【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。123 ~毒一滴~

 

 

 

 

  

 

  

 

「ウオアアアアアアアァァァァァァッッッ!」

 ショウ・キさんが私とル・マちゃん抱きしめて守ってくれたけど……

 サル・シュくんが走っていくけれど……

 周りに矢が、草原みたいに突き立ってる。

 ショウ・キさんは、息を、して、ない。

 サル・シュくんも、弓兵はほぼ殺したけど、針鼠で、隊長の首を飛ばして、倒れた。

 あんな、遠く、で……

「サル・シュくんっ!」

「サル・シュっ!」

 動か……ない…………サル・シュくん……

「嘘……」

 サル・シュくんが、死んだ?

 私達を守って、死んだ?

 車李の兵隊も、全員いなくなった、けど……

 向こうから、騎馬が、来た。

 キラ・シ? キラ・シだよね? 騎馬だもん、キラ・シだよね?

「チヌさんっ!」

 ゼルブだっ! 先頭が頭領のチヌさんっ!

「族長はっ?」

「チヌさんっ! ガリさんとリョウさんが展望台にいるかもっ!」

「ハルナ様! ご無事でっ!」

 サギさんが、馬の上から私を呼んだから、チヌさんに聞こえなかったかもしれない! でも、もう、あんな向こう、叫んでも聞こえない。

 ガリさんたちを助けてっ!

「サギさんっ! 帰って来てくれてありがとうっ!」

 私達の周りを、ゼルブが駆け抜けていく。騎羅史城へ。

「こちらへ、ハルナ様、ル・マ様」

 サギさんの馬に乗せられて、騎羅史城から詐為河(さいこう)の方へ走る。キラ・シの戦士が次々合流してくれて、安心、した。

 キラ・シ全滅かと思った!

 そうだ、元々、お城の中には少ししか居なかったんだ。

 その、少しに、ガリさんとリョウさんがいた……サル・シュ君やショウ・キさんもっ! 上位陣が全員…………!

「チヌは最近、車李の密使と会って居ました」

 そんな話をなぜ、今、するの?

「どうして?」

 これも、グア・アさん絡み?

「ガリ・ア様が……血を吐いているのを、見た、と……」

 ナニそれ……

「逃げてください、ハルナ様、ル・マ様」

 サギさんが、馬から飛び下りた。とっさにル・マちゃんが手綱を握りしめる。

「どうしてっ! サギさんっ!」

「ゼルブとキラ・シの契約は、ガリ・ア様とサル・シュ様とですっ! お二人がいなくなればっ……」

 追ってきたゼルブが、サギさんを、射た。

 え?

 先頭は、チヌさんだよ?

 チヌさんが、サギさんを…………射殺、した?

 ゼルブの騎馬軍団が、サギさんの体をよけもせずにこっちに駆けてくる。

 全速力……

 全速力?

 私達のまわりで止まろうと、して、ない?

 なんで?

 あの勢いでぶつかられたら、この馬じゃ、私もル・マちゃんも吹っ飛ばされる!

 ル・マちゃんが、私を馬の首に押さえつけた。

 ル・マちゃんも、全速力で、駆けさせてる。ゼルブに、止まろうと、して、ない。

 サギさんの声は、ル・マちゃんには聞こえなかったはずなのに。

 言葉が違うから、意味がわからなかった筈なのに!

 ゼルブから、逃げてる。

 ル・マちゃんが、逃げてる。

 そうか…… 彼らは騎羅史城の中を、確認、しに行ったんだ。

 だから、私が「ガリさんが展望台に」と言った声を、サギさんはかき消そうとしたんだ?

 チヌさんが、あの時点で、ガリさんたちを殺そうとしてた、から?

 サル・シュくんは、あそこで倒れたまま……?

 ガリさんも、リョウさんも…………毒死……?

 だから、契約が、切れた……?

 契約?

 ゼルブとはそんな関係だったの?

 ガリさんも、リョウさんも、サル・シュくんも、そんなこと、言ってなかった。

 元々、キラ・シには『約定』なんてものが無いから、わかるわけ、なかったんだ。それを、逆手に取られた?

「ハルナさんっ! こっちだっ!」

「サガ・キさんっ!」

 キラ・シが少数だったのが功を奏したみたい。ゼルブの追手を、まけた。

 今日は。

 今は。

 まだ、キラ・シのほうが、騎馬の扱いに対して巧者だから……逃げきれた!

 ル・マちゃんが、肺を掃きそうなほどゼェヒュー鳴らしてうつむいてる。目が血走って、転がり陥ちそう。

「ゼルブの奴ら…………笛が聞こえたと同時に切りかかって来やがった! あいつらは、キラ・シじゃなかったのかっ!」

「ガリさんと、サル・シュくんと契約してたから、二人がいなくなったら、味方じゃないって……」

 はっ? って、サガ・キさんが怒鳴りつけてくる。私に怒鳴らないで。私もいっぱい一杯なんだよ!

「ガリメキアが……死んだのか? あんな強い人が? どうやって!」

「毒を盛られたみたい……」

「毒っ!」

 サガ・キさんは一言叫んだあと、私に背を向けて、地面を何度か蹴りつけた。

 周りの戦士たちにそれを伝えてくれて、みんなが唖然としたり、嘆いたりするのを見つめてる。

 だよね。あんな強い人が毒死だなんて……

 でも、その前に……もう、弱ってたんだ……血を吐いてたって? どういう病気? 何も、言わなかった!

 私も、気づかなかったのに、……なぜサギさんが知ってたのっ?

「サル・シュは?」

「弓兵に囲まれて、隊長を殺したあと、針鼠で倒れたまま……」

「毒は、誰に?」

「毒を入れたのは、グア・アさんか……車李…………みたい……」

「グア・アは?」

「サル・シュくんが殺した。シル・アさんも」

 サガ・キさんの憤りが、詐為河(さいこう)を波立たせるみたい……

「とにかく、ここは塞ぐ! あんたらはラキに逃げろ。あのシロなら、数人でも守れるっ!」

「詐為河を…………渡るの?」

 こんな夜中に? ル・マちゃんと、私も、臨月なのに?

 今、生まれるかもしれないのに?

「レイ・カっ、ハルナさんたちを頼むぞっ。俺も後を追うからっ!」

「……レイ・カさん……?」

 あの、新入りの人? どこにいるの?

 サガ・キさんが、私の肩をつかんで怒鳴る。

「あんたのその子が、ガリメキアの跡継ぎだっ! いいなっ! 絶対に生き抜けっ! 子を産めっ! 俺が、守ってやるっ! 絶対に、守ってやるからっ!」

 頷くしか、なかった。

「俺はキラ・シだからなっ! 死んでも、キラ・シっ、だから、っなっ!」

 泣き叫ぶサガ・キさん。それでも、冷静に周りの戦士に指示を出して、私達に手を振った。

「すぐ行くから!」

 泥の中を、ル・マちゃんと手を取り合って渡った。

 サガ・キさんは、来なかった。

 羅季城は囲まれた。

 二人の子が、生まれた。

「ル・マちゃんっ、行って! あなただけなら逃げきれるっ!」

 彼女は、二人の子を背負って、城の最上階から、森へ、逃げた。

「生き抜けよっ、ハルっ!」

 それが最後。

 私は、車李へ連行された。

  

 

  

 

  

 

 ベッドに寝かされてたみたい。すぐに殺す気はないのね。

 助かった……の、かな?

 ガリさんの子は大丈夫かな?

 名前も、つけて上げられなかった。

「雅音帑王陛下のおなりである。控えおろう!」

 なんかいろいろ言われたけど、指一本動かないよ……

「ハルナと申したな…………おぬし、ことに頭が良いそうだの? 何カ国語も喋るとか? わしの子を産むのなら、命は助けてやろう」

 キラキラの服を着たおじいさん。

 若いかな? 姿勢が凄くよくて、シルエットは若いけど、しわの深い顔でにやにや笑った。

 イヤな顔。

 ガリさんの『山ざらい』で死んでくれてればよかったのに……

「今のう……黄色い子供を殺して回っている。蛮族のタネなど、残っては面倒だからのう」

 なん……ですって?

 起き上がろうとしたら、ついてくれていた女官さんが起こしてくれた。

 雅音帑王が、裾を整えて椅子に座ってる。

 彼は、にっこり、と、平和的に、笑った。

 キラ・シは、肌色が違うからすぐわかる。

 まだ、一万人いた子供たちも…………殺される?

 ガリさんの夢が、……なんのために、キラ・シは降りてきたのっ?

「キラ・シがたかが400人しかいないとは思わなんだ。あの太子はよう働いてくれたぞ。女五人でキラ・シの人数を教えてくれた。

 ゼルブが入っても600人。毒一滴で、殺せる数よな」

 グア・アさん……いったい、なんてこと、してくれたのよっ!

『残る奴は裏切る奴だ。生かせばこちらの人数がばれる』

 リョウさんは、キラ・シの全人数を知られることを、一番嫌がっていた。諜報中の諜報なのに!

 数字なら、言葉がわからなくてもどうにかなる。

 キラ・シの全員に酒を送りたいとでもいえばいい。酒樽を叩いてお辞儀すれば、どれぐらいの数がほしいのか? って聞かれてることぐらい、わかる。

 グア・アさんは多く言ってたみたいだけど、桁が三つ違うのよっ!

 そこのテーブルに、ル・マちゃんの首がおかれた。

  

 

  

 

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました