【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。23 ~本当にキラ・シの声って武器~

 

 

 

 

 その日の夜、そっと抜け出して、リョウさんの部屋のドアをそっと開けた。

 よかった。

 そっと閉じて、部屋に帰って寝る。

 リョウさんは女の人、一人だった。

  

 

  

 

  

 

 起きてから、「なんでリョウさんのベッドに女の人一人いたら『良かった』なんだ、私」と、しばらく悩んだ。

  

 

  

 

  

 

「ハル、夜、来たか?」

 その朝、リョウさんに聞かれた。

「ごめん、わかんない」

 嘘ついた。ごめんなさい。

「そうか」

「どうしたの?」

「トが開いて閉まった時にハルのにおいがした気がした」

 えっ? におい? 昨日の寝る前にお風呂入ったのに?

 手をにおってみてもわかんない。

 リョウさんは、ル・マちゃんの徘徊癖を知ってるからか、それ以上つっこんではこなかった。助かった。でも、女は夜に歩くもの、と思っちゃうだろうな。

  

 

  

 

  

 

「なんだ、リョウ・カの部屋に行ったのか? ハル」

 リョウさんが出て行ってから、ル・マちゃんににしゃにしゃ笑われる。

「なんで帰って来たんだ?」

「なんでって?」

「やりに行ったんだろ?」

「違う」

「じゃあ、何しに行ったんだ?」

 何しにって……

「女の人が……」

「女が?」

「サル・シュくんは三人で、ガリさんが十人ぐらいいたから、副族長のリョウさんは何人なのかと……逆に、副族長のリョウさんが、なんで一人なの?」

「たくさん居ると気が散る、って言ってた」

 聞いた私も私だけど、なぜ理由を知ってるの、ル・マちゃん。というか、キラ・シ、ツーカーすぎでしょ!

「聞いたことがあったから」

「何度もみんなの覗いてるの?」

「気になるだろ」

「ナニが?」

「来年、誰の子が何人ぐらいできるのかなー、って」

 そっかー……

「父上が、この城にいたときだけでも、毎回違う女とやってるから、十カ月後に父上の子が300人ぐらいできる」

 桁が違う……

 そう言えば女官さんが増えてた。

 あちこちから女の人集めてきてるんだ?

 そうだよね。一カ所にいた方が守りやすいもんね。

「ガリさん、毎日お城にいるわけじゃないよ? それでその数?」

「城の女だけの数だから、外でもやってる」

「一カ月で300人って、一年13カ月って言ってたから、一年で、4000人ぐらいガリさんの子供生まれるの? 来年?」

「凄いなっ!」

「凄いよそりゃ」

 桁違いって、三つ違うのは凄すぎる。

「どうせ、サル・シュもリョウ・カもそんぐらい産ませるし、キラ・シ全員そうだから、何人になる?」

「えっ? 他の人が一日一人、サル・シュくんが三人、としたら、……って、サル・シュくんの三人は同じ人でしょ? 三人しか生まれないよね?」

「あいつも外でやってる。三人ぐらいやってる」

「ああそう……ガリさんの十人、サル・シュくんの三人、他200人が一人ずつとして、213人を30日で、6390人? かける、10カ月で63900人、かける3カ月が、19180人? 足して、8万人以上」

「8マン人ってどんぐらい?」

「いやいやいやいやいや…………それ、毎日じゃないでしょ? 八万人って、……キラ・シ200人で割ったら……4……4……400倍? キラ・シの部族400個分」

 桁合ってる? 200で8万だからゼロ二つとって……合ってるよね? いつもエクセル使ってるから暗算なんてしないよ!

「すげぇっ!」

 せめて筆算できれば確実なんだけど…………というか、

 

「一年で8万人増えるっ? だから、毎日じゃないよね? 他の人達も毎日そんなできないでしょ?」

「するだろ」

「だって、女の人がそれだけ必要ってことだよ?」

「そっか……」

 それぐらいは居るとは思うけど、いや……居るな………………

 毎日キラ・シが交代でうろうろしてるの、見回りだと思ってたけど、その先々でやってりゃそんな数になるかも。

 だって『子供を増やすために降りてきた』人達だもんな……

「でもそれは、一回で妊娠させたら、って話だから」

「リョウ・カは何回かやるらしいけど、父上は一発で孕むって言ってた」

「なんでわかるの? まだ降りてきて一カ月だよ? 誰もまだ妊娠したってわからないでしょ」

「山で、『初雪の勝ち上がり』で女抱くだろ? 血の道が引いてから十日後から10日、抱けるけど、父上はいつも一回しかせず、孕んでるから」

 なにそれ怖い。

「今日やったら孕む、ってのがにおいでわかるって言ってた」

 ますます怖い。

 でも、リョウさんが分からないってので安心しちゃう。わからないのが普通なんだよね。

 本当に、ガリさんが人間離れしてるだけだよね。

『さすが族長』としか言えないわ。

「その、孕む女とだけやるから、全員孕む」

「女だけでなんの話だよー」

 サル・シュくん登場。

 一気に部屋が明るくなった感じ。

 お風呂入って白くなったら、60ワットだったのが100ワットになった。

 ピカーッて、凄いわ、この雰囲気。髪のツヤもあがったしね。絶対、発光してる。

「そろそろ俺の子、産んでくれる気になった?」

「なってない」

 珍しく、サル・シュくんが、私の隣に座った。

 ル・マちゃんが私の右手に抱きついてて、サル・シュくんが左側。どっっっこも触らないけど、凄く近く。触ったらリョウさんに怒られるから。でも凄い近いっ! 息がかかるっ! 耳にフッてするのやめてっ! 昨日の君の、あの時の顔思い出すからっ!

 昨日の彼、すっっっごい、いやらしい顔してたっ!

 ガリさんもだけど『男の人のセクシー』って意味、わかった! あれがそうだとしたら、だけど、わかったっ!

 分かりたくなかった!

 なんかもう、凄く、私が恥ずかしいのはなんでなの?

「ハルー、ル・マを説得してよー」

「なぜ私?」

「ハル、説得うまいだろ」

 なんでそんな信用があるの私。

「ハル、そんな説得、いらないぞっ!」

「しないよっ!」

 いや、したい気持ちは山ほどあるけど、私がル・マちゃんに嫌われちゃうじゃない!

「じゃあ、取引」

「なんの取引? 取引ってナニ?」

「リョウ叔父に内緒にしておいてやるから」

「ナニを?」

「お前が、ハル、」

 サル・シュくんが耳噛むぐらい近くにっ!

「『女』だ、って……」

「うぉっ!」

 ゾワッとして咄嗟に逃げたら、ル・マちゃん巻き込んでベッドに倒れ込んじゃった。

 ル・マちゃんの悲鳴を耳元で聞いて、右耳がキンてなる。

 ぐるっと世界がまわった。

 これって目眩?

 耳がおかしくなったら歩けないって、こういう感じかな。

 吐き気する……

「ハル、目が回ってるぞ、俺が見えてるかー?」

 サル・シュくんが手を振ってくる。……収まった。

 でも、さっきより遠い感じ……耳が聞こえにくい、気持ち悪い。

 本当に、キラ・シの声って武器だよね。

 サル・シュくんがべろっと自分のくちびる舐めて、上目づかいの流し目。それやめてっ! セクシーすぎる! いつものからっとした君でいて!

「ハル、血の道がル・マと同じ日に出てるだろ?」

 ばれたっ! ル・マちゃんも、ギュッて私の手、握る。

「一緒に動いてるから、みんなル・マのにおいだと思ってたけど」

 そうか……こんな殺伐とした人達が『血のにおい』に気付かないわけはないんだ? その日、自体はばれてるんだ?

「さっき、ル・マが言ってただろ? 族長は、『孕む日』がわかる、って」

 ル・マちゃんが私を見た。

「俺も、なんだ」

 にっこり! 天使の笑顔のサル・シュくん。

 そのまま目を開けられたら、口は笑ってるけど、目が真剣で、切り裂かれそうな気がした。

 メッチャ怒ってる、サル・シュくん。なんで?

「お前、ハル。リョウ叔父を、騙してる、よ、な」

 

 

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