【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。17 ~2日分の食事しかありません~

 

 

 

 

  

 

 ナニソレ、予言?

「え?」

「そして、父上も、その子に殺される」

 どういうこと?

「そのあと一年生きてたら、あいつの子を産んでやりたいけど……」

「ル・マちゃん?」

「東にまたたく星がある」

 また目を閉じて、ル・マちゃんが呟く。

「昔、俺が見た夢だ……それを父上は、『東に女がいる』という先見(さきみ)だと考えて、東を探し回って、ココを、見つけた」

 そんなことをリョウさんが言ってたな……

「男は光る星。女はまたたく星。『またたく星が東へ飛んで行った』と俺が夢を見た、それを父上は信じて、リョウ・カと旅に出た」

 リョウさんも一緒だったんだ? だから、二人でここに降りてきて、また、山に戻ったんだ?

「最初は、年に何回も戻ってた。その時に、俺が矢流で村が流れるのを夢みたから、父上がその時の族長に話して、全員を山に移動させたら、村が流れた」

 本当に予知夢を見るんだ? ル・マちゃん。

「山では『変なこと』は駄目なんだ」

「『変なこと』って?」

「鍛練をしないとか、いつまでも寝てるとか、花をたくさん摘むとか、きらきらしたものを身につけるとか」

『飾り』って言葉がキラ・シにないのはそのためなんだ?

「川に、キラキラ石があるんだ。それをいっぱい集めて持ってる。俺は許されたけど、他の子供は同じことをしたら許されなくて、捨てられた」

「捨てられた?」

「俺と一緒にそのキラキラ石を取ってるところを親に見つかって、殴ったり蹴ったりされて、血を吐いて、動かなくなったから、滝に捨てられたんだ」

「え?」

「『お前は女だから仕方ないが俺の息子までサル・シュみたいな変にするな』って、そいつに言われた……男だったら、俺も、あそこで捨てられてた……」

「……なんで? 綺麗な石を集めるだけで、殺されるの?」

「キラキラ石を集めても、強くなるわけじゃないから……」

 温石を抱いてるのに、凄い寒けが、来た。

「強くなること、村を守ること、それ以外のことをするのは『変』なんだ。『変』な奴が増えると村が滅びるから、子供のウチに、捨てるんだ」

「サル・シュくんみたいなってどういうこと?」

「あいつは、『変』なんだ」

「どこが?」

「朝も遅くまで寝てるし、あちこちで花をもいだり、用も無いのに山頂にあがったり、ふらふらしたり、言うこともすることも無茶苦茶だし…………」

 あれがキラ・シの普通かと思ってたけど、やっぱりサル・シュくんは無茶苦茶変だったんだ?

「それだけで、殺されるの?」

「普通は、そう」

「なんでサル・シュくんは殺されてないの?」

「あいつは強いから」

 そっかー……

「父上と、リョウ・カと、レイ・カ、その上位三人が、部族四位の強さのサル・シュが変なのを許してるから」

「長老筋でも、あるんだよね?」

「……ああ……そう、だけど、弱ければ、関係ない。サル・シュも、『長老筋は全員捨てればいいのに』って言ってる」

「リョウさんも長老筋じゃなかった?」

「リョウ・カは長老筋から、一本外れてるんだ。弟の子だから」

 そんなこと、言ってたな……昨日……

「長老筋は、それに甘えて、弱い奴が多いんだ。働かなくても、長老から食べ物を貰えるから。それを、サル・シュは凄く嫌ってる。

 長老から貰える食料は長老の力が入ってるから、みんな欲しがるのに、絶対食べない。

 木の実を取るのは弱い男のすることなのに、俺に食べさせるために栗の木に登る。

 遠くまで狩りに行って、帰って来ないこともある。

 夜は、子供は家にいないといけないのに……あいつはずっと、いなかった」

 聞いてるだけでも凄く変だわ。でも強いからいいんだ?

「夜動く子供は、変なんだ。

 あいつは俺が父上の家に入ったら、村を出てしまってたらしい。

 外で寝て、朝帰って来る。

 だから、俺は、あいつが村に夜いないと、去年まで知らなかった。

 サル・シュが、朝もいないことがあったけど、あいつは『変』だからって誰も探さなかったんだ。何日もいなかったのに。

 そしたら父上が帰って来て俺に聞くんだ。

『サル・シュはどこにいる』って…………俺は、どこかを指さした。知らずに指さしたんだ。そこに父上は馬で駆けて行って、サル・シュを抱えて帰って来た。

 あいつは、キラ・ガンにとらわれてたんだ。

『子ざらいのキラ・ガン』。

 キラ・シと強さを二分した部族だ。山はキラ・シとキラ・ガンに別れてた。

 サル・シュは手も足も折られて、血まみれだった。そのときに、父上がキラ・ガンに一人で乗り込んで族長の首を取ってきたんだ。それで、キラ・ガンは押されて、幾つか向こうに移動した。

 サル・シュの手足がうまくくっつかなかったら、あいつも、捨てられてた。

 父上は長老に聞いたんだ。

 なぜサル・シュがいなくなったのに探さなかったのか、と。長老に言われたんだって、お前が変だから、お前に憧れるサル・シュもリョウ・カも変になった、と。これ以上村を変にするな、と」

 ガリさんも『変』なんだ? そうだよね。そうじゃなかったらあそこで崖から窓に飛び込まないよね?

 そっか……ガリさんと一緒に動いてたリョウさんも、長老から見たら『変』なんだ。

 それって、今の若い人達がお父さん世代に『変』って言われてるのと同じなんじゃないのかな?

 おじいちゃんが子供の頃、ビートルズのレコードを買ったら、お父さんに殴り飛ばされたって言ってた。今は音楽の神様みたいなビートルズも、あのころは『悪の象徴』みたいな扱い受けてたって。

 村を捨てて降りてきたんだから、そりゃ『変』なんだろう。それって『新機軸』だよね。ガリさんは『破天荒』だよね。したことないことしてるから変なだけで、確実に『時代を動かしてる』。

「サル・シュの大体の『変』は…………俺に関わってるから…………だし…………俺も、変な夢を見て騒ぐから変だ、って言われてる。でも、俺は、女だから……」

「でも、部族五位だよね? ル・マちゃんが男の人でも、許されたんじゃないの?」

「本当に、五位なのかな?」

 やっぱりル・マちゃんも疑問は疑問なんだ?

「俺に、順番を抜かれても、女を取る順番が変わるわけじゃ……ないし……」

「でも、ル・マちゃんに自分の子供を産んでほしい男の人はたくさんいるでしょ?」

「……そう…………だろうな…………」

「そのル・マちゃんに負けたら、ル・マちゃんに選んでもらえないよね?」

 ル・マちゃんがじっと私を見てる。

 いや、私も、今思い付いただけだけど。

「ル・マちゃんに子供を産んでほしい男の人は、意地でもル・マちゃんに勝って、自分の実力を見せつけたいよね? ル・マちゃんが、自分より弱い男の子供を産むなんて、誰も思わないでしょ?」

「そりゃ……そうだろう……けど…………」

「なら、ル・マちゃんにわざとまけて、男の人達になんの特がある?」

 そうだ。なんの特も無い。

 みんな、絶対に『女のル・マちゃん』には勝ちたいはずだ。

「サル・シュくんがル・マちゃんに負けてたら、サル・シュくんといる?」

「いない」

 ル・マちゃんの目に光が戻った。

「もっと強い、レイ・カといる」

「だよね。みんな、男の人達、そう思ってるよね? ル・マちゃんと一緒にいたいから、ル・マちゃんより強くなりたいよね? ル・マちゃんに認めてほしいよね?」

 ル・マちゃんが起き上がった。

「俺、本当に部族五位なんだ!」

 親指で自分の胸を指さして、ル・マちゃんが宣言。かわいい。めっちゃ元気になった! 良かった!

「なんの話? ル・マは本当に五位だぞ? 誰かから違うって言われたのか?」

 サル・シュくん登場。ご飯のお盆持ってる!

「メシっ!」

 ル・マちゃんが、温石を抱えたまま手招きする。私も、もう一つの温石を抱えて起き上がった。

「なにそれ」

 サル・シュくんが温石の毛玉を触って、固いのを確認してお盆を置いた。後ろから女官さんが丸テーブル持ってきて、しつらえてくれる。

「みんなもう食ったから。これ、すっげぇうまい鶏肉。なんか凄いぞ。味が凄いぞ」

 今すぐ食え、やれ食え、ほれ食え、死んでも食え、って感じでサル・シュくんが、目をキラキラさせてル・マちゃんを見てる。

 ル・マちゃんが食べたら、その隣にサル・シュくんも座った。私も食べる。昨日より薄味で凄くおいしい! ご飯のおかずにはならないぐらいだけど、お肉だけ食べるならこれがいい。

「昨日のはなんか、舌がしびれただろ? 毒かと思った」

「全部食べたくせにっ! 私の大好きなラキ巻きも、ぺろっと食べたくせに!」

 ニャハーッ、と、両手を上げて笑うサル・シュくん。悪気一切なし!

「もうお召し上がりになりましたか? ハルナ様。味付けはいかがでしょう」

「丁度いいわ、マキメイさんっ! この味大好き!」

「ようございました! キラ・シの方々も、たくさん召し上がってくださいました」

 またサル・シュくんが『から揚げは飲み物です』やってる。さっき食べたんじゃないの?

 ル・マちゃんは、さっきの鶏肉をちびちび食べてる。そんな青い顔じゃ食欲も無いよね。ああそうか、だからサル・シュくんが、ル・マちゃんが好きそうなものを持ってきたんだ? 本当に、イイ旦那さんになるんだろうなぁ。

「ハルナ様、少々よろしいでしょうか?」

 マキメイさんが膝をついて私の耳に口を寄せてきた。

「大橋が壊された、とお聞きしたのですが、本当でございますか?」

「ああ、うん。本当。キラ・シが全部壊しちゃった」

「やはり……でございますか…………」

「やっぱり、こっちの人、困るよね?」

「リョウ様にお話し差し上げたいのですが、間に入っていただけます?」

「もちろん」

 立ち上がったら、温石がなくなった分、ヒュッとおなかが冷えて、ズキズキズキって、痛みが走った。かがんでたら、その腰にマキメイさんが、さっきの小さな温石帯、当ててくれた。ル・マちゃんにも。

「ありがとう、マキメイさん。助かる……」

「それで月の物の痛みが軽減するなどと知りませんでした。女官の中でもつけてみて、凄く楽になったと喜んでおりました。教えていただいて、こちらこそありがたいことです。ハルナ様の博識には、本当に感謝しております」

 凄い照れる…………夏でも、このためにカイロ買いだめてるだけなんだけど。

 ル・マちゃんはサル・シュくんに任せて……大丈夫? と振り返ったら、両方からヒラヒラ手を振られた。気にしてないらしい。

 幼なじみって凄いな。私なら一週間以上、顔合わせられないわあんなことされたら。

 リョウさんとマキメイさんの話し合いは、また、凄かった。

「食料が無い? どういうことだ?」

「あの大橋で商人が食料を運んできていたのです。あれがなくなれば、今は収穫期でもありませんから、この城で育てているブタや鳥だけでは、100人のかたに2日分の食事しかありません」

 

 

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