【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。86 ~運……という言葉~

 

 

 

 

 なんていうか、奴隷とかそういう扱い受けてたのかな? そっちの方が、わからないわ。

「ありがとう」

 胸に手を合わせて、サギさんにお辞儀された。

「息子も、サル・シュ様について幸せそうだ。私達ゼルブは、キラ・シのよい僕になる」

「……サル・シュくんに仲間を殺されたことはどう思ってるの?」

 素直に答えるわけないとは思うけど、こういうのって聞いておきたい。

 そういえば、この人もサル・シュくんの恋人なんだった。マキメイさんといい、ネックの女の人を抱えてるよね、サル・シュくん。

 これが『サル・シュだから』って言われる一つなんだろうな。ガリさんがそうじゃないところが面白い。

「あの時は敵だった。仕方ない」

「そういうもの?」

「戦時中だ」

 そうやって、心理的にも割り切れるものなの?

「ゼルブがサル・シュ様より弱かった。

 当然、その族長のガリ・ア様よりはるかに弱い。

 あの時、ガリ・ア様がそこにいるだけで、全員動けなかった……あんな恐ろしい人は、見たことがない」

 サギさんが、青ざめて、ぶるっと震えた。

「キラ・シの敵に、なってはいけない」

 真っ直ぐに私を見つめて、彼女は宣言する。

「我等ゼルブ、全員の考えだ。キラ・シが良いように動けば、我等の民も日の目を見る」

 この、漫画に良く在る『日の目を見ない民』ってのがよくわからない。どこででも村を宣言して独立したらいいことじゃないのかな?

「キラ・シから貰う命令は、楽しい」

「……そうなの?」

「道具を作るとか、あの荒野を緑地にするとか、子供をたくさん育てたいとか、食料の確保とか…………そんなこと、今まで、言われなかった。誰を殺せ、あれを殺せ、ばかりで……」

「……それは、退屈じゃない?」

「戦いたいものはキラ・シの戦士の列に並んで、出陣している。

 その先でも、戦わずに制圧しているのが凄いと、みな笑顔だ。ゼルブだからと、誰も下にしない」

「ああ! ちゃんと戦えてるんだ? それは良かったね! キラ・シも、戦士が増えて良かった! 何人増えたの?」

「強いものが上から120人、キラ・シに加わった」

「120人……ゼルブって全員で何人?」

「全員……だと、五千人ぐらい」

 五千人??? ナニ、その大部族。

 それでなんで、奴隷扱いされてたの??

「各地に密偵として入っている。人を集める店や、高官、高官の妾、色々いる」

 とんでもないのを味方にしたんじゃないの? これは。

「それだけ実力があったら、幾らでも独立できたでしょ? 四百年ぐらい前に、一気に各地が独立したって……あ、その時にはいなかった?」

「その時に、留枝の王と、当時のお頭が契約をして、留枝の下につくことになった。キラ・シが留枝の王族を全部殺して下さった、ようやく契約が終わった」

 とんでもタイミングだな。しかもそれ、サル・シュくんが一存でやったんだよね。『だからサル・シュだ』って、本当にそうだわ。

「息子は、サル・シュ様が自分に気付いていることを、まったく気付かなかった、と言ってた。

 隙を見せられたことすらわからず、そこに突っ込んでとらえられた。関節を外して、縄を抜けたら、後ろにサル・シュ様が笑って立っていて、気がついたらグルグル巻きになっていた、と」

 密偵に気配消すので勝つとか、またチート発見、だわ。『隠密』なのかな?

「息子が、今、ゼルブで一番、優れている」

「サル・シュくん、今、キラ・シで四位だよね?」

「そう、それが、恐ろしい。まだ強い人が3人もいるキラ・シは、恐ろしい。

 恐ろしいのに、優しい。

 制圧した我等を、同等に扱ってくれる。とても嬉しい」

「キラ・シは、強さで順列はあるけど、みんな対等なんだって」

「血筋は?」

「強い人が一番。ガリさんも、誰かに負ければ、負かした人が族長」

 何度も、サギさんが頷いた。

「ゼルブの民が族長になることも、可能?」

「聞いてみないとわからないけど、あるんじゃない? 強ければ。

 その代わり、キラ・シを強くすること、が族長の使命だよ?」

「もちろんっ!」

 それで、と、サギさんが身を乗り出してきた。

「ハルナ様がよく言っている、子を戦士として育てる、というの、我等以外にうまくできる民はいない」

 マジで?

「ゼルブは既にキラ・シ。

 キラ・シを強くすることを厭うものはゼルブにいない」

「ちょっとリョウさんっ、リョウさんっ……いないっ!」

 くっっ、今、話を聞いてもらいたいのにっ!

「どうしたハル」

「ショウ・キさんっ!」

「おお、サギ、だっけ? 仲間、すげぇ強い! キラ・シのやつらに元気がわいたぜっ!」

「キラ・シの戦士、元気なかったの?」

「敵が弱すぎる」

 ああ……そうね。

「まだ半年先だが、次の勝ち上がりやったら、ゼルブが上位に来るぞ。みんな必死で鍛練始めた。いい時季に新風が来たな」

 そっか。『新風』なんだ?

「カチアガリ、とはナニ?」

「族長を決める、部族内の戦だ。殺さない。なるべく怪我させない。だけが掟。勝った奴が族長」

「それにゼルブが参加しても良いの?」

「キラ・シ全員参加だ。

 出たくないならかまわねぇが、次の勝ち上がりまで最下位だぜ?

 キラ・ガンの元族長が強ぇんだよ。あれはル・マといい勝負するんじゃないか?」

「ル・マちゃんといい勝負って、ショウ・キさんの上?」

「若い奴にはもう勝てねぇなぁ……元々、速くはねぇからな」

「ゼルブはキラ・シ?」

 再度、サギさんがショウ・キさんに訪ねる。

「キラ・シだろ。もう、キラ・シとやってるだろ」

「ゼルブが一番勝ったら族長?」

「そうなる。ガリメキアに勝ってみな。来年はお前の息子が族長だ」

「それは無理です。無理です」

 お辞儀するように頭を下げ、両手を高くかかげて横に振るサギさん。

 笑いながらも、サギさんがル・マちゃんを見た。

 サル・シュくんは無理でも、ル・マちゃんには勝てるかも……と思ってる? あ、伝わったらしい。

「俺だって負けねぇぞっ! 父上の子以外生まねぇからなっ!」

 カッ、と赤くなったル・マちゃんが走って行って、そこらへんの戦士に切りかかってる。

 ああそうか……

 サル・シュくんみたいな聞き分けのいい人以外がル・マちゃんの上位に来たら、『命令』で抱かれるかもしれないから、必死でもあるんだ?

 サル・シュくんがいる限り、誰もル・マちゃんにちょっかいはかけないと思うけど、心理的には、嫌だよね。

 私だって、リョウさん好きになったから気にしてないけど、『最初』は本当にいやだった。

「あの人も怖い。息子、勝てそうにない」

 で、ショウ・キさんを見るんだ?

「俺に勝っても、そろそろ自慢じゃねーぞっ! だが、負ける気はない!」

 あ。あっちの部屋にサル・シュくんとチヌさんがいる。

 壁に立ってる彼にサル・シュくんが壁ドンの体勢でなんか喋ってる。キラキラのスパダリ臭、なんでそこで出してるの?

 遠目で見ると本当にいい男だね、サル・シュくんって。近くでいると『美少年』のキラキラが勝ってて、『強い』ってことに気付けないんだわ。

 姿勢とか、ポーズがとにかく、芝居がかってかっこいいから、遠目で見ると、ホント、『かっこいい男』なんだよね。いつも、ダンスしてるみたいに軽い足どりだし、たまにクルクル回ってるし。生活全部がミュージカルみたいなんだ、サル・シュくんって。

「サル・シュ様に見つけられたのが、ゼルブの幸運だった」

 サギさんが、胸に手を畳んでしみじみ呟く。

「そうだね。留枝軍が適度に強くて良かったね」

「ナゼ?」

「留枝軍が弱かったら、サル・シュくんはイライラしてただろうから、チヌさん、一撃で殺してたと思う」

 あの時のサル・シュくんの機嫌のよさったら、なんか好き勝手やったんだろうな。レイ・カさんも大変だっただろうに。

「運……という言葉を、最近良く感じる。チヌもゼルブも、運がよかった」

 青ざめたサギさんが、何度も頷いた。

  

 

  

 

  

 

 

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