砂漠のナガシュ国、暑い!!
キラ・シでも肌の黒いほうの人達はうろうろしてるけど、シル・アさんとか、もう庭の池から離れない。
ナガシュ王宮の正面玄関の奥は、常に影になるようになってる。そこに、大きな池があるんだ。オアシスの水が直接出てるみたい。そこから水路がお城のあちこちに延びてる。玄関の正面にも水がたまるようになってて、気化熱で少し涼しいし、出入りする人がまずそこで体を濡らして一息つける憩いの場。それがまた町に流れてあちこちで池を作ってる。
凄い水利システムなんだけど、王宮に水利権を押さえられてる状態、ってことだよね、これ。
手前の池でも、お風呂がわりにキラ・シが使うから一瞬で泥水になって、町の人達に悲鳴が上がったらしい。だよね、ここって汚さないように使うよね。
とりあえず、そこだけ五度は涼しい。みんなそこで、中天辺りは丸太みたいに転がってる。
キラ・シにも町で水を浴びてくるように言ったから、王宮池は泥水ではなくなった。綺麗にした後、みんなつかってるけど……
キラ・シの戦士の出汁がこの町に行き渡ってると思うとちょっと申し訳ないけど、入るな、って言ったって無理だし……私も入りたいし。もちろん、台所とかは別に水路作ってるから安心! それは確認した。王族用の池は奥にあるから私はそれ使ってる。
羅季(らき)のお風呂に入りたい……
羅季はどうも、近くに山があるから温泉があったみたい。
温泉いいよねー、と、思うようになるとは、おもわなかったなー。
池に手を突っ込んでるリョウさん発見。
「リョウさん、山への往復は何カ月位かかるの?」
ガリさんが先月山に向かったけど、いつぐらいに帰ってくるのかな?
「四カ月だな。あちらで新年をしてくるから、一か月多めに見てる」
『今回』は、車李(しゃき)からナガシュに移動したときに、既にガリさんは居なかったんだ。
だからここに来たのはリョウさんの判断ってことになる。
『戦って、したくないんだ?』
『しなくていいなら、しないのが一番だ。他の部族を何人殺そうが、キラ・シが一人減る方が痛い』
リョウさんもそう言ってた。
だから、本当ならリョウさんもこんな所に来たくはなかったんだよね。
『今回』は実は、ちょこちょこ攻撃してくるナガシュに、リョウさんが一番腹を立ててたんだ。
「キラ・ガンみたいで腹が立つっ!」
って理由だった。
元キラ・ガンのサガ・キさんが苦笑してたな。
「シロを盗る気もないのに、戦えない奴を何十人も殺していくっ! なんなんだあの部族はっ!」
「オアシスの取り合いみたいだから。全員殺して、自分ところの人を住まわせたいんだろうね」
キラ・シの中でも黒い人達は、この砂漠を結構平気で駆け抜ける。だから、オアシスを『制圧』してるんだ。
サガ・キさんとかのキラ・ガン組もかなり黒い。そして、ゼルブも砂漠系の人がけっこういて、ここらへんは彼らの縄張りといっても過言ではない感じ。特にゼルブはラクダも乗れるから。
ラクダは攻撃力がないから、キラ・シの戦士は嫌がるんだよね。それはキラ・シの馬の戦闘能力が高すぎるからであって、ラクダってこっちの馬より強い。
キラ・シの馬に勝てる野生動物なんてこの大陸にはいないので、それを捨ててラクダにのるのはイヤだろうと思う。熊にも引かない馬、っておかしい。草食獣の癖に……
本当にキラ・シって、全部が全部を駆逐する『外来種』でしかないよね。
繁殖力も凄い。
たとえるなら、キラービーとかヒアリみたいな感じ。私は外来種側だからいいけど、大陸の人達からすると恐怖以外の何者でもないよね。
『制圧』を一度されたら、危険じゃないってわかるみたいだけど、噂だけ聞いてたら怖いよね。
キラ・シってすぐに布の服に着替えたのに、『毛皮を身にまとっただけの蛮族』って言われることがある。女の人を犯してさらって食べてるとか、普通に言われてる。
この大陸自体で『蛮族は人を食う』って先入観があるみたい。
羅季の北にあった紅隆(こうりゅう)って国が、『人食いの国』。毎回サル・シュくんが怖がる国だよね。『前』私とサル・シュくんもあそこで食べられた。今回は、北は覗くだけにしたほうがいいよ、って言ったから、覗くだけ覗いて、慌てて帰って来て震えてた。
紅隆は、ずっと政治が悪かったけど、100年ぐらい前に、ついに王族が全部殺されて、貴族も逃げたか殺されるかして、『統治する人がいない』状態らしい。山はまだ緑だけど、全体に荒野で、『とにかく気持ち悪い』ってことで、空白地になってる。山賊とかも怖がって近づかないらしい。ただ、あの『餓鬼』は出て行かないから、放置されてるって。『現世の餓鬼地獄』、地獄の蓋が開いてる、とか言われてる。
400年ぐらい前までは、大陸から何度も、キラ・シがいる西鹿毛(さいかげ)山脈踏破のために旅団が出てる。その入り口が紅隆。だから、そのころは、煌都(こうと)から人がどんどん来て、車李(しゃき)みたいに流通の要で、賑わってたらしい。
でも、煌都でも曜嶺(ようれい)皇帝に力がなくなって、踏破に力を割けなくなったんだって。そして、『流通の要所』だっただけだから、とたんに廃れたって。
多分、キラ・シにたどり着いたのが、その最後の踏破組の人だったんだろう。
山に入るのなんて、そんなにおおごとじゃないように思えるけど、拠点の国が流通で栄えるほどって、大軍団で山を捜索したんだろうな。それでも、キラ・シの山までたどり着いたのは一人。キラ・シってどんだけ山奥に住んでるの?
片道二カ月ってそりゃ遠いけど、そんな大軍団がたどり着けない距離なのかな?
たしかに、凄い崖を二つ下りたけど……今回は殆ど起きてたから、日数も大体わかった。
私が山の中で拾われてから一か月位で羅季にたどり着いたんだ。
一か月も、覚悟無くあんな生活させられたら、そりゃ死ぬわ。だから、筋肉痛も、山の中できて、山の中で慣れちゃうんだよね。その分筋肉できたから、羅季についたときは『現代』より少し元気だったんだ。
そのせいで脂肪落ちて凄い痩せたから、とにかくみんな私を心配してくれてた。
あそこからもう一か月奥に行くんだ?
「一度見てみたいな、キラ・シの村」
「ハルを連れては、サル・シュでも登れんだろうなぁ……」
リョウさんが、ため息をつくように頷いた。
「サル・シュくんも危険じゃない?」
「あいつが死ぬなら、他の奴はもっと死ぬ」
なんなんだろう、この凄い信頼感って。
サル・シュくんって完全に『変』を逆手に取ってるよね。
サル・シュくんとガリさんが帰って来たっ!
二人とも、ナガシュの最初の池で水を飲んで倒れちゃったみたい。ショウ・キさんとリョウさんが抱えて連れてきてくれた。一番涼しい、王宮池のそばに並べて、濡れた布を掛けた。なんか人数多いのは、降りたい人をまた連れてきたらしい。
布でぐるぐる巻きになってたのに、顔とか腕とか赤い……痛そう……
父さんがこれぐらい赤くなったら悲鳴上げてたよね。
蜂蜜と塩とを混ぜた水を口に注ぐと、起きないのにゴクゴク飲み込んでくれて安心する。
砂漠に入るから、キラ・シには、黒砂糖と塩の塊を持たせてるの。黒砂糖は覇魔流(はまる)の特産。塩は、詐為河(さいこう)東の土を削ったもの。煮出すと、白い塩の結晶だけがとれるけど、キラ・シが普通に土の塊のまま呑み込んだから、そのまま持たせてる。
キラ・シには、あの土、おいしいらしい。
久々に蛮族、って思ったな。
まぁ、ミネラルとか、凄いあるから、そういうのを感じるんだろうね。土って、体の中で、どういう扱いになるんだろう? うんこで出るの? 元は……岩だよね?
キラ・シの山では岩塩削って小袋で持ってたって。ピンク色のあの塩、おいしかった……
キラ・シは運動量が凄いから、汗も凄くかく。だから、塩をとにかくよく舐めてる。そこに蜂蜜を足したのは私の案。
スポーツドリンクみたいにしたほうがいいと思ったから。蜂蜜も黒砂糖も高価だけど、砂糖のほうが若干安いから、普通は砂糖使ってる。
梅みたいな果物があったから、梅干しにしてみた。紫蘇と塩と混ぜただけだけど、凄い勢いでみんな食べてくれる。役に立てた感が凄い!
「ねぇリョウさん。これ、もうちょっと甘い方がいいかも。どうせ二人とも、しばらくご飯食べられない……だろう……し…………」
誰かが私の袖を引っ張った。
誰かって、そこにはサル・シュくんしかいない。
「……ハル……だー…………」
蚊が鳴くような声。
でも、輝くような笑顔。
「お帰りなさい、サル・シュくん」
キスしたら、もっと嬉しそうに笑ってくれる。かわいーっ!
「……あのね……あのね…………ハルね……」
サル・シュくん、疲れすぎて子供みたいな口調になってる。かわいすぎる。食べちゃいたい。
神様ありがとうっ! 私の天使は今日もかわいいです。
「……今後ずっと………………俺のだからね……」
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