”【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。167 ~命が一年短くなる~”

 

 

 

 いやいやいや、ガリさん。

 サル・シュくん、今いっぱい一杯よ。きっとこのまま部屋に行ったら、即行寝るわよ。

 サル・シュくんも小さく「えー」って呟いたわ。

 そうよね。ガリさんも、『自分の強さ』をみんなに見せたいんだ?

 くたばる寸前のサル・シュくんでそれしようとするの、大人げない!

 キラ・シって、ナニげに大人げないよね。

 でもサル・シュくん、がんばったわ!

 2分ぐらいずつで銅剣折りながら、4セットやりあったわ!

 二人とも、気配ダダもレというより、全開!

 ちょっと、おなか痛いからやめてほしい。

 うっわ……サル・シュくんから蒸気上がってる……こんな暑いのに……

 あ、サル・シュくん、視線が定まってない。もうイッちゃってる!

「ナンっ!」

 振り上げたサル・シュくんの刀の方向に、ナン達がいた。

 咄嗟に手を右に振ったら、ナンちゃんが周り中の子供をつかんで右に転がった。

 ガリさんも、刀だけ残して、右に避けた。

 ビュンッ……って、なんか、風切り音?

 ガリさんの後ろの土が、ざくざくこそげてる。

 サル・シュくん、『刀折り』出したんだ?

「終わりっ! 終わりよっ、ガリさんっ! サル・シュくん止めて! リョウさんっ! サガ・キさん! サル・シュくん寝かせて!」

 リョウさんとサガ・キさんに頼んだのに!

 ガリさんが、刀の塚でサル・シュくんのおなか殴った!

 それ、三日はご飯食べれないモードだよっ! もうっ!

 倒れるサル・シュくんを抱き上げて、ガリさんが廊下を歩いてく。

 ッッッあの人はっ!

「母上っ、今、父上どうしたのっ?」

「本気でガリさんを殺しにかかったのよ……」

「どうして?」

「相手が強すぎると、サル・シュくん、『凶つ者』に乗り移られるの」

 ル・アくんが、一番真っ青な顔、してるわ。

 サル・シュくんが直々に言ったのかしらね。

「ああなったら、あなたたちも、彼を、殺すつもりでかかりなさい。とにかく、寝かせるの」

「父上を? 無理だよ!」

「無理なら、あなたが殺されるのよ、ナンちゃん。

 凶つ者は、殺さないと、世界が滅びるの」

 まぁ、今止まってたから、本気でそんなことになってはいなかったと思いたいけど……

「ル・アくんは、聞いてた?」

 こっくり、と頷くル・アくん。

「ああなったら近くの奴らを殺していくから、そうなるまえに俺を殺せ、って……」

 本当に言ってたのね、サル・シュくん。

「母上……これ、地面がえぐれてるけど、父上の剣? ここまで、届いてないよね?」

「サル・シュくんの『刀折り』よ。刀が届かない先まで切れるの。

 だから、本気を出したら、ここらへんの全員を一振りで殺せるわ。留枝(るし)のお城で、20人ぐらい一振りで殺したって言ってた」

 ここで話を終わらせたかったんだけどなー。

「父上も、そんな技持ってるって、サル・シュが言ってた」

 ル・アくんが、ぶち込んできたわ。

 こうなったら、説明しないと仕方ないじゃないのっ!

「ガリさんのは『山ざらい』って言って……少なくとも三千人ぐらい、一振りで殺せるわ。お城も潰せるしね」

『サル・シュ強い』で終わらせたかったのに! 本当に、ル・アくんって策士ね。

 そして、ガリさん大好きね。サル・シュくんに育てられたのに。彼がル・アくんに、ガリさんの凄さを吹き込んだのね。確かに、ココで育ったら、ガリさんのいいところなんて子供はなかなか見られないから、いい教育なのかしら?

 父親を尊敬できるっていいことよね。

「リョウさん、休んでるなら、車李(しゃき)落城のときのこと、子供たちに話してあげてもらっていいかしら?」

 おうっ! って元気よく返事してくれたから、私は部屋に戻った。

 ガリさんが階段を降りてくる。

 まわりに、誰もいない。

 ひっぱたいてやりたい。

 あんなところで、サル・シュくんにあんな技を使わせるなんて。もっと早くに止めてくれれば良かったのに!

「すまなかった」

 ガリさんの方から、謝って、くれた。

「なにが?」

「技を出させてしまった」

 わかってるのなら、いいわ……

「子供たちが居るところで、『山ざらい』を見せてあげてくれる? すっごい、窮地の時に……あ、もちろん、ガリさんは生き残ってよ!」

 ゆったりとガリさんが頷く。

 サル・シュくんにカルシウムの高いもの食べてもらわないと……干物がいいかしら? ここらへんは魚も、詐為河(さいこう)よりおいしいはずだけ……

 降りてきたガリさんとすれ違いざま、抱き締められた。

 頭を掴まれて……キス……ディープっ!

「来世は、必ず俺のものにするぞ」

 勘弁してください……

 部屋まで抱いて連れて行かれて、ベッドに下ろされた。

 本当に、腰が抜けた。ガリさん、諦めたんじゃなかったのっ!

 サル・シュくんが子供みたいな顔して寝てる。あ、吐いたわね。凄い汗……手のマメがつぶれてるわ……

 あ、それより私、うがい……

 ガリさんにキスされた口でサル・シュくんにキスでき……ない……

 一晩中噛みつかれた……

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

 この暑いナガシュで首にもマフラーって……本当に…………

 服がこすれて痛いっ! くちびるもジンジンしてて食事しにくい……サル・シュくん…………本当に、手加減ってものを知らないんだから……

 違うわね。手加減されなかったら、きっと神ちぎられてるから、手加減はしてくれたのよね。でも、痛いのよ!!

「ごめんなさいハルー……」

 サル・シュくんがごめん寝みたいに正座してる。

 素直よねー。そんなのするのいや、ってはねつけられるのに毎回ちゃんと正座するの。

「どうしてサル・シュがセイザしてるの?」

 ル・アくんがサル・シュくんを覗き込んで私に聞いてくる。

「昨日、あんなどうでも良いところで『刀折り』出したから」

「……それで、なんで、セイザ?」

「あの技ね、出すたびに体が壊れるの。だから、緊急の時しかしちゃいけないのよ。それを鍛練なんかで出したから」

「そうなの? サル・シュの体に悪いの?」

「そうよ。一回したらサル・シュくんの命が一年短くなるの」

「えっ!」

 ル・アくんと同時に、サル・シュくんも顔を上げて怒鳴った。

「うそっ! そんなの知らないっ!」

 

 

 

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