「ウオアアアアアアアァァァァァァッッッ!」
ショウ・キさんが私とル・マちゃん抱きしめて守ってくれたけど……
サル・シュくんが走っていくけれど……
周りに矢が、草原みたいに突き立ってる。
ショウ・キさんは、息を、して、ない。
サル・シュくんも、弓兵はほぼ殺したけど、針鼠で、隊長の首を飛ばして、倒れた。
あんな、遠く、で……
「サル・シュくんっ!」
「サル・シュっ!」
動か……ない…………サル・シュくん……
「嘘……」
サル・シュくんが、死んだ?
私達を守って、死んだ?
車李の兵隊も、全員いなくなった、けど……
向こうから、騎馬が、来た。
キラ・シ? キラ・シだよね? 騎馬だもん、キラ・シだよね?
「チヌさんっ!」
ゼルブだっ! 先頭が頭領のチヌさんっ!
「族長はっ?」
「チヌさんっ! ガリさんとリョウさんが展望台にいるかもっ!」
「ハルナ様! ご無事でっ!」
サギさんが、馬の上から私を呼んだから、チヌさんに聞こえなかったかもしれない! でも、もう、あんな向こう、叫んでも聞こえない。
ガリさんたちを助けてっ!
「サギさんっ! 帰って来てくれてありがとうっ!」
私達の周りを、ゼルブが駆け抜けていく。騎羅史城へ。
「こちらへ、ハルナ様、ル・マ様」
サギさんの馬に乗せられて、騎羅史城から詐為河(さいこう)の方へ走る。キラ・シの戦士が次々合流してくれて、安心、した。
キラ・シ全滅かと思った!
そうだ、元々、お城の中には少ししか居なかったんだ。
その、少しに、ガリさんとリョウさんがいた……サル・シュ君やショウ・キさんもっ! 上位陣が全員…………!
「チヌは最近、車李の密使と会って居ました」
そんな話をなぜ、今、するの?
「どうして?」
これも、グア・アさん絡み?
「ガリ・ア様が……血を吐いているのを、見た、と……」
ナニそれ……
「逃げてください、ハルナ様、ル・マ様」
サギさんが、馬から飛び下りた。とっさにル・マちゃんが手綱を握りしめる。
「どうしてっ! サギさんっ!」
「ゼルブとキラ・シの契約は、ガリ・ア様とサル・シュ様とですっ! お二人がいなくなればっ……」
追ってきたゼルブが、サギさんを、射た。
え?
先頭は、チヌさんだよ?
チヌさんが、サギさんを…………射殺、した?
ゼルブの騎馬軍団が、サギさんの体をよけもせずにこっちに駆けてくる。
全速力……
全速力?
私達のまわりで止まろうと、して、ない?
なんで?
あの勢いでぶつかられたら、この馬じゃ、私もル・マちゃんも吹っ飛ばされる!
ル・マちゃんが、私を馬の首に押さえつけた。
ル・マちゃんも、全速力で、駆けさせてる。ゼルブに、止まろうと、して、ない。
サギさんの声は、ル・マちゃんには聞こえなかったはずなのに。
言葉が違うから、意味がわからなかった筈なのに!
ゼルブから、逃げてる。
ル・マちゃんが、逃げてる。
そうか…… 彼らは騎羅史城の中を、確認、しに行ったんだ。
だから、私が「ガリさんが展望台に」と言った声を、サギさんはかき消そうとしたんだ?
チヌさんが、あの時点で、ガリさんたちを殺そうとしてた、から?
サル・シュくんは、あそこで倒れたまま……?
ガリさんも、リョウさんも…………毒死……?
だから、契約が、切れた……?
契約?
ゼルブとはそんな関係だったの?
ガリさんも、リョウさんも、サル・シュくんも、そんなこと、言ってなかった。
元々、キラ・シには『約定』なんてものが無いから、わかるわけ、なかったんだ。それを、逆手に取られた?
「ハルナさんっ! こっちだっ!」
「サガ・キさんっ!」
キラ・シが少数だったのが功を奏したみたい。ゼルブの追手を、まけた。
今日は。
今は。
まだ、キラ・シのほうが、騎馬の扱いに対して巧者だから……逃げきれた!
ル・マちゃんが、肺を掃きそうなほどゼェヒュー鳴らしてうつむいてる。目が血走って、転がり陥ちそう。
「ゼルブの奴ら…………笛が聞こえたと同時に切りかかって来やがった! あいつらは、キラ・シじゃなかったのかっ!」
「ガリさんと、サル・シュくんと契約してたから、二人がいなくなったら、味方じゃないって……」
はっ? って、サガ・キさんが怒鳴りつけてくる。私に怒鳴らないで。私もいっぱい一杯なんだよ!
「ガリメキアが……死んだのか? あんな強い人が? どうやって!」
「毒を盛られたみたい……」
「毒っ!」
サガ・キさんは一言叫んだあと、私に背を向けて、地面を何度か蹴りつけた。
周りの戦士たちにそれを伝えてくれて、みんなが唖然としたり、嘆いたりするのを見つめてる。
だよね。あんな強い人が毒死だなんて……
でも、その前に……もう、弱ってたんだ……血を吐いてたって? どういう病気? 何も、言わなかった!
私も、気づかなかったのに、……なぜサギさんが知ってたのっ?
「サル・シュは?」
「弓兵に囲まれて、隊長を殺したあと、針鼠で倒れたまま……」
「毒は、誰に?」
「毒を入れたのは、グア・アさんか……車李…………みたい……」
「グア・アは?」
「サル・シュくんが殺した。シル・アさんも」
サガ・キさんの憤りが、詐為河(さいこう)を波立たせるみたい……
「とにかく、ここは塞ぐ! あんたらはラキに逃げろ。あのシロなら、数人でも守れるっ!」
「詐為河を…………渡るの?」
こんな夜中に? ル・マちゃんと、私も、臨月なのに?
今、生まれるかもしれないのに?
「レイ・カっ、ハルナさんたちを頼むぞっ。俺も後を追うからっ!」
「……レイ・カさん……?」
あの、新入りの人? どこにいるの?
サガ・キさんが、私の肩をつかんで怒鳴る。
「あんたのその子が、ガリメキアの跡継ぎだっ! いいなっ! 絶対に生き抜けっ! 子を産めっ! 俺が、守ってやるっ! 絶対に、守ってやるからっ!」
頷くしか、なかった。
「俺はキラ・シだからなっ! 死んでも、キラ・シっ、だから、っなっ!」
泣き叫ぶサガ・キさん。それでも、冷静に周りの戦士に指示を出して、私達に手を振った。
「すぐ行くから!」
泥の中を、ル・マちゃんと手を取り合って渡った。
サガ・キさんは、来なかった。
羅季城は囲まれた。
二人の子が、生まれた。
「ル・マちゃんっ、行って! あなただけなら逃げきれるっ!」
彼女は、二人の子を背負って、城の最上階から、森へ、逃げた。
「生き抜けよっ、ハルっ!」
それが最後。
私は、車李へ連行された。
ベッドに寝かされてたみたい。すぐに殺す気はないのね。
助かった……の、かな?
ガリさんの子は大丈夫かな?
名前も、つけて上げられなかった。
「雅音帑王陛下のおなりである。控えおろう!」
なんかいろいろ言われたけど、指一本動かないよ……
「ハルナと申したな…………おぬし、ことに頭が良いそうだの? 何カ国語も喋るとか? わしの子を産むのなら、命は助けてやろう」
キラキラの服を着たおじいさん。
若いかな? 姿勢が凄くよくて、シルエットは若いけど、しわの深い顔でにやにや笑った。
イヤな顔。
ガリさんの『山ざらい』で死んでくれてればよかったのに……
「今のう……黄色い子供を殺して回っている。蛮族のタネなど、残っては面倒だからのう」
なん……ですって?
起き上がろうとしたら、ついてくれていた女官さんが起こしてくれた。
雅音帑王が、裾を整えて椅子に座ってる。
彼は、にっこり、と、平和的に、笑った。
キラ・シは、肌色が違うからすぐわかる。
まだ、一万人いた子供たちも…………殺される?
ガリさんの夢が、……なんのために、キラ・シは降りてきたのっ?
「キラ・シがたかが400人しかいないとは思わなんだ。あの太子はよう働いてくれたぞ。女五人でキラ・シの人数を教えてくれた。
ゼルブが入っても600人。毒一滴で、殺せる数よな」
グア・アさん……いったい、なんてこと、してくれたのよっ!
『残る奴は裏切る奴だ。生かせばこちらの人数がばれる』
リョウさんは、キラ・シの全人数を知られることを、一番嫌がっていた。諜報中の諜報なのに!
数字なら、言葉がわからなくてもどうにかなる。
キラ・シの全員に酒を送りたいとでもいえばいい。酒樽を叩いてお辞儀すれば、どれぐらいの数がほしいのか? って聞かれてることぐらい、わかる。
グア・アさんは多く言ってたみたいだけど、桁が三つ違うのよっ!
そこのテーブルに、ル・マちゃんの首がおかれた。
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