なんていうか、奴隷とかそういう扱い受けてたのかな? そっちの方が、わからないわ。
「ありがとう」
胸に手を合わせて、サギさんにお辞儀された。
「息子も、サル・シュ様について幸せそうだ。私達ゼルブは、キラ・シのよい僕になる」
「……サル・シュくんに仲間を殺されたことはどう思ってるの?」
素直に答えるわけないとは思うけど、こういうのって聞いておきたい。
そういえば、この人もサル・シュくんの恋人なんだった。マキメイさんといい、ネックの女の人を抱えてるよね、サル・シュくん。
これが『サル・シュだから』って言われる一つなんだろうな。ガリさんがそうじゃないところが面白い。
「あの時は敵だった。仕方ない」
「そういうもの?」
「戦時中だ」
そうやって、心理的にも割り切れるものなの?
「ゼルブがサル・シュ様より弱かった。
当然、その族長のガリ・ア様よりはるかに弱い。
あの時、ガリ・ア様がそこにいるだけで、全員動けなかった……あんな恐ろしい人は、見たことがない」
サギさんが、青ざめて、ぶるっと震えた。
「キラ・シの敵に、なってはいけない」
真っ直ぐに私を見つめて、彼女は宣言する。
「我等ゼルブ、全員の考えだ。キラ・シが良いように動けば、我等の民も日の目を見る」
この、漫画に良く在る『日の目を見ない民』ってのがよくわからない。どこででも村を宣言して独立したらいいことじゃないのかな?
「キラ・シから貰う命令は、楽しい」
「……そうなの?」
「道具を作るとか、あの荒野を緑地にするとか、子供をたくさん育てたいとか、食料の確保とか…………そんなこと、今まで、言われなかった。誰を殺せ、あれを殺せ、ばかりで……」
「……それは、退屈じゃない?」
「戦いたいものはキラ・シの戦士の列に並んで、出陣している。
その先でも、戦わずに制圧しているのが凄いと、みな笑顔だ。ゼルブだからと、誰も下にしない」
「ああ! ちゃんと戦えてるんだ? それは良かったね! キラ・シも、戦士が増えて良かった! 何人増えたの?」
「強いものが上から120人、キラ・シに加わった」
「120人……ゼルブって全員で何人?」
「全員……だと、五千人ぐらい」
五千人??? ナニ、その大部族。
それでなんで、奴隷扱いされてたの??
「各地に密偵として入っている。人を集める店や、高官、高官の妾、色々いる」
とんでもないのを味方にしたんじゃないの? これは。
「それだけ実力があったら、幾らでも独立できたでしょ? 四百年ぐらい前に、一気に各地が独立したって……あ、その時にはいなかった?」
「その時に、留枝の王と、当時のお頭が契約をして、留枝の下につくことになった。キラ・シが留枝の王族を全部殺して下さった、ようやく契約が終わった」
とんでもタイミングだな。しかもそれ、サル・シュくんが一存でやったんだよね。『だからサル・シュだ』って、本当にそうだわ。
「息子は、サル・シュ様が自分に気付いていることを、まったく気付かなかった、と言ってた。
隙を見せられたことすらわからず、そこに突っ込んでとらえられた。関節を外して、縄を抜けたら、後ろにサル・シュ様が笑って立っていて、気がついたらグルグル巻きになっていた、と」
密偵に気配消すので勝つとか、またチート発見、だわ。『隠密』なのかな?
「息子が、今、ゼルブで一番、優れている」
「サル・シュくん、今、キラ・シで四位だよね?」
「そう、それが、恐ろしい。まだ強い人が3人もいるキラ・シは、恐ろしい。
恐ろしいのに、優しい。
制圧した我等を、同等に扱ってくれる。とても嬉しい」
「キラ・シは、強さで順列はあるけど、みんな対等なんだって」
「血筋は?」
「強い人が一番。ガリさんも、誰かに負ければ、負かした人が族長」
何度も、サギさんが頷いた。
「ゼルブの民が族長になることも、可能?」
「聞いてみないとわからないけど、あるんじゃない? 強ければ。
その代わり、キラ・シを強くすること、が族長の使命だよ?」
「もちろんっ!」
それで、と、サギさんが身を乗り出してきた。
「ハルナ様がよく言っている、子を戦士として育てる、というの、我等以外にうまくできる民はいない」
マジで?
「ゼルブは既にキラ・シ。
キラ・シを強くすることを厭うものはゼルブにいない」
「ちょっとリョウさんっ、リョウさんっ……いないっ!」
くっっ、今、話を聞いてもらいたいのにっ!
「どうしたハル」
「ショウ・キさんっ!」
「おお、サギ、だっけ? 仲間、すげぇ強い! キラ・シのやつらに元気がわいたぜっ!」
「キラ・シの戦士、元気なかったの?」
「敵が弱すぎる」
ああ……そうね。
「まだ半年先だが、次の勝ち上がりやったら、ゼルブが上位に来るぞ。みんな必死で鍛練始めた。いい時季に新風が来たな」
そっか。『新風』なんだ?
「カチアガリ、とはナニ?」
「族長を決める、部族内の戦だ。殺さない。なるべく怪我させない。だけが掟。勝った奴が族長」
「それにゼルブが参加しても良いの?」
「キラ・シ全員参加だ。
出たくないならかまわねぇが、次の勝ち上がりまで最下位だぜ?
キラ・ガンの元族長が強ぇんだよ。あれはル・マといい勝負するんじゃないか?」
「ル・マちゃんといい勝負って、ショウ・キさんの上?」
「若い奴にはもう勝てねぇなぁ……元々、速くはねぇからな」
「ゼルブはキラ・シ?」
再度、サギさんがショウ・キさんに訪ねる。
「キラ・シだろ。もう、キラ・シとやってるだろ」
「ゼルブが一番勝ったら族長?」
「そうなる。ガリメキアに勝ってみな。来年はお前の息子が族長だ」
「それは無理です。無理です」
お辞儀するように頭を下げ、両手を高くかかげて横に振るサギさん。
笑いながらも、サギさんがル・マちゃんを見た。
サル・シュくんは無理でも、ル・マちゃんには勝てるかも……と思ってる? あ、伝わったらしい。
「俺だって負けねぇぞっ! 父上の子以外生まねぇからなっ!」
カッ、と赤くなったル・マちゃんが走って行って、そこらへんの戦士に切りかかってる。
ああそうか……
サル・シュくんみたいな聞き分けのいい人以外がル・マちゃんの上位に来たら、『命令』で抱かれるかもしれないから、必死でもあるんだ?
サル・シュくんがいる限り、誰もル・マちゃんにちょっかいはかけないと思うけど、心理的には、嫌だよね。
私だって、リョウさん好きになったから気にしてないけど、『最初』は本当にいやだった。
「あの人も怖い。息子、勝てそうにない」
で、ショウ・キさんを見るんだ?
「俺に勝っても、そろそろ自慢じゃねーぞっ! だが、負ける気はない!」
あ。あっちの部屋にサル・シュくんとチヌさんがいる。
壁に立ってる彼にサル・シュくんが壁ドンの体勢でなんか喋ってる。キラキラのスパダリ臭、なんでそこで出してるの?
遠目で見ると本当にいい男だね、サル・シュくんって。近くでいると『美少年』のキラキラが勝ってて、『強い』ってことに気付けないんだわ。
姿勢とか、ポーズがとにかく、芝居がかってかっこいいから、遠目で見ると、ホント、『かっこいい男』なんだよね。いつも、ダンスしてるみたいに軽い足どりだし、たまにクルクル回ってるし。生活全部がミュージカルみたいなんだ、サル・シュくんって。
「サル・シュ様に見つけられたのが、ゼルブの幸運だった」
サギさんが、胸に手を畳んでしみじみ呟く。
「そうだね。留枝軍が適度に強くて良かったね」
「ナゼ?」
「留枝軍が弱かったら、サル・シュくんはイライラしてただろうから、チヌさん、一撃で殺してたと思う」
あの時のサル・シュくんの機嫌のよさったら、なんか好き勝手やったんだろうな。レイ・カさんも大変だっただろうに。
「運……という言葉を、最近良く感じる。チヌもゼルブも、運がよかった」
青ざめたサギさんが、何度も頷いた。
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