして縄を抜けてたのは、なんだ?」

 そんな瞬間、サル・シュくんが見てたんだ? ああ、だから、あんな変なグルグル巻きなんだ?

「指の関節を外して、繩抜けを、します」

 サル・シュくんが眉を寄せて私を見た。多分、カンセツとかナワヌケとかがわからないんだろうけど、ここでは聞いてこないっぽい。

 サル・シュくんが、女の人をずっと見てる。そして、グルグル巻きの人を親指で指さした。

「……! ソイツに皮袋をかぶせて口を外せ。その袋を首で絞めろ。軽くずっと苦しめろ」

 サル・シュくん、言うことえげつない。

「革袋じゃ空気足りないよ」

「それまでに喋ればいい」

「一分持たないって、喉も絞めてるのに」

「私が頭です!」

 女の人が叫んだ。

 なんですって?

「彼を殺さないで、私の息子です」

 サル・シュくんが手を振ったら、グルグル巻きの人の喉を絞めるのはやめたみたい。ただ、まだ、いつでも締め上げられるようにヒモは張ってる。

「我等は傭兵です。留枝の王に代々雇われていました」

「ヨウヘイは、お金で雇われる戦士のこと」

 サル・シュくんが私を見たから、説明する。

「じゃあ、キラ・シに雇われろ」

「……はい…………もう、そのつもりでついてきました」

 女はコレだから……ってサル・シュくんがいやそうに呟いた。

「用ができたら呼ぶ」

 サル・シュくんが手を振ったら、全裸の人達がみんなどこかに行った。

 一瞬で、消えた!

「あそこまで飛んだぜ」

 ル・マちゃんが私の膝から立ち上がって……壁の上にいた。

 いつ飛んだの?

 上に飛んでどっか行ったの? 今の人達?

 そっか……あの人達よりサル・シュくんが速いんだ? だから、それより速いル・マちゃんには見えてたんだ?

『山ざらい』とかも怖いけど、『速さチート』怖い。

 スプーンが喉に刺さるスピードって、どれぐらいなの?

「ガリメキア、どうする?」

 サル・シュくんが、喉をさらして後ろのガリさんを振り返る。ガリさんが、戦闘態勢を解いた。気配も消してくれる。

 助かった…………倒れそうだった。

「よくやったぞ、ハル」

 リョウさんがギュッとして、背中を撫ぜてくれる。

 でも、グルグル巻きの人は、まだそこにいた。

「その人、どうするの?」

「こいつがオカシラだ」

「え? あの女の人じゃなく?」

「こいつが一番強い」

 サル・シュくんの言葉に、誰も反論しない。

「さっきの全部、嘘だったの?」

「騙しあい?」

 ヘラヘラ、ってサル・シュくんが笑う。

 私のいないところでしてほしいけど、通訳するなら、私がいないと駄目なんだ…………

 これは、慣れないと仕方ないな……

 お頭さんはサル・シュくんよりチョット小柄? かな。

「じゃっ、コイツも俺のなっ!」

 サル・シュくんがキャピッと笑って、グルグル巻きの人の縄をつり上げた。後ろから蹴って歩かせる。

 出て行っちゃったよ??

「何するのっ! サル・シュくんっ、何するのっ」

「ハル、気にするな」

 そうですか……

  

 

  

 

  

 

  

 

 

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