【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。122 ~酒~

 

 

 

 

「え? ナニそれ」

「誰がいる? 名前を言え」

「…………リョウさん、ガリさん、サル・シュくん、ル・マちゃん……私…………だよね?」

 ル・マちゃんまで、ガリさんとサル・シュくんの間を見た。

 空っぽの椅子が、ナニ?

「ハル、ここに、レイ・カが、いる」

 サル・シュくんが椅子の背中あたりを叩いた。

「レイ・カさん? 前もガリさんが言ってた、新しい人?」

「ハル……」

 サル・シュくんがナニか言おうとして、リョウさんが右手で顔を覆って俯いた。

「ハル……ハル…………レイ・カが見えてないのか? ハル」

「ル・マちゃんまで、ナニ? 誰もいないで……しょ…………きゃあっ!!」

 体がっ浮いたっ!

「ガリさんっ助けてっガリさんっ! ナニこれっ怖いっこわいよぉっ! 私が浮いてるっ! 宙に浮いてるっ!」

「ハル、レイ・カが今、ハルを抱き上げてるんだっ! 見えないのか? 本当に見えないのか?」

「助けてっ! いやぁっっっ!」

 ガリさんが、抱きしめてくれた。

  

 

  

 

  

 

 【見えないレイ・カ】

 

  

 

  

 

  

 

 ハルナがガリの胸で泣いている間、リョウ・カがレイ・カを部屋から連れ出した。サル・シュもついて出て、レイ・カを覗き込む。

「ナニをした? レイ・カ。ハルにナニをした?」

「何も…………何も、して、ない……」

「何もしてなくてハルがああるわけなかろう」

「わからない…………大体、ハルに触ったこと自体、ほとんどないのに……」

「いつといつだ?」

「最初に連れてきたとき。抱いたとき…………だけ、だ…………子を見に行ったときに、ハルから抱きしめられた。その、三回だけだ。それも、一年も前だぞ? なぜ今さら?」

「ハルって、随分前からレイ・カ見えてなかったぜ?」

「そうなのか? いつから?」

「お前との子が死んだあたりから……かな…………元々お前、ハルに絡まないから、あんまわからなかったけど、帰って来たら『お帰りなさい』って言ってくれるハルが、お前にだけ言わなかったのは、覚えてる。

 子が死んだあとの帰還からだ」

「ああ……それで? ガリメキアから、ハルにナニをしたか、としつこく聞かれてたのか?」

「聞かれてたのかよ」

「何度も。たしかに、そのころからだ」

「だが、たしかに、こいつは城に帰っていることがまずない。ハルにナニカ悪さをしたことはなかろう」

「じゃあ、ハルが勝手に見えなくなったって? レイ・カだけ?」

「子が死んだのがきっかけなんじゃないのか?」

 レイ・カに言われて、リョウ・カとサル・シュは頷くしかない。

「そうだな、ハルは、子が死ぬことをあまり考えてなさそうだった」

「リンが死んだ時も、ル・マ以上に泣いてくれてた」

「葡萄を一つずつ食う女だからな……」

「けど、車李(しゃき)の城を『山ざらい』しろとか、考えもつかない無茶も言うぜ、ハルって。ラキに降りてきてすぐ、ルシを取ってこいとかさ。リンゴもいでこい、って感じだったよな、あれ」

「元々、ハルもわけのわからない女だった。山で会った時も、連れてくるかどうか迷ったし……『変』なのが出ただけだろう」

「部族三位が『見えない』じゃ、困るって話なんだよ、レイ・カ」

 サル・シュが、噛んでふくめるように睨み上げる。それに、リョウ・カも大きなため息を着きながらゆっくりと頷いた。

「たしかに、玄関にお前とハルが居るときに、ハルがお前を無視するのは気持ちが悪いし、戦士たちも不気味がってる」

 レイ・カは、くちびるを何度か噛んで、両手を肩まで挙げて広げて振った。

「ハルが居たら、俺が消えるさ。それでいいだろう?」

 跳ねるように返事をするサル・シュが、レイ・カを見つめたままくちびるを引き結んでいる。

「あのわけのわからない女に、これ以上時間を使いたくない」

「いやレイ・カ、そうじゃねぇって…………先見ができる女にお前が見えないってのは」

「俺の先が長くないということだろう? そんなの、誰も一緒だ。戦をしているのだから」

「……レイ・カ……」

「もういい………………俺の頭がおかしくなりそうだ。たしかにハルの働きは凄い。あの地図も助かっている。俺も、ハルは好きだ。だが、もう、いい」

「ハルはいつも地図の前にいるのに、いつタンザク刺す気だよ」

「夜なら寝ているのだろう?」

 サル・シュとリョウ・カが大きな溜め息をついた。

  

 

  

 

  

 

 【ハルナ】

 

  

 

  

 

  

 

 ガリさんの二人目がもうすぐ生まれる。

 ル・マちゃんもそう。いつも二人で臨月。同じ時期に出産。公園デビューも必要ないし、マキメイさんはいるし、子の世話は誰かがしてくれるし、すごく、楽。

 二時間ごとの授乳とかも、ガリさんがしてくれてるみたいで、私ずっと寝てるし、赤ちゃんが泣いたのを聞いたことがない。みんな、本当にあやすの巧いわ。

 ただ、今回は……違ってた。

 また、流行り病が出た。

 キラ・シがばたばたと、血を吐いて倒れた。

 ナニ? なんの病気?

 あんな頑丈な人達が、立てないって…………血を吐くって……?

 ガリさんは、どこ?

 さっき帰って来て、部屋に上がった? 展望台?

「毒だ」

 サル・シュくんが、私とル・マちゃんを小わきに抱えてお城の玄関へ駆けだした。

「城のものを食うなっ! 飲むな! 生きてるやつは城の外に出ろ!」

 そう叫んだのに、ショウ・キさんも、出てきたのに……ガリさんと、リョウさんが、いない。

「ガリさんっ? ガリさんはっ!」

 キラ・シも10人ぐらいしか、いない。

 最近、車李がワインをたくさんくれて、凄くおいしいからキラ・シはすぐ夢中になった。ガリさんとかも、帰城したらワインを飲んでた。

 リョウさんがいたら、二人で展望台で飲み会やってる。

 今も、ワインを、飲んで……る……?

 展望台には、誰もいない……けど……

 あれ、もしかて…………杯?

 いつも二人がいた展望台の塀の上に、杯が転がって…………落ちた…………!

「あれっ……サル・シュくんっ!」

 彼も、それが見えてたみたい。

 一瞬、泣きそうな顔を、して、た。

 本当に、悲しそうな顔を、した。

 今回は、裏切らない、の?

 サル・シュ君は、関係、ない、の?

「酒だな……」

 出てきた戦士の顔を見て、サル・シュくんが呟く。

『全員集合』の指笛を、何度も吹いた。あちこちで復唱が聞こえる。

「酒に毒を盛られたんだ」

「ああ、俺も、こっちの酒は飲まんからな」

 ショウ・キさんが刀を抜いた。

 サル・シュくんも、私も、ワインどころか、お酒を、飲まない。

 お酒を飲まない人だけが、助かった? 出てきたキラ・シの戦士、みんな…………そう、だ…………

「みんな、無事だったかっ!」

 グア・アさんが、シル・アさんと駆け出して来る。

 大酒飲みのグア・アさん。

 サル・シュくんの歯が、軋んだ音を立てた。

「お前っ! グア・アっ! 車李(しゃき)から酒を貰ってきたと言っていたな!」

「えっ………………」

 グア・アさんは、反論、しなかった。

 その首が、地面に転がる。

「おれ……俺は、知らないっ! グア・アが勝手にやったんだっ!」

 シル・アさんもサル・シュくんが殺した。

「キラ・シ、滅びたりっ!」

 周りを、弓兵に囲まれてたっ!

 黄色い鎧。車李だっ!

 キラ・シはここに10人しかいないのに! 騎羅史城に、黄色い鎧の兵士がどんどん入っていく。

 弓がっ……私達に降ってきた。

  

 

  

 

  

 

 

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