いやいやいや、ガリさん。
サル・シュくん、今いっぱい一杯よ。きっとこのまま部屋に行ったら、即行寝るわよ。
サル・シュくんも小さく「えー」って呟いたわ。
そうよね。ガリさんも、『自分の強さ』をみんなに見せたいんだ?
くたばる寸前のサル・シュくんでそれしようとするの、大人げない!
キラ・シって、ナニげに大人げないよね。
でもサル・シュくん、がんばったわ!
2分ぐらいずつで銅剣折りながら、4セットやりあったわ!
二人とも、気配ダダもレというより、全開!
ちょっと、おなか痛いからやめてほしい。
うっわ……サル・シュくんから蒸気上がってる……こんな暑いのに……
あ、サル・シュくん、視線が定まってない。もうイッちゃってる!
「ナンっ!」
振り上げたサル・シュくんの刀の方向に、ナン達がいた。
咄嗟に手を右に振ったら、ナンちゃんが周り中の子供をつかんで右に転がった。
ガリさんも、刀だけ残して、右に避けた。
ビュンッ……って、なんか、風切り音?
ガリさんの後ろの土が、ざくざくこそげてる。
サル・シュくん、『刀折り』出したんだ?
「終わりっ! 終わりよっ、ガリさんっ! サル・シュくん止めて! リョウさんっ! サガ・キさん! サル・シュくん寝かせて!」
リョウさんとサガ・キさんに頼んだのに!
ガリさんが、刀の塚でサル・シュくんのおなか殴った!
それ、三日はご飯食べれないモードだよっ! もうっ!
倒れるサル・シュくんを抱き上げて、ガリさんが廊下を歩いてく。
ッッッあの人はっ!
「母上っ、今、父上どうしたのっ?」
「本気でガリさんを殺しにかかったのよ……」
「どうして?」
「相手が強すぎると、サル・シュくん、『凶つ者』に乗り移られるの」
ル・アくんが、一番真っ青な顔、してるわ。
サル・シュくんが直々に言ったのかしらね。
「ああなったら、あなたたちも、彼を、殺すつもりでかかりなさい。とにかく、寝かせるの」
「父上を? 無理だよ!」
「無理なら、あなたが殺されるのよ、ナンちゃん。
凶つ者は、殺さないと、世界が滅びるの」
まぁ、今止まってたから、本気でそんなことになってはいなかったと思いたいけど……
「ル・アくんは、聞いてた?」
こっくり、と頷くル・アくん。
「ああなったら近くの奴らを殺していくから、そうなるまえに俺を殺せ、って……」
本当に言ってたのね、サル・シュくん。
「母上……これ、地面がえぐれてるけど、父上の剣? ここまで、届いてないよね?」
「サル・シュくんの『刀折り』よ。刀が届かない先まで切れるの。
だから、本気を出したら、ここらへんの全員を一振りで殺せるわ。留枝(るし)のお城で、20人ぐらい一振りで殺したって言ってた」
ここで話を終わらせたかったんだけどなー。
「父上も、そんな技持ってるって、サル・シュが言ってた」
ル・アくんが、ぶち込んできたわ。
こうなったら、説明しないと仕方ないじゃないのっ!
「ガリさんのは『山ざらい』って言って……少なくとも三千人ぐらい、一振りで殺せるわ。お城も潰せるしね」
『サル・シュ強い』で終わらせたかったのに! 本当に、ル・アくんって策士ね。
そして、ガリさん大好きね。サル・シュくんに育てられたのに。彼がル・アくんに、ガリさんの凄さを吹き込んだのね。確かに、ココで育ったら、ガリさんのいいところなんて子供はなかなか見られないから、いい教育なのかしら?
父親を尊敬できるっていいことよね。
「リョウさん、休んでるなら、車李(しゃき)落城のときのこと、子供たちに話してあげてもらっていいかしら?」
おうっ! って元気よく返事してくれたから、私は部屋に戻った。
ガリさんが階段を降りてくる。
まわりに、誰もいない。
ひっぱたいてやりたい。
あんなところで、サル・シュくんにあんな技を使わせるなんて。もっと早くに止めてくれれば良かったのに!
「すまなかった」
ガリさんの方から、謝って、くれた。
「なにが?」
「技を出させてしまった」
わかってるのなら、いいわ……
「子供たちが居るところで、『山ざらい』を見せてあげてくれる? すっごい、窮地の時に……あ、もちろん、ガリさんは生き残ってよ!」
ゆったりとガリさんが頷く。
サル・シュくんにカルシウムの高いもの食べてもらわないと……干物がいいかしら? ここらへんは魚も、詐為河(さいこう)よりおいしいはずだけ……
降りてきたガリさんとすれ違いざま、抱き締められた。
頭を掴まれて……キス……ディープっ!
「来世は、必ず俺のものにするぞ」
勘弁してください……
部屋まで抱いて連れて行かれて、ベッドに下ろされた。
本当に、腰が抜けた。ガリさん、諦めたんじゃなかったのっ!
サル・シュくんが子供みたいな顔して寝てる。あ、吐いたわね。凄い汗……手のマメがつぶれてるわ……
あ、それより私、うがい……
ガリさんにキスされた口でサル・シュくんにキスでき……ない……
一晩中噛みつかれた……
この暑いナガシュで首にもマフラーって……本当に…………
服がこすれて痛いっ! くちびるもジンジンしてて食事しにくい……サル・シュくん…………本当に、手加減ってものを知らないんだから……
違うわね。手加減されなかったら、きっと神ちぎられてるから、手加減はしてくれたのよね。でも、痛いのよ!!
「ごめんなさいハルー……」
サル・シュくんがごめん寝みたいに正座してる。
素直よねー。そんなのするのいや、ってはねつけられるのに毎回ちゃんと正座するの。
「どうしてサル・シュがセイザしてるの?」
ル・アくんがサル・シュくんを覗き込んで私に聞いてくる。
「昨日、あんなどうでも良いところで『刀折り』出したから」
「……それで、なんで、セイザ?」
「あの技ね、出すたびに体が壊れるの。だから、緊急の時しかしちゃいけないのよ。それを鍛練なんかで出したから」
「そうなの? サル・シュの体に悪いの?」
「そうよ。一回したらサル・シュくんの命が一年短くなるの」
「えっ!」
ル・アくんと同時に、サル・シュくんも顔を上げて怒鳴った。
「うそっ! そんなの知らないっ!」
コメント