【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。180 ~神格化~

 

 

 

 

 

 リョウさんがしれっと言い放った。

 本当、幼なじみ、って強いわね。

 しかも、ガリさんが正座? 見てみたいわ!

 後ろでキラ・シが、口を押さえて笑うの堪えてる。サル・シュくんも。

 ガリさんが、リョウさんを見て、私を見て、後ろのサル・シュくんを見て、リョウさんを見て、その場に正座した。

 キラ・シの族長がっ! あんなことで正座っ! 雪の中で正座っ!

 座禅組んでるのかっていいたいぐらい、背筋伸ばして綺麗な正座。……というか、私を見ないでほしいんだけど……

 そそっと、ル・アくんがガリさんの隣で正座した。

 なぜいつもル・アくんは、一緒に正座するの? ひそかに正座好きなの?

 ガリさんの子供たちが……みんな正座、した。

 いつから正座って、連座制になったのかしら?

 ちんまいアルちゃんが、正座しきれなくておきあがりこぼしみたいっ! 動画撮影したいっ! 肉眼で『REC』だよもうっ! ナニ、このかわいさっ!

 一つ上のルイちゃんが、アルちゃんの襟首を持って前にこけないようにしてくれた。でもそれは、がっちり膝が曲がることになって、瞬間的にアルちゃんがボロッと泣く。くちびるを食いしばって、真っ赤になって、でも、声は出さない。さすが二才でもキラ・シの戦士! 泣くな強い子、元気な子!

「サル・シュくん、これ、いつまでしてもらうの?」

 アルちゃんがかわいそうなんだけど……、って小声で後ろに囁いたらキスされたので、耳たぶを引っ張り落とした。

「ウキャッ!」

 ナニそのかわいい悲鳴。もう一度鳴いてほしい。

 サル・シュくんが雪に埋まったのを見て、リョウさんが何度も頷く。

「ガリ、もういい。立て」

 立ち上がったガリさん、全然痛そうな顔しないし……こっちに、歩いて、来たっ! うわっ!

 起き上がったサル・シュくんの両耳をつかんで、雪に引き倒した。

「ウキャッ!」

 満足。

 ああ、キラ・シって、耳をつかむなんて、姑息なことしなかったから、この攻撃自体知らなかったんだろうな。そして、今見たから、今確認したくなったんだろうな。

 ガリさんの力で本気で耳を引っ張られたら、千切れるかも……

「ハル、子らにこの攻撃を教えろ」

「……うん、わかった」

 私は、攻撃としてしたわけじゃなかったんだけど……

 ガリさんは歩いて行った。

 ぴんしゃんしてる!

 ル・アくんを始め、子供たちはその場で横になって呻いてるのに。

「……雪の上だから痛くないの?」

 砂岩の上よりはましだと思うけど、あれはガリさんが、しびれない座り方をしてたんだと思うよ?

 って言う前に、サル・シュくんが雪の上に正座してみてしくりと泣いた。私が横に転がして、足を伸ばしてあげた。それでもまだ、痛い痛いって鳴いてる。子猫みたいな声。

 股間は180度開くのに、膝はかたいのねぇ。これって柔軟体操ぐらいじゃどうにもならないんだっけ? たしか、日本人の膝関節って、あり得ないほど曲がるらしいって聞いたことあったな。外国人と膝の形が違うって。

 キラ・シだって基本はあぐらなんだから、椅子生活よりは膝は柔らかいはずなんだけど?

「父上、なんで痛くなかったの?」

 ようやく復活したらしいル・アくんが、喜色満面。ガリさんの神格化が上がった。

 正座なんかで……

 サル・シュくんはガリさんに意趣返ししようとしたんだろうけど、やっぱりサル・シュくんだけが痛い目を見てる。

 ガリさんに楯突くと良いこと何も無いのに……こりないなぁ……

 そういえば、サル・シュくんは必ず意趣返しをするんだよね。そうだそうだ。

「サル・シュくん、寒い」

 私もできたら雪の中なんて歩きたくない。今滑って転んだら、それこそおなかの子が流れそう。

 子供達がまた雪合戦している中、サル・シュくんはビーチで砂に埋められたみたいに、雪を盛られて『海老』って、ル・アくんが笑った。まるで、天丼の海老みたいっ!

「うらーっ! えびの脱皮ーっ!」

 突然立ち上がった大魔神が、雪を蹴散らした。子供たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ去る。早い。本当に四方八方に逃げたから、サル・シュくんが、追い駆けられなくてカクン、て揺れてた。

「えらい目にあった……」

「変なことばっかりするからよ」

「ガリメキア、セイザ痛くなさそうだったよな? なんで」

 サル・シュくんが私を左肘に抱っこしてお城に歩きだした。膝カックンとかしかけないでよ? ナンちゃん。

 ちょっと心配になったけど、また、子供たちだけではしゃいでる。

「ハル……なんか凄く重い…………?」

「温石……熱石(あついし)を抱えてるから」

 二キロぐらいの温石を抱えてるから、ちょっと重たいよね。

 さっきも実は、足元からじわじわ冷えててつらかった。

 サル・シュくんが、私の靴を脱がした。なんで?

 そしてそれを前にほおりなげる。

「どうするの、靴」

 私の爪先をつかんで、もう一方の足は右手の肘の内側に押し当ててくれた。

 うわ……あったかいっ!

「足に毛皮まいてると、火に当てても全然熱くならねぇだろ?」

「……あったかいよ、サル・シュくん、ありがとう」

 靴のところまで歩いたら、前に蹴る。

 たしかに、持てないときは進行方向に蹴り続ければいいんだ?

「靴、私が持てばいいんだけど?」

「あんなつめたいの腹に持っちゃ駄目」

 たしかに。

「そういや、俺の毛皮は?」

「まだ雪合戦してたころに、若戦士が集めて持って行ったよ」

 そうだよね。毛皮着てたら、私の靴は、胸に入れてくれたよね。

 マキメイさんが必死に洗ってくれてると思う。

 毛皮って、現代でもそうそう洗うようなものじゃないから……

 最近のキラ・シって、毛皮を頭からかぶって、私が最初に出合ったときよりグルグル巻きになってる。しかも今度は、央枝(おうし)王家からもらった上等の毛皮だから、動きやすくてみんな喜んでた。

 寒いのは寒いんだな……

 でも、暴れたらすぐに脱ぐから、まぁ、着脱便利な服になって良かった。

 だから前は、縫製技術がなかったのもあって、『巻き付ける』だけだったんだ? だから、普通に、関節部分が巻けなくて開いてたんだよね。それで『涼しかった』んだろうな。

 この世界、大概慣れたと思ったけど、雪国は『今回』が始めてだから、新鮮……

 雪の上のキラ・シ、かわいい!

 ただ、雪合戦が、『当たったら負け』じゃなく、『動けなくなった人が負け』だったのは斬新だった。だから、体力回復したら再参戦するのね。逃げ回ったりとか、木の影で体力回復したりとか、最後は格闘になってたしね。リョウさんとかガリさんの雪玉は、おなかに正拳突きくらったみたいな重さがあって、立ち上がれなくなるんですって。怖い怖い。

 サル・シュくんの雪玉は、顎先狙ってた。脳震盪で倒してたわ。

 あれは雪合戦とは言わない。

 と、思ったんだけど、みんな、『当てた雪玉』と『当たった雪玉』の数を覚えてた。それで結局、ほとんど当たってないサル・シュくんが一位!

 本当にサル・シュくん、後ろから雪玉が来てもよけてた。

 たしかに、戦場で石を撃たれても当たらないんだろうな……って、納得。とにかく、自分に対する攻撃にメッチャ敏感。

「サル・シュくんはどうして、後ろから来た雪玉がわかるの?」

  

 

  

 

  

 

 

 

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