えっ? 誰かいたのっ! で、どうなってるの? 窓、入れないよね? あ、また指笛。
「サル・シュが外に回ってる。落としていいぞ」
「どうされましたかっ!」
マキメイさんが、灯を持ってきてくれた。
ル・マちゃんが、明かり取りから刀を抜いたら、真っ赤! 手も、白いドレスも真っ赤!
城全体がまだ血なまぐさいから、錯覚かと思ってたら、この部屋の血だった……下でドサッって音がした。リョウさんが駆け出ていく。ル・マちゃんも後を追うから……私も、追った。四階がキツイ!
「これ、どこの戦士だろ」
サル・シュくんがリョウさんの足元に、鎧の人を蹴り転がした。
え? 胸に一突きの傷……って、ル・マちゃんが貫いたの? というか、四階まで壁を上がってきたの?
「ル・マちゃんは、ナニをしたの?」
「なんか壁の外来てる気がしたから、あの穴の前で待ってた。どこに刺さってるかわからないから、体重掛けて、引っ掛けてたんだ。……刀が曲がった……」
あんなにスピスピ寝てたのに?
キラ・シやっぱり怖い。
「あの上の穴も、キラ・シを立たせてあるから、入っては来られなかっただろうが、ル・マの手柄だな。よくやった」
リョウさんに頭撫でられて、ル・マちゃんにっこにこ。
「ガリ達が走り回っている中を、ここまで忍んできたのか? それは、凄すぎないか?」
「ガリさん走り回ってるの?」
「刀を持ってる男を殺しまくってる。かなり数がいるらしい」
ひぇえ……
「ハルとル・マは寝ろ」
ル・マちゃん、ナニカ言いたげだけど、黙ってお城に入った。
俺もやる、って言わなくなったね。ちょっとおとなしくなったし。
サル・シュくんのアレが効いてるのかな? 効いてるよね。
「ル・マ様。お風呂へどうぞ」
「えー……また入るのかよー」
「そんなに汚れてらっしゃるのに、当然です!」
そうだ、ル・マちゃん、血まみれだった。
「お怪我は無いのですよね?」
「うん、怪我はしてない」
どうせなので、付き合って私も入った。マキメイさんがニコニコとそこにいる。
「キラ・シのかた、まだ二十人ほどしかお入りではないのですけど、あと何人ぐらいいらっしゃるのでしょう?」
200人ぐらいだけど、これって言っていいのかな? リョウさんが『こちらの人数がばれる』って、口封じしてたけど……って、ル・マちゃんを見たら、口をムッと閉じてたから言わないことにした。
「あっちこっちにいるから、私も全体の人数はわからないんだ」
「早く全員をお綺麗にしたいですねぇ。腕がなりますねぇ……」
楽しそうだ。
あの汚いのが流れ出るのは、確かに爽快感がある。
みんな綺麗になってくれると、いいなぁ……
朝。
着付けに来てくれた女官さんに、またドレスアップしてもらった。久々の綺麗なドレス!
あの服、着っぱなしだったからどろどろだったんだ。
「ル・マちゃんはどうする?」
「どうするってナニが?」
「これ着る? サル・シュくんのあの短いの着る?」
このお城から出て行ったとき、ル・マちゃんはすぐにスカートの裾をちぎってしまっていた。
「フク着たかー?」
サル・シュくんが覗きに来た。ドアのスキマから首だけ出して、かわいい。
「なんで入って来ないの?」
「女がフク着てるときは入るな、ってリョウ叔父に言われた」
マキメイさんがナニカ言ってくれたんだ?
でも、そこに立ってたら一緒じゃない? ドア開いたままだし。と思ったら、サル・シュくんが消えた。マキメイさんが入って来て、ドア閉めた。
「おはようございます、ハルナ様、ル・マ様。
今日のお召し物はどうなさいます? 以前ハルナ様に教えていただきました、黒い一重もお作りいたしました」
あの白い下着の黒い版!
「えっ? あのあとすぐ出て行って、昨日帰って来たのに!」
「あのあとすぐに町の仕立屋に発注しておりましたので、出来上がっておりました。とりあえず、100枚お作り致しましたが、あと追加が何枚必要でしょうか?」
何人? キラ・シの全人数?
『残る奴は裏切る奴だ。生かせばこちらの人数がばれる』
それって内緒だよね? マキメイさんはもちろん、そんなこと関係ないだろうけど、私の口から言ったら駄目だよね?
「それは、リョウさんに聞いてくれるかな」
「はい、かしこまりました。では、ハルナ様。今日はどれにされます?」
赤と青と金色!
「もうちょっと地味なのがいいなぁ……」
「やはりそうですか。ではこちらは?」
グレーと茶色!
「これがいい!」
裾も、ちょっと短い?
「こちらは、あのお召し物よりは格が下がるのでどうかと思ったのですが、最初にお召しになっていたのがこの色合いでしたので、お好きかと思いました」
本当にさすがだな、マキメイさん。本当、女官『長』だよ。
「ああ、あの学生服……そう言えばあの服、どうなったの?」
「洗って乾かしてございますよ」
出してくれたのは、やっぱり、縮んでよれよれになった制服。これは、もう、着られるものじゃないなぁ……まぁ、この世界では誰も気にしないだろうけど。
縮むって、ずっと縮むのかな? もう縮まないなら、これ、もう一度濡らしてアイロン当てたら綺麗になるんじゃない?
アイロンは、金属のお鍋に炭でも入れたらできるよね? まぁ別に、急いで着たいわけでも無いからあとでいいか。
この乱暴な世界で、あの『ブレザー』って動きにくい。
まぁ、このお姫様ドレスも歩きにくいけど。なんというか『現代』のものを着る気にならない。
「ル・マ様はどうなさいます?」
「俺は、これでいい」
赤と青と金のドレス!
ル・マちゃんには似合ってた! やっぱり、元の元気さが違うから? こんなの、よく着こなせるなぁ……
何度もこけそうになりながらも、ル・マちゃんは根気よく裾をつまんで歩いてた。
大広間に、みんないる。
そこにル・マちゃんを連れ出した。
漫画でよくある、驚いたときのお約束みたいに、サル・シュくんが、手入れしていた刀、取り落とした。今日も髪も結ったし、髪飾りもつけたしね!
前も似たようなドレスだったけど、こんな派手ではなかったから、めずらしいみたい。さらにかわいくなったル・マちゃん!
「動きにくいんだぞ、こ…………」
つかつか歩いてきたサル・シュくんが、両手でスカートめくりっ!
「ル・マ、お前、足も細ぇなぁっ! こんなんで俺のコ産めるか? っぐぁっ!」
「お前のコは産まねぇってんだろっ!」
スカートが翻ったのと同じ高さまでル・マちゃんの足が上がってて、サル・シュくんが吹っ飛んでた。
血ィ吐いてた! 血ィ吐いてた!
「サル・シュくん大丈夫? 歯が折れたんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。手がぶつかって鼻血出た……だ…………け……」
ガリさん登場。ひゃっ!
まだ、ル・マちゃんのスカート翻ってるのに!
「……あ? 父上っ! おはようっ!」
ル・マちゃんがガリさんに万歳。
サル・シュくんが真っ青になった。駄目なことをした自覚はあるらしい。
娘のスカートが不自然に翻ってて、いつも口説いてた男の子が鼻血出してたら、そりゃ父親としてはヤバイよね?
やっぱりル・マちゃんにタッチするのは、ガリさんがいないところでしかしないんだ?
「ガリ……」
まったく動けないサル・シュくんの前にリョウさんが立った。
「フロ入れ。お前、くさい」
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