リョウさんがしれっと言い放った。
本当、幼なじみ、って強いわね。
しかも、ガリさんが正座? 見てみたいわ!
後ろでキラ・シが、口を押さえて笑うの堪えてる。サル・シュくんも。
ガリさんが、リョウさんを見て、私を見て、後ろのサル・シュくんを見て、リョウさんを見て、その場に正座した。
キラ・シの族長がっ! あんなことで正座っ! 雪の中で正座っ!
座禅組んでるのかっていいたいぐらい、背筋伸ばして綺麗な正座。……というか、私を見ないでほしいんだけど……
そそっと、ル・アくんがガリさんの隣で正座した。
なぜいつもル・アくんは、一緒に正座するの? ひそかに正座好きなの?
ガリさんの子供たちが……みんな正座、した。
いつから正座って、連座制になったのかしら?
ちんまいアルちゃんが、正座しきれなくておきあがりこぼしみたいっ! 動画撮影したいっ! 肉眼で『REC』だよもうっ! ナニ、このかわいさっ!
一つ上のルイちゃんが、アルちゃんの襟首を持って前にこけないようにしてくれた。でもそれは、がっちり膝が曲がることになって、瞬間的にアルちゃんがボロッと泣く。くちびるを食いしばって、真っ赤になって、でも、声は出さない。さすが二才でもキラ・シの戦士! 泣くな強い子、元気な子!
「サル・シュくん、これ、いつまでしてもらうの?」
アルちゃんがかわいそうなんだけど……、って小声で後ろに囁いたらキスされたので、耳たぶを引っ張り落とした。
「ウキャッ!」
ナニそのかわいい悲鳴。もう一度鳴いてほしい。
サル・シュくんが雪に埋まったのを見て、リョウさんが何度も頷く。
「ガリ、もういい。立て」
立ち上がったガリさん、全然痛そうな顔しないし……こっちに、歩いて、来たっ! うわっ!
起き上がったサル・シュくんの両耳をつかんで、雪に引き倒した。
「ウキャッ!」
満足。
ああ、キラ・シって、耳をつかむなんて、姑息なことしなかったから、この攻撃自体知らなかったんだろうな。そして、今見たから、今確認したくなったんだろうな。
ガリさんの力で本気で耳を引っ張られたら、千切れるかも……
「ハル、子らにこの攻撃を教えろ」
「……うん、わかった」
私は、攻撃としてしたわけじゃなかったんだけど……
ガリさんは歩いて行った。
ぴんしゃんしてる!
ル・アくんを始め、子供たちはその場で横になって呻いてるのに。
「……雪の上だから痛くないの?」
砂岩の上よりはましだと思うけど、あれはガリさんが、しびれない座り方をしてたんだと思うよ?
って言う前に、サル・シュくんが雪の上に正座してみてしくりと泣いた。私が横に転がして、足を伸ばしてあげた。それでもまだ、痛い痛いって鳴いてる。子猫みたいな声。
股間は180度開くのに、膝はかたいのねぇ。これって柔軟体操ぐらいじゃどうにもならないんだっけ? たしか、日本人の膝関節って、あり得ないほど曲がるらしいって聞いたことあったな。外国人と膝の形が違うって。
キラ・シだって基本はあぐらなんだから、椅子生活よりは膝は柔らかいはずなんだけど?
「父上、なんで痛くなかったの?」
ようやく復活したらしいル・アくんが、喜色満面。ガリさんの神格化が上がった。
正座なんかで……
サル・シュくんはガリさんに意趣返ししようとしたんだろうけど、やっぱりサル・シュくんだけが痛い目を見てる。
ガリさんに楯突くと良いこと何も無いのに……こりないなぁ……
そういえば、サル・シュくんは必ず意趣返しをするんだよね。そうだそうだ。
「サル・シュくん、寒い」
私もできたら雪の中なんて歩きたくない。今滑って転んだら、それこそおなかの子が流れそう。
子供達がまた雪合戦している中、サル・シュくんはビーチで砂に埋められたみたいに、雪を盛られて『海老』って、ル・アくんが笑った。まるで、天丼の海老みたいっ!
「うらーっ! えびの脱皮ーっ!」
突然立ち上がった大魔神が、雪を蹴散らした。子供たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。早い。本当に四方八方に逃げたから、サル・シュくんが、追い駆けられなくてカクン、て揺れてた。
「えらい目にあった……」
「変なことばっかりするからよ」
「ガリメキア、セイザ痛くなさそうだったよな? なんで」
サル・シュくんが私を左肘に抱っこしてお城に歩きだした。膝カックンとかしかけないでよ? ナンちゃん。
ちょっと心配になったけど、また、子供たちだけではしゃいでる。
「ハル……なんか凄く重い…………?」
「温石……熱石(あついし)を抱えてるから」
二キロぐらいの温石を抱えてるから、ちょっと重たいよね。
さっきも実は、足元からじわじわ冷えててつらかった。
サル・シュくんが、私の靴を脱がした。なんで?
そしてそれを前にほおりなげる。
「どうするの、靴」
私の爪先をつかんで、もう一方の足は右手の肘の内側に押し当ててくれた。
うわ……あったかいっ!
「足に毛皮まいてると、火に当てても全然熱くならねぇだろ?」
「……あったかいよ、サル・シュくん、ありがとう」
靴のところまで歩いたら、前に蹴る。
たしかに、持てないときは進行方向に蹴り続ければいいんだ?
「靴、私が持てばいいんだけど?」
「あんなつめたいの腹に持っちゃ駄目」
たしかに。
「そういや、俺の毛皮は?」
「まだ雪合戦してたころに、若戦士が集めて持って行ったよ」
そうだよね。毛皮着てたら、私の靴は、胸に入れてくれたよね。
マキメイさんが必死に洗ってくれてると思う。
毛皮って、現代でもそうそう洗うようなものじゃないから……
最近のキラ・シって、毛皮を頭からかぶって、私が最初に出合ったときよりグルグル巻きになってる。しかも今度は、央枝(おうし)王家からもらった上等の毛皮だから、動きやすくてみんな喜んでた。
寒いのは寒いんだな……
でも、暴れたらすぐに脱ぐから、まぁ、着脱便利な服になって良かった。
だから前は、縫製技術がなかったのもあって、『巻き付ける』だけだったんだ? だから、普通に、関節部分が巻けなくて開いてたんだよね。それで『涼しかった』んだろうな。
この世界、大概慣れたと思ったけど、雪国は『今回』が始めてだから、新鮮……
雪の上のキラ・シ、かわいい!
ただ、雪合戦が、『当たったら負け』じゃなく、『動けなくなった人が負け』だったのは斬新だった。だから、体力回復したら再参戦するのね。逃げ回ったりとか、木の影で体力回復したりとか、最後は格闘になってたしね。リョウさんとかガリさんの雪玉は、おなかに正拳突きくらったみたいな重さがあって、立ち上がれなくなるんですって。怖い怖い。
サル・シュくんの雪玉は、顎先狙ってた。脳震盪で倒してたわ。
あれは雪合戦とは言わない。
と、思ったんだけど、みんな、『当てた雪玉』と『当たった雪玉』の数を覚えてた。それで結局、ほとんど当たってないサル・シュくんが一位!
本当にサル・シュくん、後ろから雪玉が来てもよけてた。
たしかに、戦場で石を撃たれても当たらないんだろうな……って、納得。とにかく、自分に対する攻撃にメッチャ敏感。
「サル・シュくんはどうして、後ろから来た雪玉がわかるの?」
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