【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。169 ~砂金~

 

 

 

 

 

 

「だから今、ラクダと馬を集めている。替え馬を使って行くぞ。あとで辛巳(しんし)という商人が来るから、俺がいなければ話を聞いてくれ」

 リョウさんがナニカを幾つか投げたから、サル・シュくんがキャッチした。三つを左手だけで取ったわね、凄い。

 袋? 中は、砂金が一杯っ! これ、リョウさん、話聞く気ないよね? 私に渡したら、リョウさんが払えないじゃない!

 まぁ……準備しない私が待ってるのが一番いいけどさ。

「まだこんなに砂金があったの? どこに? ちょっとリョウさんっ! 幾ら払うのっ!」

「砂金500だっ!」

 けっこういろんな支払いをする時に、リョウさんがポンポンくれるからそろそろ危ないんじゃないかと思ってたのに。大体、こんな量の砂金、あんなしょぼいお城を制圧しただけで手に入る? 過去のも合わせると凄い量よ? まぁ…………車李(しゃき)ならあるのかしら? そう言えば、ナガシュも大国なのよね。

「あー、それ。今回降りてきたときに持ってきたから」

「どこから?」

「キラ・シの山から」

「砂金を?」

「持ってきたのはこんな塊」

 サル・シュくんが、子供の頭ぐらいの大きさを掌で作る。

「ナニソレ」

 凄く聞きたかったけど、辛巳(しんし)さんが来たから中断。

 ひょろっとした、私より少し高いぐらいの中年男性。もちろん、私の後ろには大魔神がついてます。というか、抱えられてます。早く準備にいけばいいのに。

「この半日で馬とラクダを1000頭揃えるとか、凄いわね……大変だったでしょう? ごめんなさいね、突然こんなこと頼んで」

「ル・アくんが走ってきましたからね。急いで揃えましたよ」

 ル・アくんが間に入ったの? どうやって?

「お代はどこで払えばいいかしら?」

「こちらで大丈夫ですよ」

 床に天秤と錘を出してきた。

 私も砂金を1袋出す。

 砂金500をちゃんと計ってくれて、残りを返してきた。正直な人ね。蛮族だと思って誤魔化そうとした人が多いのに。

「あっ、辛巳(しんし)っ!」

 ル・アくんが走ってきて天秤を覗き込んだ。

「これなに?」

「天秤ですよ」

「テンビン」

「こうして、モノを計る時に使うのです」

「モノをハカル?」

「大陸では砂金や銭と、モノを交換します。その時に、『同じ重さの砂金』を確認するために、この錘を使って、同じ重さの砂金をいただくのですよ」

「そのオモリは、どこでも同じ重さなのかしら?」

「普通はそうですね」

「普通じゃない場合は?」

「お互いが持っている錘を天秤に乗せて、どちらの錘で計るのか、先に話し合います」

 そういう手が合ったのね!

「辛巳(しんし)さん。その錘って、大陸で共通なの?」

「羅季(らき)語をしゃべる商人なら、普通はそうですよ」

「あなたの持っているのがその共通の重さ?」

「そうでございます。煌都(こうと)(こうと)の度量と同じものですよ。大陸共通です」

「今すぐ一式ほしいわ。すぐに貰える? 幾ら?」

「砂金一粒で」

「俺にも持てる?」

「片手で持てますよ」

「じゃあ、俺が一緒に行って貰って帰ってくるよ! そしたら辛巳(しんし)がもうお城に来なくていいんだよね? 俺が走ったほうが速いし!」

 相変わらず、なんていい子……

 この子が敵になるとか…………普通なら、雅音帑(がねど)王みたいに、今すぐ殺したい。でもその『敵』がキラ・シの未来を開くのよね…………複雑……

 多分、ナンちゃんとか、『今現在のキラ・シ』は全員、この子に殺されるんだろうな……

 サル・シュくんも……

 覚悟はしておこう。

『前回』、ル・マちゃんが死んだときみたいに、記憶を飛ばしたりしないように。

 ル・アくんが辛巳(しんし)さんと歩いていくのを見送ってたら、サル・シュくんが揺れだした。話してる間はじっとしていたことを褒める。犬の調教してる気分。

「ル・ア、ハルの役に立ってる?」

「私を動けなくしている誰かよりよっぽど」

 サル・シュくんがパッと手を離した。

「ハルっ! サル・シュっ! 馬に乗れっ! 出るぞっ!」

 あっちからリョウさんが走ってきた。

「明日じゃなかったの? もう日が暮れるわよっ」

「ガリが出ると言ってる! 今すぐだっ!」

 なんでそんな予定を変えるの!

「ル・アくんが出かけちゃったわよっ!」

「なぜだっ!」

「お使いを頼んじゃった!」

 うわ……ガリさんがもう馬に乗ってるっ!

「ナンッ! ハルを乗せろっ!」

「はい、父上!」

「キラ・シっ!」

 叫んで、ガリさんが走り出した。

 えっ、私どうすればいいのっ! 布はどうするの? みんな何もかぶってないわよっ! サル・シュくんが死んじゃうっ!

「母上っ」

「ル・アは拾っていく!」

 サル・シュくんが、私をナンちゃんの後ろに乗せた……けど…………だって、ル・アくんどこに行ったかわからないよ! ここにいるなら安全なんだから、あとから探しに来れば……

 キラ・シの最後尾をナンちゃんの馬が走っていく。

 あっ! ル・アくんっ! 町の人と一緒に、辛巳(しんし)さんと私達を見上げてた。

 それを、サル・シュくんが腕を引っ掴んで走って、ル・アくんが、後ろによじ登った。

 町の大通りが目茶苦茶になったわ……

 日がくれていく。新月だわ! 何も見えない!

 馬がつぶれないぎりぎりの速度で走り続けてたら……轟音が、した。まさか、また砂嵐? またキラ・シが全滅するの?

「ナンちゃん、見える? なんの音?」

「川が……凄い勢いっ!」

「川? まだ流れる季節じゃないわっ!」

「でも、川だよっ母上! 凄い早いっ!」

 夜が明けてきたら、わかった。砂漠に川ができたんだ。日差しは熱いままだけど、川が凄いから、まだ涼しい。飼い葉を二枚の布で包んでたから、その一枚をかぶって走った。

 ガリさんまさか、これを分かって出発したの?摩雲(まう)はもう、レイ・カさんが『完全制圧』してた。

 摩雲(まう)の国境沿いの街。通行税で潤った大きな市場がある。そこの王宮になだれ込んだ。首都ではないけど、さすがに綺麗なお城。

 砂漠独特の青いタイルの上で、ダムの底に沈んだ倒木みたいにキラ・シがくたばってる。

 キラ・シってネコみたいよね。全力で暴れて、すぐにあちこちで昼寝して、夜も元気で、いつも寝てる。

 サル・シュくんもル・アくんも、もちろんガリさんも、真っ赤!

 私、これぐらいの火傷で死んだ筈だけど…………キラ・シは強いから、大丈夫……? なのよね?

 ナンちゃん達も、無事……とは言わないけど、大きな怪我はしてないわ。他の子たちも。

「おーい、起きてる奴いるかー」

 レイ・カさんだ。

「一番先に寝てそうなハルが起きてるなんて珍しい」”

 

 

 

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