【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。104 ~全員集合~

 

 

 

 

  

 

 ……なんでも腕力、というか…………とにかく、全部が全部、『命のやりとり』なんだね……動物にまで脅しが通用するんだ?

 できるできないじゃない、する方法を考えるんだ! って自己啓発本でよく見るけど、本当に、その通り。

「人も獣も強いモノに服従する。獣は人より素直だ」

 ……そうだね。

「あっ……リョウさんっ! キラ・シの子供って幾つから馬に乗るのっ?」

「山だと二才だな……あ……」

「そうだよっ、三年後に四万人子供ができたら、四万頭いるんじゃないの?」

「それは……無理だな」

「だよね?」

「そうか……馬の子か……子供だから小馬でいいとして、それでも、……二年で倍にはならんな」

 うわー、新問題勃発。

 そして、翌日、サギさんににっこり言われるんだ。

「ハルナさま。こちらの馬でよろしければ、今、2000頭でしたら、集まるそうです。それで繁殖いたしましょうか?」

「お願いします」

 エンピツも頼んだし、なんか、本当に凄いなゼルブって。

 一番凄いのは、エンピツ以外は『頼んでない』ってこと。馬のことでも、エントランスで喋ってただけだもん。

 これを『監視』ととるか『話が早くていい』ととるか。

 高級レストランでボーイが立っているのをどう思うか、って話でいいのかな……

 キラ・シの手の届かないところ、全部やってくれる。

 全部任せたら楽になるけど、もう……信用するしかないか……

 子供の養育を任せたら、キラ・シに敵対するようにも育てられるんだよね……絶対、キラ・シでは目が行き届かないから。

 これの判断は、ガリさんに丸投げさせてもらおう。

 数日後に帰国したガリさんは、挨拶もせずに裏口からお風呂に入り、白い服を着て玄関に出てきて、しれっと地図に短冊を追加してた。

「あっ、ガリさんっ! いつのまにっ!」

 って、私が言うまで、誰も気づいてなかったの? ホント?

 隣にいたサナくんがウワッとか三歩逃げた。そっか、ガリさんが白い服着てるってそんな不思議なんだ? サル・シュくんが、階段に逃げ込んで笑ってるのを、ル・マちゃんにおなか踏まれて呻いてた。

「……ゼルブに『黒帝』と言われた。白いのを着たらどうなるのかと」

 ゼルブって羅季(らき)語だけど、そういうの通じるんだ? 選んで黒いのを着てたわけじゃなかったんだ? そして、気にするんだ? 本当に、ガリさんって不思議な部分が素直だな。

「『黒帝』……へぇ……かっこいいじゃない…………凄いカッコイイじゃないっ!!」

「でしょう? 羅季語では『呼び名』は重要ですからっ! ですので、黒い服を御用意いたしました」

 サギさんが、嬉しそうに服を披露した。手っ甲とか臑当てが黒漆の銅だ。

 まぁ、この時代、鎧は着物の下に着るから、鎧の色はあまり問題じゃないけど……これはかっこいいんじゃない?

 ただ、キラ・シは鎧、好きじゃないだろうな。

「こんなの着たら、動けないだろ」

 さっきまであっちで笑いながら呻いていたサル・シュくんが、何食わぬ顔でガリさんより先に服を品定めしてた。特攻隊長、いつも速いね。ホント。

「鎧はお好きではないのですか? 毛皮のほうが良いですか? サル・シュ様には白いのを御用意いたしましたよ!」

 純白っ! サル・シュくんでも鼻白んでる! というか、頭、アップにしてる。盛り盛りのギャルみたい。

「どうせ血で汚れるからこんなのいらない。というか、これ、俺が着たら、夜明けと間違えるぜ。ピカーッてなる」

 自覚してるんだ?

「目立ったら駄目だろ」

「リョウさん……キラ・シで一番目立ってる人がなんか言ってる」

「まぁ、目立ってはいかんな。奇襲が一番だからな」

 そういう意味で目立つな、ってこと?

「じゃあ、迷彩が一番いいの?」

「メイサイ?」

「えっと…………まわりの色に似たまだら模様」

「そうだな。毛皮だと、普通にそうなっていた」

「あぁあ……そうだね」

 そっか、防寒だけじゃないのか、毛皮って。迷彩目的!

「目立つ目立たないに関しては、最近は奇襲と言っても、一瞬で飛び掛かれるような戦ではないから、そんなに誰も気にしてないな」

 山の中では一瞬で飛び掛かって殺すようなことばかりしてたんだ? そりゃ、森が多いとそうなるよね。そして、森の中で毛皮って、最大の迷彩だよね、確かに。ああ、だからキラ・シは、服が汚れることを気にしないんだ? 汚れてる方が迷彩だから。

 たしかに羅季の街でも、パリッと汚れのない服着てると凄く目立つ。本当のお金持ちだけだから、そういうことができるのは。ル・マちゃんも、山登りとかしてるから、服はドロドロで、グレーと茶色の迷彩になってた。

 ショウ・キさんが入ってきて、サル・シュくんとご機嫌にベラベラ喋ってる。その、サル・シュくんの頭から、リョウさんが簪をすっと抜いた。バサッ……と、アップにしていた髪が落ちる。黒い滝みたい。

 簪一本で止まってたんだ!

「ナニすんのっ!」

「変なことをするな」

「暑いんだよ!」

 また簪一本でくるくるって髪をアップにする。

 なんかもう……頬の紋があったとしても、凄い美人のお姉さんにしか見えない。テキトーアップなんだけど、ツヤが凄いのと、長いので、かなり豪華になるんだよね。後れ毛とかがまた瀟洒に見せる見せる。

 サル・シュくんは最近、髪をアップにするようになったんだ。

 砂漠で暑かったのが懲りたみたい。全部の髪をポニーテール。留めてると言っても、キラ・シはゴムとか紐とかで留めてるわけじゃないから、簪だけ。そのままその垂れてるのも頭にくるくるとめつけたら、花魁の大銀杏みたいで凄い迫力。

 羅季(らき)だと女の人の髪形だけど、全然気にしてない。背中涼しいっ! 首が涼しいっ! って、壁になついてる。

 たしかに、まだ暑いけど、もう晩秋だよ。私の感覚だと。

 誰かとすれ違うたびに首をなでられてヒャッてなってる。そりゃ、みんな髪を下ろしてるから、うなじなんて見えないもんね。触りたくなるなる。特にサル・シュくん、白いからめっちゃ目立つ。うなじは顔より白いもん。

 ガリさんまで、またアップにしたサル・シュくんのうなじを触った。サル・シュくんもゲラゲラ笑ってイヤーンって逃げる。ほんとにかわいいな。

 確実に、キラ・シのマスコットではあるよね。

「そうだ、リョウ。今年は例年通り『勝ち上がり』をするぞ。三日後だ」

 サル・シュくんからはがれたガリさんが、リョウさんに右手を上げて見せた。

「三日後っ!」

 リョウさんが目を剥いて叫んだ。まわりのキラ・シも、驚いた後、ガッツポーズ!

「ナニ?『勝ち上がり』って、族長を決めるっていう、アレ?」

 そんなの、『今まで』一度もしたことなかったよ?

 キラ・シの戦士が凄く舞い上がってる。意味が分かってなさそうなのが、他部族なんだろうな。

「サギさん、ゼルブの戦闘部隊、急いで呼んで! 参加しなかったら、一年最下位だよ! 三日後だよっ!」

 彼女は頷いて、城を駆け出て行った。全体連絡は外でするんだ? そっか、戦闘部隊は一緒に帰って来てなかったんだ? そこにゼルブ数十人いるのにな。やっぱり120人いるんだな? そして、全員を紹介してなかったってことだよね? 顔合わせはしたのかな?

 キラ・シも、『全員集合』の指笛が鳴り響いてる。

「リョウさん、今回、400人近くいるけど、これ、総当たり? 勝ち抜け?」

「ナニが聞きたいのかわからんが、勝った奴が負けるまでえんえんとやる」

「えっ? それじゃ疲れて負けない?」

「体力も実力だ」

 そっか……

「俺は、150人抜きだっ!」

 自慢そう。

「ガリさんは?」

「あいつは俺に勝つだけだ」

「……リョウさん………………うまく立ち回ろうよ……」

「つまらんっ!」

 脳筋っ!

  

 

  

 

  

 

 

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