【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。18 ~残る奴は裏切る奴だ~

 

 

 

 

 リョウさんとマキメイさんの言葉を互いに通訳する私と、互いに青ざめてる二人。

 100人で2日? キラ・シって、ガリさんの部隊が200人居るんじゃなかった? 一日三食としたらもう、次の食事が足りないってことだよね?

「今日食料が切れるってこと?」

「なぜ今日ですか?」

「前線部隊が帰ってくるから」

「いや、ガリたちはよそで幾らでも食ってくる」

 族長を放置でいいんだ?

「俺たちは出ていく。マキメイ達はどうする?」

「どうするってどう?」

「あの橋はいつ直る? キラ・シが居なくなったら、ここを誰が守る?」

 通訳したら、マキメイさんも混乱してるみたい。

「車李(しゃき)の軍隊が……」

「シャキはガリが全滅させる。他に誰が来る?」

「そ……そうでございますよね…………誰も、殿方が…………いえ、殿方はいらっしゃいますが兵士が………貴信(きしん)も覇魔流(はまる)も、全滅させたとおっしゃいましたよね? でしたら、攻めてくる国はいませんが、夜盗の巣になってしまいます!」

「リョウさんは、どうするつもりだったの?」

「ここに降りて、ここらへんで子を増やすつもりだった」

「居つく気だった、ってこと?」

「そうだ」

 だから、このお城の兵士を全滅させても平気だったんだ? 自分たちが居すわるつもりだったから。

「ここらへんはあの橋がなければキラ・シだけで守りきれる。キラ・シが300人ほど増えても大丈夫だと思った」

「ああ……、ハマルがラキを攻めてなくて、シャキから援軍が来てなかったら、そのまま話は済んだんだ?」

「そうだ」

「で、今はどういう状態なの?」

「ラキとハマルが争っていた。

 キラ・シが両方をつぶした。

 ラキを助けるためにシャキが来た。それも、キラ・シが全滅させた。

 ハマルの三倍は戦士がいたとガリが言っていた。それが『助けに来た』のだ。

 わかるか?

 キラ・シでも、他の村を助けに行くときは、全部では行かない」

「こっちに来た人達から連絡が来なかったら、シャキ本国からもっとたくさん来るってこと?」

「そういうことだ。あの橋は陥としたから、もっと北から来るか」

 リョウさんが、玄関の向こうを指さした。

「あの川を、泳いでくる」

 たしかに、キラ・シはあの川を馬で泳いで帰って来た。

「夜に泳いで来られたら、見張りは無理だ。それが200人や300人なら、キラ・シが優勢だろう」

「え? でも、ハマルの軍隊……あの赤い鎧の……数千人はいたよ?」

 キラ・シなら、相手が3000人なら勝てるんじゃないの?

「その十倍来たらどうする?」

 3万人の……鎧を来た軍隊……?

「そう、で、ございます。一軍は12500人。車李は大陸で3軍を持っている数少ない大国です」

「『一軍』っていうのが、一つのかたまりの単位?」

「はい。貧乏な国は、一軍すら保てません。

 羅季も、千人いませんでしたし、貴信もギリギリ一軍あるかどうかだった筈です。

 車李は、大陸一と言っても良い大国です。三軍以上抱えていることはありえると思います……そう、死んだ夫が言っていました。昔、車李の軍隊にいたことがあったのです」

「それって、シャキには4万人弱の兵隊がいるってこと?」

「はい」

 マキメイさんがコクコクうなずく。

「3万人の軍隊を、羅季に送ることは、可能です。それでも、一万人弱が国を守れます。軍人の多さに、夫が驚いていました。

 覇魔流はギリギリ一軍を抱えておりませんし、歩兵ばかりです。ですので、車李からの援軍は、戦車500、歩兵5000の筈でした。その分の食料は、明日、あの大橋から来るはずでした。そのために、食料庫の整理を致しましたから。それと前後して、車李の援軍が来るはずだったのでございます」

「副族長っ! 族長からの指笛です。敵の村を三つ陥とした。このまま進む、ということです」

 ガリさん! 帰ってくること考えてないでしょ!!

「三つ進んだって……今、どこにいるの? ガリさん…………、今夜、あの川を二千人が泳いできたら……残ったキラ・シで迎え撃てる? 今、指笛でガリさんたちを引き戻して間に合う?」

 大体、元々キラ・シって、全部集めたって200人ぐらいしか戦士がいないのに!

「ガリのあとを追う」

 リョウさんが、何度か頷きながら、後ろにいた若戦士に伝言して走らせた。

「マキ、来る奴は今すぐ外に出ろ。

 二回指笛を吹く。

 一回目で誰かの馬に乗れ。

 二回目で、出発する。

 ここには、もう来ない」

「は…………はいっ………………」

 リョウさんが無言でマキメイさんの後ろ姿を睨みつけた。

「リョウさん……マキメイさん達、連れて行くの?」

「キラ・シの子を産む女達だ。来るなら守る」

 え? それって…………

 サル・シュくんが、ル・マちゃんを抱いて降りてきた。その肩に座ってるのはミアちゃんっ! 連れて行くんだ?

 そう言えば、三人は俺のものって言ってたっけ? 後ろに5人の女官さんも、大荷物。

「マキメイさんっ! ミアちゃんここにいるよっ!」

 ハイーッ! って、遠くから悲鳴のような声がした。

「ガリメキアは戻ってこない。この家を守っても無駄だ。

 俺はガリメキアを追う」

 サル・シュくんが、リョウさんとすれ違いざまに断って歩いて行った。

 ガリさんからの指笛、部屋で聞こえたんだ? リョウさんの判断が聞こえた……んじゃ、ない、よね? さっき、リョウさんの伝言を受けた人は、誰も階段を上がってなかった。

「サル・シュくん、君のお子さんは? 他の小さい子たちは?」

「さっき出した。帰って来る前に、ここらへんの馬を集めてくるように言っておいた。外にいる筈だ」

 それって、リョウさんの判断の前だよね? リョウさんが残るって言ってたら、どうするつもりだったの?

「女官さん、一人で馬に乗れる?」

「二人乗りに一頭の替え馬でいく。そのために敵の馬をつないでおいた。先陣に追いつけば、後ろの何人かに載せりゃいい。女を乗せるのを嫌がる奴はいない」

「いないって……でも、用意に時間かかるよ」

 私は何もないからこのままいけるけど、ここに住んでた人達は無理よ。

「そこに、汚いけど水がある。馬が飲むから安全だ。獣は道々狩れる。何も持たなくていい」

 蛮族っ!

 ガツガツ歩いていくサル・シュくん。

「ル・マも、明後日になりゃハルを乗せられる。リョウ叔父、先に出るぜっ!」

「ハル、外にいろ」

「リョウさんは?」

「キラ・シの子が残っていないか見てくる」

「そんなバカは殺してこいよっ!」

 サル・シュくんが外から怒鳴った。

「え? リョウさん、殺すつもりで見回るんじゃないよね?」

「残る奴は裏切る奴だ。生かせばこちらの人数がばれる」

 マキメイさんが、毛布とか抱えて女官さんと駆けだしてきた。

「マキメイさんっ、全員いる? 全員行く?」

「いえ、何人かは残ると……」

「その人達殺されちゃうっ!」

 リョウさんを指さしたらもう、刀抜いてた。マキメイさんもそれを見たけど、私を、強く、見返して、頷いた。

「わたくしも、残っても殺されます、と説得致しました。仕方ありません。行きましょう、ハルナ様!」

 仕方ないんだ? 今、ここで殺されるのに?

 リョウさんが、城の奥から指笛を吹いた。

 一回目の指笛っ! 出てきてから吹くのかと思ったのにっ!

 外ったって、真っ暗なんですけど…………

 なんか、馬が凄いいなないてる。

 女の人達がどんどん誰かの馬に乗り上げていく。

 最後に残ってるこの馬が、リョウさんのだよね?

 私、ここにいていいんだよねっ?

 リョウさんが、出てきた。

 歩きながら、太股の辺りの布で刀拭って鞘に収めて、もう一度、指笛。馬に私を乗せて、走り出した。

『二度目の指笛』って、本当に最後通牒だ。

「待ってっ! 私も連れて行ってっ!」

 玄関から何人か駆けだしてきた。

 女の人の声なのにリョウさんが振り返らない。

 多分、なんかいっぱい持っていこうとして準備でもしてたんだろう。残ったら殺すといいながら、やっぱり女の人は殺さなかったリョウさん。

 でも、振り返らない、リョウさん。

『一期一会』って、何回聞いても意味がよく分からなかったけど、こういうことなんだ。

 あんなに長く感じたラキのお城。

 もう、何年も経ったような気がするのに。

 こんなことが、毎日続くんだ……?

「リョウさん……」

「しゃべるな、舌を噛むぞ」

「馬の乗り方、教えて」

「……おう」

 キラ・シの女として、生きよう。

 マキメイさんだって、それを選んだんだ。

 私を助けようとしたマキメイさんだって、それを選んだ。

 助けられてばかり、いたくない。

 逃げてばかり、いたくない。

 私も、誰かを助けたい。

 私がル・マちゃんを乗せられるようになれば、サル・シュくんは、戦に出られる。もっと戦力に、なる。

 キラ・シは、きっと、勝ち進む。

 これが私の夢なら、キラ・シが主役だ。

 もっと、キラ・シの女に、なろう。

 キラ・シが生き延びることが、私が生き延びることにつながる。

 どうなるのか、わからないけど。

 リョウさんに、勝ち続けてもらいたいから。

 

 

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