ル・ア君を迎えに行ったくせに、ル・ア君を山の中においてきたとか、サル・シュくんが言ってて、同行したガリさんも全然気にせず制圧行ってしまってて、リョウさんだけが、ル・ア君を迎えに行くために、ショウ・キさんを派遣してくれた。
そのショウ・キさんたちがル・アくんを連れて帰って来たわ! さすがショウ・キさん、長老!
ナガシュにたどり着いたル・アくんは、やっぱり毛布の中で失神してたから、池のそばに寝かせた。
凄く頑丈に守ってくれたみたいで、火傷はしてない? かな? どこも赤くなってない。
ナンのほうが美人だけど、ル・アくんもかわいい……本当にル・マちゃんにそっくり!
みんながル・アくんをじゅんぐりに見に来て、手を打ち合わせたり、ガッツポーズをしたり、なんか、凄く喜んでる。ねぇ。なんか、眠ってるだけなのに『いいこ』オーラ出てるの、凄いわよね。なんなんだろうこの、『僕は純粋培養です』ってカンバンかけてる感じ。かわいい。
ル・アくんの火照りが冷めたみたいだから、サル・シュくんが部屋に連れて行った……けど、その部屋に女の人四人ぐらい入ってった……
ナニシテルノ?
出てこない。女の人たち出てこない。
何か幼児が会って入ったわけじゃないのね。そうなのね。
ああ……夕羅(せきら)くんのあの口説きかたはサル・シュくんの真似なのね。納得したわ。
出てきたル・アくんが、池でぱちゃぱちゃ、水浴びしてる。
キラ・シはみんな、噴水の池に全身ザブンとつかっちゃうのよ。お風呂みたいに。そして、びしょびしょのまま歩き回るから、もう……なんか、女官さんが必死で雑巾持って走り回ってる。いちいちはいつくばるの大変そうだから、『モップ』を作ってみたの。凄い感謝されたわ。今度は羅季でもモップ作ってみよう。とにかく、そうやってずっと拭いてるけど、池のそばはびしょびしょ。
ル・ア君は静かにぷかぷか浮いてた。
「おはよう、ル・アくん」
声をかけたら、私が驚くぐらい、ピシャンッ、と起き上がった。
「私、ハルナよ。よろしくね」
まっっっすぐに私を見るその目が、ル・マちゃんそっくりっ!
「サル・シュのハル! わぁっ! ル・アだよっ! 俺の方こそよろしくっ!」
相変わらず、すっっっっごい、いい子! ってのが見てるだけでもわかるいい子。すごーいっ! かわいいっ!
両手を挙げて、顔一杯に口を広げて、サル・シュくんとル・マちゃんを足して3掛けたぐらいぴかぴかしてる。
「ハル、ル・アに城の中のことを案内してやってくれるか?」
伝令を捌きながら廊下を空いていたリョウさんが、一言言ってそのまま歩いて行った。いつものこと。
ル・ア君の頭がリョウさんを追い駆けてぐるっと回る。つむじをつつきたい!
キラ・シって本当にマッックロ髪だから、つむじが白くて星みたい。
「誰?」
振り返って、私を見上げて、質問。
あっちむいたまま私にしゃべりかけたり、しないのよね。いい子。
「キラ・シの副族長リョウさん……リョウ・カさん。リョウ叔父さん?」
あのサル・シュくんが、ひとの紹介ってどうやって名前出してるんだろう?
「リョウ叔父さんっ! サル・シュのっ!」
それか!
まぁ、いつも『リョウ叔父、リョウ叔父』って呼んでるから、それは聞いてるわよね。
「そうそう」
ぴかっと笑う、本当にかわいい。
目はル・マちゃんより少し細いけど、ガリさんと同じ、大きくて切れ長。ナンも『なぜなぜ』凄かったけど、この子も興味の塊ね。
「ル・アくんも白いわね。日差しに気をつけなきゃね」
「それは言われた。サバクに入るときにぐるぐるまきにされた」
ぴっ、て、水を掛けられた猫みたいに、プルプルプルッて、顔を横に振るの。かわいい。
さっきから私、心の中で『かわいい』しか言ってないわね。でもかわいい。
なんていうのかな? かわいい子猫がここに居る感じ。右見ても左見てもかわいいして、私を見てくれたら、骨がとけそう。
あら、リョウさんが戻ってきた。両手を広げるキラ・シ礼をしながら、噴水のそばに立った。ル・ア君も、水の中で立ち上がって、キラ・シ礼。
「寝ている顔を何度も見ていたから、初対面の気がしなかった。キラ・シの副族長のリョウ・カだ」
「わぁっ! 忙しいところありがとうっ! サル・シュから話は聞いてたよっ! ル・アだよっ! 会いたかったっ!」
ホントにいい子。
リョウさんも目頭を押さえてる。
最近、グア・アさんとシル・アさんの非道ぶりが際立ってきたから、ガリさんの跡継ぎも終わりね……って見方をされてたのよね。
二人とも、すごく貪欲なの。グア・アさんは女性、シル・アんは光り物。死体からでもアクセサリを盗るから、凄くキラ・シの戦士に嫌われてるのよね。どれだけリョウさんとかガリさんが注意しても直らないのよ。誰も見てないと思ってるみたいだけど、キラ・シの監視社会を舐めてるわね。
雅音帑(がねど)王がいたら、キラ・シを裏切った二人。今はゼルブが見張っていてくれてるからか、どこの王様とも仲良くはしてない。元々が、雅音帑王ぐらいしか、『キラ・シを利用しよう』とはしてなかったからかもしれない。
あの人は、本当に頭のよい人だった。
先進的で、革新的で、車李の王としては、希代の名君だったわ。キラ・シを利用仕様とさえしなかったら、毎回殺すなんてこと、してなかったんだけどな……
『今回』は似顔絵をキラ・シ全員に渡して、確実に首を持ってきてくれるように頼んだの。ガリさんの『山ざらい』で潰されてたわ。あんなに安心したことはなかった。
頭の良い敵は邪魔なのよね。もう、そこらへんで同情とか、なんとか、ない。
池を出ようとしたル・アくんの頭をリョウさんがクン、とかいだ。
「もっと髪を洗え。匂いが残っている」
「そうなの? わからないよ。どんなにおい?」
あら珍しい。キラ・シって、においをあんまり気にしないのに。
「女のにおいだ。子供がそんなもの振りまくな。危ないから」
女の人の香水かしら? 頭まで水に使ったのに、残ってるものなの? キラ・シにしかわからないニオイ? 私にはわからないわ。
ル・ア君が池の中で、頭をゴシゴシ洗ってる。というか、頭まで沈んで、水中で頭を洗ってる。
マキメイさん達がル・アくんの着替えを持ってきてくれた。
「女官と言って、色々な世話をするためにいる女達だ。黙ってされていろ」
「世話? 女の人が男の世話をしてくれるの? どうして?」
「他の国でもこうだった。『下(大陸)』はそういう仕組みらしい」
リョウさんも、そこらへんはっきりわかってるわけじゃなかったのね!
いつでもキラ・シは、女の人に世話を焼かれるの、あまり好きじゃないものね。
しゃべってる間も、リョウさんに伝令は何人も来てた。
「まぁ……ル・マ様のお子さまですかっ!」
マキメイさんが、床に膝をついてル・アくんを覗き込んだ。
「マキメイさんよ、ル・アくん。ル・マちゃんのお友達だったの。キミが産まれたとき、ル・マちゃんが死んだとき、いてくれたのよ」
「友達だなんて滅相もない。わたくしは使用人でございます! ただ……本当にそっくりでいらして………………懐かしくて……」
マキメイさんが泣いちゃったから、私も止められなくなった。だよね。私も、二回目でも胸がつまるわ。
「マキメイ。ル・アだよ。よろしくね!」
「ご丁寧にありがとうございます。女官長のマキメイでございます。なんでもおっしゃってくださいませね! なんでもご用意いたしますから! まず、池を出ていただけますか? 体をお拭きしましょう」
女の人三人が仮で全身を拭かれて、ル・ア君、万歳のまま凍りついてる。私を見て、リョウさんを見て、ギュウッ、ってかみしめてた。くすぐったい?
ル・アくんが全部服を着付けられた頃、リョウさんは誰かと話をしてた。
少しここに立ち止まっていただけなのに、キラ・シの戦士たちが何人も走って来て、指示を受けて走って行く。どこのお城でもある、リョウさんの『伝令溜まり』。
「忙しそうだね。俺のことはいいよ?」
服の様子にはしゃぎながら、ル・ア君がリョウさんの前に立つ。必死でリョウさんの顔を見上げてる。腰から曲がってて、背筋強くなりそうな感じ。私もさいしょ、リョウさん見上げすぎで肩こりきたもんな。
「いや、今が一番暇だ。
……というより、ル・アと話がしたい。ガリの息子は俺の息子だ。健やかに育ったようで、安心した。サル・シュがつかず離れずでは大変だっただろう」
そう思ったなら止めてほしかったわ……
「みんなそれを言うね。サル・シュってやっぱり変なの?」
やっぱり……? そりゃ、サル・シュくんがあのままなら『変』のままよね。
「リョウさん、私、地図の方にいるね?」
「ああ、ハル。頼む」
一応、ル・アくんの部屋を覗いてみた。サル・シュくんが女の子たちの真ん中で寝てる。
本当に元気ね……
地図の前で戦士と話してたらル・アくんが歩いてきた。私を見てニパッ、と両手を上げるから、私も手を上げて迎える。
「あとはハルに聞け、って言われた」
「……そう? ナニを聞けって?」
「なんでも」
リョウさん……あと一%、脳筋じゃない部分を働かせて!
「ハルはなんでも喋れるけど、言葉を教えることはできないから、って。どういうこと?」
「私ね、どの国の言葉でも、理解できるし喋れるんだけど、私の耳にはどの国の言葉も一緒に聞こえるから、通詞(通訳)はできても教えてあげることができないの」
「……どういうこと?」
「不思議よねぇ」
私を見上げていたル・アくんが、私の後ろを見て両手を上げた。
「ヨウヨウっ!」
「ル・アっ! 起きたんだっ!」
そういえばル・アくんが誰かさらってきた、って言ってた。この子? 穏便じゃないわよね、このル・アくんがそんなことする?
「ヨウヨウだよ、ハル。ハルダヨ、ヨウヨウ」
ん? ル・アくん、後半が片言?
「もしかして、その子とキラ・シ語以外で喋ってる?」
コメント