【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。197 ~離反~

 

 

 

 

「出撃と鍛練と制圧」

 がんばってる!

「………………そうよね……サル・シュくんと同じ年だった時より横幅ちょっとあるものね」

「えっ? そうなの? 父上より大きい? 俺!」

「うん……」

「しゃぁっ!」

 その喜び方がサル・シュくんと一緒! かわいいっ!!

 その分、残念ながら、サル・シュくんより脳筋。

 ル・アくんがしてるから読書も挑戦してたけど、一分も座ってられないの。

 ル・アくんみたいに、歩きながら読むとか、いろいろ工夫してたんだけどね。

「母上、俺、刀だけでキラ・シのために働く!」

 わざわざ勉強離脱宣言しにきたものね。

「考えるのはル・アに任せる。俺、あれ、無理!」

 潔すぎて、もうちょっとがんばりなさいとか、言えなかった。

 あれで、名実共にル・アくんがリーダーになったのよね。

 まぁコレでも脳筋度合いは98%ぐらい。リョウさんほどではあるから、『城を任せる』はできるんだけどね。多分。

 ル・アくんは、脳筋50%だから……全然『考える』ことでは勝てないわ。分かってたから、残念感は無い。

 大体、ル・アくんと会った瞬間、ナンちゃん転がされてたしね。スムーズにリーダー移動できたなら、それが一番いいわ。

 ナンちゃんも『敗北宣言』とは思ってないのが良かった。

 自分の脳筋でつっぱしります! っていう、『得意宣言』だからね。逆に気持ちよかったわ。

 実は、身の軽さも、剣技も、ル・アくんの方が上なんだけど、ナンちゃんは『自分が教えた』から、それを卑下してはいないのね。ここらへんはル・アくんのうまさだったわ。本当に。

 政治家って五才でも政治家なんだわ。すっっごい、納得した。

 ル・アくんを嫌いな人がキラ・シにいないのよね。

 宮殿の大臣とか書記官も、まずル・アくんに話を持っていく。羅季(らき)の人にも好かれてるのは凄いわよ。

 まぁ、脳筋50%って、現代では100%脳筋扱いうけるけど……キラ・シの脳筋度って桁違いだから。

 ル・アくんも、この大陸の人達一般からして頭脳派ってわけでは全然ない。辛巳(しんし)さんも20%脳筋だし。

 それでいうと、雅音帑(がねど)王も30%脳筋だったかな。

 あの人、ものすごく賢かったけど、剣を持たせてもある程度強かったのよね。

 多分、『考える』ことができると、効率よく鍛えられるから、勉強しながら腕力を上げる、ことが普通より簡単なんだろうと思う。

 というか、この世界の人達全員が、『現代』から比べると脳筋なのよ。だって、弱いと生き残れないから『筋肉怖い』とか言ってるヒマないもの。

 ル・アくんは、羅季(らき)語がペラペラだし、ウィギにも良く行ってるからあっちの言葉もできるみたい。

 ナンちゃんは『マルチリンガル』のチート持ってるけど、頭が残念なのね。おうむ返しはできても、羅季の人の言ってることはほぼわからない。

 基本が『キラ・シの単語』だから。ただ、それを丸ままリョウさんに報告できるから、リョウさんが処理してくれるの。

 ル・アくんは、マルチリンガル持ってないけど、自力でトリリンガルになった上に、相手の言ってることが大体分かる『語彙力』を持ってる。『羅季の単語』を知ってるから。ここらへんは、辛巳さんの押し込みよね。

 それと、最初から、ナンちゃんも『なぜなぜ?』は多かったけど、主に鍛練に関してだけだった。ル・アくんは360度全事象に対してなぜなぜ言ってたから忙しかった!

 説明に百分率使ったりとか、グラフ使ったりとかした。マインドマップの書き方も、私のを見て覚えたから、思考の伸びが半端なかったな。

 玄関の地図には二人のマインドマップも並んでる。日々疑問が増えてて、毎日解決したことが消されてて頻繁に書き直してる。二人で追加していくから凄いことになってるわ。

 教えたわけではないけど『ゼロの概念』もル・アくんは覚えちゃった。

 時計もないこの時代に、24進法の『時間』を私が説明で使ったんだけど。『ゼロ時』がどうしても出てくるから。

『現代』ではそんなそんなグラフなんて使わなかったけど、説明にグラフがなかったら、どんだけ面倒だろうと、こっちではよく思った。

 グラフって『視覚的』だから、凄いキラ・シに説明しやすい。

 グラフ作った人凄いわ!

 今、この世界に来るまでにあと二カ月時間を貰えたら、山ほどグラフ勉強してくるのになぁ……

 ル・アくんは、教えるのは巧くなったし、なんでも知ってるし、よくいろんなことを相談されてるけど、少しずつ、浮いて来た。

 結局は、ナンちゃんたちだけが出陣したから、ル・アくんは今、ひとりぼっち。

 みんな、14才なら出陣してるから、ル・アくんもずっと待ってるんだけど、もうすぐ15才ね。

  

 

  

 

  

 

 そして、ル・アくんが15才になったときに、また叛乱がおこった。

 すぐそばの季弘(きこう)国への出陣。

 いつも、出陣の采配の時は、ガリさんがどこかで腕を組んで見てて、リョウさんが地図を前にして発表するんだけど、今日は、ガリさんがいなかった。

「季弘への出陣はナン・シュ達と、初斬はナツ・ア、ナキ・カ、サン・リ。以上」

 ナンちゃんは叛乱ぐらいなら軽く押さえてくるので、若戦士の一隊を率いてた。

 出陣のたびに、『初斬』の子が何人か入る。

 ル・アくんは、それに自分が呼ばれるのをこの数年、ずっと待ってた。

 でも、今回も、名前がなかった。

 しかも、一年下のナッちゃんが出るのに?

 どうして?

 ル・アくん、強いわよ? ナッちゃんよりよっぽど強いわよ?『勝ち上がり』でも部族四位よ?

 戦士たちもみんな、キョトンとした顔してる。

 リョウさんは、ずっと地図の方を向いたまま。

 みんな最大でも14才までに出陣して、初出陣の時に、右頬に紋を描く。

 だから、15才で紋が片方なのはル・アくんだけ。

 戦うことだけが『人格の指針』のキラ・シで、こんなの、ル・アくんの顔に泥を塗ったのと同じよ。

 ル・アくんが、ギシッ、と歯を軋らせて、ガツガツと廊下を歩いて行った。

「どうしてル・アくんじゃないの?」

 リョウさんは、地図の方を向いたまま。

「ガリの指示だ」

「どういう指示?」

「ル・アは、出陣させない、と」

 ああ……もしかしてこれって、ル・アくんを離反させるため?

 なんだっけ?『前回』、ル・アくん……じゃなくて『夕羅(せきら)くん』、ガリさんを凄く嫌いだった。拷問されて逃げたって……

 ル・アくんを、近年中に、キラ・シから追い出す、気、なんだ?

 コレなの?

『キラ・シを滅ぼす準備』なの?

 ル・アくんに鬱憤を溜めさせてるの?

 ガリさんは、わかってて、してるの?

 ル・マちゃんから、何か聞いてた?

 翌日、ガリさんはル・アくんに『政務をするな』と言った。

「ハル、ル・アの跡を継げ」

 無理よ。

 ル・アくんがどれだけ王宮をまわしてたと思ってるの!

 私は政治家じゃない。事務はかろうじてできても、政治はできないわよ。

 でも、これは、『決定』、なんだ。

 キラ・シの族長の、決定、なんだ。

「母上……ル・アが練兵場に出てきても、誰も相手をしなかったけど、どうしたの?」

 私とガリさんの三番目の子、ルイちゃんが泣きそうな顔で走ってきた。

「ル・アが鍛練できないよ? あんなに鍛練好きなのに、どうするの? どうして?」

 

 

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