【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。103 ~ハンドサイン~

 

 

 

 

  

 

「たしかに、キラ・シってハンドサイン…………じゃなくて、手で、指図すること多いよね」

「二つ向こうの山に声は届かないが、手の動きは見えるからな」

「あー………………そういうことで!」

 というか、二つ向こうの山に合図を送る?

「キラ・シって、よく合図送るよね? 細かいよね?」

「それは、入ってきた奴らにも言われたな。覚えきらんと。特に、指笛がめんどうくさいらしい」

「そう言うときどういうの?」

「なら、死ね」

 ……ごめんなさい……

 どんな顔して言ったのかも想像つくわ。すっごい見下げ果てたような目で言い捨てるんだろうな。

 リョウさんって、『良いと思ったこと』は説明してくれるし、多分、私のことを良いと思ってくれるから、こうやって喋ってくれる。けど、『こいつ駄目だ』と思ったときには無視してるよね、きっと。それか、戦場で後ろから石を射掛けるんだ。

『面倒くさい』って言う時点で、キラ・シでは『変』だから、もう、そういう人ってどうでもいいんだろうな。

 それでいうと、ガリさんも『面倒くさい』から、『最初の時』に車李(しゃき)王城を攻めなかった。サル・シュくんもけっこう『面倒くさい』って言うけど、実際、キラ・シではしてないことで、しなくてもいいことのときだけ言ってる……かな?

 リョウさんが大事だと思ったことを『面倒くさい』って言ったら、ちゃんとリョウさん、諫めてるし。

 私が『リョウさんの身内がわ』にいるから、優しいと思ってるけど、元々、リョウさんだって容赦ないもんね。

「左手は『来るな』『やめろ』、右手は『来い』『やれ』だ」

 リョウさんが、左手の掌を見せる。

 説明始めたことは最後までしゃべるのもリョウさんの癖。

「掌側が進行方向だ。誰かが前にいて、左手を前に広げれば、『それ以上近づくな』とか『帰れ』だな。列にいて自分が止まるときは、左手を後ろに振る。掌を下にして振ったら、『今していることをやめろ』だ」

「通訳いらないとか、しゃべるのやめろ、とか?」

「そうだな。右手を上げれば待機。指し示した方へ突入、だ」

 羅季(らき)入場の時にそうやってたのは見た。

 ガリさんの指さした方角に、サル・シュくんが特攻したんだ。

「あっち、とか方向を示すときは?」

「弓指(人指し指)と神指(中指)だけを並べて立てる。指示をするときは、指を全部閉じる」

「弓指で指さしていいの?」

「神指を並べると、弓指の呪いが消える」

 なーるほど。

「ガリと山にいて、下に降りる道を探し続けていたときは、中天の時に、待ち合わせ場所に戻る。『こっちは降りられなかった』だと、左手を下にして振るだけだ。羅季語どころか、キラ・シ語も忘れそうだったな」

「日の入りを目印にしたら、夜、たき火を囲んで喋れたでしょう?」

「寝てたかな……あの時……」

「寝てたでしょ」

「馬が寝てる時だけ寝てた、から……

 俺とガリの馬は速さとかが違うから、一緒に動くと遅くなる。ガリの馬は早い分ばてるし、俺の馬は遅いが長く走る。夜を共にすると、合わせるのが面倒臭いな」

 本当に個人主義だね。

 そう言うときも『仲間に合わせて』じゃなく、『馬に合わせて』なんだ?

 確かに、山下りしてたときも、ガリさん先頭で、やたらめったらあちこち行ってたみたい。偵察もやってたんだろうな。それに、水場があったら必ず止まる。馬って、私が思ってたほどは走らないよね。もちろん、人間が行けないところ行けるし、人間が走るより長く走るし、結果的には速いけど。

 馬も動物だもんな。

 走り続ける、なんてこと、できないんだよね。

「普通は、寝るときに危険だから二人で動くんじゃないの?」

「危険?」

 すいませんでした。熊より強いんだもんね。

「毒蛇が来たりとか、しないの?」

「蛇は、じっとしていれば通りすぎていくし、頭を潰せばいい」

 拳でがつん、って感じの振りをする。

 そうですね。

「狼の群れとか」

「それはやっかいだな」

「だよね」

「一人では食べきれん」

 ホント、すいませんでした。

「気配を完全に消すと、見つけられないから、襲われない」

「そうなの? あんなにくさかったのに?」

「獣はもっとくさいぞ」

「そうなの? くさかったら、潜んでてもばれるよね?」

「山で一番くさいものを知ってるか?」

「わかんない」

「腐り切った獣の死骸だ」

「あー………………そうだよね」

「山のいたるところで獣が死んでる。それよりはどの獣もにおいはしない。大体は、そうなる前に食われるが、自然に死んだ動物を食うのはそんなにいないからな。腐ってる」

「…………そっか………………そっか! だから、キラ・シは自分がくさいと思ってなかったんだ?」

「……そうだな。降りてきて、ハルに言われて初めて気づいたことだな。だから今は、とにかくにおいを落とすことをみなやってる」

「うん……あんな綺麗になると思ってなかった」

 もちろん、『現代』の『清潔』からはほど遠いけど、実際、ここら辺の人も水浴びしてるだけだし、ある程度はくさい。石鹸とかないからね。完全ににおいがとれるわけじゃないんだ。

 けど、服とかも一緒懸命洗ってるよ。色落ちって部分じゃなくて、くさくない程度まで、だけだから、血のしみは凄いことになってて、もう白い服を着てる人はいない。アースカラーの茶色のグラデーション。

 普通に服を迷彩にしたよ、キラ・シ。

 血の汚れは、がびがびになるから、なんかバリバリした服になってる人もいる。もむと柔らかくなるから、ってサル・シュくんは濡らしたときに踏んでたな。サル・シュくんの服は、ホント、もう、完全に茶色い。最初からそんな色に染めたみたいな色してる。みんな似たようなものだから、凄い戦いだったんだろうな。それで誰も怪我してないってのが、ホント凄い。

「この馬で探してたの?」

「まさか……前の馬だ。山でなら、もう一頭替えたいところだが、育つかな」

「あ! 馬の子供も育てなきゃいけないんだ?」

「そうだな。まぁ、馬は勝手に増えるから」

「勝手に増えるの?」

「戦士が乗っていないときは好き勝手しているからな」

 そうだ、キラ・シの馬はつないでないんだ。

「部隊が帰還したら、馬が街に走っていかない? 誰かに迷惑掛けてない?」

「馬は山に走るから、好んで街には降りとらんな」

「そうなんだ? 良かった! そういえば、馬を全然お城の周りで見なかったよね」

「今の馬は街を知らんから、食い物が街にあると思ってない。わざとに人里に行く必要がない。ただ、気をつけんと、畑のサクモツを食うから、それは止める」

「どうやって止めるの?」

「やめろ、と」

「言うだけ?」

「そうだな」

 そうですか……

 人間離れしすぎてて、驚くの飽きたよ、もう。

「春とか、馬が荒れててつかまらないんじゃないの?」

「他の村ではよく聞くな。だから、春は戦が少ない」

「キラ・シの馬は来るの?」

「来なければ殺すからな」

 馬までその理論っ!

「来ない馬をどうやって殺すの?」

「山を探し回って、仲間の前で挽き肉にする。戦士のほうが強いと知ってるから、キラ・シの馬は呼べばすぐに来る」

「でも、あの馬って、とんでもないところ走るじゃない? 崖とか、キラ・シは登れるの?」

「登る」

 そうですか。

  

 

  

 

  

 

 

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