これで、元旦は終わり。明日から、またいつも通り、戦、制圧、戦、制圧。
海嶺(かいれい)の北に茘枝(れいし)っていう海沿いの国があるんだけど、山城があった。それがキラ・シは気に入ったみたい。首都のお城ではないから狭いけど、500人ぐらいなら大丈夫。キラ・シは殆どが出まわってるから、ここに千人集まること無い。
物凄い雪っ! 海風がここで湿気を落としてナガシュとかに乾燥した風を吹かすのね。その分雪っ! 凄いっ!
泣く子も恐怖で死にそうなマッチョ戦士が、小犬みたいに雪の中を駆け回ってる。
もちろん、サル・シュくんが雪合戦始めた。
自然と、ガリさん、リョウさん、サル・シュくん、レイ・カさん、ショウ・キさん、ナンちゃんをリーダーとする、6チームで争ってる。すばやさでは子供に勝てないんだけど、リョウさんとかガリさんの雪玉が、剛速球で子供を吹っ飛ばす………………これ、私の知ってる雪合戦ではないです、……怖い……
というか、当たり判定なんなの? 当たっても、サル・シュくんもリョウさんも終わらないし、ナニ? 疲れて脱落したら負け?
最後は、ガリさんとリョウさんと、サル・シュくんとナンちゃんが残った!
なんで? ル・アくんっどうしたの? と思ったら、物凄い速さで雪玉作ってナンチャンに渡してる。どこまでもナンちゃんの下にいる作戦らしい。騙されてるナンちゃんが不憫だけど……教えても、勝てるわけじゃないし……気づくまで放置。
多分、ル・アくんは、ナンちゃんを風除けに使ってるんだよね。ナンちゃん一人説得したら、みんな動くし、責任はナンちゃんが取るし……
サル・シュくんと一緒だ。族長になる気はない、っていう日和見。
さすがに、子供の体力が底無しとはいっても、鍛えたサル・シュくんのほうが上だった。子供二人に勝つとか、どんな体力よ、本当に……もう…………
ガリさんとリョウさんの方も、毛皮の上を脱いで取っ組み合いになっちゃってた。もう、雪合戦どこにもない。さすがに、ガリさんが肩より上に持ち上げられて、降参した。格闘でガリさんがリョウさんに勝つって、どうやったら終わるの? 関節技? キラ・シに関節技なんてある?
子供たちが雪の中で大反省大会してるところに、木を揺らして雪で埋めたサル・シュくん。
「完勝っ!」
「サル・シュくんっ! 子供たち掘り出してっ!」
「出てくるだろ」
「雪の落下で人は死ぬのよっ! 早くっ、掘り出してっ! …………ほらっ! 出てこないじゃないっ! 雪の下で失神したら死ぬからっ! 早くっ!」
サル・シュくんより、ショウ・キさんの方が雪を掘ってくれた……ら…………雪の中から跳び出したナンちゃんがショウ・キさんに飛び蹴り! ……まぁ……笑って足掴まれたけど。
「あっ! 父上じゃなかったっ! ごめん、ショウ・キっ!」
「おうおう、元気だな、お前らっ!」
雪の上にポーンと投げられるナンちゃん。
「ほら見ろハルっ! こいつらこれ狙ってたんだってっ!
これは……助けなかったサル・シュくんがエライ? え?
「アルちゃんはっ?」
「ハーイッ!」
雪の中から二歳児が、万歳しながら顔を出してくれた。満面の笑顔。サザエさんのタラちゃんみたいな声でかわいい……
「ショウ・キっ、今ので、俺を上に投げ上げてっ!」
ル・アくんが、ショウ・キさんに飛び蹴りした。ショウ・キさんはわけが分かってない感じで、そのままル・アくんをはね飛ばす。
「違うって、真上! 真上に投げて!」
「ル・ア、こっち来い!」
サル・シュくんが指で呼ぶ。
サル・シュくんは、ル・アくんの勢いを巧く上に変えて投げ上げた。トランポリンみたいに、ル・アくんが、上に!
三メートルぐらい跳んだ?
「ああ、そういうことか! ナン、来い!」
ショウ・キさんがナンを上に…………五メートルぐらい跳んだ?
「ショウ・キっ! 俺でできる? 俺もしたいっ!」
サル・シュくんがショウ・キさんに飛び蹴り…………
普通におなかに決まった……ショウ・キさん、雪に倒れちゃった! サル・シュくんきっと、四年前の、小さな自分だと思ってるんだろうな。軽自動車からリムジンに乗りかえて、車幅感覚分かってない感じ。
ショウ・キさんはずっと大きいから、なにしても大丈夫! って安心感があるのはわかるけど……
受け止めてほしい飛び蹴りを駿足で出しちゃ駄目でしょっ! ショウ・キさん、遅いんだから!
ツボ入った……
あ。向こうで、戻った筈のガリさんが手招きしてる。
面白そうな気配を感じると寄ってくるキラ・シ。
「シャーッ!」
叫びながらサル・シュくんが駆けて行ったけど……飛び蹴り……ガリさん、普通に、避けた。
そして向こうに崖があったみたい、サル・シュくんが、消えた。
「あーーあああああああぁぁぁあああっっっ……………………」
サル・シュくんが雪の斜面を転がっていく悲鳴がめっちゃ切ない!
帰ったはずの戦士がまだけっこういて、物凄い笑ってた。リョウさんまで!
サル・シュくん…………
なんでキミはいつもそんな面白いの?
「サル・シュはああやって避けたらいいんだ?」
なんか、ル・アくんが閃いてる。
「父上ーっ!」
ル・アくんもガリさんに飛びついて……、避けられた。
千尋の谷に落としたわ……
「アルちゃんもガリさんに抱きついてみて」
「えー……」
避けられるのわかってるから嫌がってるけど、とにかく行かせたら、今度は抱き留めてくれた。
谷に落ちたら駄目な子は見極めて落としてるのね。良かった。
アルちゃんはガリさんに似て、ちょっと『重たい』から、落ちたらただじゃすまないもんね。
あ……
スタッ、と、ル・アくんが崖から跳び上がってきた!
「俺とサル・シュでこの高さ上がれたから、ショウ・キとナンなら、もっと高いところ上がれるよ! ジョウヘキを越えられるかも!」
後ろに、サル・シュくんも駆け上がってきた。
そこ、駆け上がれるような角度だった?
ナンちゃんが崖に伏せて下を確認してる。それをサル・シュくんが、足持ってあっちに転がした。
だよねー、するよねー……
「あーーあああああああぁぁぁあああっっっ……………………」
悲鳴がサル・シュくんと瓜二つ! 声変わりしてないから、高さが違うだけ!
ナンちゃんは軽いからか途中で止まって、下に自力で飛び下りた。そして、駆け上がってくる。
だから、駆け上がれる角度じゃないって、ココ。
私の子供だけど、化け物ぶりが怖い……
さすが、サル・シュくんの子供だわ……
「凄いなナン! サル・シュみたいに駆け上がってきたっ!」
ル・アくんがすかさず褒めて抱きついて、背中叩いてる。みんなも集まってきた。ショウ・キさんがまだいてくれてるから、さっきの、『飛び蹴り投げ上げ』の練習してる。
ショウ・キさんもいい人……
さっき、サル・シュくんにあんな渾身の飛び蹴り食らったのに……
「ハルーっ! ガリメキアがひどいことしたーっ!」
「ハルーっ! 父上がひどいことしたーっ!」
子供みたいに抱きついてくるサル・シュくんとル・アくん。
リョウさんが私を見て、私がガリさんを見た。
「ガリさん、訴えが出てるけど、どうする?」
お城に帰ろうとしていたガリさんが、立ち止まって、ゆっくりと振り返る。
うっわ、こっわいっ! ……って、えっ? サル・シュくんっ、私の後ろに隠れてる! ナニソレっ!
「そうだな、ガリ。今のはお前が悪い。セイザ」
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