「ハルー……」
揺れてる……揺れてる揺れてる…………リョウさんの馬に乗せられて山走ってる。お尻痛いなぁ…………
「ハルゥ……」
ル・マちゃんの声?
白い寝間着着たル・マちゃんが私を揺さぶってた。今の夢? どっちが夢?
「ナニ? どうしたのル・マちゃん。おなか痛い?」
ここに来て二回目の生理。昨日からル・マちゃん、青い顔して寝込んでた。ベッドの大きな温石はまだ温かい。
私も生理なんだけどね。ちょうどル・マちゃんと同じ周期みたい。
私の左手首を持ってル・マちゃんが歩きだした。
「どこいくの?」
返事が無い。
ねぼけてる? でも、振り放せないし、一人でほっとけないし……一緒に階段を下りてく。
なんか、みんな、まだ起きてるみたい。何時ごろなんだろう。
ふぁ……眠い…………
ル・マちゃんがどこかのドアをノックも無く開けた。あくびしながら私も入ったら……
「あっんっっっっ! ぁっあぁっ……サル・シュ様っ! サル・シュ様ぁっ!」
なんですって?
私、目を開けない方がいいんじゃない、これ?
でも、ル・マちゃんが動くから、開けないところびそうで怖い。ラキ城の床が、イタリアの石畳みたいにボコボコしてて、ぼーっと歩いてるとひっかかってこけるんだよね。
覚悟して開けた、バチッとサル・シュくんと目があった。恥ずかしげは微塵にも無い。
その視線が私からずれる。
「ル・マ? ナニしてる?」
また私を見る。
知らない知らない。私は連れて来られただけ!
掴まれた手を振ってみたけど、全然離れないっ!
見たくなかったけどはっきり見えた。
サル・シュくんのベッドに三人の女の人がいたっ! 今、あえいでるのがマキメイさんだっ! うわっ…………
「サル・シュ様っ? どうしてっ?」
ル・マちゃんが、サル・シュくんの足首を抱いてベッドで丸くなった。それは、凄い邪魔よ、ル・マちゃん。
「ハル」
「はいっ!」
「今はイヤだ。頼んでいいか?」
さすがのサル・シュくんも、今はル・マちゃん優先にできないんだ?
マキメイさんに引き寄せられるまま、めっちゃキスしてる。彼女の腰を抱いたまま、ベッドに座って、ル・マちゃんの指をこじ開けた。
マキメイさんが勝手に動いてる。いやもう…………本当……………………ごめんなさい。
「頼むぞ」
「やってはみる」
ル・マちゃんをどうにか後ろから抱いてずるずる引きずる。もう、完全に目が覚めたよ。
最近、馬の乗り方教えてもらって、全身の筋肉痛が納まった後だから、ちょっとだけ筋力ついた。先月の私なら、ル・マちゃん引きずれなかっただろうな。
はぁ……気にはなってたけど、知りたくなかった。
マキメイさん、凄かったな。全然私達に気付かなかったっぽい。明日も、知らんぷりしといたほうがいいよね。
サル・シュくんの部屋から出たら、ドアの前に座り込んじゃったル・マちゃん。そりゃ眠いよね。寝ぼけてるんだもんね。でも、ここで座っちゃ駄目。お尻冷えてもっと痛くなる。
落ち着いたら、辺り中の部屋から『シテる』声がしてた。『みんな起きてる』と思ったのはこれだったんだ?
私もはっきり目覚めたら、一声聞いて分かったんだけどな……
ル・マちゃんがようやく立ち上がってくれて、階段を上がっていく。そうそう、そのまま部屋帰って寝ようね……って、そこ、私達の部屋じゃないよ!
ドア開けかけるからどうにか引っ張る。ドアが閉まる。引っ張り続けられないから力抜けたらまたドア開ける。引っ張る。ドアが閉まる。
もうこれ迷惑だからル・マちゃん。
私もサル・シュくんみたいにル・マちゃんをよいせっ、って持ち上げて歩きたい。どんだけ筋肉ついたらできるだろう。
ああ…………負けた………………
ガリさんの部屋だった!!!
大きなベッドに、女の人がたくさんいるっ! いや、ちょっと、許して、ル・マちゃんっ! ル・マちゃんが居るのはいいけど、私は出たいっ! 手を放して!
ガリさんは、ル・マちゃんを見て、私を見て、続けた。
続けたっ!
女の人も私達に気付いたけど、気にしてないの凄い。
ル・マちゃんが、サル・シュくんにしたみたいに、ガリさんの足首抱いて、コロンと転がった。
さすがにガリさんも止まって、足を見て、ル・マちゃんを見て、私を見て、ル・マちゃんが握ってる私の手を見る。
そのまま続けた。
続けたっ!
なんて父親だっ!
「ル・マちゃんっ! 手っ放してっ! 手!」
「うるさい」
静かに、ガリさんに怒られた。
「っっ!」
口を押さえてベッドの下に隠れる。
もー…………ホントかんべんしてー……
床、メッチャ冷えるっ!
もう、諦めて、私もベッドに上がらせてもらった。広いし。ル・マちゃん抱きしめてぬくぬくしたら、おなかの痛み薄くなった。
ガリさんずっと元気だった。
もうどうでもいいや……
寝た。
「小便っ!」
ル・マちゃんの声で目覚めたら、まだガリさんやってた。寝ずにしてたの? 朝からしてるの?
というか……ル・マちゃんがっ! 私をおいて駆けだしていった。
ガリさんが、開いたドアを見て、私を見る。掌を上に向けて、ちょいちょいって自分に向けて振った。それ、手招きだよね?
遠慮します。
私は両手を広げて『キラ・シ礼』をしながら、後ろ歩きでドアにたどり着き、ドアを閉めて部屋に走った。
「おーっ、ハル! 昨日」
多分、私達の部屋を見て降りてきたんだろうサル・シュくんに、走ったまま、おなかに頭突きした。
「ごっ……」
他の人相手なら逃げたんだろうけど、私からそんなことされると思わなかったみたい。
彼はまったく逃げもよけもしなかった。
自分が壁にぶつかって、私がはね飛ばされたのを、抱き留めてもくれた。
すごい固いおなか!
しかも、おなか押さえながら咳き込んでるのに、私も抱きしめてくれてるとか、器用だな、ほんとに。
サル・シュくんがおなか痛がってくれたから、私のおなかはちょっとマシになった気がした。
「ごめんなさいサル・シュくん」
完全なやつあたりです!
「サル・シュがハルにやられた!」
後ろで声! 誰?
キラ・シの人達が階段に出てきてた。今の、いつから見てたっ?
「ハルすげぇっ! サル・シュに食らわしたぞっ!」
「ハル! よくやったっ!」
なぜ私が褒められる?
「今日から、ハルが部族四位だ!」
えええええええええっっっ!
みんな、ゲラゲラ笑ってるから冗談だとは思うけど、『頭突きのハル』って言われた……そんな、リングネームみたいなのいらない……
「ハルが四位で、俺が五位で、サル・シュが六位だな」
「えっ! どさくさにル・マまで俺を抜くなよ!」
戻ってきたル・マちゃんが、私に抱きついてサル・シュくんにイーッてした。
「ハルが四位で、俺が五位で、ル・マが六位、は許してやる」
なぜに?
まぁ、それだと、順位変わってないからね。ル・マちゃんより下になる気はないよね。たしかに。
私もトイレいって、部屋に戻る。
「で、なんでハルは俺を殴ったの?」
着替えるから閉めて、って言ってるのに、サル・シュくんが、開いたドアの外に居すわってる。ル・マちゃんは気にせず着替えてた。
マキメイさんが来たら、サル・シュくんはドアを閉じてくれたけど、「なー、ハルー、なんでーっ!」って、ドアの向こうで駄々こねた子供みたいに怒鳴ってる。
サル・シュくんのこの、『俺の女』に甘いの、全方位なんだな。マキメイさんとかもそうだから、彼女の言うことも聞くんだ。
「あのあと、ル・マちゃん、ガリさんの部屋に行ったんだよ!! 私も一晩、そこで寝たの! サル・シュくんのせいでしょ!」
凄い言いがかり。
というか、あんなの見てたから、ル・マちゃんは結果的に『知ってる』んだ? 昨日は本当にまいった。
「族長の見られて良かったじゃねぇかよっ!」
外に出て、もう一度おなかに頭突きした。
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