【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。161 ~通詞はできても~

 

 ル・ア君を迎えに行ったくせに、ル・ア君を山の中においてきたとか、サル・シュくんが言ってて、同行したガリさんも全然気にせず制圧行ってしまってて、リョウさんだけが、ル・ア君を迎えに行くために、ショウ・キさんを派遣してくれた。

 そのショウ・キさんたちがル・アくんを連れて帰って来たわ! さすがショウ・キさん、長老!
 ナガシュにたどり着いたル・アくんは、やっぱり毛布の中で失神してたから、池のそばに寝かせた。
 凄く頑丈に守ってくれたみたいで、火傷はしてない? かな? どこも赤くなってない。
 ナンのほうが美人だけど、ル・アくんもかわいい……本当にル・マちゃんにそっくり! 
 みんながル・アくんをじゅんぐりに見に来て、手を打ち合わせたり、ガッツポーズをしたり、なんか、凄く喜んでる。ねぇ。なんか、眠ってるだけなのに『いいこ』オーラ出てるの、凄いわよね。なんなんだろうこの、『僕は純粋培養です』ってカンバンかけてる感じ。かわいい。
 ル・アくんの火照りが冷めたみたいだから、サル・シュくんが部屋に連れて行った……けど、その部屋に女の人四人ぐらい入ってった……

 ナニシテルノ?

 出てこない。女の人たち出てこない。

 何か幼児が会って入ったわけじゃないのね。そうなのね。
 ああ……夕羅(せきら)くんのあの口説きかたはサル・シュくんの真似なのね。納得したわ。
 出てきたル・アくんが、池でぱちゃぱちゃ、水浴びしてる。

 キラ・シはみんな、噴水の池に全身ザブンとつかっちゃうのよ。お風呂みたいに。そして、びしょびしょのまま歩き回るから、もう……なんか、女官さんが必死で雑巾持って走り回ってる。いちいちはいつくばるの大変そうだから、『モップ』を作ってみたの。凄い感謝されたわ。今度は羅季でもモップ作ってみよう。とにかく、そうやってずっと拭いてるけど、池のそばはびしょびしょ。

 ル・ア君は静かにぷかぷか浮いてた。
「おはよう、ル・アくん」

 声をかけたら、私が驚くぐらい、ピシャンッ、と起き上がった。

「私、ハルナよ。よろしくね」

 まっっっすぐに私を見るその目が、ル・マちゃんそっくりっ!

「サル・シュのハル! わぁっ! ル・アだよっ! 俺の方こそよろしくっ!」
 相変わらず、すっっっっごい、いい子! ってのが見てるだけでもわかるいい子。すごーいっ! かわいいっ!
 両手を挙げて、顔一杯に口を広げて、サル・シュくんとル・マちゃんを足して3掛けたぐらいぴかぴかしてる。
「ハル、ル・アに城の中のことを案内してやってくれるか?」
 伝令を捌きながら廊下を空いていたリョウさんが、一言言ってそのまま歩いて行った。いつものこと。

 ル・ア君の頭がリョウさんを追い駆けてぐるっと回る。つむじをつつきたい!

 キラ・シって本当にマッックロ髪だから、つむじが白くて星みたい。
「誰?」

 振り返って、私を見上げて、質問。

 あっちむいたまま私にしゃべりかけたり、しないのよね。いい子。
「キラ・シの副族長リョウさん……リョウ・カさん。リョウ叔父さん?」

 あのサル・シュくんが、ひとの紹介ってどうやって名前出してるんだろう?
「リョウ叔父さんっ! サル・シュのっ!」

 それか!

 まぁ、いつも『リョウ叔父、リョウ叔父』って呼んでるから、それは聞いてるわよね。
「そうそう」
 ぴかっと笑う、本当にかわいい。
 目はル・マちゃんより少し細いけど、ガリさんと同じ、大きくて切れ長。ナンも『なぜなぜ』凄かったけど、この子も興味の塊ね。
「ル・アくんも白いわね。日差しに気をつけなきゃね」
「それは言われた。サバクに入るときにぐるぐるまきにされた」

 ぴっ、て、水を掛けられた猫みたいに、プルプルプルッて、顔を横に振るの。かわいい。

 さっきから私、心の中で『かわいい』しか言ってないわね。でもかわいい。

 なんていうのかな? かわいい子猫がここに居る感じ。右見ても左見てもかわいいして、私を見てくれたら、骨がとけそう。
 あら、リョウさんが戻ってきた。両手を広げるキラ・シ礼をしながら、噴水のそばに立った。ル・ア君も、水の中で立ち上がって、キラ・シ礼。
「寝ている顔を何度も見ていたから、初対面の気がしなかった。キラ・シの副族長のリョウ・カだ」
「わぁっ! 忙しいところありがとうっ! サル・シュから話は聞いてたよっ! ル・アだよっ! 会いたかったっ!」
 ホントにいい子。
 リョウさんも目頭を押さえてる。
 最近、グア・アさんとシル・アさんの非道ぶりが際立ってきたから、ガリさんの跡継ぎも終わりね……って見方をされてたのよね。
 二人とも、すごく貪欲なの。グア・アさんは女性、シル・アんは光り物。死体からでもアクセサリを盗るから、凄くキラ・シの戦士に嫌われてるのよね。どれだけリョウさんとかガリさんが注意しても直らないのよ。誰も見てないと思ってるみたいだけど、キラ・シの監視社会を舐めてるわね。
 雅音帑(がねど)王がいたら、キラ・シを裏切った二人。今はゼルブが見張っていてくれてるからか、どこの王様とも仲良くはしてない。元々が、雅音帑王ぐらいしか、『キラ・シを利用しよう』とはしてなかったからかもしれない。
 あの人は、本当に頭のよい人だった。

 先進的で、革新的で、車李の王としては、希代の名君だったわ。キラ・シを利用仕様とさえしなかったら、毎回殺すなんてこと、してなかったんだけどな……
 『今回』は似顔絵をキラ・シ全員に渡して、確実に首を持ってきてくれるように頼んだの。ガリさんの『山ざらい』で潰されてたわ。あんなに安心したことはなかった。

 頭の良い敵は邪魔なのよね。もう、そこらへんで同情とか、なんとか、ない。
 池を出ようとしたル・アくんの頭をリョウさんがクン、とかいだ。
「もっと髪を洗え。匂いが残っている」
「そうなの? わからないよ。どんなにおい?」

 あら珍しい。キラ・シって、においをあんまり気にしないのに。
「女のにおいだ。子供がそんなもの振りまくな。危ないから」

 女の人の香水かしら? 頭まで水に使ったのに、残ってるものなの? キラ・シにしかわからないニオイ? 私にはわからないわ。

 ル・ア君が池の中で、頭をゴシゴシ洗ってる。というか、頭まで沈んで、水中で頭を洗ってる。
 マキメイさん達がル・アくんの着替えを持ってきてくれた。
「女官と言って、色々な世話をするためにいる女達だ。黙ってされていろ」
「世話? 女の人が男の世話をしてくれるの? どうして?」
「他の国でもこうだった。『下(大陸)』はそういう仕組みらしい」

 リョウさんも、そこらへんはっきりわかってるわけじゃなかったのね!

 いつでもキラ・シは、女の人に世話を焼かれるの、あまり好きじゃないものね。
 しゃべってる間も、リョウさんに伝令は何人も来てた。
「まぁ……ル・マ様のお子さまですかっ!」
 マキメイさんが、床に膝をついてル・アくんを覗き込んだ。
「マキメイさんよ、ル・アくん。ル・マちゃんのお友達だったの。キミが産まれたとき、ル・マちゃんが死んだとき、いてくれたのよ」
「友達だなんて滅相もない。わたくしは使用人でございます! ただ……本当にそっくりでいらして………………懐かしくて……」
 マキメイさんが泣いちゃったから、私も止められなくなった。だよね。私も、二回目でも胸がつまるわ。
「マキメイ。ル・アだよ。よろしくね!」
「ご丁寧にありがとうございます。女官長のマキメイでございます。なんでもおっしゃってくださいませね! なんでもご用意いたしますから! まず、池を出ていただけますか? 体をお拭きしましょう」

 女の人三人が仮で全身を拭かれて、ル・ア君、万歳のまま凍りついてる。私を見て、リョウさんを見て、ギュウッ、ってかみしめてた。くすぐったい?
 ル・アくんが全部服を着付けられた頃、リョウさんは誰かと話をしてた。
 少しここに立ち止まっていただけなのに、キラ・シの戦士たちが何人も走って来て、指示を受けて走って行く。どこのお城でもある、リョウさんの『伝令溜まり』。
「忙しそうだね。俺のことはいいよ?」

 服の様子にはしゃぎながら、ル・ア君がリョウさんの前に立つ。必死でリョウさんの顔を見上げてる。腰から曲がってて、背筋強くなりそうな感じ。私もさいしょ、リョウさん見上げすぎで肩こりきたもんな。
「いや、今が一番暇だ。
 ……というより、ル・アと話がしたい。ガリの息子は俺の息子だ。健やかに育ったようで、安心した。サル・シュがつかず離れずでは大変だっただろう」
 そう思ったなら止めてほしかったわ……
「みんなそれを言うね。サル・シュってやっぱり変なの?」
 やっぱり……? そりゃ、サル・シュくんがあのままなら『変』のままよね。
「リョウさん、私、地図の方にいるね?」
「ああ、ハル。頼む」
 一応、ル・アくんの部屋を覗いてみた。サル・シュくんが女の子たちの真ん中で寝てる。
 本当に元気ね……
 

 

 地図の前で戦士と話してたらル・アくんが歩いてきた。私を見てニパッ、と両手を上げるから、私も手を上げて迎える。
「あとはハルに聞け、って言われた」
「……そう? ナニを聞けって?」
「なんでも」
 リョウさん……あと一%、脳筋じゃない部分を働かせて!
「ハルはなんでも喋れるけど、言葉を教えることはできないから、って。どういうこと?」
「私ね、どの国の言葉でも、理解できるし喋れるんだけど、私の耳にはどの国の言葉も一緒に聞こえるから、通詞(通訳)はできても教えてあげることができないの」
「……どういうこと?」
「不思議よねぇ」
 私を見上げていたル・アくんが、私の後ろを見て両手を上げた。
「ヨウヨウっ!」
「ル・アっ! 起きたんだっ!」
 そういえばル・アくんが誰かさらってきた、って言ってた。この子? 穏便じゃないわよね、このル・アくんがそんなことする?
「ヨウヨウだよ、ハル。ハルダヨ、ヨウヨウ」
 ん? ル・アくん、後半が片言? 
「もしかして、その子とキラ・シ語以外で喋ってる?」

 

 

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