【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。24 ~嘘つきは百石~

 

 

 

 

  

 

 前にル・マちゃんを問い詰めたときと同じ口調だ。

 凄い、怒ってる、……サル・シュくん。

「ル・マ、お前も、一緒に」

「ぁ……」

 ル・マちゃんも、ナニカ言おうとして呑み込んだ。

 気がついたら……サル・シュくんが真上。

 私もル・マちゃんも、ベッドに上向いて、額を抑えられてる……?

 いつのまに……?

 なんて大きな……手…………

 そのまま頭をぐしゃってされそうな……

「キラ・シの男を騙すなんて、お前は本当に頭がいい、ハル」

 私を睨み付けてた彼の目が、左に移る。

 ル・マちゃんも、同じようにベッドに押さえつけられてた。まだ、私の手を握ってる、ル・マちゃん。

 サル・シュくんの手は、痛くはないけど…………怖い。

 もう、何もできない、ってわかる、『腕力』。

 馬に乗ってるときにリョウさんとかサル・シュくんに抱えられてたそれは『安心感』だったけど、今は『恐怖』。

 絶対に、逆らいようが無い、っていう……絶望感。

 サル・シュくんが私に悪意を持った瞬間、小指一本で殺される、という、確信。

 分かってた。

 私が生きてるのは、リョウさんに『許された』から。

 リョウさんが『守ってくれてる』から。

 それは、わかってた、けど……

「ル・マも」

 ビクンッ、と、跳ねたル・マちゃん。

「『嘘つきは百石』。知ってるよな。ル・マ」

 ひゃくせきってナニ?

「知ってるよな?」

 さらに聞いた彼に、ル・マちゃんがこくり。

「女であることに甘えて、どこまでキラ・シの男を下にする、ル・マ」

 ル・マちゃんが握ってる私の手、もう青痣どころか、指先が冷たくなってきてる。

「今回の血の道が引いたあと、10日後あたりに、お前の孕み日が、来る」

 さっきル・マちゃんも言ってた、その日付。キラ・シの部族全員が知ってるんだ?

「俺は、においでわかるからな。その日に、」

 私の顔を押さえてるサル・シュくんの手が、少し、強くなった。じわじわ痛い……っ!

「俺に抱かれろ」

「だっ……」

 ル・マちゃんが逆らったのをもっと押さえつけたみたい、私のほうもっ…………痛いっ! 頭が割れそうっ!

「なら、ハルがまだ子供だ、と、リョウ叔父が思うようにしてる、お前たちの嘘に、乗ってやる」

 サル・シュくんが、私の顔を放してくれた。

 頭痛がスーッって引いて、熱かったのが冷たくなって…………ふぁっ………………息っ! 呼吸してなかったっ!

 彼は、両手でル・マちゃんの頭を握り込んだ。

 そのまま、握りつぶしてしまいたいぐらい、髪を掻き乱して、ディープ、キス。

「お前のために、百石を投げられてやる…………ル・マ……」

 何度も何度も、キス。

「俺の子を産め……ル・マ」

 ル・マちゃんが、私の手を、放した。私はあっち向いて、丸くなって耳をふさぐ。

 ベッドが軋む。

「ココに……俺のコレをくわえ込んで、喘げ」

 サル・シュくんのほうが、悲鳴みたい。

「他の女を抱くたびに、お前だったらと……気が狂いそうになるっ!」

 ベッドを叩かれて、私が浮いた。

「お前が抱けたら、他の誰もいらない……」

 蚊が鳴くような声。

 私の胸が痛くなる。息が苦しくなる。

「俺を選べ、ル・マ…………俺の子を産め………………ずっと、俺の子を産めっ!」

  

 

  

 

  

 

 サル・シュくんが、いつ出て行ったのかはわからなかった。

 ル・マちゃんの泣き声がやんだから、そっと彼女を見た。

 ぼんやりと天井を見てる、ル・マちゃん。

「ひゃくせきって、ナニ?」

 ナニ言っていいかわからないから、聞いてみる。

 ル・マちゃんが、棚に置いた置物が転がるみたいに、コトンと、首だけで私の方を、向いた。

 泣きはらした目。真っ赤になったくちびる。

 何回も甲高い悲鳴が聞こえてた。『して』はいないんだけど、近いことはされてたんだろう。

 昨日のマキメイさんみたいな、『女』の顔をしてた。

「嘘をつくのは、キラ・シでは許されない……

『百石』ってのは……その罰に、部族の全員から、百回、石を投げつけられること……だ……」

「え? 死んじゃわない?」

 普通に投げても痛そうだけど、キラ・シの腕力でやったら……

「死ぬ奴は少ないけど、」

 死なないんだ? キラ・シ強いな……

「普通はもう、立ち上がれないし、立ち上がれても、刀を持てないから、冬に捨てられる」

 捨てられるって……

「……なんで、冬?」

「夏は食料が多い。その間は、動ければ、それまでの強さで食べ物を貰えるから…………冬は、ただでさえ口減らしをするから、動けない奴は、初雪が降ったときに、生きたまま滝に捨てられる。その残りで、『勝ち上がり』を決める」

『百石』って、死刑宣告?

『お前のために、百石を投げられてやる…………ル・マ……』

 あれは、ル・マちゃんのために嘘をつき続けて、ばれたときに死んでもいい、って……こと?

 サル・シュくん、まだ15才なのに?

「お前が泣かなくていい…………ハル……」

 ル・マちゃんが私の頭をポン、と撫でた。

 頬を触ってフフ……と笑う。幸せそうな笑顔。

 でも、目は真っ赤。

 サル・シュくんのあの激情を受けて、真っ赤。

 サル・シュくんは、一度も、好きだの、愛してるの、言わなかった……

 でも………………

「彼は、凄く、凄く、ル・マちゃんのこと、好き……だよね……?」

「………………知ってる……」

 ル・マちゃんも、また、泣いた。

「でも…………駄目なんだ………………あいつの子じゃ、キラ・シは救えない……」

 先見をするル・マちゃんの、絶望的な未来。

 ガリさんの、お父さんの子を産んで、死ぬ、という未来。

「サル・シュくんにしなよ……」

 そんな未来、かわいそうすぎるよ。

「ガリさんとリョウさんが、キラ・シのことはなんとかしてくれるよ……」

 あ、これ、サル・シュくんの言うこと聞いてることになっちゃうっ!

「サル・シュくんに言われたからじゃなくてっ!」

「わかってる…………あいつが、いいやつなのは、分かってる…から…………でも、駄目なんだ……」

 ル・マちゃんは、ただ、静かに泣いてた。

 泣き続けてた。

  

 

  

 

  

 

 その日の夜、私はリョウさんの部屋に、行った。

「どうしたハル」

 リョウさんはもう裸で、女の人が服を脱ぐ前だったみたい。

「話があるの」

 リョウさんは、女の人を出してくれた。

「俺のほうが、冷静な話はできんぞ。もう、女を抱く気で居る。明日にしろ」

「私を、抱いてください」

 

 

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