”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。166 ~ラスベガスのマジシャンみたい~”

  

 

 戦士に聞いてみたら、向こうの端でやってたリョウさんとサル・シュくんまで道ができた。ル・アくんもパッとそっちを見て、笑う。行っていい! って感じでこっちを見たから、どうぞ、って掌を向けたら、戦士たちの中を走って行った。

 リョウさんとやり合ってるサル・シュくんの方に切りかかったわ。いなされて飛び跳ねて………まぁまぁまぁ……サル・シュくんには、面倒臭い小蠅って感じね。

 ショウ・キさんならどうかしら。いないわね。

 鍛練の時間にいないのは珍しいけど、キラ・シの鍛練は『職業訓練』ではないから、したくない人はしなくていいのよね。ただ、弱くなったら『捨てられる』からみんな必死なだけで。あ、サガ・キさんがル・アくんを呼びつけたわ。まだ、サガ・キさんのほうが上……かしら? 良い勝負。これでサガ・キさんも一段と強くなりそう。

 普通、子供としたくないものだけど、あの人はそういうのも関係ないのね。

「母上っ!」

 ナンちゃん達が走ってきた。

 さっき、練兵場の真ん中で顔突き合わせてル・アくん対策してたみたいなのに。

「どうしたの? もう鍛練やめるの?」

「あいつは、飛ばないことで体力温存して迎撃だけしてるけど、ああいう敵が出てきたら、無視していいですか?」

 そう来たか。

 弱点は? とか聞いてきたら自分たちで考えなさいって言ってきたから、五人で考えて強くなってきたのよね。ル・アくんにはそういう対処か……

「私は、あなたたちになんて教えたかしら?」

「生き残ること。その次に、一人でも早く敵の数を減らすこと。キラ・シを守ること」

「だからあいつみたいに、向かって来ないのは後回し!」

「そう……それで? 鍛練ではどうするの?」

「俺たちも、父上と毎日鍛練したいです」

「ガリさんがたまに相手してくれてるじゃない」

 ガリさんも、サル・シュくんぐらいハンディくれるけど、その分、ガリさんの鍛練にはならないから、付き合ってくれる回数も低いのよね。

「サル・シュとやりたいっ!」

 サル・シュくんも同じよね。

「今のあなたたちじゃ、サル・シュくんの時間の無駄」

 ギシリ……って、歯をきしむ音が聞こえそう。

「今、どうしてル・アくんが止まったと思う?」

「ナンが……止まったから?」

「ナンちゃんは、なぜ止まったの?」

「……立って、られなくて……」

「どうして立ってられなかったの?」

「息が切れて目眩がした……から」

「なぜ息が切れたのかしら?」

「体力が、なくなった、から」

「じゃあ、次はどうするの?」

「体力をつける……?」

「走ってくるっ!」

 ナンちゃんが、練兵場の向こうまで駆けて行ったのを、他の子たちも追い駆けた。

 走り込みで体力がつく、って言うのは私がキラ・シに教えたことだけど、これもする人は少ないのよね。剣を持ってる方が楽しいから。

 体力があるにはあったほうがいいけど、それって弱点の克服であって、『生き残る』なら、強みを強化した方が良いのよね。こういう場合、どう示唆したらいいのかな?

 私も、『戦士のお母さん』は初めてだしなー。全部手さぐりは仕方ないよね。

 あら、ル・アくんがへたばったから、サガ・キさんが子供たちと駆けっこで競争してる。あの人も熱い人ね。サル・シュくんかリョウさんとやりたくて、あそこで待ってたのにね。

 ル・アくんの方も、サル・シュくんから蹴りだされていらついてる。サル・シュくんも、リョウさんとできるなら、ル・アくんとしたくないものね。

 あ……ル・アくんが、ナンちゃん達が走ってるのを追い駆けた。追い抜いた……ナンちゃんがまたイライラしてるわ…………

 起伏のある山を毎日走ってたみたいだから、平地で育った子よりいろいろ強いわよね。

『山で育てた』ってそういうのもあるのかしら?

「ナンちゃんっ!」

 そばを走ったときに呼び寄せた。

「今日じゃなくていいけど、一瞬でもいいから、ル・アくんの前に出て、二階に跳び上がってみて」

 総合体力はル・アくんに負けてるけど、空中戦ならナンちゃんのほうが上なのよね。現時点では。

 ナンちゃん、今やったわ……立てなくなって鍛練やめて、それから走り込んで疲れてる筈なのに。さすがサル・シュくんの子ね。切れた時の動きが凄いわ。

「ナンすげーっ!」

 ル・アくんが、凄いはしゃいでる。

 ナンちゃんが、下ではしゃいでる小犬を、キャットタワーの上で見てる猫みたいになってた。嬉しそう。

 ナンちゃんが下りたら、ル・アくんが真っ赤な顔をして抱きついてた。本当にいい子。

「ハルは俺のだからな」

 おんぶお化けが出た。

「ル・アくんにまで対抗心出さないで」

 すっっごい、汗がドレスに染みてくる。

「あとで敵になる奴を殺したから、生き残ったんだぞ」

 ああ……後ろから石弓された相手、殺してたの? そりゃ敵は居なくなるわね。

「あいつは、絶対、ハルを抱きたがる」

 当たってるし。

「……そんな馬鹿なことを、っていつもみたいに言わないのな。先見?」

 図星突かれた。なにげにサル・シュくん、こういうところ細かい。見上げたら、見られてた。どんどん眉間にしわを寄せていく。心の中で、その顔をなでくりまわした。

「ホントに先見で見たのっ?」

「いい男になってたわよ? ル・アくん」

「ル・アっ! ナン達! 相手してやる! 全部一緒に来い!」

 だからってそこでル・アくんをぼっこぼこにしても、何も株は上がらないんだけどナーと思ったら、対六人! で、攻撃無しっ?

 すっごい……なんか、サル・シュくんのアクロバット芸みたいになってるよ!

 ル・アくんまで……、膝をついちゃったわっ!

「どうだ、ハル!」

 ラスベガスのステージでマジシャンが挨拶するみたいに、肩の高さに両手を広げて、自慢げに最高の笑顔!。

 これは、自慢してもいいんじゃない?

 リョウさんまで腕組んで見てる……し。あ。ガリさんも廊下で見てた。

「凄い凄いっ! サル・シュくん強い! 凄い!」

 拍手できないのがキラ・シの困ったところだけど、手を振って大声上げればいいのよね。

 サル・シュくんが私を抱き上げようとしたときに、ガリさんが銅剣を持って練兵場に下りた。

 こっち向いて手招き。”

 

 

 

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