【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。168 ~小さな『山ざらい』~

 

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

「体に悪いって言ったわよね?」

「それは……聞いたけど……」

「セイザは命、ちぢまらない?」

 ル・アくんが痛いところをついてきた。

「そうだぜ、ハル! セイザのほうが命縮むって!」

「縮まらないわよ! 私の家、正座しながらみんな80過ぎまで生きるんだから!」

「えっ? じゃあ……正座で命伸びる?」

 リョウさんまで振り返った。

「伸びはしない」

 それは断言できるわ。

 また、サル・シュくんがしくしく『ごめん寝』になった。ホントかわいい……食べちゃいたい!

 また、ル・アくんが隣に正座する。

「俺も、サル・シュを疲れさせた一人だから」

「そうね、別に、聞いてないけど」

 ナンちゃん達まで、また隣に正座したわ。

 アルちゃんが、正座できなくてころんころんしてるのが、動画に撮りたいぐらいかわいい!

 昨日、ナンちゃんが二階に駆け上ったことで、ル・アくんはナンちゃんを尊敬してくれたみたい。それがナンちゃんにも伝わって、イライラはなくなったわ。ル・アくんがあそこまでいい子じゃなかったら、亀裂が残ったわよね。ナンちゃんのほうに。

 もう、凄い仲良し。他に同じレベルの子がいないからもあるだろうけど。最近いつも一緒。本当に兄弟みたい。

 それをサル・シュくんも思ったみたい。

「ル・アって、村ではすぐ屋根に跳び上がったけど、ここじゃ無理なのかね?」

 抱き締めたまま揺れてたサル・シュくんが呟いた。顎が痛いのよ、頭の上に顎が!!

「そうなの? ル・アくんって跳べるの?」

「あいつ、俺より軽い」

「えっ? それじゃ、ナンちゃんより軽くない?」

「ナンのあれが全力なら、倍ほど軽いぞ」

「それって……ナンちゃん達が一番強いのを見て取って、一番強いナンちゃんの得意技を一切出さずにあしらって、ナンちゃんが得意技を出した時に褒めて取りなそうってした、ってこと?」

 あ……ナンちゃんがル・アくんも引き連れて走り回ってる。

「あっ! ハルーっ! ナンが教えてくれたから、俺も二階に上がれるようになったよ! ナン、凄いねっ!」

 ナンちゃんがかなり自慢そう。

 元々できてたよのね? きみ。

「そう……ル・アくんの得意技もナンちゃんに教えてやってね」

「だから一緒に走ってるーっ!」

 キャーッ! って、みんなご機嫌。

 台風みたいな子。

「……ナンちゃんがル・アくんに転がされてる……」

「気分いいうちはころがっときゃいいだろ」

 確かに夕羅(せきら)くんだわ、あの子。政治家だわ、もう。あれが素でできるの凄いわ!

「サル・シュくんが育てて、なんであんなに頭が良くなるの?」

「ねー?」

 分かってるサル・シュくんも凄いけどね。

 サル・シュくんはやることの意味がわからないから、理解しようとしたら凄く考えた……から?

 あのル・アくんのことだから、行動の全部の意味を考えてそう。彼くんといたら、毎日意味不明で大変だったでしょうね……彼のすることに意味なんてないんだから。

 これを見越して、ガリさんはサル・シュくんに育てさせたのかしら? ガリさんも凄いわ。

「ル・アって、先見でどうなってんの?」

「美人と見たら、すぐさま口説く天才」

「テンサイ?」

「……ガリさんとリョウさんとサル・シュくんとレイ・カさんとゼルブと雅音帑(がねど)王を足して3で割ったような子」

「ガネドオウって誰?」

 そっか、雅音帑(がねど)王の凄いところ、『今回』のキラ・シは知らないんだ?

「私とリョウさんを10人分足したような人」

「……えー………………?」

 泣きそうな顔した。サル・シュくん、超かわいい♪

 

 雅音帑(がねど)王が今、ネックになっていないのは死んでるからなんだよね。私が先見で知ってるから、邪魔になる前に殺せたの、それだけ。

 私が曹操で先見ができるなら、劉備なんて、召し抱えたときに毒殺しておくわ、って話。

 だからキラ・シは、雅音帑王がどれだけ凄いか、知らないんだわ。

「もっと簡単に言って?」

「どっちを?」

「ル・アの先」

「…………小さな『山ざらい』が出せて、単独でも強くて、30万人の軍隊の指揮ができて、国政ができて、とんでもない方法でキラ・シを救った英雄」

「……凄いな」

「凄いよ」

 全然凄そうな顔をしてないじゃないの。

「子はどれぐらい? ガリメキアより多い?」

「……そこは知らないけど、とにかく、色事の……誰を抱いたとか、誰が恋人だとかの噂は凄く多かった」

「子の数は?」

「………………私の居たときに生まれたわけじゃないから……でも、サル・シュくんよりは少なかったと思うよ」

『英雄色を好む』がこの世界では普通だから、いろんなこと言われるだけだとは思うけど、根っこがキラ・シだし、多分、噂の半分以上本当なんだろうと思う。

 ようやく、サル・シュくんが、ニカッと笑った。

『子の多さ』しか、『男の基準』がないのね…………サル・シュくん。

「山でのル・アくんって、そんなに他人の顔色をうかがうような必要があったの?」

「まぁ……ずっと客扱いだったからな、俺もル・アも、居心地は悪かったな」

「なぜ客扱いなの? 自分の村でしょ?」

「一度出たから」

「だから?」

「また四年後に降りるとか、わけわかんないだろ?」

 あーーー……そういうことになるんだ?

『帰って来た』じゃなく、『客分』扱い? 四年も?

「だから、女の権利もいらない、って言ったし、女の赤子も連れて行ったし、」

「赤ちゃん? 連れて行ったの? いつっ!」

「ル・アを胸に、女を後ろに背負って行った」

 全然気付かなかった!『前』も?

「なんで?」

「キラ・シには女が一番の土産だから」

 そ……そうね…………

『女の権利もいらない』って、山で『勝ち上がり』をしたときのことなんだろうけど……それで『ほぼ禁欲』って…………考えるのやめとこう。

 あ! マキメイさんが走ってきた。よくあのロングドレスで走れるよね。

「ハルナ様! 明日、ここを引き払うそうです。あとで、持っていくものを教えてくださいましね! 失礼します!」

 どうして突然?

「あ、リョウさんっ! ナガシュを出るって?」

『伝令溜まり』つれて歩いてくるリョウさん。声が枯れてるわ。

「ああ、ガリが突然号令を掛けた」

 もう嗄れてて、聞こえにくい。

「水と食べ物の準備とか、間に合わないよ!」

 既に1000人いるのよっ! 明日なんて無理。

 200人の小部族じゃないのよ!

「一日で駆け抜けると言っていた!」

 食料も水も持たないって意味? だって、摩雲(まう)まで四日の予定よね? 一日で干からびちゃうよ?

 練兵場が一気に馬場になったわ。物凄い、馬に飼い葉を食べさせてるし、積んでる。

「馬が持たなくない?」

 また砂漠で砂嵐とか、いやだよ?

  

 

 

 

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