【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。27 ~一人じゃない~

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 図星。

 どんどん、リョウさんが登っていく。

 ちょっと……凄い段数で、息切れ…………つらい…………おなか痛い……

 あ、そう言えば、今、私が生理中なんだから、そりゃリョウさん、抱くのイヤだよね! 忘れてた! 一番忘れちゃいけないとこじゃない? それって!

「サル・シュはずっとル・マを抱きたがっている。ル・マのほうが速いから、抱きしめることもできん。ル・マが血の道で青くなってるときだけ寄れるから、毎月無茶をする」

 リョウさんも、知ってたんだ!

 というか、……待って…………何段あるのこれ…………あの、ガリさんが飛び込んだてっぺんって何階だっけ?

 六階だっけ? 私も今、生理中で……死にそうなんだけど…………他の日なら、もう、このお城の階段なんてかなり平気なんだけど…………勘弁して………

「昨日、ハルが来る前に、サル・シュも来ていた。

『俺にいいこと』をやるから、名前貸して、と言っていた。することも、理由も話して行った」

 ああ……そうか……………サル・シュくん、最初にリョウさんに断ってきたんだ?

 つまりは、百石受ける気なかったんだ?

 あの大嘘つきっ!!

 感動して泣いたのにっ!

 私が百石投げたいっ!

「サル・シュは、十日ぐらいでハルが来るんじゃないかと言っていたが……当日来たな」

 何もかも、全部ばれてる。

 サル・シュくんがあんな『嘘』つくはずなかったんだ……サル・シュくんだって、リョウさん大好きなんだもんね……

「サル・シュくんが…………『孕み日』? ……が…………においでわかる……て……いう……のも…………嘘なの……?」

「本当だ。あいつもガリと一緒で『変』だからな」

 ああ……そうじゃなくて…………ちょっと待ってリョウさん………………私、それだけでリョウさんにあんなこと言ったんじゃ……ない……のよ…………

 つらい……階段が………腰が痛い………………息が切れる…………生理二日目に、喋りながら階段何階も上がるとか、拷問……

 リョウさんが、てっぺんのドアを開けたみたい。風がずわっと下から駆け抜けて、私を持ち上げてくれた感じ。ちょっと体が軽くなった気がした。

 人四人がギリギリ立てる展望台?

 青い空に、リョウさんの背中が飛んで行くみたい。

「最初は、逃げたかったのっ……」

 まだ、ゼイゼイなってるけど……これ以上、黙ってる方が、つらい……

「私の部族じゃ、17才で結婚なんて……抱かれることなんてないんだよ……まだ先だと思ってたのっ! あの時のリョウさん臭かったしっ怖かったしっ! そばに居られるだけで怖かったのっ!」

 息が…………止まりそう……

「でもっ……リョウさん、ちゃんと優しくて、強くて、…………好きに……なってたのっ…………だから、嘘をつきたくなかったけど、でも、どう言いだしていいか分からなかったんだよ!」

 朝日をまともに見て、くらってなった。

 でも、安心。

 リョウさんが、ほら…………抱き留めてくれるから。

「いつ、俺を好きになった?」

「このお城に来た日の夜……かな? 一緒に外で星空を見上げたとき」

 リョウさんの視線が右にそれて眉を寄せてる。また私を見てくれた。

「あれは、ガリよりマシ、という意味ではなかったのか?」

「リョウさんが、ガリさんのことで、私に謝ってくれたとき」

 リョウさんの目が見開かれた。

「『月が綺麗ですね』って、私の部族では『愛してます』って意味なの」

 言い切った。

「……月が綺麗、にそんな意味はなかろう」

「私の部族では、あるの」

 あるの!

「ガリさんのことが大好きで、ずっと支えてて、ガリさんのことばっかり考えて、ガリさんが偉大だと信じてて、私にも信じてほしくて、ガリさんを立派だと私に思ってもらいたいから、そのために、私にまで頭を下げてくれたあの日、………………」

 そんなに不思議?

 私から、キス、した。

 もっと目が丸くなる。

「いつも人の心配ばかりしてるあなたが、好きです…………リョウさん…………」

 大きな体を抱きしめる。全然腕が回らない。本当に私、小さい。

「ただ、私が、現状が分からなくて悲鳴ばかりあげてて、ガリさんに疎まれて、それでも、そんな私に謝ってくれたリョウさんの、その、心が……好き……です…………」

 隠し事がなくなるの、気持ちいい。

「でも、怖かったの…………

 最初に、リョウさんにあったときは……怖かったの……

 17才でそんなことする人、私のまわりにいなかったの……あの、最初の時から、『無理やり犯される』と思ってた、から…………」

「……そうだな…………それは、怖かっただろう」

 そういうのを分かってくれるリョウさん……きっと、凄い、よね。

「リョウさんがそんなことしない、なんて、わからなかったから…………」

 あの時は、キラ・シの全員『ただの蛮族』だと思ってたから。何されるかわからない、とずっと警戒してたから、ただ、疲れてた。

 馬に乗り続けで、体力的にも筋肉痛的にも、ずっときつかった。よく吐いたし、食事ができないから余計につらくて、一日中失神してたり……だから、あの、『山下り』が何日あったのか、全然わからない。

「私も、二十歳過ぎてから……と、思ってたから………………」

 佐川くんのことだって、ただ、見てただけだった。

 キスしたいとも思わなかった。

 ただの『小さなドキドキ』だったんだ。

 なのに、突然、子供産めとか言われたら……

「あんなところに突然捨てられて………………みんな、怖かったの……」

 どこにいるのかもわからない。

 せめて、家の廃墟のまわりにいるとかなら、あそこまでじゃ、なかった。

「あの寸前に…………私の母さんも父さんも…………死んだの………………私だけ生き残って……あんなっ所に…………」

 夢か現実かわからなくて、『夢』だと思ってたから平気だったけど……でも、この『夢』覚めないんだもの……

「ここで、生きていくしかないみたいなんだもの……

 覚悟するしか、なかった。

 誰かにすがりたかった。

 でも、誰にすがればいいかもわからなくて、自分で立ってるしかなくて……混乱して、一カ月もずっと筋肉痛で、馬なんかに乗せられて、ベッドでも寝られなくて、毎日恐怖で失神してて、体中痛くて、怖くて、悲鳴ばかりあげてた。

 私、うるさかったよね………………でも、他に何もできなかったの…………怖かったの……死んで終わりになるなら、死にたかったの……そのほうが、楽だと、何度も思ったんだよ…………」

 抱きしめて、くれた。

 あたたかい。

 リョウさんあたたかい……

「いろんな本読んで、知識だけは知ってたけど……実地でしたことなくて………………人が殺されてるのとか見たことなかったし…………身内が死んだこともなかったし……死体なんて見たことなかったし…………馬にも乗ったことなかったし…………一人で、あんな山道、歩いたことも、ないし…………あんな、大量の血を……見たことも……なかったんだよ…………私も、擦り傷以外、怪我なんて、したこと、なかった……」

「それは、気付いてた」

「怖かったの…………」

「だから、守ってた」

「怖かったの………………」

 もっと、抱きしめて、くれた。

「嘘ついて……ごめんなさい…………」

「気にしてはいない。ハルも気にするな」

「ごめんなさい……」

 背中さすってくれる。

 大きな手。

 あたたかい手。

 ずっと守ってくれていた、手。

「リョウさんが好き」

 もう一度、キス、する。

「早く、抱いて、欲しい」

 もう一度、キス。

「『リョウさんの女』だ、って言われたい」

 マキメイさんが、凄く強くなった。

 元々『お母さん』の部分では強かったけど、サル・シュくんに抱かれて凄く幸せそう。

 私も、そんなつながりが欲しい。

『一人じゃない』って、実感したい。

 早く……はやくっ!

「ハルのそれは嬉しいが……」

 が?

 あ、だから、私、今、生理中だってば。今日明日は無理なんだ……

「あと二カ月は、抱く気はない」

 

 

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