ガリさんが一番なのは憧れとして。
大体、サル・シュくんじゃなくても、部族の男の人全員が、ル・マちゃんに自分の子供を産ませたいだろうし。サル・シュくんだって『恋愛感情』ではないかもしれない。
うわ。そう考えると、サビシーッ!
「ハルナさん、マキメイさん、副族長が呼んでるよ!」
キラ・シの子供が、ノックもなしにドア開けて入ってきて叫んだ。
「わたくしもですかっ?」
リョウさんがマキメイさんも呼ぶってナゼ?
とりあえず立ち上がったら、ル・マちゃんも私の腕に抱きついたままついてきた。まぁ、大丈夫だよね。どんな顔してサル・シュくんに会えばいいんだ、って私が悩む必要は、ないよね?
「そう言えばおなか空いたね。朝御飯は、ラキではないの?」
「もうそろそろ、そのお時間ですよ。キラ・シのみなさんがお早かったので、随分間が開いてしまいました」
早かったんだ? 時計がないからわかんないな。というか、ラキの朝食が遅いのかもしれない。もう朝日は随分高いから。
大広間に出てみたら、全員服着てた!
というか、みんな、着たり脱いだり、着脱の練習してる。サル・シュくんとリョウさんもしてたな、そう言えば。すぐに練習するの凄いなキラ・シ。どっちが早く脱いで着られるか、の競争してるコもいる。
そうか。『早く着る』のが、生死をわけるよね。たしかに。でも、あんな毛皮着っぱなしだったみたいなのに。新しい環境に順応するの早いな。
大広間も、凄い綺麗になってる。ちょっとまだ、馬糞臭いけど。これは時間経たなきゃ消えないよね。
「ハルナ様。食事をこちらにお作りしましょうか?」
「普通なら、どこで食べるの?」
「奥に、お食事用の大広間がございます」
「そう言えばリョウさん……は……うわっ!」
「ハル! ちょうどいい」
丁度良くない!
あっちの廊下から出てきたリョウさんが死体持ってる! 死体だよね、それ!
叫び掛けた他の女官さんをマキメイさんが手だけで押さえた。
「リョウさんっ! どうしたのその人っ!」
「窓から入ってきた」
「窓からっ? リョウさんが殺したの?」
「サナだ」
サナ? ………………えっと、サル・シュくんが言ってた小さいコだよね。あんな子が、突然窓から忍び込んできた大の男を殺したの? ホント、キラ・シ凄いな。
「……そのかた、車李(しゃき)の軍装ですっ! 車李の兵隊ですよっ!」
マキメイさんが服を確認して私に教えてくれた。
「え? シャキってナニ?」
確か、前に聞いたことがあったよね?
「この羅季(らき)の国を養護して下さっている、東の大国です」
それは……なんか、やばくない?
「リョウさん、大きな国……部族の戦士だって」
って私が言った瞬間、リョウさんが大広間を跳び出して凄い指笛吹いた。
むこーのほうで同じ指笛。
あ、凄い。のろし代わりに、指笛が聞こえる位置にヒトを配置してるんだ?
「ど……どうなるの?」
「ガリ・ア達全員をこちらに呼んだ。こちらは子供ばかりだからな」
子供ばかりで、昨日のこの、大広間の強襲の罠を返り討ちにしたんだから、凄いよね……全然心配ない気もするけど、昨日のあの大軍の相手したのは、リョウさんより、ガリさんたちだよね。リョウさん途中で帰って来たから。
そう言えば、お城の女性の部屋にあったアンマンくれたんだ。だから、一つのお城を制圧してから帰って来たんだろう。
速すぎる。そんな近くにお城があったのかな?
あれ? 違うよね。
私、頻繁に失神してたから、あれで一晩開いてたら……
リョウさんの指笛に、全員が殺気だった。
「ハル、マキメイに聞け。この部族は、あの大きな黄色い川のあちらかこちらか」
そのためにマキメイさんも呼んだんだ?
「川の向こうだって…………ル・マちゃん、痛い痛い…………腕、そっと握って」
「すまん」
全員が外に出て指笛吹いた。馬がっ…………集まってきた! 凄い……つながなくても逃げないんだ?
「あ、そうだ、マキメイさん。ついでに、ここらへんの情報、教えてくれない? ここがラキで、昨日の戦争相手がハマルで、今度は東のシャキ? 地図ある?」
「地図は……書庫にはあるかもしれませんが、わたくしどもは字が読めませんので、わからないのです」
字が読めない? 皇帝陛下のいるお城の女官が?
「じゃあ、……とりあえず、位置を…………」
お城の外で、地面に木の枝で国の位置を書いてもらった。リョウさんも覗き込んでる。
「申し訳ありません。わたくしども、誰も、このお城からそんなに離れたことが無いのです」
凄い大雑把。左が山、右が河。真ん中が上から、コウリュウ、エンリ、ラキ、キシン、ハマル。
ハマルって、間に一つ国挟んで攻めてきてたのっ! で、凄く右側にシャキ、ナガシュ。これ、上が北でいいのかな? ハマルが南って言ってたから、反対が北だよね。川の上流が、北。
まぁ、とりあえず、お城から出てすぐ、左側があの黄色い川の上流。右向こうがキシンとハマル。左が北。まぁ、それは木の茂り具合でもわかるか。
「リョウさん、一応分かったことだけ言うね。この国…………ココが『ラキ』って部族。西がこのサイカゲ山脈、そこの黄色い河が『サイコウ』。山と川の間に、北から、コウリュウ、エンリ、ラキ、キシン、ハマルって国…………大きな部族がある。このラキの北のエンリって部族のところで、サイコウが渡れて、その東側に、シャキって大きな国…………じゃなくて、部族がいて、このラキを守ってるんだって。
さっき、リョウさんが連れてた死体が、このシャキって部族の戦士だって。キシンは今回のハマルには同行しなかったけど、シャキの属国…………友達だから、シャキが来るなら、キシンも攻めてくるかもしれないって。挟み打ちだよ!」
「それはない。ガリ達が、昨晩、キシンをつぶした」
「え?」
「先につぶしたのがハマル、次がキシンだと、ガリが確認した。ここにいたハマルの戦士たちに族長とかがいたらしくて、ハマルは全滅。キシンも、族長は残したが、戦士は全部殺した。残ってる男はこのシロと一緒。刀を持っていない奴だけだ」
それ、『国』だよね?
「このラキみたいに『王城を乗っ取った』ってこと? それなら、他の街にいた兵隊が来るよね?」
「おうじょう?」
「この、大きな家を『王城』って言うの。『城』。部族の長老とか族長が住んでるところ」
「ああ、それを……だから、ここより南で、13陥とした」
「……は?」
13個の城を一日で陥とした?
ああそうか、私が寝てたから、一日じゃないんだ。
「ココのような大きな家は二つだけだった。他は、キラ・シの戦士一人で制圧できたらしい」
ああ……まぁ、このお城も戦闘時間だけでいうと一時間も掛かってないけど…………お城に一時間、通りすがりの村とか町とかを、みんなで手分けして押さえたってこと……だよね? 200人いたらできることなのかな……? ガリさん一端帰って来てたけど、どこから帰って来てたんだろう? 戦争の常識が私の中にないからわかんないな。
いや、まぁいいや。今考えても仕方ない。
「南側は山と湖で、他に大きな部族はない。だから、この湖の北から渡れる先しか、敵は来ない」
「これ、川だって、とにかく、あっちが上流。そっちは細いから橋が掛かってるらしいよ」
「ハシ?」
「えっと………………川を渡るために木を渡すの。だから、泳がなくても渡れるようになる」
「ああ……アレのことか…………ハシだな。ハシ」
「そう、橋」
リョウさんが、後ろにいた小さい子にナニカ言って走らせた。また、他の子がリョウさんの後ろにつく。これ、伝令のために、誰かがリョウさんについてるんだ? それに、大人も子供も、リョウさんにナニカ言って、ナニカ言われて右往左往してる。本当に副族長さんなんだなぁ……
「船で川下から兵隊来たらどうなるの? 後ろから挟み打ちされちゃうよ?」
「フネ?」
そこかっ! 船知らないのかっ!
「マキメイさん。この世界に船ってある?」
「ございますよ」
「どれぐらいの大きさ? 何百人も兵隊さんが乗れるようなのある?」
「……この近在には、釣りをするような小舟しかない筈です。貴信(きしん)にも羅季(らき)にも、津(しん)はありますが、商人は陸路が殆どのようです」
「シンってナニ?」
「船着き場の多少大きいものです」
大きめの桟橋かな?
「船着き場なくても、大きな船、つけられるよね?」
揚陸艇だっけ? 昔も似たようなのあったよね? 船の端が開く、っていうギミックはないとしても、上陸するための船はあるよね。
「…………さぁ………………わたくしは、そのような大きな船は、見た事がございません……この半島は、皇家がお住まいになっていますので、軍隊が入れないようにされているのでございます」
「ん? なんで? 皇家がいるから、守るために軍隊が必要なんじゃないの?」
「500年前には、皇帝陛下は車李よりもっと東の、煌都(こうと)にお住まいだったのです。そこで反乱が起きて、この羅季に遷都されたのです。それを大陸一の大国である車李が養護してくださっているのです。
昨日、ハマルが先に攻撃してきたのですが、車李も、こちらに援軍を送るという手筈にはなっていました」
「えっ! 東の大国がここに軍隊を送るって?」
「はい。ですので、今日か、明日かには到着するのではないでしょうか?」
「リョウさんっ! 東からの大軍が今日明日来るって! 大陸で一番大きな部族だって!」
クサイ……伝令の中にクサイ人がいる。多分、昨日お城にいなかった人だ。ガリさんの部隊にいた人なんだろう。もう帰って来たんだ?
「これは……本当に、くさいな……」
リョウさんもまたくしゃみする。
「昨日戦っていたのはどれほどだ?」
「凄く弱い国だって。このお城の兵士、弱いみたい」
「そうか」
「どうするの?」
「戦うしかない」
「…………大丈夫なの?」
「駄目なら死ぬだけだ」
コメント