【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。13 ~お前が戦場に居ると、邪魔だ~

 

 

いやちょっと…………駄目でしょ、サル・シュくん。脅しでもそんなこと、15才の女の子に……

「……お…………俺だってっ! 好きで女に生まれたんじゃないっ!」

「でも、女だ」

「ひっ……」

「お前が戦場に居ると、邪魔だ、ル・マ」

「俺だってっ部族五位だぞっ!」

「俺は四位だ」

 ル・マちゃんのすすり泣きみたいな、声……

「女なら、奥にいろ。守ってやる。

 戦士なら、上位の言うことを聞け。

 どっちもしねぇとか、甘えるな」

 そりゃそうだよね……

 サル・シュくんが私見た!

「ハル、それ、なんて言う?」

「これ? ドレス? 服?」

「フク」

「服、うん、服」

「フクを着ろ、ル・マ。上位からの命令だ。俺も、リョウ叔父の命令でこれを着てる。お前も、着ろ」

 サル・シュくんがベッド下りた。

 褌脱いでた! 脱いでた! マジだった!

「ル・マ。次はやめねぇからな」

 出て行った。

 パタン。

 ドア閉まった。

 そこに女官さんもいた! しゃがみ込んで震えて泣いてる。

 どとどどとどーすればいい?

「ル・マちゃん?」

 立ち上がってみた。

 ル・マちゃんがまだスカート握ってる。その手で顔を覆ってるから何も見えない。

「ル・マちゃん、服着よう。ね?」

 女官さんに服を出してくれるように言うと、泣きながらもコクコクうなずいて差し出してくれた。

「ル・マちゃん……?」

「行かない……」

「ル・マちゃん?」

「ここにいる…………フクも着ない!」

 コロンとあっち向いたル・マちゃん……あ…………お尻から血が……

「えっ? サル・シュくんにされちゃったのっ!」

「あいつがそんなことするかっ!」

「えっ …………じゃあ…………ぁっ!」

 ジュクッ……て、私も、来た………………生理だ。

「……今日から三日……馬に乗れねぇ…………」

「それは、キラ・シの習わし?」

 首を横に振る。

「痛いから?」

 こくり。

 そっかー、痛いのかー。私も痛いから、わかる。母さんは痛くないから、全然分かってくれない。

 キラ・シなんて男の人しかいないところでこれは、大変だっただろうな。

 女官さんにどういえば、と思ったけど、ル・マちゃんの血を見て、「今すぐ御用意致します」って、出て行った。すぐに、マキメイさんと、なんかいっぱい抱えて入ってくる。

「ル・マちゃん、そのままお尻をベッドにつけずに立ってくれる?」

「……ナニ?」

「血が、ベッドにつかないように」

「え?」

「今まで、どうしてたの?」

「どう……って、何も…………」

 ナニも?

「え? えっとね……私は、こんな感じで、布を当てて血を吸い取って、その布を交換してたんだけど」

「えっ? ハル、血の道来てるのか! もう女なのかっ! リョウ・カは子供だと思ってるぞ!」

「あー………………うん……」

 それは後で考えよう。

「リョウさんには、黙っててくれると嬉しい」

 キョトンとしてたル・マちゃんが、ニカッ、と笑った。

「内緒?」

「内緒」

 なぜかハイタッチ。パーン!

 よかった、ル・マちゃん、機嫌治った。

 さっきサル・シュくんがしてた褌を、私もル・マちゃんも用意してもらって、履いて、そこに布を詰め込む。生理用ナプキンがないって、なんて不便なんだろう……

 ル・マちゃんも私と同じ、踝丈のドレスを着た。

「毛皮より軽いけど…………戦えないな」

「戦うための服じゃないからね。今は、丁度いいんじゃない?」

「…………そうだな……」

 ション……とベッドに座り込むル・マちゃん。私の左腕にベッタリ抱きついてる。

「ハルは冷たいな」

 腕をさわさわ触ってるル・マちゃん。心が、ってのじゃないよね?

「サル・シュもリョウ・カも……父上も、俺より熱いんだ」

「女の子は体温低いからね。体温って筋肉量で違うから。私はル・マちゃんより弱いから、ル・マちゃんより冷たいんだよ」

「……そうなのか?」

「うん、女官さんも多分冷たいよ。マキメイさん、手を握らせてくれる?」

 マキメイさんは私より冷たかった。

「冷たい!」

 ル・マちゃんは驚いた。

「熱いですね。お体の調子が悪いのではないですか?」

 マキメイさんは心配してくれた。

 それをル・マちゃんに伝える。

「ありがとう、って、そっちの言葉でなんて言うんだ?」

 ル・マちゃんが聞いてくるけど……どう答えたもんかな。私、別に、翻訳しようとしてしてるわけじゃないから……

「マキメイさん。ル・マちゃんに『ありがとう』って言ってもらえます?」

 彼女の言葉をル・マちゃんが復唱して、ニコッと笑った。

 そして、マキメイさんの手を両手で握って『ありがとう』ってはっきり言った。多分、ラキ語なんだよね。マキメイさんがうるっとなってた。

「マキメイさん、彼女、ル・マちゃんって言うのね。キラ・シの部族、全員が男ばっかりで、女の子が彼女一人なの。だから『女の子』として育てられてないんだ。生理のこととか、全然知らなかったの」

「女性が……このかたお一人……ですか? ハルナさまは?」

「私は一カ月ぐらい前に偶然拾われただけだから、前を知らないんだ」

「まぁ…………ぁ……」

 ナニカ気付いたらしいけど、マキメイさんは呑み込んだ。なんだろう?

「今日も、本当ならキラ・シと一緒に出陣する気だったんだけど、おなか痛いから馬に乗れないから、居残りで、彼女つらいの」

「女性で出陣されているだけでもおつらいでしょうに」

 ル・マちゃんに通訳してみたら、驚いてた。

「でも、俺は動けるっ! 男と同じぐらい動けるっ! 他の男より強いから部族五位なんだっ! 刀と馬があったらキラ・シで五番目に強いんだ!」

 マキメイさんに通訳したら、なんか……泣きだして、ル・マちゃんを、抱きしめた。

「女性の身で、男性と同じように動くだけでも大変なんですよ。それが他の方々を押し退けて五位なんて凄いです。凄いですよ。でも、女性はその無理が続かないんです。月に一度は、お休みして当然なんですよ」

 ポンポン、ってル・マちゃんの頭を叩いて背中をさすった。ル・マちゃんが、凄く、泣き出した。

 だよね。

 幾らサル・シュくんが優しくても、『お母さん』の代わりにはなれないもんな……女家族のいない大家族じゃあ、つらかったよねぇ。キラ・シみたいな、戦闘にアホみたいに特化した部族。脳筋って言うけど、全員そうだよねアレ。

 それに、マキメイさんはもうお子さんがいらっしゃるから。『お母さん』だから。私は、ル・マちゃんの『お姉さん』にはなれるけど、お母さんは無理だもんねぇ。

 それと、どうだろう。

 ル・マちゃん五位って言ってるけど、他の人達は本気でル・マちゃんと戦ったんだろうか?

 本当なら、女の子は洞窟に匿って、歩かせもしない部族で、本気で、戦っただろうか?

 まぁ、昨日のあの、待ち伏せを撃退したのとか、振り返りざまに殺したワザとか、『弱い』とは思わないけど。

 女の子が男の子に勝てるのは子供の内だけってよく言うよね。女の子の方が成長が早いから。

 これから先、どんどんル・マちゃんは同じ年の男の子に追い抜かされていく。

 サル・シュくんは、実戦に出て、どんどん強くなっていく。

 そしてル・マちゃんは、子供を産め産めと急かされる。

 子供を産んだらもう、刀を持たせても貰えないだろう。サル・シュくんなら、許すかな?

 彼だって、キラ・シのあの、激しい男尊女卑を受け継いでると思うけど。でも、女の子が望んだからって刀を持たせてくれるのは、まだ、マシだよね。

 ガリさんが族長のうちは、ル・マちゃんは特別扱いされるだろうけど、親は先に死ぬから……

 あー……私もおなか痛くて考えがまとまらない……生理用品が心配。だけど…………凄い、快適。

 なんだろう……布ナプキンって面倒そうで使ったことなかったけど、なんかイイってのは聞いてた。あれだよね。だってこの端切れ、シルクだよ! シルクのナプキンっ! あったかくてイイ! そっかー、生理用ナプキンって化学繊維だから、あれが冷えるのかっ! 布ナプキン、イイッ!

「ハルナ様、こんな感じでいかがですか?」

 女官さんが持ってきてくれたものを、まだマキメイさんに抱きついてるル・マちゃんの腰に巻く。

 小さな温石を、布で巻いてもらったものを、帯に入れて、腰とおなかに当たるように締める。私も締める。

 おあぁぁぁぁぁぁ……あったかいっ! 気持ちいいっ!

「痛みが……なくなった……?」

 ル・マちゃんが、マキメイさんからはがれて、おなかをさすってる。

「あたためると、痛みなくなるって言ったでしょ? ね? ラクじゃない?」

「ラク……」

「ちゃんとね、リョウさんたちも、ル・マちゃんを温めようと、してくれてたよね?」

 ル・マちゃんが、ハッと私を見て、コクンとうなずいた。自分の膝がしびれても、ル・マちゃんを膝に座らせた。あの意味が、やっとル・マちゃんにもわかったと思う。

「リョウさんも、サル・シュくんも、冷えるとか、温かいとか、どうでもイイ人達でしょ? でも、ル・マちゃんはそうじゃない、って分かってるから、そう言ってたんだよ。ちゃんとね、ル・マちゃんのこと、大事なんだよ?」

 そうだよね。男の人達みんな暑がりだから、普段、体を温めるとか無頓着だよね。

 必死で男の人の真似をしてるル・マちゃんが、自分を温めることなんて、なかったよね。

 だから、体が冷え続けて、生理とかどんどん重たくなってたんだよね。

 キラ・シも、経験的に女の人がみんな体温低いから、『女は冷たい』と思って『温めようとした』んだろう。決して、女性に対して、無意味にぞんざいなわけじゃない、と、信じたい。

「そっか…………俺を温めたり、守ったりしなきゃいけないから………………俺が戦場にいると……邪魔なんだ…………

 サル・シュだけなら、そんなこと、気にせず、戦えるんだもんな………………俺、サル・シュの邪魔してたんだ…………」

 また泣きだしたル・マちゃん。

 これは仕方ない。現実だから。

 どれだけル・マちゃんが『俺が女なのを気にするな』って言っても、男の人達が気にならないわけがない。気にしないわけがない。

 守りたくないわけがない。

 リョウさんに殺される危険性があっても、サル・シュくんは私を地面には下ろさなかった。あの覚悟が、キラ・シ全員にあるんだ。

 ル・マちゃんの言葉をマキメイさんにも通訳する。二人でル・マちゃんを抱きしめて、ぽんぽんした。

「昨日のあの、手を握って出てきた男性を一瞬で殺されたときは、蛮族は子供でも蛮族なんだ、と思いましたけど……女性だったなんて、思いもしませんでした。

 あんな……あんな早い剣さばき、この城の将軍でもかないませんよ…………負けて当然ですね…………」

「俺、本当に、強い?」

「お強いですよ! このお城の将軍よりは、お強いですよ!」

 通訳忙しいけど、二人がしゃべってるの、楽しい。

 やっぱり、ル・マちゃんも不安だったんだ? みんなが、自分に対して手を抜いてるんじゃないか、って。

「ル・マちゃんは、サル・シュくんのこと、好きだよね?

 

 

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