前にル・マちゃんを問い詰めたときと同じ口調だ。
凄い、怒ってる、……サル・シュくん。
「ル・マ、お前も、一緒に」
「ぁ……」
ル・マちゃんも、ナニカ言おうとして呑み込んだ。
気がついたら……サル・シュくんが真上。
私もル・マちゃんも、ベッドに上向いて、額を抑えられてる……?
いつのまに……?
なんて大きな……手…………
そのまま頭をぐしゃってされそうな……
「キラ・シの男を騙すなんて、お前は本当に頭がいい、ハル」
私を睨み付けてた彼の目が、左に移る。
ル・マちゃんも、同じようにベッドに押さえつけられてた。まだ、私の手を握ってる、ル・マちゃん。
サル・シュくんの手は、痛くはないけど…………怖い。
もう、何もできない、ってわかる、『腕力』。
馬に乗ってるときにリョウさんとかサル・シュくんに抱えられてたそれは『安心感』だったけど、今は『恐怖』。
絶対に、逆らいようが無い、っていう……絶望感。
サル・シュくんが私に悪意を持った瞬間、小指一本で殺される、という、確信。
分かってた。
私が生きてるのは、リョウさんに『許された』から。
リョウさんが『守ってくれてる』から。
それは、わかってた、けど……
「ル・マも」
ビクンッ、と、跳ねたル・マちゃん。
「『嘘つきは百石』。知ってるよな。ル・マ」
ひゃくせきってナニ?
「知ってるよな?」
さらに聞いた彼に、ル・マちゃんがこくり。
「女であることに甘えて、どこまでキラ・シの男を下にする、ル・マ」
ル・マちゃんが握ってる私の手、もう青痣どころか、指先が冷たくなってきてる。
「今回の血の道が引いたあと、10日後あたりに、お前の孕み日が、来る」
さっきル・マちゃんも言ってた、その日付。キラ・シの部族全員が知ってるんだ?
「俺は、においでわかるからな。その日に、」
私の顔を押さえてるサル・シュくんの手が、少し、強くなった。じわじわ痛い……っ!
「俺に抱かれろ」
「だっ……」
ル・マちゃんが逆らったのをもっと押さえつけたみたい、私のほうもっ…………痛いっ! 頭が割れそうっ!
「なら、ハルがまだ子供だ、と、リョウ叔父が思うようにしてる、お前たちの嘘に、乗ってやる」
サル・シュくんが、私の顔を放してくれた。
頭痛がスーッって引いて、熱かったのが冷たくなって…………ふぁっ………………息っ! 呼吸してなかったっ!
彼は、両手でル・マちゃんの頭を握り込んだ。
そのまま、握りつぶしてしまいたいぐらい、髪を掻き乱して、ディープ、キス。
「お前のために、百石を投げられてやる…………ル・マ……」
何度も何度も、キス。
「俺の子を産め……ル・マ」
ル・マちゃんが、私の手を、放した。私はあっち向いて、丸くなって耳をふさぐ。
ベッドが軋む。
「ココに……俺のコレをくわえ込んで、喘げ」
サル・シュくんのほうが、悲鳴みたい。
「他の女を抱くたびに、お前だったらと……気が狂いそうになるっ!」
ベッドを叩かれて、私が浮いた。
「お前が抱けたら、他の誰もいらない……」
蚊が鳴くような声。
私の胸が痛くなる。息が苦しくなる。
「俺を選べ、ル・マ…………俺の子を産め………………ずっと、俺の子を産めっ!」
サル・シュくんが、いつ出て行ったのかはわからなかった。
ル・マちゃんの泣き声がやんだから、そっと彼女を見た。
ぼんやりと天井を見てる、ル・マちゃん。
「ひゃくせきって、ナニ?」
ナニ言っていいかわからないから、聞いてみる。
ル・マちゃんが、棚に置いた置物が転がるみたいに、コトンと、首だけで私の方を、向いた。
泣きはらした目。真っ赤になったくちびる。
何回も甲高い悲鳴が聞こえてた。『して』はいないんだけど、近いことはされてたんだろう。
昨日のマキメイさんみたいな、『女』の顔をしてた。
「嘘をつくのは、キラ・シでは許されない……
『百石』ってのは……その罰に、部族の全員から、百回、石を投げつけられること……だ……」
「え? 死んじゃわない?」
普通に投げても痛そうだけど、キラ・シの腕力でやったら……
「死ぬ奴は少ないけど、」
死なないんだ? キラ・シ強いな……
「普通はもう、立ち上がれないし、立ち上がれても、刀を持てないから、冬に捨てられる」
捨てられるって……
「……なんで、冬?」
「夏は食料が多い。その間は、動ければ、それまでの強さで食べ物を貰えるから…………冬は、ただでさえ口減らしをするから、動けない奴は、初雪が降ったときに、生きたまま滝に捨てられる。その残りで、『勝ち上がり』を決める」
『百石』って、死刑宣告?
『お前のために、百石を投げられてやる…………ル・マ……』
あれは、ル・マちゃんのために嘘をつき続けて、ばれたときに死んでもいい、って……こと?
サル・シュくん、まだ15才なのに?
「お前が泣かなくていい…………ハル……」
ル・マちゃんが私の頭をポン、と撫でた。
頬を触ってフフ……と笑う。幸せそうな笑顔。
でも、目は真っ赤。
サル・シュくんのあの激情を受けて、真っ赤。
サル・シュくんは、一度も、好きだの、愛してるの、言わなかった……
でも………………
「彼は、凄く、凄く、ル・マちゃんのこと、好き……だよね……?」
「………………知ってる……」
ル・マちゃんも、また、泣いた。
「でも…………駄目なんだ………………あいつの子じゃ、キラ・シは救えない……」
先見をするル・マちゃんの、絶望的な未来。
ガリさんの、お父さんの子を産んで、死ぬ、という未来。
「サル・シュくんにしなよ……」
そんな未来、かわいそうすぎるよ。
「ガリさんとリョウさんが、キラ・シのことはなんとかしてくれるよ……」
あ、これ、サル・シュくんの言うこと聞いてることになっちゃうっ!
「サル・シュくんに言われたからじゃなくてっ!」
「わかってる…………あいつが、いいやつなのは、分かってる…から…………でも、駄目なんだ……」
ル・マちゃんは、ただ、静かに泣いてた。
泣き続けてた。
その日の夜、私はリョウさんの部屋に、行った。
「どうしたハル」
リョウさんはもう裸で、女の人が服を脱ぐ前だったみたい。
「話があるの」
リョウさんは、女の人を出してくれた。
「俺のほうが、冷静な話はできんぞ。もう、女を抱く気で居る。明日にしろ」
「私を、抱いてください」
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