【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。10 ~それ、鞘じゃない~

 

 

 

 

 掛け流しだから大丈夫と思ったけど………………凄い、汚れがっ………お湯が一瞬で黒くなった! ………虫までっ! 虫!? 今までついてたのっ! それに私抱きついてたのっ!

 これ、絶対リョウさんもいるよねっ! 絶対に、今日中にお風呂入ってもらわないと……

 マキメイさんを見たら、彼女も噛みしめてうなずいた。こういうツーカーはありがたい。

「ゴメンっ、マキメイさんっ! くみ出してくみ出してっ!」

 桶で汚れたお湯を外にかきだす。

「……ハル………………」

「ナニしてんのル・マちゃんっ! 早くそれ脱いでっ! もっとお湯が汚れるでしょっ! 脱いでっ! もう濡れたんだから、着てても仕方ないでしょ! そのまま乾かしたら、体の中にカビ生えるよ!! 股間からキノコ生えるよっ!」

「……お…………おお……………………」

 ル・マちゃんがあわててベルト解いた。

 ぴらーっと、毛皮がお湯に浮いていく。え? それ服じゃないの? なんか、動物から取った毛皮、長く切って、そのまま巻き付けてたんだ? そりゃ、脱ぐのも着るのも面倒だわ…………

「マキメイさん…………キラ・シ全員分の服、ある?」

「もちろん、お風呂に入っていただくのですから、揃えてあります!」

 さすが、女官長! ル・マちゃんからはがれた毛皮を、女官さん達がつまんで籠に入れてる。袋を幾つもぶら下げたベルトはそこに吊ってあるけど、毛皮は持って行ってしまった。あれは、捨てる気だな。

 掛け流しも、あふれる量が多いから、思ったほど汚れがお湯に残らなくて助かった!! あー、びっくりした。あんな黒くなるなんて!

「このかた、髪はものすごくお美しいですね!」

 マキメイさんがル・マちゃんの髪を洗って驚いてる。

「ナニしてるっ触るなよっ」

「ル・マちゃんの髪が凄く綺麗だ、って」

「だろうっ! 父上の櫛をいつも通してるからな!」

 暴れ掛けたル・マちゃんが女官さん達を見上げる。

 全員が、髪の綺麗さに驚いているのがわかったらしく、自慢げで、おとなしくなった。

 さっき、私がされたのは見てたから、体をマッサージされるのも黙ってされてくれてた。良かった……ここで暴れられなくて。

「ね? ル・マちゃん、気持ちいいでしょ?」

「うん」

 ほっこり笑う美少女! かわいーっ!

 なんか、凄く大きな白い花が流れてきた。いいかおりー…………あ、花びら、入れてくれてるんだ。花びら風呂なんて、現代でも入ったことないよー。贅沢ーっ!!

「あー………………天国…………」

 お湯、白くて牛乳風呂みたい。肩まで浸かると胸も見えないし、恥ずかしさ半減で良かった。

 あ、手も、凄いすべすべになってる!

 自分の頬を撫でてヒャッてなった。気持ち良すぎる。

「ル・マちゃん、自分の手で、頬撫でてみて?」

「ひゃっ!」

 ル・マちゃんが、自分の顔を手で押さえてうっとりしてる。

「ね? 気持ちいいでしょ?」

 コクコクうなずくル・マちゃん、かわいい。

「俺の手がこんななるんだ? ハルの手みたいっ! 凄いっ!」

「お風呂入ると、そうなるんだよ」

「へー…………オフロねー……へー…………やっぱハルのほうがツルツルしてるな」

 自分の頬を撫でて私の頬を撫でる。そりゃ、手入れの時間が違うから……

「ル・マちゃんも、毎日お風呂入ってると、一年後には私ぐらいになるよ」

 多分。

「毎日かー…………」

 自分の体さすって、その気持ちよさに満足そう。

「それでね、キラ・シ全員に入ってもらいたいのよ」

「無理だ。みんな、毛皮を脱ぎたがらない」

 にふにふしてるけど、相変わらず一刀両断。

「でも、ル・マちゃんは気持ちいいでしょ? 他の人も、入ったら気持ちいいと思わない?」

「…………気持ちいいとか、変なことをするの、みんな嫌がるからな……」

「気持ちいいのが変なこと?」

「裸で熱い水に浸かって気持ちいいとか、『変なこと』だろ?」

「……大陸では普通だよ?」

「俺たちはキラ・シだぞ?」

「でも、大陸に降りてきたんでしょ? 大陸の気持ちいいのは、味わえばいいんじゃないの?」

 腑に落ちてない顔してるな。なんだろう。どこが落とし所だろうか? とにかく、『お風呂に入る』ことを日常化してほしい。

「とりあえず、サル・シュくんをここに落としてみない?」

「サールシュッ!」

 それはOKなんだ?

 多分『入ってもらう』じゃなく『落とす』っていういたずらの方に反応したんだろうな。ル・マちゃんはこっち系での説得が聞くのね。多分、サル・シュくんもだな。

「あれ? あいつどこいった? サールシュッ!」

「ここーにいるーっ! ル・マー!」

 お風呂のドアをドンドン叩いてるサル・シュくん。ああそうか、私達女が入ってるから、男の彼は締め出されたんだ。こっちからも、女官さんが三人がかりでめっちゃドア押さえてる。

 マキメイさんに彼を入れてもらった。

 どうにかサル・シュくんをお風呂に突き飛ばそうと思ったけど……

「サル・シュくん、お風呂、水があるから刀、おいてきて?」

「なんで?」

「なんでって……錆びるよ…………あれ? ル・マちゃん、刀は?」

「ここにある」

 お湯の中からザバーッって、鞘ごと刀っ………………

「錆びるよっ!」

「こんなすぐ錆びない。刀持ってないと危ないだろ。敵地だぞ、ここ」

『敵地』であることは理解してるんだ? こんなのんびりしてるのに。

「なにこれっ! ル・マ、毛皮は?」

 聞きながら、壁に掛かってるル・マちゃんのベルト見て、サル・シュくんはとっとと脱いだ。入る気マンマン。良かった、突き飛ばすとかしなくて済む。

 あ……落ちた毛皮から凄いにおいが………………私らお風呂入ってるから位置が下でにおわなかったんだ?

 というか、サル・シュくんも、鞘ごと刀持ったまま入ろうとしてる。戦時の子供って凄いなぁ…………

「ル・マちゃんっ! サル・シュくんにお湯を掛けて!」

 そのまま入りそうだったから、かけ湯『させてあげた』。

 女官さん達もすっっっごい勢いで掛けてる。

「ナニっ! ナニナニッ! ゲホッっっ……ぐぁっ、ちょっ、やめっ…………鼻イテェッ!」

 サル・シュくん、楽しそう。

 実はル・マちゃんも、すっっっごい、垢が浮いてるんだよ。あんなに洗ったのに。そうだよね。多分、生まれてから一度もお風呂入ってないんだよね。10分入ったぐらいじゃ垢浮かないよね。

 私、ル・マちゃん、サル・シュくん、の順で並んで、体洗ってもらってる。ういーって、サル・シュくん、気持ち良さそう。

 私は寒くなってきたから、真ん中に。

「どこいく、ハル」

「真ん中のほうが熱いんだって。私、熱めが好きなんだ」

 お風呂で平泳ぎ! 気持ちいーっ!

 ここらへんで42度ぐらいだな。汗が一気に出てきた。なんかここ最近の全部が吹き出してるみたいで気持ちいいっ! 気持ちイイッッ! お風呂、イイイッ!

 まったりしてたら、サル・シュくんとル・マちゃんがお湯の中走ってきた。

「あ、そっち熱いよ!」

 私を通りすぎて行ったから叫んだら、言い終わる前に入り口近くまで走って戻った。マキメイさんが水桶出してくれたらしくて、そこに手を突っ込んでるサル・シュくん。彼の方が源泉の口に近かったから、そりゃ熱かっただろうな。というか、マキメイさんさすが。手筈良すぎ。

 ル・マちゃんが、すいーと……ゆっくり私のそばに来た。

「おー…………ここらへん、熱くていいな」

「でしょー? 女の子はね、体冷やしちゃいけないんだよ。ゆっくりあったまろう」

「体を冷やす? リョウ・カたちもいつも言ってるな。女は冷やすなって。ハルも言うんだ?」

 それってどういう意味だろう?

「冷えると、おなか痛くならない?」

「なる」

「お風呂で温まると、痛いのなくなるんだよ」

「そうなんだっ? でも、こんなの持ち歩けない」

 お風呂を持ち歩く!

「現代にはカイロがあったけど………ここだと温石になるのかな?」

「オンジャク?」

「石を、熱くして抱えるの、とか、しない?」

「ああ、熱石な」

「アツイシ、なんだ? どんなの?」

「囲炉裏にくべておいた石を毛皮で包んで抱いて寝る」

「そうそう、それ。私は腰から冷えるから、腰を温めるとすごくラクになる」

「へー……」

「……そこ、熱いだろ」

 サル・シュくんが、そろりと近づいてきたけど、ものすごい赤い顔してる。ル・マちゃんよりのぼせやすいみたい。まぁ、さっき、熱湯に突っ込んだしね。

「これぐらいがいいぞ」

「ホントに? 俺、ここでもつらい……」

 でも、ル・マちゃんのそばにいたいから必死でこっち来るサル・シュくん。健気だなぁ。

 というか、サル・シュくん………………汚れを落としたら、本当に真珠の肌になってる!! 白いっ! 私のお父さんより白い!! あれでも、泥汚れで黒くなってたんだ? しかも、肌、凄い綺麗!! ニキビとか出ないんだろうか?

 でも、言わない方がいいよね。白いのやなんだもんね。

「サル・シュ、白いなーっ」

 もちろん、ル・マちゃんが遠慮するはずなかった……

「うるせーよっ!」

「ほらっ、こんな白いっ!」

 って、ル・マちゃんが、くるっと体勢を変えた。サル・シュくんの胸に自分の背中を重ねる漢字で、彼の右手を持ち上げて、自分の右手と並べる。

 彼が目、見開いてル・マちゃん見た。

 ナニ驚いて…………って、あっ! この体勢は、ル・マちゃん、お湯の中でサル・シュくんの膝またいで座ってる!!

 いつもの、あの毛皮ズボン履いてる時の癖だっ! 生身でそれしたら駄目でしょ! どう考えても…………サル・シュくんがもっと真っ赤になった。だって、サル・シュくんは子供がいるんだから、知ってるんだよ! そうだよっ!

「ちょっと……ル・マ…………」

「……サル・シュ、どこで刀持って…………」

 サル・シュくんの右手に並べてたル・マちゃんの手がお湯の中に消えて、サル・シュくんがビクンッ、と一回だけ跳ねた。

「あれ? 鞘、こんな細い?」

 やめたげて、ル・マちゃん…………それ、鞘じゃない……っ!

 頬を膨らせて一人我慢大会してたサル・シュくんがぷしゅっ、と息を吐いた。

「あれ? なくなった?」

「ル・マちゃんっ!」

 私がル・マちゃんを引き寄せるのと、サル・シュくんが入り口に駆け上がるのが同時。女官さん達に布で拭かれながら出て行くサル・シュくん。そりゃつらいよねー。それでも、刀持ってるの、やっぱり凄い。

「なんだよあいつー……どこででも暴れやがってっ!」

 私が説明した方がいい? 私だって言いたくないんだけど……放置していい?

 あ、サル・シュくんが戻ってきた。ドアを自分で閉めて、こっち側でゼイゼイ言ってる。

「キラ・シがすげぇくさい!」

 青ざめたサル・シュくんが、この世の地獄みたいな顔で叫んだ。

 やっと気付いたか……

 

 

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