【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。150 ~雨が……酷い…………

 

 

 

 

 【ハルナ】

 

  

 

  

 

 サル・シュくんが死んだ後、何人ガリさんの子を産んだかしら……

 ル・アくんより一つ上だったリン……

 ル・アくんが笑うたびにリンを思い出す。

 でも、その顔も……サル・シュくんのあの最後の顔で塗りつぶされていく……

 地獄のそこで煮えたぎる、溶岩で作った人形のようだった……

 綺麗な頃の彼を思い出したいのに……

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 キラ・シは大陸中央の煌都(こうと)までたどり着いて、ガリさんは王帝(おうてい)を名乗った。

 雅音帑(がねど)王は殺してるし、元気な国は刎ねてまわったし……反乱はあるけれど、敵はない感じ。

 そして、いつのまにか、王宮からル・アくんが居なくなってた。

 あら……この柱、朱色だった? キラ・シが塗り直したかのかしら。

「ル・アくんはどうしたの?」

「何の話だ?」

 リョウさんに聞いたら聞き返された。

「ル・アくんよ。笑い声が聞こえないわ」

 いつでも明るかったル・アくん。

 憎みたかったのに、嫌いになれなかった。

 サル・シュくんが生まれ変わったみたいにいい子なんだもの……

 あんなにつらく当たった私にも、ずっと笑顔でいてくれた。

 嫌い続けて、いられなかった……

「ル・アは、去年死んだぞ?」

「え?」

「コクソウ(国葬)もあげた。ダイサンオウジのツイトウとして、カッコクから使者が来ていた。

 それをさばいたのはハルだぞ?」

「あら…………そうなの……」

 記憶にないわ。

 記憶になくても働けていたのならいいけれど……

「百石を投げないといけないわね……」

「誰にだ? まさかハルにナニカしたのものがいるのか?」

「ル・アくんに、百石を投げないと…………嘘をついたわ……ねぇ……百石を投げるのってどうするの?」

「ハル、ル・アは死んだ」

「ル・アくんを探してよ。せめて正座させましょう。一年ぐらい」

「ハル……」

「あの子のためにサル・シュくんとリンが死んだのにっ!」

 どうして雨はやまないの?

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 紅渦(こうか)軍という反乱軍が出たんですって。

 東南から北に向かって、賀旨(かし)の史留暉(しるき)王子を皇太子として担いだんですって。

 キラ・シも、羅季(らき)の皇子様を即位させて、立ち向かったの。

「こちらにも皇子様がいるじゃない」

 そう言ったのは、私。

 キラ・シは『皇子』がナニカ、いまだによく分かってなかったから。

 でも、残念ね……

 紅渦軍がこの王都を、囲んでるんですって……皇子様、意味なかったわね。

 残念ね……

 雨が……酷い…………

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 ガリさんが、私を馬に乗せた。

 馬の嘶き。

 青い、空。

「リョウ、ハルを頼むぞ」

 リョウさんが、後ろに、乗った、けど…………

「ガリさんは?」

 寂しい後ろ姿……、そう思ったら、振り返ってくれた。

 戻ってきてくれて、馬の上の私に手を伸ばしてくれた。

 かがむと、頬を撫でてくれて、くちびるに、キス。

「最後に、ハルの声が聞けて良かった」

 最後?

 どうして?

「明後日が孕み日なのにな…………残念だ」

「生き残ってくれればいいのよ」

 ガリさんが少し目を見開いて、笑った。

 馬が……走り出す……

 青い空に、向かって。

「どうしてっ! どうして最後なのっ!」

「黙ってろ、ハル。舌を噛むぞ」

 ガリさんは、腕を組んで私達を見送っていた。

 笑っては、いたけど……

 左目を閉じてた。

 体中に包帯をまいていた。

 戦が……あったのね…………

 雨の中で出陣してたのね……

 副族長を、逃がすのね……

 キラ・シを、存続させるために。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 日が落ちたころ、煌都の外壁の河で馬を下りた。

 奉山(ほうざん)からあふれて、お城の下を抜けて、国境を超えた辺りで北からの流れと合流し、六カ国を通って海に出る大河。

「ここを泳ぐの? どこまで?」

「生き延びるまでだ」

 リョウさんは、右腕が、なかった。まだ血がにじんでる怪我だわ。

「外は、両側に紅渦軍の援軍が陣を張って、脱出者を見張っている」

「ガリさんは、左目、」

「紅渦軍の矢でやられた。あいつも、長くない」

「どうして?」

「もう、体が駄目になっている。47だからな……よく生きた」

 47? サル・シュくんが死んだのは19よね? ガリさんも、リョウさんも、12才上だった筈……16年も……経ってるの?

 水に映った私の顔はげっそりやせて……おばあさんみたいだった。

  

 

  

 

  

 

 逃げ延びることは、できた。

 水車小屋にもぐり込んで、戦禍は過ごせたみたい。

 でも、リョウさんはもう、駄目みたい。

 毒矢だったんですって。手が腐ったから、切り落としたんですって。

 リョウさんは……その水車小屋で腐ってしまった。

 私は、賭けに出た。

  

 

  

 

  

 

 

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