【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。84 ~50万人以上を見捨てる~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 サル・シュくんがいなくてどうしようかと思ったけど、今のうちに話してしまおう。

「重要な話があるんだけど、今、いいかな?」

 ガリさんとリョウさんを、大広間から別の部屋に来てもらった。もれなくル・マちゃんも私の左腕についてくる。

「このままいくと、来年、4万人ぐらいキラ・シの赤ちゃんが産まれるんだけど、どうするの?」

『前』もしたあの話を持ちかける。

 ガリさんも少し目が大きくなったから、考えてなかったっぽい。

「あの、ゼルブの民が信用できるのなら、彼らに任せて子供を移動させることはできるよね? 彼らに子供たちを守ってもらうこともできる。信用するなら」

「サル・シュがあの族長をどうするか次第だな」

 そこなの?

「じゃあ、ゼルブの民を信用できるなら、もう、子供の問題は、いいの?」

「アレらが、どう動くのかを聞いてからだが、アレらに損がない限りは、動くだろう」

「その信用はどこから来るの?」

「キラ・シも、山で似たようなことをしていた」

 ああ、そっか。一番強いから、頼まれて村を守ってたとか言ってたね。完全に傭兵だもんね、それ。

 そしたら、一番大変な問題が、これで軽減する? かも。

 ゼルブは『キラ・シの数』に入ってなかったから、彼らが実働しても、キラ・シの『戦力』は変わらない。

 都合よすぎるんですけど。

「でも、その先は考えておかないと、指示が出せないよ? どこに連れて行くの? いつ連れて行くの? お母さんたちはどうするの? 家はどうするの? 食料どうするの? 戦士としての倣いを教えるのはどうするの? 父親が子供に教えるなら、戦士はもう制圧してる時間なくなるよ? ガリさんの子供は、既に三千人ぐらい妊娠してるからね。連れて歩くのも無理。三千人って、キラ・シの部族、15個分」

 ガリさんもさすがにポカンとしてた。

 その顔はかわいいけどね。問題山積みなのよ。

「今年産ませて、そのあとはいいってわけじゃないよね? ずっと産ませるんだよね? 今のままあと14年経てば、キラ・シの成人になっていない子供が、56万人。キラ・シの部族、2800部族分。

 その全員が、サル・シュくんみたいに、13才から子供を産ませたら、今年の子供が成人するときに70万人、キラ・シ、3500部族分になります。

 どうしますかっ!」

 どうしますかって、すぐ答えなんて出るわけない。

 新生児死亡率も高いだろうから、どれぐらい育つのかな? 半分生き残るのかな?

「今のところ、車李(しゃき)にたかって、食糧問題とか、最初は大丈夫だろうけど、成人60万人が増えたら、多分、食べ物がまず無理だと思うの。車李でも、あの王城近辺に30万人ぐらいしかいないみたいだから。その二倍の食料は、脅しても出ない。つまりは、子供たちに自分たちの食料を作ってもらわないと無理」

 ここら辺までは『前回』もリョウさんと話してた。

「全員が戦士になる強さが在るわけじゃないよね? 山みたいに『捨てる』ことをせずに、戦士にならないコは、食べ物を作って貰おう。農業とか狩猟、牧羊をしてもらえばいい。女の人には布を作って貰おう」

 農業ったって、できる土地は既に村があるよね?

 もちろん、森林を切り崩せばいくらでも田畑は作れるけど、大規模な自然破壊になる。その分、獣は減る。

 サイコウの東側の広大な空き地をどうにかできれば60万人ぐらい養えると思うけど、私の頭にあるのは『現代』の大規模農場しかないしなぁ……

 あそこ、土がカチンコチンでひび割れて塩ふいてた。人間の手で耕すのはかなり無理があるよね。

 大体、あの川、ちょっと塩辛かった。動物たちが飲むのはわかる。ミネラル凄いありそう。でも人間があれ飲んでると、塩分多すぎなんじゃないのかな?

 キラ・シならできそうだけど、『戦士』を農業に使うのももったいないし、子供たちの話だから……

「その話は、全部ハルに任せる」

 ガリさんが、丸投げっ!

「わからん」

 恥ずかしげもないのはすがすがしいけど、私だって困る。

「私だって、わからないよっ!」

「そこまで疑問が出ない。疑問が出ないから解けない。

 ハルは今までも疑問を口に出して解いてきた。それも解け」

 簡単に言ってくれる……

「邪魔なら殺してやる。欲しいなら獲って来てやる。守ってもやる。キラ・シにできるのはそこまでだ」

 ……そうですね……

「あのチズにしても、タンザクにしても、誰も考えつかなかった。ハルの頭が今、キラ・シを制圧している」

「……制圧…………」

 雄弁なガリさん。こういうときは喋ってくれるの、ありがたいけど、私の肩が重たくなっただけだよ……

「たとえ失敗したとしても、誰もハルを責めない」

 少し軽くなった。

 そうか。

 私は『失敗すること』を恐れてたんだ。

「キラ・シでは、失敗することもできん。何をしても、今より悪くはならない」

「…………子供が全員死んだら、悪くなるよ」

「子供が死んでも、キラ・シの戦士が減るわけではない。今より、悪くはならない」

「え?」

 ガリさんが、まっすぐに私を見て、る。

 気配は全消ししてくれてるから、見ていないと、そこにガリさんがいるのかどうかわかんないぐらい存在感、ないけど。

 強い、視線。

「子は大事だ。

 山なら、自分が死んでも子を逃がす。

 だが、ハルの言う数だけ産まれるなら、一人の子の価値は下がる。

 今は、もう、子より戦士の方が大事だ。キラ・シしか、キラ・シの子を産ませられない」

 それは、そう……だけど……

「ハルの言っていることはありがたい。

 ハルは、産まれたキラ・シの子、すべてを守ろうとしてくれている。

 だが、そんなことは最初から無理だ。百人に一人が生き残ればいいと考えろ。それでも15年後には四千人が戦士になる」

「四千人……?」

「十年続いてようやく四千人だ。一年ではかなり少なくなる。それぐらいならあのシャキの食料でどうにでもなる。駄目なら、この大陸中を駆け回ってでも、食い物を獲ってきてやる」

「殆どが……死んじゃうよ? 15年で60万人が死んじゃうよ?

 そんな大量のキラ・シが死んじゃうよ?」

 シャキの戦士が川に流れてた……その顔が、全部、キラ・シになって、流れてく……そんなの……無理だよ……

 60万人以上を見捨てるなんて……

「生き残ったのが、キラ・シだ」

 ガリさんは、言ってのけた。

 わかってる……私の頭がおかしいんだ。

 民主主義だから。

『人間は死んじゃいけない』と思ってるから……

 分かってる、この時代の新生児死亡率が高いのもわかってる……

 そんな馬鹿なこと……ある訳ない……

 山で捨ててきたから、そんなこと、言えるんだ……

 ここでなら、みんな、生かせるのに……

 でも……

「ハルは、なぜ、子供が全員生き残ると考えている?」

  

 

  

 

  

 

 

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