【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。14 ~駄目なら死ぬだけだ~

 

 

ガリさんが一番なのは憧れとして。

 大体、サル・シュくんじゃなくても、部族の男の人全員が、ル・マちゃんに自分の子供を産ませたいだろうし。サル・シュくんだって『恋愛感情』ではないかもしれない。

 うわ。そう考えると、サビシーッ!

「ハルナさん、マキメイさん、副族長が呼んでるよ!」

 キラ・シの子供が、ノックもなしにドア開けて入ってきて叫んだ。

「わたくしもですかっ?」

 リョウさんがマキメイさんも呼ぶってナゼ?

 とりあえず立ち上がったら、ル・マちゃんも私の腕に抱きついたままついてきた。まぁ、大丈夫だよね。どんな顔してサル・シュくんに会えばいいんだ、って私が悩む必要は、ないよね?

「そう言えばおなか空いたね。朝御飯は、ラキではないの?」

「もうそろそろ、そのお時間ですよ。キラ・シのみなさんがお早かったので、随分間が開いてしまいました」

 早かったんだ? 時計がないからわかんないな。というか、ラキの朝食が遅いのかもしれない。もう朝日は随分高いから。

 大広間に出てみたら、全員服着てた!

 というか、みんな、着たり脱いだり、着脱の練習してる。サル・シュくんとリョウさんもしてたな、そう言えば。すぐに練習するの凄いなキラ・シ。どっちが早く脱いで着られるか、の競争してるコもいる。

 そうか。『早く着る』のが、生死をわけるよね。たしかに。でも、あんな毛皮着っぱなしだったみたいなのに。新しい環境に順応するの早いな。

 大広間も、凄い綺麗になってる。ちょっとまだ、馬糞臭いけど。これは時間経たなきゃ消えないよね。

「ハルナ様。食事をこちらにお作りしましょうか?」

「普通なら、どこで食べるの?」

「奥に、お食事用の大広間がございます」

「そう言えばリョウさん……は……うわっ!」

「ハル! ちょうどいい」

 丁度良くない!

 あっちの廊下から出てきたリョウさんが死体持ってる! 死体だよね、それ!

 叫び掛けた他の女官さんをマキメイさんが手だけで押さえた。

「リョウさんっ! どうしたのその人っ!」

「窓から入ってきた」

「窓からっ? リョウさんが殺したの?」

「サナだ」

 サナ? ………………えっと、サル・シュくんが言ってた小さいコだよね。あんな子が、突然窓から忍び込んできた大の男を殺したの? ホント、キラ・シ凄いな。

「……そのかた、車李(しゃき)の軍装ですっ! 車李の兵隊ですよっ!」

 マキメイさんが服を確認して私に教えてくれた。

「え? シャキってナニ?」

 確か、前に聞いたことがあったよね?

「この羅季(らき)の国を養護して下さっている、東の大国です」

 それは……なんか、やばくない?

「リョウさん、大きな国……部族の戦士だって」

 って私が言った瞬間、リョウさんが大広間を跳び出して凄い指笛吹いた。

 むこーのほうで同じ指笛。

 あ、凄い。のろし代わりに、指笛が聞こえる位置にヒトを配置してるんだ?

「ど……どうなるの?」

「ガリ・ア達全員をこちらに呼んだ。こちらは子供ばかりだからな」

 子供ばかりで、昨日のこの、大広間の強襲の罠を返り討ちにしたんだから、凄いよね……全然心配ない気もするけど、昨日のあの大軍の相手したのは、リョウさんより、ガリさんたちだよね。リョウさん途中で帰って来たから。

 そう言えば、お城の女性の部屋にあったアンマンくれたんだ。だから、一つのお城を制圧してから帰って来たんだろう。

 速すぎる。そんな近くにお城があったのかな?

 あれ? 違うよね。

 私、頻繁に失神してたから、あれで一晩開いてたら……

 リョウさんの指笛に、全員が殺気だった。

「ハル、マキメイに聞け。この部族は、あの大きな黄色い川のあちらかこちらか」

 そのためにマキメイさんも呼んだんだ?

「川の向こうだって…………ル・マちゃん、痛い痛い…………腕、そっと握って」

「すまん」

 全員が外に出て指笛吹いた。馬がっ…………集まってきた! 凄い……つながなくても逃げないんだ?

「あ、そうだ、マキメイさん。ついでに、ここらへんの情報、教えてくれない? ここがラキで、昨日の戦争相手がハマルで、今度は東のシャキ? 地図ある?」

「地図は……書庫にはあるかもしれませんが、わたくしどもは字が読めませんので、わからないのです」

 字が読めない? 皇帝陛下のいるお城の女官が?

「じゃあ、……とりあえず、位置を…………」

 お城の外で、地面に木の枝で国の位置を書いてもらった。リョウさんも覗き込んでる。

「申し訳ありません。わたくしども、誰も、このお城からそんなに離れたことが無いのです」

 凄い大雑把。左が山、右が河。真ん中が上から、コウリュウ、エンリ、ラキ、キシン、ハマル。

 ハマルって、間に一つ国挟んで攻めてきてたのっ! で、凄く右側にシャキ、ナガシュ。これ、上が北でいいのかな? ハマルが南って言ってたから、反対が北だよね。川の上流が、北。

 まぁ、とりあえず、お城から出てすぐ、左側があの黄色い川の上流。右向こうがキシンとハマル。左が北。まぁ、それは木の茂り具合でもわかるか。

「リョウさん、一応分かったことだけ言うね。この国…………ココが『ラキ』って部族。西がこのサイカゲ山脈、そこの黄色い河が『サイコウ』。山と川の間に、北から、コウリュウ、エンリ、ラキ、キシン、ハマルって国…………大きな部族がある。このラキの北のエンリって部族のところで、サイコウが渡れて、その東側に、シャキって大きな国…………じゃなくて、部族がいて、このラキを守ってるんだって。

 さっき、リョウさんが連れてた死体が、このシャキって部族の戦士だって。キシンは今回のハマルには同行しなかったけど、シャキの属国…………友達だから、シャキが来るなら、キシンも攻めてくるかもしれないって。挟み打ちだよ!」

「それはない。ガリ達が、昨晩、キシンをつぶした」

「え?」

「先につぶしたのがハマル、次がキシンだと、ガリが確認した。ここにいたハマルの戦士たちに族長とかがいたらしくて、ハマルは全滅。キシンも、族長は残したが、戦士は全部殺した。残ってる男はこのシロと一緒。刀を持っていない奴だけだ」

 それ、『国』だよね?

「このラキみたいに『王城を乗っ取った』ってこと? それなら、他の街にいた兵隊が来るよね?」

「おうじょう?」

「この、大きな家を『王城』って言うの。『城』。部族の長老とか族長が住んでるところ」

「ああ、それを……だから、ここより南で、13陥とした」

「……は?」

 13個の城を一日で陥とした?

 ああそうか、私が寝てたから、一日じゃないんだ。

「ココのような大きな家は二つだけだった。他は、キラ・シの戦士一人で制圧できたらしい」

 ああ……まぁ、このお城も戦闘時間だけでいうと一時間も掛かってないけど…………お城に一時間、通りすがりの村とか町とかを、みんなで手分けして押さえたってこと……だよね? 200人いたらできることなのかな……? ガリさん一端帰って来てたけど、どこから帰って来てたんだろう? 戦争の常識が私の中にないからわかんないな。

 いや、まぁいいや。今考えても仕方ない。

「南側は山と湖で、他に大きな部族はない。だから、この湖の北から渡れる先しか、敵は来ない」

「これ、川だって、とにかく、あっちが上流。そっちは細いから橋が掛かってるらしいよ」

「ハシ?」

「えっと………………川を渡るために木を渡すの。だから、泳がなくても渡れるようになる」

「ああ……アレのことか…………ハシだな。ハシ」

「そう、橋」

 リョウさんが、後ろにいた小さい子にナニカ言って走らせた。また、他の子がリョウさんの後ろにつく。これ、伝令のために、誰かがリョウさんについてるんだ? それに、大人も子供も、リョウさんにナニカ言って、ナニカ言われて右往左往してる。本当に副族長さんなんだなぁ……

「船で川下から兵隊来たらどうなるの? 後ろから挟み打ちされちゃうよ?」

「フネ?」

 そこかっ! 船知らないのかっ!

「マキメイさん。この世界に船ってある?」

「ございますよ」

「どれぐらいの大きさ? 何百人も兵隊さんが乗れるようなのある?」

「……この近在には、釣りをするような小舟しかない筈です。貴信(きしん)にも羅季(らき)にも、津(しん)はありますが、商人は陸路が殆どのようです」

「シンってナニ?」

「船着き場の多少大きいものです」

 大きめの桟橋かな?

「船着き場なくても、大きな船、つけられるよね?」

 揚陸艇だっけ? 昔も似たようなのあったよね? 船の端が開く、っていうギミックはないとしても、上陸するための船はあるよね。

「…………さぁ………………わたくしは、そのような大きな船は、見た事がございません……この半島は、皇家がお住まいになっていますので、軍隊が入れないようにされているのでございます」

「ん? なんで? 皇家がいるから、守るために軍隊が必要なんじゃないの?」

「500年前には、皇帝陛下は車李よりもっと東の、煌都(こうと)にお住まいだったのです。そこで反乱が起きて、この羅季に遷都されたのです。それを大陸一の大国である車李が養護してくださっているのです。

 昨日、ハマルが先に攻撃してきたのですが、車李も、こちらに援軍を送るという手筈にはなっていました」

「えっ! 東の大国がここに軍隊を送るって?」

「はい。ですので、今日か、明日かには到着するのではないでしょうか?」

「リョウさんっ! 東からの大軍が今日明日来るって! 大陸で一番大きな部族だって!」

 クサイ……伝令の中にクサイ人がいる。多分、昨日お城にいなかった人だ。ガリさんの部隊にいた人なんだろう。もう帰って来たんだ?

「これは……本当に、くさいな……」

 リョウさんもまたくしゃみする。

「昨日戦っていたのはどれほどだ?」

「凄く弱い国だって。このお城の兵士、弱いみたい」

「そうか」

「どうするの?」

「戦うしかない」

「…………大丈夫なの?」

「駄目なら死ぬだけだ」

 

 

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