【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。148 ~俺の女。ハルだよ。~

 

 

 

 

  

 

「……え?」

 思いっきり顔をこっちむけたら、彼もパチッと目を開けた。

「………………凄い……ル・マちゃんそっくり……」

 目が大きくて、口も大きくて、白くて、髪もつやつや。

 ああ、子供の髪の毛ってなんでこんなに綺麗なのかしらっ!

 子供のにおい、いいにおいっ!

「だろー?」

 自分の手柄みたいにサル・シュくんがドヤがオ。

 ル・アくんが、私をじーっっと見た。

 ガリさんの凝視みたい。

 速い瞬きはル・マちゃんね。

 ナニカ言うまで口を閉じてるのはガリさんね。

 この顎のライン、ホント、ガリさんにそっくり!

 目は大きいけど、るまちゃんみたいな、猫っぽいどんぐり目じゃなくて、切れ長の目がちょっと縦に大きい、って感じ。

 サル・シュくんを見て、私を見た。真っ黒の瞳。

「ル・ア、俺の女。ハルだよ。話しただろ」

 不穏。

「ナニ話したのサル・シュくん……」

 むにーっ、と口を閉じたまま両方に引き絞って笑ってるサル・シュ君。『内緒』って顔ね。

「抱いてるとふよふよして幸せになれる女、って……サル・シュが言ってた」

 ル・ア君が喋った。

 最初の会話がこれって…………

「私そんな太ってないよねっ!」

「でも、ふよふよしてる」

「どこがっ!」

「ここら辺がっ!」

 サル・シュくんに抱きしめられて、キスされてっ……

「ちょっ……ル・アくんが……いる…………」

「ル・アー、見てろよっ! ここにな、これを挿れるんだ!」

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

「おお、ハル、……!」

 玄関でリョウさんが、私を見て、一瞬眉を寄せて、パッと顔を上げた。何度も私の顔から足元までみて、うんうん、と頷いて笑ってくれる。

「心配してもらったよね。私、元気になったよ、リョウさん」

「そうみたいだな。よかった…………で、あの馬鹿どうした?」

 玄関で正座して呻いているサル・シュくんを親指で指さすリョウさん。

「聞かないで……」

 既にリョウさんは笑ってる。

「俺の目の前で、サル・シュがハルを抱いたら、サル・シュがハルに怒られた」

「ル・アくんっ!」

 いつのまにかするっと私の左手を握ってた白い子供っ!

「アレでサル・シュ、アレされてるの?」

「ル・アくんは気にしなくていいから。全部サル・シュくんが悪いんだからね」

「でも、見たの俺だし、同罪だよね?」

 ル・アくんは、とてとてサル・シュくんのそばに歩いて行って、サル・シュくんの足元をぐるっとまわってみて、勝手に隣に正座した。

 思わず、リョウさんの胸をバシバシ叩いてしまった。

「なんていい子!」

 胸がキュンッとしたわっ!

「……たしかに…………」

 リョウさんも目を丸くしてる。

「サル・シュに育てられてどうなるかと思っていたが……」

「ナニ! あの子っかわいいっ!」

『だーれだ?』

『今回』、初めてサル・シュくんに会ったときのこと思い出した!

『俺はキラ・シのサル・シュ。どこの誰?』

 そうよ。今まで一度も先に名乗られたことなかったの。サル・シュくんだけだったんだよ。うわ、ル・アくん、サル・シュくんそっくりじゃないっ! え? ガリさんの子だよね?

「ガリの幼いころとそっくりだな」

 隣でリョウさんも目を細めてた。

「そうなの?」

「ガリも、俺が獣を逃がして仕置きを受けたときに、相棒なんだから俺も同罪、と、一緒に雨の中、山を走ってくれた」

 ナニ、その超かわいいエピソード!

 リンもかわいいけど、ル・アくんもかわいいっ!

「ル・アくん、キミはいいのよ、そんなことしなくても」

 ル・アくんの脇を持って立たせてあげた。

「ハル……ハル………………俺を助けて……ハル……」

 ル・アくんと手をつないで練兵場へ。子供も、大人も混じって銅剣でやりあってる。

 じーっと、それを見てるル・ア君。

『行きなさい』って言わないと行かないのかな? さっきは勝手に正座したのに? それとも、びびってる?

「鍛練しておいで、ル・アくん」

「おうっ!」

 銅剣を持って走っていくル・アくん。うわぁ、動きがル・マちゃんそっくりっ! かわいいっ! おびえてる様子は全くないわ。

 私が連れてきた時点で、リンが真っ先にル・ア君に向かってきたけど……一瞬で叩きのめされた。え? どうして?

 リンのほうが一つ上よね? リンだって、成人寸前の子に勝つのよ? サル・シュくんの子だもの。

 うわ……! 子供じゃ歯が立たないから、大人の戦士を相手に…………あら……あらあらあら…………

「ル・アは俺じゃ無理! ショウ・キのとこ行けっ!」

 まぁ…………部族5位のショウ・キさんのところまで、行っちゃった……

 強すぎる……

 ……まぁ、『強いコ』って子供の頃から強いわよね。

 サル・シュ君もガリさんもリョウさんも、成人前から凄かったらしいから。

 でも、リンだってその道を歩いてるのよ?

 なのに、ル・ア君、100倍強いわ。凄い……

 リンも、サル・シュ君にずっと鍛練を受けてたらああなったのかしら? それってずるくない?

 誰かが指笛を吹いた。

 ああ、午前の鍛練の時間の終わりね。ナガシュで正午は、日の下にいたら死ぬから。

 青い、空。

 ここは影なのに、見上げるだけでまぶしいと感じる、雲一つない天。

 ああ……そうだわ。

 ぼうっとしてたけど、記憶は、あるのね、私。

 そういえば、この練兵場にも、普通に来たわ。

 ル・マちゃんが死んで、サル・シュくんがいなくなって……ずっと泣いてた気がした。

 そして、ガリさんまでいなくなって……真っ暗だったわね……

 記憶はあるけど、細かいことは覚えてないな…………別段、追い出されるようなことはしてないみたいだけど……

「母上っ!」

 リンとマキとセイとヨキが走ってきた。

 リンちゃんの顔も、久しぶりに見た気がする。

「どれが俺の子?」

「サル・シュくんの子はリン…………え?」

 振り返ったら、牙のネックレス。顔は、もう一つ、上。

「えっ! サル・シュくん、背ぇ延びたっ?」

 なんか大きくなってるとは思ったけど……20センチぐらい伸びてるっ! 私より少し高いぐらいだったのにっ!

 というか昨日も今日も、身長分かるようなこと、してなかったっ! ずっと抱かれてたし、抱き上げられてたから!

「おー、リンーっ! 俺が父上だぞーっ!」

 一瞬、リンがビクッ、と止まった。私を見て、サル・シュくんを見て、私を見る。

「あなたの父上よ、リン・シュ」

 私の子供みんながそこで止まってる。サル・シュくん見上げてる。リン以外はガリさんのコだけど。

「四年も部族の働きしてきたのに、子に嫌われた?」

 サル・シュ君が、私の反対側に小首を傾げて私をみた。とがったくちびる、下がった眉。超かわいい…………神様、今日もありがとうっ! 私の旦那がこんなにかわいいです!

「ハル、俺に見とれてないで、紹介してよ」

 泣いてたらしい私。サル・シュ君がぐいぐいと、掌で拭ってくれた。思わずあとずさったら、腰を抱えられて抱き締められて、キス。

 ああ……なんか、食べものが違ったんだろうな、前のサル・シュ君のニオイとちょっと違う。

「ごめんなさい、四年ぐらい私、記憶無くて…………そう言えばサル・シュくんの話、何もしてなかったかも……」

 そうよね。ずっと泣いてたから、サル・シュ君の名前なんて、口にしたこと、なかったはず。

 リンちゃんともろくに喋ってなかったと思う。なんて母親だろう。ホントに。

 今日からしっかりしないと!

「酷いなハルーっ!」

「だって、サル・シュくんがいきなりル・アくん連れて行っちゃったからっ! ……私だってっ…………意味がわからなくてっ…………馬鹿ーっ!」

 ギュッてされて、キスされて、抱き上げられた。

 うわ……すっごい安定感……

 前、サル・シュくん、私を前抱きにしかできなかったのに、リョウさんみたいに左肘に私座らせてる。腕が鉄骨みたいにカチンコチン。

 昨日も抱き上げられてたけど、そんなこと、気付かなかった。顔しか見てなかった。

 ああ…………サル・シュくん、本当に帰って来たんだぁ…………

「ナニ……この太い腕……」

「そりゃ、鍛えてるから…………」

「今、幾つだっけ?」

「19」

 現代だとまだ子供だけど、でも、確かに、一番身長伸びる時期を一緒にいなかったんだ?

「うわぁ…………かわいげのかけらもない顔になって」

「……酷いな、さっきからハルは……もー」

 また、キスの嵐。首も太くなってまぁ……マァマァマァマァ!

 かわいさがなくなって、美人さだけ残ってる。

 凄い……

 かわいかった夫が、絶世の美女になって帰って来たらあなたはどうしますか? でも、別に、性転換したわけじゃないのよ。ちゃんと男だったし。

 誰に聞いてるの私。誰に言い訳してるの私。

 イヤだ……私が凄く見劣りするよね、これ。並びたくない……

 ぴと……って、リンがサル・シュくんの右足に抱きついたから、サル・シュくんが右手で抱き上げた。私の真ん前に来たリンちゃんの頬に私もキスする。かわいい。リンちゃんが、泣きながら私に抱きついてきた。そうよね、お母さんらしいこと、なにもしなかったものね。ごめんなさいね。

 白い顔でリンちゃんがサル・シュ君を見上げる。サル・シュ君と同じ、満面の笑顔。口が、私に似ちゃったから小さいの。ル・ア君は、ル・マちゃんと同じ、大きな口なのね。ガリさんって案外口小さいのよ。

 ああそっか。母親に似たんだ? サル・シュ君みたいに大きな口だったら、もっとかわいかったのに。今もかわいいけど! というか、口が小さいから、本当にお姫様みたいなの。黙ってたら真相のお嬢様みたいな線の細さ。

『リョウさんの子供』は丸々してたから、これも父親譲りなのね。サル・シュ君も、今は大きくなったとはいえ、キラ・シの中で大きい内には入らないから。お髭のない白い人達は、総じて細いのよね。それはリンちゃんも受け継いでしまったわ。まぁ、私に似たって細かっただろうし、これは仕方ないのよね。

「父上?」

「おう。リン。強くなったか?」

「若戦士にも勝つよっ!」

「ホントに?」

 サル・シュくんが私を見る。

「元服してない子供の中では、一番強いわよ」

「おーっ! 凄いっ! リン凄いっ!」

「俺強いっ! 父上自慢しろっ! 絶対に負けないっ! 俺強い!」

 ガリさんの子たちと僅差だけど。

 でも、ル・アくんはレベルが違うわ。

「あ、ガリさん……」

 廊下をゆったりと歩いてきた族長さん。

 なんだろう、ふんわりした雰囲気。でも、悲しそうなのはなぜ?

 サル・シュくんがリンと私を床に下ろした。

「……最後に、いいか?」

 ガリさんがサル・シュくんに、……なんの断り? サル・シュくんも、頷いた。

「ハル、よく俺の子を産んでくれた。ありがとう。これからもたくさんサル・シュの子を産め」

「……うん………………それは…………」

 する……けど……

 そっと、キスされた。

 くちびるに。

 額にキスされて、頭を撫でられて…………

 ナニ?

 ガリさんは、廊下をふんわりと歩いて行った。

 廊下の角で振り返って、私に手を振って、消えた。

 その足跡が、キラキラ光ってる感じ。

 凄く、寂しい……光。

「……どういうこと?」

「ル・アを四年間育てたご褒美に、この先一生、ハルを俺にくれ、って言ったの」

「え?」

 ニコッ、て笑う、サル・シュくん。綺麗……

「今後はずっと、俺の子だけ産んでね?」

 そんな方法が、あったのっ!

「…………もちろんっ…………もちろんよっ! あのね、リンね…………私と一緒で、どの言葉もわかるのよ?」

「すごーいっ! もっと増やそうっ! キラ・シが楽になるなっ!」

「次はいつ? 私、いつ孕むかしら?」

 すんすん。

「終わったトコだね……当たるかな?」

「当たるかしら?」

 毎日抱かれたけど、今回は無理だったみたい。

 残念。

  

 

  

 

  

 

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました