「体に悪いって言ったわよね?」
「それは……聞いたけど……」
「セイザは命、ちぢまらない?」
ル・アくんが痛いところをついてきた。
「そうだぜ、ハル! セイザのほうが命縮むって!」
「縮まらないわよ! 私の家、正座しながらみんな80過ぎまで生きるんだから!」
「えっ? じゃあ……正座で命伸びる?」
リョウさんまで振り返った。
「伸びはしない」
それは断言できるわ。
また、サル・シュくんがしくしく『ごめん寝』になった。ホントかわいい……食べちゃいたい!
また、ル・アくんが隣に正座する。
「俺も、サル・シュを疲れさせた一人だから」
「そうね、別に、聞いてないけど」
ナンちゃん達まで、また隣に正座したわ。
アルちゃんが、正座できなくてころんころんしてるのが、動画に撮りたいぐらいかわいい!
昨日、ナンちゃんが二階に駆け上ったことで、ル・アくんはナンちゃんを尊敬してくれたみたい。それがナンちゃんにも伝わって、イライラはなくなったわ。ル・アくんがあそこまでいい子じゃなかったら、亀裂が残ったわよね。ナンちゃんのほうに。
もう、凄い仲良し。他に同じレベルの子がいないからもあるだろうけど。最近いつも一緒。本当に兄弟みたい。
それをサル・シュくんも思ったみたい。
「ル・アって、村ではすぐ屋根に跳び上がったけど、ここじゃ無理なのかね?」
抱き締めたまま揺れてたサル・シュくんが呟いた。顎が痛いのよ、頭の上に顎が!!
「そうなの? ル・アくんって跳べるの?」
「あいつ、俺より軽い」
「えっ? それじゃ、ナンちゃんより軽くない?」
「ナンのあれが全力なら、倍ほど軽いぞ」
「それって……ナンちゃん達が一番強いのを見て取って、一番強いナンちゃんの得意技を一切出さずにあしらって、ナンちゃんが得意技を出した時に褒めて取りなそうってした、ってこと?」
あ……ナンちゃんがル・アくんも引き連れて走り回ってる。
「あっ! ハルーっ! ナンが教えてくれたから、俺も二階に上がれるようになったよ! ナン、凄いねっ!」
ナンちゃんがかなり自慢そう。
元々できてたよのね? きみ。
「そう……ル・アくんの得意技もナンちゃんに教えてやってね」
「だから一緒に走ってるーっ!」
キャーッ! って、みんなご機嫌。
台風みたいな子。
「……ナンちゃんがル・アくんに転がされてる……」
「気分いいうちはころがっときゃいいだろ」
確かに夕羅(せきら)くんだわ、あの子。政治家だわ、もう。あれが素でできるの凄いわ!
「サル・シュくんが育てて、なんであんなに頭が良くなるの?」
「ねー?」
分かってるサル・シュくんも凄いけどね。
サル・シュくんはやることの意味がわからないから、理解しようとしたら凄く考えた……から?
あのル・アくんのことだから、行動の全部の意味を考えてそう。彼くんといたら、毎日意味不明で大変だったでしょうね……彼のすることに意味なんてないんだから。
これを見越して、ガリさんはサル・シュくんに育てさせたのかしら? ガリさんも凄いわ。
「ル・アって、先見でどうなってんの?」
「美人と見たら、すぐさま口説く天才」
「テンサイ?」
「……ガリさんとリョウさんとサル・シュくんとレイ・カさんとゼルブと雅音帑(がねど)王を足して3で割ったような子」
「ガネドオウって誰?」
そっか、雅音帑(がねど)王の凄いところ、『今回』のキラ・シは知らないんだ?
「私とリョウさんを10人分足したような人」
「……えー………………?」
泣きそうな顔した。サル・シュくん、超かわいい♪
雅音帑(がねど)王が今、ネックになっていないのは死んでるからなんだよね。私が先見で知ってるから、邪魔になる前に殺せたの、それだけ。
私が曹操で先見ができるなら、劉備なんて、召し抱えたときに毒殺しておくわ、って話。
だからキラ・シは、雅音帑王がどれだけ凄いか、知らないんだわ。
「もっと簡単に言って?」
「どっちを?」
「ル・アの先」
「…………小さな『山ざらい』が出せて、単独でも強くて、30万人の軍隊の指揮ができて、国政ができて、とんでもない方法でキラ・シを救った英雄」
「……凄いな」
「凄いよ」
全然凄そうな顔をしてないじゃないの。
「子はどれぐらい? ガリメキアより多い?」
「……そこは知らないけど、とにかく、色事の……誰を抱いたとか、誰が恋人だとかの噂は凄く多かった」
「子の数は?」
「………………私の居たときに生まれたわけじゃないから……でも、サル・シュくんよりは少なかったと思うよ」
『英雄色を好む』がこの世界では普通だから、いろんなこと言われるだけだとは思うけど、根っこがキラ・シだし、多分、噂の半分以上本当なんだろうと思う。
ようやく、サル・シュくんが、ニカッと笑った。
『子の多さ』しか、『男の基準』がないのね…………サル・シュくん。
「山でのル・アくんって、そんなに他人の顔色をうかがうような必要があったの?」
「まぁ……ずっと客扱いだったからな、俺もル・アも、居心地は悪かったな」
「なぜ客扱いなの? 自分の村でしょ?」
「一度出たから」
「だから?」
「また四年後に降りるとか、わけわかんないだろ?」
あーーー……そういうことになるんだ?
『帰って来た』じゃなく、『客分』扱い? 四年も?
「だから、女の権利もいらない、って言ったし、女の赤子も連れて行ったし、」
「赤ちゃん? 連れて行ったの? いつっ!」
「ル・アを胸に、女を後ろに背負って行った」
全然気付かなかった!『前』も?
「なんで?」
「キラ・シには女が一番の土産だから」
そ……そうね…………
『女の権利もいらない』って、山で『勝ち上がり』をしたときのことなんだろうけど……それで『ほぼ禁欲』って…………考えるのやめとこう。
あ! マキメイさんが走ってきた。よくあのロングドレスで走れるよね。
「ハルナ様! 明日、ここを引き払うそうです。あとで、持っていくものを教えてくださいましね! 失礼します!」
どうして突然?
「あ、リョウさんっ! ナガシュを出るって?」
『伝令溜まり』つれて歩いてくるリョウさん。声が枯れてるわ。
「ああ、ガリが突然号令を掛けた」
もう嗄れてて、聞こえにくい。
「水と食べ物の準備とか、間に合わないよ!」
既に1000人いるのよっ! 明日なんて無理。
200人の小部族じゃないのよ!
「一日で駆け抜けると言っていた!」
食料も水も持たないって意味? だって、摩雲(まう)まで四日の予定よね? 一日で干からびちゃうよ?
練兵場が一気に馬場になったわ。物凄い、馬に飼い葉を食べさせてるし、積んでる。
「馬が持たなくない?」
また砂漠で砂嵐とか、いやだよ?
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