”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。165 ~空中戦には不利~”


「サル・シュはそこでずっと見てたんだ。
俺は、すっっごいがんばってどうにか弦(つる)をつけたんだけど、全然飛ばなかったんだ。そしたらサル・シュが、曲げるのが逆、って」
意地が悪いわね。
「なんで先に教えてくれないんだよっ! って言ったら、三歳で勝手に弓を作ろうとする奴に言うことはない、って。お前は俺がしたことしかしない気か、って。お前のやりかたで、もっといい弓ができたかもしれないだろ、って……」
真理だわ。
「でもさ……弓の作り方なんて、キラ・シがずっとやってきて、一番いい弓の作り方、知ってるだろ? なら、それを教えてくれたらいいと思わない?」
「思う」
「だよねっ!
サル・シュは魚とらないから、そういうのは俺が考えるよ。教えてもらえないし! でも、弓の作り方は教えてくれていいだろっ! たくさんで集まって生きてる意味がないじゃないかっ! 俺が竹を反対に曲げてたのをがんばってた時間で、いまの弓をもっとよくしたほうがよくない?」
「絶対その方がいいわよ」
この子も本当に凄いわ。
「私も、ナンによく、自分で考えなさい、って言うわよ?」
「そうなの? 今、ハルは一度も言わなかったよ?」
「その、『弓の作り方』みたいに、みんなが知ってること、はさっさと知った方がいいでしょ? そこは、私もル・アくんと同じ考え方だわ。
でもね、ル・アくん自身が考えなきゃいけないことは、私が教えることはできないの」
「俺自身が考えること?」
「ヨウヨウ君を、どこまでキラ・シと連れて行くのか、とか」
「……あぁ……」
「ル・アくんが連れてきたんだから、ヨウヨウ君の今後は全部ル・アくんの責任なの。私達がどうこう言えることじゃないのよ。山なら、子供をさらえば戦になるって言ってたわ。羅季(らき)とキラ・シが戦になることも考えてヨウヨウ君を連れてきた?」
ル・アくんが真っ青になったあと、首を横に振る。
「ね? そういう、『しては駄目なこと』は全部先に教えてあげられるの。
ル・アくんが羅季(らき)城にいって、ガリさんたちと移動したら、ヨウヨウ君を連れて来なかったよね?」
こっくり。
「どうして、羅季(らき)城に寄らなかったの?」
「待ち合わせ場所なんて聞いてなかったし……」
「待って? 朝起きたらあの城に行く、とか言われたわけじゃなかったの?」
「なんにも言わなかったよ。夜明け前に起きたらもう誰も居なかったんだもん!」
……あの二人は…………わざとル・アくんを迷わせる気だったんじゃないの? それは。
「あそこらへんでうろうろしてたらヨウヨウに会って、あっち、って言われたから、そのまま走ってきた」
ル・アくんが昼前まで寝てたのかと思ってたけど……違うじゃない。
「とにかく、先に、してはいけないことは教えてあげられるから。
今みたいに、日の下に出ちゃ駄目、とかはね。それ以外は、みんな、自分で考えてるの。
ただね、ル・アくんが考えないといけないことは、自分で考えなさい、って私もサル・シュくんもリョウさんも言うから、まずは聞いてみて。本当に駄目なことは止めてあげられるから。
多分私も、ル・アくんが弓を作ってたら、最後まで何も言わずに見てるかも」
「そうなのっ! どうしてっ?」
「面白いから」
そうよね。『弓を作る』自体はナニをしてるのか想像つかないけど、こんな子が必死にナニカしてたら、私もじっと見てると思うわ。
ふくれた頬をつついたらもっとふくれた。かわいーっ!
「もうっ! サル・シュみたいなことしないでよっ!」
そうよね。子供ってこうされるのいやよねー。ふふふ……かわいいっ!
そろそろル・アくんが爆発しそうなので、練兵場に二人で行った。
大人も子供も一緒になって鍛練してる。
サル・シュくんが柔軟体操してた。これも私が教えたんだけど、やってる人あんまりいないのよね。ル・アくんも、一緒にやりだした。教えてあげてたんだ? まぁ! 180度足が開くのね。
「おーっ久々ーっ!」
ル・アくんを眺めてだらけてたサル・シュくんが、そこにあった銅剣を持ってリョウさんのところに駆けていく。
「ル・アくんも、その銅剣で……この子と、あの影でやりあって」
「なんで刀じゃないの?」
「それだったら、思いっきり打ち合って、折れてもいいから」
「ふーん……折っていいんだ?」
最初から折る気!
山では鉄剣で鍛練してたのね。
ちょうど走ってきた子供たちと送り出した。
「ル・アだよーっ!」
ル・アくんは元気よく、そこらへんの子供に挨拶して切りかかって………………あらあらあら……
本当に、全然格が違うわ。銅剣で受けることもせず、全部喉元に寸止めじゃない。凄い……
というか、あの子、遠目でも凄く目立つ。
サル・シュくんとかガリさんとか、絶対人ごみに埋没しないあの感じ。カリスマ性なのかな……残念ながら、ナンにはないのよね……大きくなったら出るのかしら? やっぱりそれは、一つ下のナッちゃんのほうがあるのよね。ガリさんの子供だからかしら? ナッちゃんがリーダーになったほうがスムーズに行きそうだけど、ナンちゃんが許す訳無いって感じ。強さではまだ上だから。ナンちゃんの鍛練量、凄いのよね。
「インちゃんっ!」
ル・アくんと同じ年の、私の子供を呼び寄せる。
まぁ……切りかからせても貰えないわ……
これは……ナンちゃん一人でも駄目そう。
「ナンッ! ナツっ!」
二人を呼んだら五人が走ってくる。
私の子供五人でル・アくんを囲った。サル・シュくんに対したあのフォーメーションで。ぎりぎり……ル・アくんのほうが強い。負けてはいないけど、全然、殺せそうにない。
まぁ! ……さすがに子供でも化け物だわ……
ばてたのは、私の子供たちのほうが先だった。体力もル・アくんは化け物なのね。たしかに、サル・シュくんも、ル・マちゃんに短距離なら負けるって言ってた。
もちろん、子供だから大人よりは身が軽いんだけど、それで言うと、ナンちゃんのほうが軽い。ル・アくんは地に足をつけて戦う感じ。
というか、五対一よ! しかも、子供の中では精鋭なのにっ! ショウ・キさんだってたまに負けるのよ!
周りの戦士まで手を止めて見てる。
よく跳んでたナンちゃんが、先にばてた。ここは壁とかが無いから、空中戦には不利なのよね。大体、ジャンプは戦闘効率が高いとは言えない。ただ『不意の攻撃』になりやすいから、跳べると一撃殺できるのよね。殺せない鍛練では、寸止めできないから、ちょっと無理そう。
ナンちゃんが膝をついた時点で、ル・アくんが手を広げて下がったから、他の子もナンちゃんをかばって止まっちゃった。
本当にいい子。そこを嵩にかかって行かないのね。これを敵にもしないわよね? 敵はちゃんと殺してくれるわよね?
「ル・アくん! 疲れた? まだできる?」
「できるよーっ!」
両手を上げて笑ってる……本当に体力馬鹿!
「ル・アくんと一対一でやりたい人!」”

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