『勝ち上がり』当日。
お城のエントランスに四百人が集まった!
実際に見てると総当たりっぽいけど、見てる人達が誰と誰、ってその場で振り分けて対戦してる。はっきり順位を決めるのは、十位より上だけみたい。二十位に三十人ぐらいいる?
私が私のために、誰が勝ったのか、画板にタンザク刺してるだけだけど、みんなソレ見て頷いてくれてた。ガリさんはもうカタカナ読めるから、その画板の側に立って名前をこっちあっちって教えてくれる。私が書いてる間に、短冊の差し替えまでしてくれた。こういうの、頭いいよね、ガリさん。
普通ならリョウさんがしてくれるんだけど、本人が言っていたように、連戦してる。50人抜きして吠えてるところ。
土俵、じゃないんだけど、一定の範囲から逃げちゃいけないみたいで、そこを戦士が囲ってる。そこにずっといるよ、リョウさん。
220人抜いた! サル・シュくんやレイ・カさんも叩き伏せられてる。ル・マちゃんなんて、ぺいっ、て軽く飛ばされてた。
『勝ち上がり』は殺しちゃいけないから、みんな、自分の刀じゃないんだよね。今は、こっちの銅剣使ってるから、曲がる曲がる。
銅剣ってそりゃ鉄より柔らかいけど、そんな簡単に曲がるようなもんじゃないよ?
リョウさんに刀を刀で叩かれると、手が痺れて放しちゃうみたい。ショウ・キさんはそれをされて、剣を投げ捨てて、取っ組み合いになった。あのでかいショウ・キさんを投げ飛ばしたもんね。それで、剣を拾って、喉元に突きつけて、リョウさんの勝利。
『投げ飛ばす』では終わらないんだ。そのあと『命を取る寸前』までが『勝ち』だから。
ル・マちゃんとかサル・シュくんとか『軽い系』の人は、刀を落とされたあと、首をガッと握られちゃうんだよね。
もうちょっと大きい人だと、地面に首で押し倒される。本気だったら首が折れてるだろうな。それでも死ななかったら、実戦だとおなかに乗り上げるらしい。リョウさんの体重で乗ったら、内臓破裂だよ。
「違う、胸を膝で潰すんだ」
もっと怖いこと言ってた……まぁ、即死させるのがキラ・シの美学だから。
サル・シュくんが、軽いとか白いとか嫌がってたけど。たしかに『剣道の試合』じゃないから、体重も何もかもが武器だよね。
『刀の使い方』じゃなく『生き残った方が勝ち』っていう『勝ち上がり』なんだ。『負けた!』って言うまでやる。
あとはガリさんだけ、になったら、リョウさんが脇に座り込んだ。そして、ル・マちゃんとサル・シュくんとか、サル・シュくんとレイ・カさんとか、『リョウさんに負けた人達』がやってく。この時は、さすがにガリさんも、あの輪に入って行った。側で見たいんだね。
ル・マちゃんとショウ・キさんとか、なんでル・マちゃんが勝てるのと思ってたけど、凄い……ショウ・キさんのおなかに飛び込んで、おなか蹴って跳び上がって、空中から肩車にして、首を固めて刀を喉に突きつけてた。三秒ぐらいで決まった。ショウ・キさんは最初に刀を何回か振り回しただけ。近づかれたら負けることがわかってるからそこは頑張ってた。でもそれだけだった。
そっか、大きい人は中距離で、小さい人のほうが接近戦なんだ? サル・シュくんも、『後ろに回り込んで首を取る』のがお決まり。分かってても、みんな速さについていけない。
サル・シュくんがこっちに歩いてきた。画板の順位見ながら、私の隣にあぐら組む。休むのかな? 土俵では、どんどん下位の人がやりあってる。
連戦やったリョウさんを休ませるためかな?
私は、画板の隣に椅子を置いてもらってるから、ふかふかのそこに座ってるだけ。
「あんな風に戦うんだね、サル・シュくん」
「あんなたるいこと,やるかよ」
「どういうこと?」
「戦は、遠くから矢で、心臓か頭をぶち抜く。接近戦とか最後の最後」
「でも、近くになることはあるでしょ? 留枝(るし)でもそうだったんじゃないの?」
「最後の部屋のは、武器持ってる奴、上から殺したから誰も向かって来なかったし、表の戦士は『刀折り』だし、走ってるときにばらばら向かってくる奴は大体は避けるだけだし、うるさいのは手首切るだけ」
自殺する時に剃刀当てる辺りを、ピッと人指し指で切る真似をする。
「殺さないの?」
「全部殺してたら刀が何本あっても足りねーよ。うっかり骨に当たったら折れるし、刀は、使うだけもろくなるんだから。
敵なんて、向かって来なきゃいいんだし、留枝なら後ろのレイ・カがやってくれるから、奥に走るだけでいい。族長落とせば、他の奴らは刀捨てるし、強けりゃキラ・シになるわけだし、殺さない方がいいだろ」
合理的!
「まぁ……ショウ・キとかレイ・カみたいに、『必ず後ろを殺してくれる奴』が居る時しかできねぇけど」
「前に走ればいいんじゃないの?」
「後ろで争ってるから、すり抜けたときに追って来ない。一人で入ったら出合う奴殺していかないと、後ろから束になって追い駆けられたら、突き当たりで死ぬ」
「『刀折り』で20人殺せるなら、突破できるでしょ?」
「連続では三回も出せない。あれ、凄い疲れるから、やりたくない」
「……ガリさんの『山ざらい』も?」
「そりゃそうだろ。……そっか、ここで出したときは下が岩だったからな…………でも、穴あいてんじゃねぇか?」
「穴?」
「『山ざらい』の時に踏ん張った穴。地面だったら、崩れるぐらいへこむ」
サル・シュくんがそこらへんを指さしたけど、今はキラ・シの足元で全然見えない。
「逆に、下が岩だったからあれだけの威力が出たんだろ。山だと、結構、地面柔らかいからな」
「……そうだよね。あれだけ前に威力あるなら、後ろにも反動来るよね」
それを、ガリさん一人の体で受け止めてるんだもんな。そっか、足元が硬いか柔らかいかで威力変わるのか……そっか!
でも、前、車李(しゃき)で出したときは、ほぼ砂じゃなかったのかな。あそこらへん岩盤が合ったから、固かったのかな? そりゃ、アレだけの塔を削りだせる一枚岩の岩盤だもんね。山の岩より硬そうな印象あるな。
ガリさんの『山ざらい』があそこまで届いたのはそれもあるのかもしれない。
「あれ、腰に来るみたいだぜ」
「そうだろうね……凄いよね、きっと」
「あれ出したあとって、族長、ずっと女乗せてるからっ」
そういう意味……?
「刀は直接敵に当たらないから、痛まないんだけどなー……俺がつらいからヤダ。遊びでやってみたらできたけど、使いたくねぇよな、よっぽどじゃ無いと」
遊びでやってみるのも凄いし、本当に出るのが凄いよ、ホント。
「前に、『勝ち上がり』でガリさんに出したんでしょ?」
「……ほら…………面白いと、見境いなくなるから……俺……」
ニャハッ、って笑った。
かわいさで誤魔化そうとしているな?
「見境い無くなったら、注意もできないから、死にやすくなるよ?」
「分かってる。
けど『殺していい』なら、その方が楽なんだよー」
「勝ち上がりは殺しちゃ駄目でしょ?」
「うん……あの時は、一瞬トンだ。ガリメキア強すぎるから、面白くって…………たまに鍛練の時でも、なりそうになるからリョウ叔父から体当たり食らう」
「それは避けられないの?」
「避けるけど、足つかまれて叩きつけられる」
うわぁ……
足つかむって、跳び上がって避けようとした、ってことだよね?
「リョウ叔父の周りでは、跳んだら死ぬ。地面についてる限りは、方向変えられるけど、跳んだらどうしようもないから。動き読まれて掴まれる。だからって、しゃがんでも意味ないし、後ろに避けたら、結果的にリョウ叔父は働いたことになる」
「ガリさんを助けてるから?」
「そうそう。戦場だと、そこでもう一歩逃げるんだけど、鍛練だと止まっちまうから、横腹蹴られて半日動けなくなるな……」
やっぱり容赦ないよね、リョウさん。
「逃げればいいのに」
「……トンだままならそのまま逃げるけど、『下がった』時点で意識戻るから、その一瞬を取られる」
「戦場でそんなことになったら死んじゃわない?」
「敵相手にはリョウ叔父も止めないし、俺も戻らない」
「そっか……」
「そうそう」
はー……って、サル・シュくんが三角座りの膝に大きな溜め息ついた。
「『勝ち上がり』って面倒なんだぜ? 怪我させちゃいけないから………」
サル・シュくんは勝ち上がりつらそうってリョウさんも言ってたよ。……『最初』のときだったかな。羅季(らき)城の上で。
「リョウ叔父とか、ホント、よくやるよ。あんだけ時間かけてやってて、勝ち抜き200とか、体力おかしいだろ」
たしかに、リョウさん、さっき座ったまま、全然動かない。ただ、勝ち抜き200って言っても、最初の方は、一人二、三秒だった。ル・マちゃんも、周り走ってたけど、リョウさんが動いたのは五秒ぐらいだったし。
「サル・シュくんもできるでしょ?」
「ナニを」
「勝ち抜き」
「しない」
サル・シュくんって、こうだよね。『したくない』じゃなくて『しない』って言う。
カタカナ覚えてみる? とか言ってもこれだった。
『したくないなぁ』って言われたら『覚えた方が便利だよ?』とか説得の糸口があるけど『しない』って言われたら、何も言えない。
「今、一番したいことは?」
「ガリメキア殺したい」
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