【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。206 ~一緒に、来て?~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 サル・シュくんでもできないんだ?

 サル・シュくんが、私を左肘に抱えたまま、カチカチカチ……って歯を鳴らした。顔はずっと、ガリさんの方向いてる。

 歩くたびにナニカ……膨れ上がって、来た! 全開っ!

 前後にいた羅季(らき)の槍兵がビクッ、と跳ね上がって腰を抜かした。

 ガリさんは無視してるけど、その前にいる沙射君とか、その後ろの史留暉(しるき)君とか、紅渦軍(こうかぐん)の全員もサル・シュくんを見上げた。

 でも、夕羅(せきら)くんは、見ない。

 サル・シュくんの目が、まっっっすぐに、夕羅君を、みてる。

 目からビームが出たら殺せそう。

「あいつ…………」

 カチカチカチカチ……カチッ!

 と歯を鳴らして、笑いだした。

 なんて楽しそうなサル・シュくん。好き。

 胸が悼むけど、好き。大好き。サル・シュくん。

「ハルが呼んでくれたの? アレ」

「…………そういうことになるかもしれないわね」

 ふわり……とサル・シュくんが気配を消して、私のおなかを撫でてくれた。あたたかい。

「アリガト、ハル」

 笑顔で私に頬ずりしてくれるサル・シュくん。凄くご機嫌ね。良かった。

 私を置いて死ぬ予定が決まったのに、ご機嫌ね。

 ご機嫌ね。

 私をまた一人にするくせに……喜ぶのね……

 もうキラ・シの男なんて、愛したくない。

 一緒に、年を取ってくれる人を愛したい。

 でも、サル・シュくんの望みだから、……あげる。

 あげるよ。

 お城の玄関でリョウさんや大臣達が出迎えてるところに、サル・シュくんが、私を抱いたまま滑り込む。

 城門を潜るときは、ガリさん、史留暉君、夕羅くん、紅渦軍……って並んでたのに、いつのまにか、ガリさん、夕羅くん、赤い大きな人、史留暉君、ってなってる。そして、史留暉君の両脇を、紅渦軍の赤い人の大小が囲んでた。

 小さい方が侍衣牙将軍、大きい方が威衣牙将軍だって。

 小さいっていっても、夕羅くんより頭半分低いぐらい。

 ナンちゃんと、同じぐらいかな……

 ああ……玄関に、ナンちゃんも、いた。

 叛乱鎮圧に出てた筈なのに。

 せめて外に居てくれたら、逃げられるかもと思ったけど、無理よね。何があっても帰ってくるよね。

 一分隊全部私の子供とか。『自分の子供で野球チーム作る』みたいなノリ。

 あんなに『サザエさんのタラちゃんみたい』だったアルちゃんも、もう一端の戦士ね。アルちゃんでも既に300人ぐらい子供がいるの。本当に凄いわ、キラ・シ。その分、大陸の人達の子供は減ったんでしょうね。

 玄関でにらみ合ってるガリさんと夕羅くん。

 夕羅くんの方は紗を掛けてるから顔が見えてないけど。

 誰か何か言いなさいよ。黙ってても何も進まないのよ。

「よければ、国民に、挨拶をさせてもらえないだろうか?」

 史留暉君が口火を切ったわ! えっ! 凄い!

「ようやくこの煌都(こうと)に皇族が揃ったのだから、顔を見せて安心させたい。よろしいでしょう? 陛下」

 史留暉君が、ガリさんの馬に手を伸ばして沙射君を抱き下ろした。ガリさんはそれをちらりと見たけれど、夕羅くんの方をずっと見てる。

「ええ……それは慶ばしいことですね」

「互いの軍から、同数の護衛を出してくれ。それで、気が済むだろう?」

 史留暉君の脳筋、90%ぐらいに下がってる!

「キラ・シからは、サル・シュ将軍に来てほしい。つもる話もある」

「俺?」

 通訳したら、サル・シュくんは当然イヤそう。

 ガリさんとリョウさんを見て、私を見る。ナニ? 私にそんな判断仰がないでよ。

「とりあえず、馬でここにいられても困るので、練兵場に行ってほしいんだけど? ……ガリさん。紅渦軍も」

 大理石の床がもう……泥と馬糞だらけ。夕羅くんも相変わらず脳筋50%で、全然気にしてくれないのね。まぁ戦争だから、装飾なんてどうでもいいわよね。

 サル・シュくんが、私を床に、下ろした。

 ガリさんが馬を庭に出したから夕羅くんも動く。それにサル・シュくんもついていき掛けたときに、赤い大男がその前に立った。

「お前、相変わらず綺麗な顔してやがるな」

 サル・シュくんは無視していこうとしたけど、腕を掴まれたからか振り払って、下がった。頭二つ高い彼を見上げて、眉を寄せる。

「ガキの頃、お前に殺されかかったラキシタだぜ? 忘れたとか言うなよ?」

「忘れた」

 サル・シュくんが、慌てて私を抱き上げた。これは、覚えてるよね。

 みんなが玄関から居なくなったのに、影から黒い人が出て来る。そこ、白いよ? どこに潜んでたの? ゼルブの誰か?

「紅渦軍の軍師を勤める京守(けいしゅ)と申します。キラ・シのハルナさまとお見受けしました。お見知り置きを」

「どうして私のことを知ってるの?」

「キラ・シを導く賢女がいると、噂ですよ」

 いやだ怖い。誰よそんな噂流してるの。って、夕羅くん以外にないじゃない。

「わたくしはろくに歩けもしません。女性であるあなたと同格。部族三位のサル・シュ殿と、このラキシタもほぼ同格。二対二の護衛で、よろしいでしょう」

「こいつと俺が同格? ふざけんなよ」

「ならば、余計によろしいでしょう?」

 京守さんは畳み込んできた。

 サル・シュくんの言葉はわかってないと思うけど、通じてる。脳筋じゃなくても通じるのね……

 武力で勝るのなら、キラ・シ側に文句はないだろうってことなんだろうけど……これは、私にとっても、渡りに舟かな?

 サル・シュくんを、決戦から引き離せるかも……

 街で、凄い歓声が上がってる。キラ・シの方は何も通達を出していないはずなのに、バルコニーに街の人が集まってる声。夕羅くんが、人を呼んだんだ。

 サル・シュくんが練兵場に行きたくてうろうろするけど、ラキシタ君がここに居る限り、私を放すのもイヤみたい。

 そして、練兵場にいけば、死ぬのがわかってるから、私をづさて行くのもイヤみたい。

 それは、ありがたいんだけど…………どう、するのかな?

「サル・シュくん、一緒に来て?」

 私を下ろして、練兵場にいこうとする彼の手をそっと握った。

 行っちゃうよね。

 分かってるよね?

 今から、練兵場で、キラ・シと紅渦軍の最終決戦がある、って、わかるよね?

 ラキシタ君が先に上がって、史留暉君、沙射君、と続いた。京守さんがしばらく私を見てたけど、階段を上がっていく。

「サル・シュくん、一緒に来て? もうすぐ、君の子供が生まれるの…………私を、守って?」

 あと半年は、ある。

「一緒に、来て?」

 届かない願い。

 無理だと分かってる、願い。

 最後に、キス、させて?

 口には出さなかったけど、サル・シュくんはキス、してくれた。

 そして、私を左肘に抱き上げて、階段を上がっていく。

「サル・シュくん?」

「ナニ」

 うわ、語尾下がってる。怒ってる。

 でも、来てくれたっ!

「ハルとの約束、覚えてるよ」

 サル・シュくんが泣いた……ように見えたけど、階段の上から光が指したときには、頬が乾いてた。

「ハルが俺に長生きして欲しがってるのも、知ってるよ」

 俺は、早く死にたいのに……

 って、声には出さなかったけど、呟いた。

「あと二年、生きていてあげる」

  

 

  

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました