【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。11 ~タイヤだよ~

 

 

 

 

  

 

 あのあと、ル・マちゃんもお風呂から出て、ドアを開けた瞬間、閉じた。

「ナニあのにおい」

 だよねー。ここは花の香りすごいからね。余計感じるよね。

「すごいでしょ? 私、最初にリョウさんに会った時に、人影よりにおいで気付いたもん」

「え? 俺もあんなくさかったの?」

 ル・マちゃんとサル・シュくんの声が重なった。仲いーねー、ホントに。

「うん。キラ・シ全員くさいよ。ものすごいくさいよ。ものすっっっっっっっごい、くさい」

「なんで今、クサイって分かったんだ?」

「自分がくさくなくなったから」

「どういうこと?」

「お風呂に入って汚れを落としたから、サル・シュくんとル・マちゃんはくさくなくなったの。

 前は、二人とも臭かったから、自分と同じ臭いのキラ・シをクサイと思わなかったんだよ。

 今は、汚れを落として、クサくなくなったから、違う臭いになったキラ・シをクサイと思うの」

 サル・シュくんとル・マちゃんが顔を見合わせて、私を見る。

「だからね、リョウさんにも入ってもらいたいのよ。そして、あのクサさに気付いて、キラ・シ全員入ってもらいたいの」

「そりゃ…………これは、消さなきゃ、ダメだろ」

「大陸のやつ、全部こんなにおいしないの?」

「しないよ」

「山では誰がくさいなんて思ったことなかった! 他の部族もっ!」

「うん、みんなくさかったんだろうね」

「気配消したって、ばれるよな?」

 ああ、そっちが問題なんだ? そっか……そっか! それでリョウさんを口説けばいいんだっ!

「そうだよっ! どれだけ気配消したって、においでばれるよ! 大陸の人達はみんなお風呂入ってるから、くさくないんだからっ!」

 それからは、早かった。二人がリョウさんをお風呂に突き飛ばしたんだ。

 一回ではふんばられてしまったから、ル・マちゃんがリョウさんの足を両方抱きしめて、それに気を取られたリョウさんに、サル・シュくんが体当たりした。

 リョウさん的には、サル・シュくんに体当たりされたより、ル・マちゃんに全裸で足を持たれた方が響いた感じしたな。でも、その瞬間に腰から刀、鞘ごと抜いて、つからないよう上げてた。凄い。

 だよね。普通、刀、沈めないよね。

 私は、42度の辺りで、のんびり眺めてる。こっちから向こうにお湯が流れるから、汚れ来ない。キレイキレイ。

 まー……リョウさんの周りのお湯の汚れ方、ひどかったわ。女官さん達が悲鳴上げてた。そりゃ、何十年入ってないんだろうから。

「とにかくっ、ル・マっ! 裸でうろつくなっ!」

 落とされた恨み言より、リョウさんはそっちが先だった。ちゃんと、顔を背けてる。刀を入り口に向けてる。そりゃ、族長の娘さんが裸でうろうろしてたら困るよね。

「ル・マちゃん、おいでっ!」

 私が呼んだら、まるでシェパードが飼い主にじゃれるみたいにル・マちゃんがお風呂に飛び込んでそばまで駆けてきた。両手を挙げて、まるで子供。胸は私より小さいな。って、私も底上げしてCだけどさ……15才って言ってたっけ? 私が17だから…………そのうち追い越されたりして……

 でも、リョウさんがすぐ上がりそうだったから、今度は私が駆けつけた。腕に抱きついてお湯の中に引き止める。その間に、女官さん達に洗ってもらった。どうせ、もうちょっと浸かってないと、全部の垢は浮かないよ。いや……一日浸かっててもむりかな。毎日入ってもらいたい。

「リョウさんも髪綺麗って、女官さんたちが驚いてるよ」

 本当に驚いてる。いやそうだったリョウさんが、ちょっと自慢げに顎をそびやかしてじっとした。髪を褒められるのって好きなんだ? これ、キラ・シの弱点じゃない?

 サル・シュくんは、真っ赤にのぼせて、お風呂から出てる。壁にへたって座り込んでた。左手にはちゃんと刀持ってる。ル・マちゃんは私の隣で一緒にリョウさんの手をマッサージしてる。たまに私の頬を触る。

「ハルってこんなことしてるから、こんなツルツルなのか?」

「そうだよ。ル・マちゃんも毎日お風呂入ってたらこうなるよ」

「毎日!」

「リョウさんも、気持ちいいでしょ?」

「…………女ばかりだから暴れられんだけだ………………出たい」

「だめだよっ! 全部洗ってっ!」

 もっと腕を抱きしめたら、リョウさんがあっち向いちゃう。なぜ?

「ハル……乳を押しつけるな。ここで抱かれたいのか?」

「……ごめんなさいっ!」

「謝ることではないが…………」

 私が手を放した瞬間、女官さんたちもパッと手を離したから、リョウさんがすさっとお湯から抜け出した。早いっ! 照れたんじゃなくて、出る隙を狙ってたんじゃないのかあれはっ!

 女官さん達にシルクのバスタオルみたいなのを掛けられてさすられて、それごとリョウさんがドアを開けたらくしゃみした。サル・シュくんとル・マちゃんがクスクス笑ってる。

「そのくさいの、キラ・シのにおいだぜ? リョウ叔父」

「これが?」

 リョウさんも、咄嗟にドア閉めた。そして、自分の手を嗅ぐ。

「リョウさん、まだくさいよ」

「大陸のやつら、においしないんだって」

「それで潜んでも、においで見つかるぜ?」

 二人に『戦の弱点』をつかれたからか、黙ってリョウさんがお湯の中に戻ってきた。かわいい。

「サル・シュ。全員、交代で入らせろ」

「おうっ!」

「やったっ!」

 思わず手を打ち鳴らした私を、リョウさんがそっと見た。

「最初、体をよけていたのは、怖かったのではなくて、くさかったからか?」

 凄いな、リョウさん。あの時のことをちゃんと覚えてるんだ?

「うん…………リョウさんが出てくる前に、においで気付いたから……」

「においでっ? そこまでだったか?」

「凄かったよ。自然しかないところであんなにおいさせたら、誰かいる、って私でもわかったよ。リョウさんが私だったら、においに気付いて、近づいてきたキラ・シを殺せてたと思うよ。私が強かったら、におい感じた時点で隠れるし」

 反射神経にぶいから、なんだこれ、と思っても動けなかった間に、刀突きつけられたんだし。

「一年ここにいたのに、気付かなかったの? まわりの人は気付いたでしょ!」

 ああ、でも『お風呂』なんてのに入ってるのは王族だけかもしれない。なんか、汚い河があったよね。黄土色の、まさしく黄河みたいな河。

 でも、とにかく…………キラ・シが全員お風呂に入ってくれて、くさいのなくなったっ! まー、あれこそ阿鼻叫喚だったけど。リョウさんとサル・シュくんとル・マちゃんが音頭とってるから、誰も逆らわなかった。

「良かったー。マキメイさんっ! 協力してくれてありがとうっ!」

「こちらこそっ! 助かりましたっ! 鼻が曲がるかと思いましたからっ!」

 一人入らせたら、その人が大広間に戻った時に、においに気付いて、他の人達を連れてきてくれたから早かったんだ。

 においなんてどうでもいいのかと思ってたから、……ホント良かった。

 とりあえず、あの、最大級のにおいからは開放された…………ら、大広間とか、階段とか、キラ・シがいたところ、行き来したところににおいが残ってて、女官さん達が大お掃除大会始めた。

 どうにかリョウさんを説得して、馬も外に出してもらった。みんなでバケツリレーして大広間を掃除してる。キラ・シも手伝ってるのが面白い。

 自分たちが綺麗になってにおいなくなったら、においのあるところで寝てたらにおい移るから、ってことらしい。そりゃそうだけど、だからって、ちゃんと掃除も手伝ってくれるとか。言い旦那さんだなー。

「みんなお掃除うまいねー」

「そうじ?」

 サル・シュくんが、自分の子供あやしながら聞いてくる。

「掃除、してるでしょ?」

「そうじってナニ?」

 そこからかっ!

 竪穴式住居、掃除しないの?

「家の中、綺麗にするでしょ?」

 首傾げるのはなぜ?

「ゴミはどうしてたの?」

「ごみってナニ?」

 ソコ?

「えっ? 食べたあとのものとか、使わなくなったものとか」

「骨は囲炉裏に入れる。使わなくなったものって………………刀は打ち直すし……」

「服は?」

「ふく?」

 それも?

「来てた毛皮」

 今、全員全裸。お風呂上がって汗ダラダラかいてるから仕方ないのかもしれないけど、目のやり場に困る……とか思ってたの、一瞬だった。

 こうやって、恥じらいとかなくなっていくんだなー。

 まぁ、みんなでかいわ。お父さんのよりよっぽどでかいわ。

「あ、そうだ。ル・マちゃんそろそろ起きるかも。というか、そのまま寝かせてあげた方がいいよね」

 のぼせてお風呂の脇で、全裸で寝てたのを、三階の部屋のベッドに移したんだ。

 サル・シュくんはまだ意識あるうちにのぼせを解消しようとしてた。だから、他の男の人達にも、「眠くなる前に出ろ」って言ってくれてたんだ。それはリョウさんも。

 お風呂で失神することの心配だと思ってたけど、違った。

「交代で寝ずの番をするのに、ここで寝てどうするっ!」

 ってリョウさんがたまに怒鳴ってたんだ。

 そっか。交替制で見張りするんだ。

「ハルももう寝ろ。ル・マのいるあのヘヤでな」

 まだ全然眠たくはないけど、うん。おやすみなさい。

 部屋の両脇に小さい子が歩哨で立ってる。私を見あげてニコッて笑ってくれるの、かわいい。もちろん、お城の前にも歩哨が五人居る。出入り口全部確認して、配置されてた。人間が入れるような窓も全部! 最上階も、遺体を全部落としちゃったから、女官さんが必死で掃除してる。敷石を剥がないとどうしようもない感じらしい。あの窓にももちろん、一人立ってる。

 そりゃ、あそこからガリさん入ってきたもんな……警戒するよね。本当に、化け物部族。

 お風呂に入る前に、私とリョウさんで全部屋確認したんだ。『どこが通路』なのか『ドア』なのか、リョウさんは完璧にわかったみたい。納戸とか開けるたびに最初はリョウさんびっくりしてた。

「さぁ、この部屋には『扉』が幾つあるでしょう?」

 とかクイズにしたら、10部屋見たころには全正解するようになったし、覚え早いわ。というか、『ドアがわからない』ほうが私には分からなかったけど。

 上の方の部屋ほど、『エライヒト』の部屋になるから、いろんな飾り物があって、混乱はしてたな。キラ・シには『飾り』って言葉がそもそもないみたいで、説明が大変だった。

 サル・シュくんとかル・マちゃんとか、飾りたいさかりだろうに。

 彼とか、リョウさんとか、もちろんガリさんも、牙のネックレスはしてて、髪はなんか玉がついてるけど、それだけ。

 毛皮は色落ちして黒いし、指輪とか耳飾りとかは一切ない。

 あ、頭の三つ編みの上に簪が何本か刺さってるな。でも『飾り』っぽくないんだよね。

 サル・シュくんがその簪で弓きり式の火を出してたから、なんかの『道具』なんだと思う。

 部族の中に一人ぐらい、じゃらじゃら飾り物つけてる人が居そうなのにね。赤い鳥の羽とか。誰も飾ってない。

『あの部屋』とかいいながら、ちゃんとリョウさんが私を『あの部屋』まで連れてきてくれる。

 マキメイさんが用意してくれた部屋はキングサイズベッド!! マジでっ!

 ル・マちゃん大の字。しかも全裸。でも、全然狭くない!

 私は寝間着みたいな薄いワンピースをマキメイさんから貰った。毛布を二枚掛けて丁度いいぐらいの室温だけど、ル・マちゃん大丈夫かな?

 一応、毛布を二枚、掛けてみたら即効で蹴り飛ばされた。仕方ないので、ベッドの上に畳んでおいておく。

 夜中に、私がル・マちゃんに毛布二枚とも取られてた。寒くて目が覚めちゃった。畳んでたのを巻いて寝る。

 ル・マちゃんが抱きついてきてくれて、あったかかった。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 トイレ行きたい…………うん? 固い。

 なんか固いものに抱きついてる私。ベッドヘッドでも抱いてる?

 じょりって…………

 目を開けたら、見ちゃいけないものだと気付かずにじっと見ちゃった…………リョウさんっ! リョウさんの足に抱きついてた私! 全裸のリョウさんっ! なんで全裸!

 ………………うわぁ、それ、タイヤだよ、もう……

 

 

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