【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。102 ~無口~

 

 

 

 

  

 

「女官さんのご飯は?」

 知らない、って感じで、肩をすくめて見せるサル・シュくん。

 だよね、そこまで面倒見てないよね。見られないよね。

 期待はしてなかったけど……飢え死にしちゃうよね?

「それは、ゼルブが世話をしています。ハルナ様」

 サギさんが言ってくれて安心した。

「キラ・シが入るお城ですから、健常に保っております」

「え? キラ・シが留枝(るし)に移動するって、リョウさんかガリさんが言ってた?」

「あ……申し訳ありません。そういうことではなく、キラ・シが制圧した城ですので、健常に保っております」

 ああ……そういうこと。

 というか、手筈いいなぁ、本当に。本当に!

 制圧した後を頼めるって、凄くいいっ!

 まぁ、サル・シュくんの特攻が成功したのは、留枝から抜けたかったゼルブが協力してくれたんだろうな。

 本当なら、窓から矢を射ようとしたサル・シュくんとゼルブが戦ってる筈だよね? だって、彼ら、天井を走れるんだもの。屋根に出たサル・シュくんを囲んで落とそうとしてるはずだよね?

 12人、本当に死んだ?

「サル・シュくんお城の中で10人ぐらい殺した?」

「『刀折り』以外に、倍以上、殺った筈」

 そっか……それがゼルブかどうかは、もう、わかんないもんな。

 サギさんが、ニコッて、私に笑う。

「サギさん、ガリさんの帰還はいつごろ?」

「四日後ぐらいでしょうか?」

「リョウさん、ガリさんを迎えにいかない?」

 リョウさんの腕を抱いて玄関からエントランスに連れ出した。サギさんはお城の中に残ってる。

「ゼルブは、キラ・シが弱くなったら、キラ・シを裏切るよ。信用する?」

 耳を噛むぐらい近くでささやいた。さすがにゼルブにも聞こえないよね。

「ゼルブがいる限り、もうお城の中で内緒話はできないの」

 リョウさんが辺りを見回した。十メートル四方誰もいない距離なら、耳元にささやけば大丈夫だけど、三人での話し合いでこの距離はおかしい。

「それは、ガリを迎えに行っても話ができんだろう? ガリにゼルブを見せてからだ」

「ガリさん、まだゼルブを見てないんだ? 車李(しゃき)で会ったのかと思ってた」

「それと、ハルを馬には乗せられん」

 そうか、もう妊娠しちゃってるから……

「布団をいっぱい敷いた牛車でなら、移動しても大丈夫そうだよ?」

「考えておこう」

「車李の近くの方が、大陸全部行きやすいよ」

「あそこは暑いのだろう?」

 それか。

「ヒゲがじゃりじゃりになるし、肌がヒリヒリするし、水が倍いるし、草木がない。あれは人の住むところではない……と、多くの奴が嫌がっている。ガリが行くと言えばいくだろうが……」

 そういえば、車李に移動しちゃったり、川向こうにとっとと行ってしまったりの時と、いつまでも羅季(らき)に残ってるときと、ナニが違うんだろう?

 キラ・シの基本性格は変わってないよね? つまりは、異分子である私がナニカしてるから違う結果になってる、ん、だよね?

 でも、最初の出会いも、リョウさんだったりガリさんだったりだから、そこらへんはランダムなのかな?

 普通ならスムーズに出勤できるけど、靴紐が気になって結び直ししたら電車に乗り遅れて……みたいな、そんな差なのかな?

 最初に川向こうに行ったり、羅季城脱出したりは、結局、あの時のリョウさんが私を抱かなかったから。私が妊娠してなかったから、馬でうろうろできた、っていうのもありそう。

 でも、前は、牛車で移動したしな……どっちもリョウさんの時だったし…………

 あ、私が有用だと、ガリさんが認識した日が早ければ早いほど、移動が遅くなってる? 私が山下りでくたばってたから、動かしちゃいけないと思ってくれたとか?

 でもこれは、確証の取りようがない。

 確かに、回数を重ねるたびに、キラ・シの『本拠地移動』は遅くなってる。だから、前回は、留枝を落とし損ねてゼルブにやられたんだ。

 いや、これは、今考えることじゃないよね?

『次』があると分かったことじゃないんだから。

 もうそんな、何回も死にたくない。

『今』のことだけ考えよう。

『これから』のことだけ考えよう。

『前』もたしかに、キラ・シのみんなは砂漠を嫌がってた。キラ・シの山は豊かだったみたいだし、そんな山の夏は湿度が高いから、砂漠じゃなくても、乾燥地域はつらいよね。川の西は、雨も多いし、湿度高い。あの砂漠の家より、羅季城の方が住みやすいのはわかる。

「なら、砂漠を南に迂回して、緑地だけであっち側まで攻める? …………あ、流れ星っ!」

 いつの間にか夕焼け。

 羅季城は西が山だから、午後はずっと日陰。夕日も東にしか見えない。

「キラ・シでも、流れ星って言う?」

「ああ」

「なにか、流れ星で逸話ある? 私の部族では、流れ星が流れている間に三回願い事を言うと叶う、って言われてるんだよ」

「流れ星は『兆し』だな。直前の会話が正しい、いう、神からの兆しだ」

「……兆し?」

「今だと『砂漠を南に迂回~』だな」

 空が綺麗だから、現代よりこの時代のほうが流れ星はよく見える筈。ずっと見上げてたら一時間に一回ぐらい流れる。

「流れ星、よく出るよね?」

「よく出ているのだろうが、それを人が見ているのかどうかということだろう? そして、その直前の会話を覚えているかどうか、だ」

「覚えてるでしょ」

「今は、喋っているときに星が流れたからな」

「……何時間も喋ってないときに流れ星が出ても、前の会話を覚えてないってこと?」

 たしかに、つまんない会話だと覚えてないよね。

 そっか、男の人って、二人いても喋らなくて平気なんだっけ? 女の人は喋らないと気が済まないからずっと喋ってるけど。

 男ばっかりのキラ・シだと、けっこう静か……?

 静か? 静かか?

 羅季城の玄関フロアはいつも喧騒にあふれてるよね?

「サル・シュでもおらんと、常に喋ってはおらん。あいつも、ル・マがいなければ喋らんしな」

「羅季のお城は凄くうるさいんですけど?」

「鍛練の声もあるし……こんなに、長距離を走って何日も会わないことがあれば、会ったときに話をするからな。山では、毎日会っていたから話すこともなかった。静かだったぞ」

 そっか。

 情報伝達がまず先だし、それはあの玄関の大広間でするから、あそこが騒々しくて、それが上まで階段で響くんだ? そっか。ちょっと騒がれると微妙にハウリングして、上の方の私の部屋まで聞こえるんだよね。

 そう言えば、山下りのたき火は、けっこう静かだった。いたたまれなくなったこともよくあって、ずっと私が喋ってたかも……

「サル・シュくんはよくしゃべるよね?」

「あれとル・マがいると、耳が割れる……ついでにショウ・キが来ると、頭が砕けそうだ」

 ほとほとうんざり、って感じでのリョウさん。

 そうだね、ショウ・キさんもおしゃべりだね。常に喋ってるね。というか、戦士を励ましてるね。

 みんな、相談とかはレイ・カさんに行くけど、遊ぶというか、気を抜いてるときはショウ・キさんと喋ってる。鍛練の時なんかは、ショウ・キさんを数人で囲んだり、よくしてるね。それはレイ・カさんもだけど。

「私、ずっと喋ってるね、ごめんね」

「ハルの声は全然構わん。これだけ側で聞いていても、小鳥のさえずりのようだ。あの三人の声は、キラ・シでも大きいからな。あれで、のべつ幕なしに喋る。ナニをそんなにしゃべることがあるのかと、不思議でならん」

「ガリさんと二人で山の中に居たときも、打ち合わせばっかりじゃないの?」

「あー………………十日に一度も喋ったかな……」

「羅季語の鍛練してたんでしょ?」

「馬を並べることもそうなかったし、二人で別々に探してるから」

「なんで別々なの? 二人で探してたんでしょ?」

「二人で同じ道を探しても意味がない」

 ……そうだね……

「なら、合流したときにしゃべるだけ?」

「首を横に振れば終わりだ」

 男の人って……

「あっちに行くか、コッチに行くかとかは?」

「手で指し示せば済む」

 無口が揃うとそんなことになるのかー……

  

 

  

 

  

 

 

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