【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。19 ~無理やりやるらしい~

 

 

 

 

  

 

 結局、あんな決死の思いでラキのお城を出たのに、10日後に戻ることになった。

 見渡す限り、敵も家もいなくて、進む先がなくなったから、だって。

 たしかに、川向こうは真っ白くひび割れた固い地面だった。白く見えるのは塩みたい。からい!

 キラ・シがおいしそうに白い土をもぐもぐ食べてたのがすごいなー。確かに、汗かくと塩分欲しいって言うけど、土だよコレ!

 川のラキ側は、川でできた雲が山にぶつかって雨が降るけど、あっちがわはただただ乾燥するだけで雨が降らない上に、ラキ側より低いらしい。サイコウの氾濫で、いい土も来るんだけど、高潮とかで海水が入ってくるから、塩で覆われて植物が育たないんだとか。

 この塩、集めて売ればいいのに。そんなに含有量高くないのかな? こういう時代だと、塩って結構高くない? でも、表面に浮いてるわけじゃないから、たしかに、取りようが無いか? 塩田にするったって、普通にサイコウが海水なわけじゃないから、塩を足せないもんね。こんなに広大な川べりの土地が農地にできないとか! もったいない!

 食べ物は相変わらず、狩った獣とか、木の実とかになったけど、今度はコックさんと女官さんがいるから『人間の食べ物』にはなってた。

 あの大急ぎの脱出の間に、大鍋とお碗を持ってきてくれたんだ。キラ・シの分まで!

『料理』というのを初めて知ったらしいキラ・シは、コックさんたちをかなり大事にしてくれてた。

 マキメイさん達は、ガリさんたちの数が分からなかったらしいから、お碗とか全員分ではなかった。でも、三交代ぐらいで食事してたから、足りないこともなかったみたい。

『あの夜』にヒーヒー泣きながら超えた山道を、昼間戻る。

 とんでもない絶壁だった……

「あ……あの夜、これが見えていたら……おいて行ってください、って言ってましたね……」

 マキメイさんもあとでそう言ってた。ほんとにね。

  

 

  

 

 絶壁越えの先頭はサル・シュくんとリョウさん。

 私がル・マちゃんや女官さん達と真ん中。ル・マちゃんの馬に乗せてもらってる。

 後ろがガリさん。戦闘部隊は前と後ろに半々。

 甲高い鳥の声。キラ・シの指笛だ。

 ル・マちゃんの馬が歩いている場所も凄い崖なのに、その下の絶壁を、ガリさんたち数人が駆け抜けて行った。どこに蹄が掛かったの? そこ? まっすぐ斜めに見えるんだけど?

「見ろハル。戦ってる」

 ル・マちゃんが、人指し指と中指を揃えた手で左向こうを指す。ラキ王城の手前で砂煙。

 やっぱり、後ろにシャキの軍隊が来てたんだ? 全員で川から離れたときに入られたんだろうな。

 この絶壁を……シャキの軍隊も通ったんだろうか? 泳いだって説もあるのかそうか。あの橋は、部分部分が壊れただけだから、橋桁を伝って泳ぐことは可能だよね。

 誰もいなかったら、本当に、こっちでキラ・シ増やして終わってたかもしれないのに…………やっぱり、黙って見逃してなんてくれないよね。

 5000人ぐらいシャキの軍隊殺したんだもんね。その前に、皇帝殺してるもんね……

 私達がお城についたときには戦闘は終わってた。

 働き者のサル・シュくんが、殺した人達をお城の窓から投げ捨ててる。その窓から手を振られた。

「ハルの部屋っ! 空けたから来い!」

 不穏な言葉だなぁ……あの晩泊まった部屋、ってことだよね?

 マキメイさん達がお城に駆けて来た。

 城の前に投げられてる死体の顔を確認してる。

 綺麗に横たえられてる女の人が三人いた。全裸だ。上に枯れ葉とか細かい枝が掛けられてるのは……わざと? 体を隠すため?

 あの時、追いすがってきた人達だろうか? でも、男の人達は布の服だけで、鎧着てない。軍隊じゃなく山賊とかなのかな? やっぱり、リョウさんの心配した通り、夜盗にお城が乗っ取られたんだ?

「だから…………毛布以外持たずに出なさいと言ったのに……」

 マキメイさんが、自分のスカートをちぎって女の人に掛けた。

「身内の人?」

「……いいえ…………今年入った女官です。

 昨年御両親が流行り病でなくなって……いいところのお嬢さんだったので、女官として働くのは大変のようでした。

 あの夜も、家から持ってきていた宝石をかき集めていたのです……とてもではないですが、持てない量でした……」

 その彼女を連れてくることを、マキメイさんは諦めたんだ。

「どうしたハル」

 サル・シュくんが降りてきた。

 マキメイさんの前に横たえられてる女の人を見て、寄ってくる。どす黒い顔を覗き込んだ。

「ああ、この女。やっぱり死んだか」

 そう呟いて、あっち行きかけたから呼び止める。

「ナニそれ? 彼女を知ってるの?」

「あの時、三人選んでいいってなってただろ?」

 このお城を制圧したときに、ご褒美に三人、ってリョウさんにすんごい頼み込んでたアレ?

「三人目にこいつ選んだらものすごい嫌がったから、他の奴抱いた」

 え? ル・マちゃんにあれだけ迫っておいて?

「あの晩に三人?」

 こっちに掌向けて、その掌で自分の口を押さえて、そのあと、手だけで六人、って言った!! その、前のしぐさはナニ?

「女の人は守るんじゃないの?」

「逃げるのは守らねぇよ」

 ……ああ………そうか………………そうか………………

「来い、って言ったら来る奴。それがキラ・シだ。な?」

 サル・シュくんが、マキメイさんの後ろ頭を引っ掴んで、すっっっごい、キスした。音姫流したいぐらい凄い水音。納豆かき混ぜてるみたいな……しかも、長い!

 呆然としてるマキメイさんの顔にチュッチュッチュッチュッチュッ、て軽くキスして、片手で胸に抱いて、頭ポンポン。

「おいっ、サナ! 早く、全部川に捨ててこいっ!」

 そのまま、サル・シュくんはどっかいった。

 マキメイさんがボー……と、サル・シュくんを視線で追い駆けてる。べったり、泥の地面に座り込んじゃってる。腰が砕けたっぽい。

 気持ち良かったんだ?

 ディープキスで腰が抜けるとか、都市伝説じゃなかったのか。凄いな、サル・シュくん。

「あ…………申し訳ありませんっ、ハルナ様!」

「別に、謝らなくていいけど……」

 彼女には、サル・シュくんが描いたサル・シュくんの紅紋が頬にある。それを左手でそっと押さえてまた黙り込んだ。

 そっか、だから、彼女はキラ・シについてきたんだ?

 私が、リョウさんについてきたみたいに。

 もう、『キラ・シの女』なんだ。

「ハル! 部屋にいろよ。冷えるぞ!」

 ル・マちゃんが覗き込んできて、マキメイさんも立ち上がった。

「そうですわっ! お風呂のご用意をいたしませんとっ! 服とかが残っていれば良いのですがっ……」

 マキメイさんが、女官さんに声を掛けながらお城に駆け込んでいく。

「ナニ? サル・シュの女が気になるのか? ハル」

「え? ……ル・マちゃんも、知ってるの?」

「ナニを?」

「サル・シュくんが、マキメイさんと……その……」

「そのために山を降りてきたんだぜ? この女以外、全員キラ・シの女だろ。あの一晩で、父上が制圧した先、全部の女もな」

 そうですかー……

「彼女がそうじゃないのは知ってたの?」

 サル・シュくんが布を剥いでしまってたから、また掛けた。

「ものすごい悲鳴上げて逃げ回る女がいる、ってみんな言ってた。こいつだろ? あと何人かいたらしいけど」

「強姦は、しないんだ?」

「ゴウカン?」

「えっと…………無理やり……」

「無理やりやっても面白くないらしいから、そういうのはいないって、サル・シュは言ってた」

「そんな話までサル・シュくんとするの?」

「キラ・ガンが、無理やりやるらしい。キラ・シはそんなことしない、っていう、話で、出た」

「サル・シュくんがさらわれてたっていう、敵部族?」

「そうそう、それ。サル・シュが何日も帰って来なかったのに、誰も心配してなかった…………

 あの時父上が帰って来てくれなかったらどうなってたか………あの時でも、サル・シュは強かったのに、手足全部折られてた…………」

 ぐしっ、て鼻をすするル・マちゃん。とりあえず部屋に連れて帰ったら…………

 サル・シュくん、これ、『片づけた』って、言わない……

 ベッドまで血まみれじゃないよーっ! まだびしょびしょっ! 血なまぐさい!

「ハル。ナニか困ってるか」

 リョウさんが来てくれた。

「白いベッドシーツが欲しいです」

 ちらっとベッドを見て、私を見る。

「マキに言っておけ。他には?」

 これで、他には、って言われたら……

「無いです」

「じゃあ、先にオフロに入れ。そのあと、全員入れるからな」

「はいっっ!」

 血のついたベッドに腰掛けようとしたル・マちゃんを引きずってお風呂場に走った。

 鳥の声が何回も、鳴ってる。

 キラ・シの指笛。なんか、聞き分けられるようにはなった。

 何がどう、とはわからないけど、鳥の声とは違うし、全部違う音。

 これで会話できたら凄いよねぇ。スマホいらずだ。

「ハルナ様っ、今、一番綺麗なお部屋を片づけていますので、ゆっくりなさってくださいませね!」

 マキメイさんがお風呂を覗いてくれた。

 あの血まみれの部屋に戻らなくて済むんだ!

「いつもありがとうっ! マキメイさんっ! 本当に助かります!」

「いつでも甘えてくださいませ!」

 ちょっとル・マちゃんっぽくなってきたマキメイさん。

 キラ・シのあの10日の逃避行で随分砕けた。丁寧にやってても仕方なかったもんねあの時は。

「ありがとうっ! マキメイ!」

 ル・マちゃんも、両手を上げてばしゃばしゃ。マキメイさんも、両手に物を持っているのに、その下で掌を振ってくれた。

「マキメイ、イイ奴!」

「私は?」

「ハルはもっとイイ奴!」

 抱きついて、私の肩に頬ずりするル・マちゃん。かわいい。

「今回の血の道、凄いらくだった。あの熱石帯、凄い楽だった! 本当に楽だった!

 いつもなら四日は馬に乗れないのに、二日で乗れた! 助かった! ありがとう!」

「女の子がそばにいなかったからね、大変だったよね。これからは私がいるから、大丈夫だよ」

「ハルー……」

「強さでは全然叶わないけど、女の子としては私のほうが長いから」

「それは、内緒なんだろ?」

 ル・マちゃんが、掌をこっちに向けて、その掌で口を押さえた。

「それ、そのしぐさ、どういう意味?」

「どれ?」

 掌のそれを真似て見せる。

「言うなよ、ってこと」

「内緒、ってこと?」

「そうそう」

 頷いたあと、ル・マちゃんが、私をじっと見た。

「サル・シュが、ナニをハルに内緒って言った?」

 ばれた……

 ごめんなさい、サル・シュくん……

 サル・シュくんのポーズをそのまま真似て『六人』ってやってみた。私が『現代』でやるなら、『六人』は掌に人指し指。だけど、サル・シュくんのは掌に小指。

「あぁあ……」

 ル・マちゃん、分かったらしい。でも、もう興味はないみたい。真ん中いこうぜ、って42度まで泳いでブクブクもぐってた。

「ハル、温まったか?」

 リョウさんが裸で入ってきた。

「すぐ他の奴が来るから出ろ」

「リョウさん、左向こうが熱湯で、右側がぬるま湯ね。左側、火傷するぐらい熱いから気をつけてね」

「おお、ありがとう」

「サル・シュがもう火傷したからっ!」

「あいつはもう………………」

 女官さんに拭われながら部屋に案内された。四階だ。ダブルベッドが二つある! しかも前の部屋より広い!

 小さな窓。右手一本ぐらいしか入らないけど、明かり取りには十分。

 太陽の光って凄いなぁ。特に今なんて、たいまつとか蝋燭だと、絶対太陽に勝てない。

 ル・マちゃんは、毛布にくるまってもう寝てた。お風呂入ると眠くなるよねー。

 お風呂で騒いでるんだろう。なんか楽しそうな叫び声が響いてた。

  

 

  

 

  

 

  

 

  

 

「ハルっ! ハル、起きろっ! ハル!」

「ナニ?」

 ル・マちゃんの声だよね? 真っ暗。ナニ? ちょっと遠くで大音響。

「指笛吹けるか?」

「吹けないっ!」

「大声で誰か呼べ! ル・マって叫べ!」

「ル・マちゃんを呼ぶの?」

「いいから早くっ!」

 ル・マちゃんがどこにいるのか、ドアがどこなのかもわからない。えっと……ベッドの足がここだから、左の突き当たり……ドア……あった!

「ル・マちゃんっ! ル・マちゃんっ!」

 叫んでみたら、指笛が二つ聞こえた。

「どうしたル・マっ!」

 走ってきたのはリョウさん。

「外に誰かいるっ!」

  

 

  

 

  

 

 

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