【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。189 ~キラ・シ語~

 

 

「……さっき、ル・アにも……そう、言われました……」

 こうやって、あちこちで勧誘してるんだ?

 でも、サル・シュくんって、羅季(らき)語わからないんだよね? でも、私がいなくても、普通に話しかけたんじゃない?

「どうせこのクニは負けるぜ?

 強い奴に強い武器を持たさないなんて、滅びる前兆だ。強いお前がすがりつかなくていいだろ。キラ・シに来い。お前より強い奴が幾らでもいる。俺の長男がお前より強い。いい相手になる」

 サル・シュくんが、史留暉(しるき)君の剣を投げ返して、自分の刀を抜いた。それで、あっちがわの壁を切りつける。

 メッチャ壁崩れたっ! 砂ぼこりがっ!

 ゲホゲホ私は噎せてるのに、史留暉君はただ、呆然と、その壁を見て、刀を見て、サル・シュくんを見上げた。

 その刀を、サル・シュくんは史留暉君に差し出す。

「お前がキラ・シに来るなら、この刀をやる。

 キラ・シの戦士になれ。シルキ」

 すっごいキラキラした目で史留暉君がサル・シュくんを見上げて、いまさら噎せた。息をするの忘れてたみたい。

「凄く……凄くありがたいお誘いだけど、僕は賀旨(かし)の人だから、キラ・シにはなれません」

 そうよね。兵士じゃなく、王子だもんね。

「じゃあ、次に会った時は、殺し合いだな」

「サル・シュくん、賀旨(かし)は従属国だよ。殺さないで。味方だよ」

「誘いを蹴る奴は敵だ。キラ・シ以外は全部敵だ」

 これは、通訳しなかった。

「僕、強くなります!」

 もう興味をなくして歩いて行ったサル・シュくんに、史留暉君が叫んだ。

 一応通訳してみたら、サル・シュくんがせせらわらう。

「敵なら弱いままでいーんだよ。そのままでいろ。殺す手間が省ける」

 これももう、通訳しなかった。史留暉君が廊下を外へと走っていく。

「サル・シュくん、本気で彼をキラ・シに呼ぼうとしたの?」

「当然。強い奴は引き抜くか、殺しておかないと、敵になるとやっかいだ。

 あの、ウィギのラキシタ。次にあったら確実に殺してやる」

 まだ覚えてる。

「あの時だって、止められなかったら刎ねてやったのに………………ル・アだって、敵だったら小さいウチに殺してる。あんなのが敵になったら、怖い所じゃない。キラ・シがつぶれる」

 まさに!

 たしかに、史留暉君も、ラキシタ君も夕羅(せきら)くんの軍隊でキラ・シを潰しに来る。サル・シュくんの嗅覚って本当に凄いな。

 ここで、史留暉君を本当に懐柔できたらどうなるんだろう?

 アレ? それで言うと、沙射皇子は喜んでキラ・シの言うことを聞いてもらうようにしておいた方がいいんだ? というか、沙射ちゃん、今どこにいるの? ナガシュには、来てなかった……よね?

「サシャは騎羅史城にいる」

 リョウさんが把握してくれてた。あそこは戦士村があるし、守りは堅いから大丈夫ね。

「その情報、ル・アくんは知ってる?」

「ル・ア? ……いや、知らんだろう。今、ハルに聞かれるまで、俺も忘れていた」

「それ、ル・アくんに知らせないで。名前も一切出さないで。キラ・シで誰が知ってるかしら?」

「俺だけだな」

「そんなことできるの?」

「アレはジョカンと一緒にいる。部屋から出してはいないし『読書好きでおおぐらいのジョカンがいる』という扱いだな。わざとではないが、そうなってた」

「誰も彼女に手を出さないの?」

「ガリの女、ということになってる」

 手を出したら殺されるのね。了解。

 皇子様のほうはコレでよさそう?

 前は、沙射皇子をずっとキラ・シ本隊で連れ歩いてたから、史留暉君が皇太子だったんだ?

 羅季(らき)をキラ・シが押さえた時点で、皇帝は殺したって、車李(しゃき)は知ってるわけだし、皇子が産まれたとかも、車李(しゃき)城崩落で消えちゃったかもしれないから、沙射皇子は死んでると思われてるんだ?

 皇帝奉戴したら、錦の御旗で、お城を制圧するときに戦いにならなくて良いかもしれないけど、本当にそうなるかわからないし、『皇帝がお城にいる』って面倒臭いから、今のままの方が楽、よね? レイ・カさん、攻城戦楽しんでるし。

 史留暉君もあの見た目だけど、普通に『弟王子』扱いだけだったし。

 よし。

 もう、皇帝関係のことは内緒にする、で決定。

 あ、廊下をル・アくんが歩いてきた。大きな声ね、相変わらず。賀旨(かし)の大臣さんたちと、何か話してるわ。

 今、ル・アくんは、この賀旨(かし)国を把握したくて寝るヒマもなく、書類を読んだり、大臣に質問したり、凄い……してる。

 まぁ、私がこの世界に来たときも把握に精一杯だったものね。

 ナガシュは羅季(らき)語じゃなかったし、央枝(おうし)では辛巳(しんし)さんから羅季のことを学ぶので必死だったし、そのあとはキラ・シの体力練成で鍛えてたし、マリサスでは倒れてたし……ル・アくんも、忙しい子。

 もう、練兵場以外でナン達と一緒にいるのも見なくなった。

 ただ、書類を20分ぐらい読んだら、一時間ぐらい鍛練してる。一日に何度もその繰り返し。羅季語を読むことの集中力がそれぐらいみたい。

 多分、『読むことはできる』けど、『読書が好き』ではないんでしょうね。私なんか、読み出したら身じろぎせずに読んでるものね。

「ねぇハル。どうやったら、長いこと読んでられるの?」

 ついに、聞きに来た。

「私は……読書が好きだから、止められない限り読んでられるんだけど……」

「……ドクショ? ショカンを読むってこと?」

「そうよ。だけど、ル・アくんは鍛練する方が好きでしょ?」

 コクリと頷くル・アくん。

「だから、限界まで書簡を読んでると、読むのがイヤになって、鍛練に行っちゃって、なかなか読めないのよね?」

「そうなんだよっ! 字を見てられないっ!」

「そう言うときは、『耐えられなくなるまで読む』んじゃなく、ちょっと読んだらちょっと運動すればいいのよ」

「ウンドウ?」

「軽い鍛練。例えば、刀を振り回しながら読むとかね。歩きながら読むとかね。ちょっと読んだら腕立て伏せをするとかね」

「ウデタテフセ?」

 してみせたら、ル・アくんもすぐにしたけど、元々腕力が既にあるから運動って運動にならないみたい。

「腕立て伏せじゃ軽いわね。じゃあ懸垂とか?」

 どこかにぶら下がって腕を曲げる、これも、軽そうだったな。

「とにかく『同じ体勢』を続けないようにすればいいの。最低でも、首とか肩をぐるぐる動かすと、いいのよ」

「なんで首とか肩を動かすといいの?」

「体の中には血管というのが流れててね、その血管が血を脳まで運んでるの。脳は血が回らないと考え事ができないの。体を動かすと血管が動くから、血をよく回してくれるんだけど、じっとしてると、血が頭に登ってこなくなるの。だから、眠くなったり、同じことをしていられなくなるのね。肩とか首を回すと、そこの血管が動くから、脳に血がいくの。それで、ぼうっとしなくなるのよ」

 そう言えば、古代エジプトって、手術はするのに『血管』の知識はなかったんだっけ? だから多分、キラ・シにも『血管』って認識はないんだろうな。

「ケッカン? そんなのが体の中に通ってるの?」

「だから、切ったら血が出るのよ。胸を刺したら人間って死ぬわよね? それは、この胸に、血管を動かす力があるからなの」

 酸素までは面倒臭くて説明したくないけど、大丈夫かな?

「歩きながら書簡読んだらいいって、わかる! ダイジンと廊下を歩きながら書簡読んでたら、いつまででも読んでられる!」

「それそれ。歩いてるから脳に血が回ってて、『飽きない』のね」

「動きながら読めばいいのかっ! ありがとうっ、ハル!」

 ル・アくんが全然練兵場に来なくなったわ。

 書簡を読みながら、階段を昇り降りしてた。読み終わるころに部屋に帰って、次の書簡を持って、また階段歩いてる。

 こんなことしてるから、元々ある体力がもっと凄くなるんだわこの子。結局、一か月ぐらいでル・アくん、賀旨(かし)城の書庫、おおかた読んだわ! 凄い! まぁ、私が先に読んで、必要そうなのを積み上げてたってのもあるんだけど。

 私はチートのマルチリンガルでナンデも読めるからいいんだけど、ル・アくんって、文字がない生活から文字を知って羅季(らき)語を読んでるのよ。凄すぎるわ。

 三つ子の魂って言うけど『文字を読まない生活』でその時期を過ぎちゃってるのに、よく読書しようと思えたわね。これは辛巳(しんし)さんの押し込みでしょうね。央枝(おうし)で、面白い書簡をたくさんル・アくんに読ませてくれたから。

 本当に、出合う人って大事よね。

 馬鹿に周りを囲まれると馬鹿になるしね。

 リョウさんも、脳筋に囲まれてあの頭脳が維持できるのは凄いわ。

 今でもリョウさんは、お城が変わるたびに町の職人さんを訪ねてる。それにル・アくんもけっこう一緒に行ってるのよね。彼以外は、つきあってくれないから。もちろん、私も一緒に行くんだけど、けっこう、摩雲(まう)とか体調悪くて寝込んでたから、いつのまにかその隣の席はル・アくんになっちゃってた。

 リョウさんもやたら質問してきたけど、ル・アくんはそれ以上なのよね。

「ハル、歩けるようなら、ショクニン周りをしないか?」

 今ではリョウさんがそうやって誘ってくる。ル・アくんの質問を私に答えさせたいみたい。ル・アくんが納得する向こうで、リョウさんもうんうん頷いてる。

 ル・アくんはその場で教わってパパッとやっちゃうけど、リョウさんにはその『手先の器用さ』がない。スマホを持ったら、タップで液晶割りそうだもんね。

 町を馬で歩いてる間も、ル・アくんは書簡を持ってきて読んでる。読むスピードも格段に早くなってきたわ。

 メモをしたいとかで、私にカタカナ教えてって言ってきた。羅季(らき)語でメモしたほうがいいけど、羅季語って漢語だから、書いてられないって。

 カタカナを教えたら、キラ・シの発音で書いてるみたい。私のチートで読めるけど、日本語の文章にはなってなかった。

 ああ、キラ・シの言葉ってこんなのなのね。初めてわかった。

『キラキラ石』って『カ レア』って書いてた。『レア』の方がキラキラって意味だって。『カ』が石なのね。先に単語が来て、修飾語があとなのね。

「ねぇ、ル・アくん。『セキラ』ってキラ・シ語だとどういう意味?」

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました