【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。9 ~皇帝陛下の眼球~

 

 

 

 

  

 

  

 

 ル・マちゃんが、最上階から死体を投げ落としてた。

 岩にぶつかって砕けたのが飛び散って、眼球が私の肩口を飛んで行った。

 なぜ、こんなときだけ私の動体視力がんばるのよ! 見えなくて良かったのに! 今のナニ? で済めば良かったのに!

 凄く綺麗な青い目だった。

 赤ちゃんが、皇帝と同じ金髪碧眼だ、って言ってた。

 皇帝の目だ。

 皇帝陛下の眼球だっ!

「ハル! 口を開けろ! 今は叫んでいいからっ!」

 だって、叫んだらガリさんに舌を抜かれるっ! 足を切り落とされるっ! キラ・シが不利になる!

 約束したもんっ! もう叫ばないってっ! 約束したもんっ!

「ハル! 目を開けろっ! 悪い夢を見ただけだ! 起き上がれっ! 目を覚ませ!」

 ル・マちゃんの声?

「ハル、夢だ。悪い夢だ。ほら、はっきりしたな?」

 ル・マちゃんが私の目の前で、パンッ、て柏手。

「ハルナ様がお目覚めになりました!」

 女の人の声がする。女官さんだ。

「ハルナ様……あの、お風呂の用意ができています。いかがですか?」

 マキメイさんがこそっと私に耳打ちしてきた。

 すごい私、寝汗でびしょびしょ!

「えっ! お風呂っ! あるのっ! 入りたいっ!! ル・マちゃんっ一緒に入ろう!」

「なんだそれっ! うぉっ、なんでハルっ、そんな力強いっ……っ!」

 私がお風呂入ったら、ぜっっったい、ル・マちゃんくさいっ! 一緒に入らないと、私が地獄じゃないのっ!

 なぜ、私がル・マちゃんを連れて行けるのかと思ったら、反対側の腕、マキメイさんが持ってた。

「マキメイさん。キラ・シ全員、お風呂に入ってもらうよ」

「任せてください!」

「サル・シュ、助けろーっ! リョウ・カーっ!」

「助けろって言われたって、女ばっかり…………どうしろと……」

 サル・シュくん、刀までしまって、両手を肩の位置まであげて、アメリカンに笑ってる。

 お城の入り口はキラ・シが固めてるから、気を抜いてるみたい。お城全部見たしね。

「ハルがすることなんて、痛いことじゃないだろ」

 ル・マちゃんを囲んでる女官さんたちと私のそばを、サル・シュくんは馬を下りてついてきた。リョウさんがお目付役によこしたみたい。

「リョウ・カーっ!」

「ハルがやるなら女のことだ。おとなしくされてろ、ル・マ」

 私、なんか凄い、信用高い? ここでル・マちゃんつれて逃走とか、全然考えてないのね。まぁ、しないけど。

「マキメイさん。お湯、ぬるめにしてきて。熱いと絶対ル・マちゃんじっとしてないから」

「ぬるめてあります。大丈夫です! 大陸にもお風呂に入らない部族がいるので、こうなるのはわかってます! 任せてくださいっ、絶対に、全員お風呂に入っていただきます!」

 おー、なんかツーカーだ。

「ル・マちゃんに入ってもらって、ル・マちゃんにサル・シュくんを引きずり込んでもらって、サル・シュくんにリョウさんを引きずり込んでもらって、リョウさんに部族全員入るよう命令してもらおう!」

「……そうですねっ! お仲間に誘っていただくのが一番ですね! わかりました!」

 マキメイさんが、女官さんに色々言ってる。

「何言ってんだっ! ハル! その女と何しゃべってる!」

 ル・マちゃんがうるさいので、彼女の顔を私の両手で包んで真正面から見つめた。

 ふわっと撫でてあげると、ル・マちゃんが気持ち良さそうにふにゃっと笑う。

「ハルの手、気持ちいー」

 ル・マちゃんがとまった。よし。

「これからお風呂に入るとね、ル・マちゃんの手も、こうなるんだよ」

「えっ?」

 剣だこのある手でもなるかな。でも、今よりはマシなはず。

「マキメイさん、粗塩ってある?」

「あります。どうされるんですか?」

「あれで肌を軽くマッ……こすると、凄くスベスベになるの」

「えっ? そうなんですか!」

「消毒効果もあるし、キラ・シ全員に使ってもらうから、大量に用意してくれる?」

「そちらも御用意いたしますが、皇太后様がたが使ってらっしゃった、お化粧道具などもございますよ」

「そんな恐れ多いものいらないです…………うわっ!」

「なんだこれっなんだっ!『その世』かっ!」

 マキメイさんに案内されるまま部屋の奥に入ったら、すっごいムシっとして蒸気!

 10メートルぐらいのプールが…………これ、全部お湯!? 源泉掛け流しっ! 大江戸温泉村みたいなでっっかいお風呂っ!

 女官さん達いっぱいで、裸になるの恥ずかしいけど、もうっ、なんか、早く入りたいっ!

「桶は?」

「こちらにっ!」

 自分でも驚く速さで服を脱いで、渡された桶でお湯を掬う。白い。なんだっけ? 湯の花がいっぱいなんだよね。お風呂がでこぼこと白いと思ったら、湯の花が固まってこうなってるんだ?

 あ、ホント、ぬるい。ちょっとぬめっとした塩辛い泉質だ。なんだっけ? ナトリウム泉? これは、粗塩でこすらなくてもツルツルになりそう。

「もうちょっと熱くならない?」

 ぬるくしてって言ったの私だけど、これは体温よりぬるい。寒いよね、きっと。

「あちらの隅から源泉が出ていますので、中程が丁度良いですよ。あちらの端は熱湯ですので気をつけてください!」

 ああそうか。こんな大きなお風呂だから、熱湯流し込んでもこっちはこんなぬるくなるのか!

 キラ・シにつかまって一カ月ぐらい? まさかこんな豪華なお風呂に入れるとは…………神様ありがとうございます!

 お風呂の脇で、お湯に入らないように頭にお湯を掛けてこする。

「頭を洗う……洗剤………………えっと……なんかある?」

「ぬかでしたら」

 ぬかと塩とどちらがいいだろう……?

 あっ! 薄物を着た女官さんがお風呂に入って、私の背中流してくれてるっ! 気持ちいいっ……というか、人に洗ってもらうの、気持ちいい…………

「ル・マちゃんもおいでよ。気持ちいいよー」

「なんでそれが気持ちいいんだよっ!」

「やってみればわかる」

「やだ」

 肌をなんか粉でマッサージしてもらったら、すんごいサラツヤになったっ! その手でル・マちゃんの頬をするりんと撫でたら、ル・マちゃんがハウッ……って息を吸い込むように驚いて、ふにゃっと笑う。

「ね? 気持ちいいでしょ? ル・マちゃんの手も、こうなるんだよ。おいでよ」

「毛皮、脱ぐのも着るのも面倒なんだぞっ」

 私が手をお風呂のうちがわに持っていくと、ル・マちゃんも顔をふわーっと寄せてくる。バランスが崩れた当たりで手を引っ張ったら、毛皮ごと落ちた。

  

 

  

 

  

 

  

 

 

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