「俺に向かって来るものってわかるだろ」
そっかー……
オーラにナニカが刺さったらわかる感じ? どこの能力者よそれ。
この後も、この『雪合戦』、やたらやってた。
男の人っていつまでも子供なんだなぁ、って、納得したわ。
海嶺(かいれい)の東に『ラスタート』という、『騎馬民族』が住んでるんだって。
ここは、『前回』も行かなかったから知らないなぁ……
ただ……たしか、ル・マちゃんが死んだあとぐらいに、馬に乗る部族がいる、って大騒ぎになったことがあったような…………だから、今回も『制圧』自体はちょこちょこ行ってたらしい。
「あそこは、女も馬に乗って弓を持ってる。怖い」
サル・シュくんが笑ってた。
そんなこと言いながら、ガツガツ短冊刺してる。
そんな強い女の人とサル・シュくんとの子供だったら、強い子になるんだろうなぁ……
今のところ、『女戦士』って聞いたことないから、ココだけだよね。
辛巳(しんし)さんが言うには、ラスタートは『未開の蛮族』なんだって。
「ラスタートには羅季(らき)人が入れないので、どういう国なのかはわからないのですが、たまに煌都(こうと)を攻めて来たので、500年前の王が、壁を作りました。それからは減りましたが、たまに攻めてきますね。ただそれも、物取り程度なので、ほぼ気にされなくなりました。
馬に乗るのは彼らだけなのですよ。馬の手綱も、彼らを見てまねたものです。それで人は、馬車を作ることができました」
「馬に乗る人がいるのに、なぜ乗馬技術がないのかしら?」
「彼らは数が少ないからでしょう。攻められて多少の被害はありますが、国を取るほどの規模にはなっていません。馬は気性が荒くて、馬車や戦車用に教育するだけでも大変です。背中に乗るなんてとんでもないです」
『現代』から比べるとキラ・シの馬が凄く大きいから気づかなかった。けど、『替え馬』でたまに連れてくるこっちの馬も、背中の上が私に見えないぐらいだから『現代』の馬より余程大きいよね? 前の学校に乗馬クラブがあって、乗ったことはないけど、そばまで寄ったことはあったんだ。背中の上は見えたよ。あれが小さかっただけかもしれないけど。
大陸も、動物が『現代』より大きい? たしかに、狼とかも大きい。ドーベルマン程度じゃなく、雪山捜索してる犬…………えっと、セントバーナード? ぐらいある。ナンちゃんよりよっぽど大きい。ウサギも一抱えぐらいあったよね。食べがいありそうな大きさだった。
豚も牛も大きかったな。牛は本当に大きかったな! 壁だったなっ!
あの巨大な馬に暴れられたら、そりゃどうしようもないんだろうな。
『古代中国』だって、騎馬民族に攻められて万里の長城作ってるけど、漢人が乗馬したのは三国志時代だもんね。馬に乗ってる人がいることは知ってるのに、乗らなかったんだよね。
キラ・シも裸馬に乗ってるけど……鐙があったらもっと楽なんじゃないのかな?
今、ない技術ってどれだっけ?
手綱があるんだから、鞍と、鐙と、馬銜?
簡単に図を書いて見せたら、一番反応したのはル・アくんだった。
なんか、作っちゃったよ、ル・アくん。
サル・シュくんの忠言が先に来た。
「それ、自分の馬ですんなよ」
だって。
だから、こっちで拾ってきた控え馬に合わせて紐で作った。鞍だけは簡単に作れないから、布を敷いただけだったけど、裸馬よりよっぽどまし! 馬も凄く簡単に言うことを聞くし、鐙があるから馬の上でも踏ん張りが聞くしで、ル・アくんは大満足。
最近、なんか落ち込んでたから、笑ってくれて安心した。あの、ヨウヨウ君が亡くなったんだって。やっぱり、このキラ・シの生活にはついていけなかったんだろうね。
ああいう雰囲気の子が、長生きしないのね。今度から気にしておこう。
鐙をつけた馬に乗ってご機嫌のル・アくん。かわいい。
ただ、それを見たサル・シュくんもリョウさんも、いい顔はしてなかったな。
「馬がかわいそう」
サル・シュくんが眉間にしわを寄せて首を横に振った。
たしかに、キラ・シの馬って、手綱自体ついてないから、これは縛り上げてるように見えるよね。
でも、こっちの馬にはツノが無いから、手綱がないとコントロールできないよ。
「ル・ア、それ、全部外して馬を放してミ?」
ル・アくんが言う通りにしたら、馬は一目散に駆けて行った。
「あれ、帰って来ないぞ」
ああ、そっか。キラ・シは放牧というか、厩舎に馬を入れないから!
馬の手入れとかエサやりとかしなくていい分、『帰って来させる』必要があるんだ? だから、『ル・アくんの馬』でするな、って言ったんだ? 帰って来なくなったら大変だから。
「お城にも厩舎があるでしょ? 馬、って普通は、人間が家を作って、エサをやったり、手入れをしたりするもんなんだよ」
「放したら、勝手に食って来るのに?」
そっか……キラ・シって、基本的に動物の世話をしないんだよね。
動物を怖がらせて帰って来させるとか、そっちの方が考えつかないよ。
実は、キラ・シの馬が作物を食べちゃう、って訴えがよくあって、税金で買い上げてるんだよね。けっこう凄い金額になってる。そりゃ、雑草より作物の方がおいしいよね。
さすがに砂漠では、練兵場の一画に餌場を作ってた。
「ナガシュに居たときに、馬に餌をやってたでしょう?」
「あれ、面倒だったよなー」
「あれを、大陸の人はするんだよ。馬を囲い込むの。だから、あんなふうに綱をつけても、馬は逃げないの」
「逃げられない、んだろ。そんな馬が戦で使い物になるか?」
「それは……操る人次第じゃないの?」
「キラ・シの馬は、勝手に敵を殺してくれるぜ?」
そういうことを言われると、どうしようもない。
鷹も敵を殺すらしいから……なんか、動物操縦が巧いんだろうな。というか、キラ・シが獣みたいなものだし……言葉が通じるんじゃないの?
そのために、動物に自由を上げないといけないんだ?
鐙とかはとりあえず保留、というか流れた。
ル・アくんも、自分の馬が帰って来ないと困るから、もう何も言ってない。
鐙があったら私にも大陸の馬なら乗れるかなと思ったけど……残念。
「ハル、ちょっと馬でゆっくり移動したいけど、できそう?」
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