図星。
どんどん、リョウさんが登っていく。
ちょっと……凄い段数で、息切れ…………つらい…………おなか痛い……
あ、そう言えば、今、私が生理中なんだから、そりゃリョウさん、抱くのイヤだよね! 忘れてた! 一番忘れちゃいけないとこじゃない? それって!
「サル・シュはずっとル・マを抱きたがっている。ル・マのほうが速いから、抱きしめることもできん。ル・マが血の道で青くなってるときだけ寄れるから、毎月無茶をする」
リョウさんも、知ってたんだ!
というか、……待って…………何段あるのこれ…………あの、ガリさんが飛び込んだてっぺんって何階だっけ?
六階だっけ? 私も今、生理中で……死にそうなんだけど…………他の日なら、もう、このお城の階段なんてかなり平気なんだけど…………勘弁して………
「昨日、ハルが来る前に、サル・シュも来ていた。
『俺にいいこと』をやるから、名前貸して、と言っていた。することも、理由も話して行った」
ああ……そうか……………サル・シュくん、最初にリョウさんに断ってきたんだ?
つまりは、百石受ける気なかったんだ?
あの大嘘つきっ!!
感動して泣いたのにっ!
私が百石投げたいっ!
「サル・シュは、十日ぐらいでハルが来るんじゃないかと言っていたが……当日来たな」
何もかも、全部ばれてる。
サル・シュくんがあんな『嘘』つくはずなかったんだ……サル・シュくんだって、リョウさん大好きなんだもんね……
「サル・シュくんが…………『孕み日』? ……が…………においでわかる……て……いう……のも…………嘘なの……?」
「本当だ。あいつもガリと一緒で『変』だからな」
ああ……そうじゃなくて…………ちょっと待ってリョウさん………………私、それだけでリョウさんにあんなこと言ったんじゃ……ない……のよ…………
つらい……階段が………腰が痛い………………息が切れる…………生理二日目に、喋りながら階段何階も上がるとか、拷問……
リョウさんが、てっぺんのドアを開けたみたい。風がずわっと下から駆け抜けて、私を持ち上げてくれた感じ。ちょっと体が軽くなった気がした。
人四人がギリギリ立てる展望台?
青い空に、リョウさんの背中が飛んで行くみたい。
「最初は、逃げたかったのっ……」
まだ、ゼイゼイなってるけど……これ以上、黙ってる方が、つらい……
「私の部族じゃ、17才で結婚なんて……抱かれることなんてないんだよ……まだ先だと思ってたのっ! あの時のリョウさん臭かったしっ怖かったしっ! そばに居られるだけで怖かったのっ!」
息が…………止まりそう……
「でもっ……リョウさん、ちゃんと優しくて、強くて、…………好きに……なってたのっ…………だから、嘘をつきたくなかったけど、でも、どう言いだしていいか分からなかったんだよ!」
朝日をまともに見て、くらってなった。
でも、安心。
リョウさんが、ほら…………抱き留めてくれるから。
「いつ、俺を好きになった?」
「このお城に来た日の夜……かな? 一緒に外で星空を見上げたとき」
リョウさんの視線が右にそれて眉を寄せてる。また私を見てくれた。
「あれは、ガリよりマシ、という意味ではなかったのか?」
「リョウさんが、ガリさんのことで、私に謝ってくれたとき」
リョウさんの目が見開かれた。
「『月が綺麗ですね』って、私の部族では『愛してます』って意味なの」
言い切った。
「……月が綺麗、にそんな意味はなかろう」
「私の部族では、あるの」
あるの!
「ガリさんのことが大好きで、ずっと支えてて、ガリさんのことばっかり考えて、ガリさんが偉大だと信じてて、私にも信じてほしくて、ガリさんを立派だと私に思ってもらいたいから、そのために、私にまで頭を下げてくれたあの日、………………」
そんなに不思議?
私から、キス、した。
もっと目が丸くなる。
「いつも人の心配ばかりしてるあなたが、好きです…………リョウさん…………」
大きな体を抱きしめる。全然腕が回らない。本当に私、小さい。
「ただ、私が、現状が分からなくて悲鳴ばかりあげてて、ガリさんに疎まれて、それでも、そんな私に謝ってくれたリョウさんの、その、心が……好き……です…………」
隠し事がなくなるの、気持ちいい。
「でも、怖かったの…………
最初に、リョウさんにあったときは……怖かったの……
17才でそんなことする人、私のまわりにいなかったの……あの、最初の時から、『無理やり犯される』と思ってた、から…………」
「……そうだな…………それは、怖かっただろう」
そういうのを分かってくれるリョウさん……きっと、凄い、よね。
「リョウさんがそんなことしない、なんて、わからなかったから…………」
あの時は、キラ・シの全員『ただの蛮族』だと思ってたから。何されるかわからない、とずっと警戒してたから、ただ、疲れてた。
馬に乗り続けで、体力的にも筋肉痛的にも、ずっときつかった。よく吐いたし、食事ができないから余計につらくて、一日中失神してたり……だから、あの、『山下り』が何日あったのか、全然わからない。
「私も、二十歳過ぎてから……と、思ってたから………………」
佐川くんのことだって、ただ、見てただけだった。
キスしたいとも思わなかった。
ただの『小さなドキドキ』だったんだ。
なのに、突然、子供産めとか言われたら……
「あんなところに突然捨てられて………………みんな、怖かったの……」
どこにいるのかもわからない。
せめて、家の廃墟のまわりにいるとかなら、あそこまでじゃ、なかった。
「あの寸前に…………私の母さんも父さんも…………死んだの………………私だけ生き残って……あんなっ所に…………」
夢か現実かわからなくて、『夢』だと思ってたから平気だったけど……でも、この『夢』覚めないんだもの……
「ここで、生きていくしかないみたいなんだもの……
覚悟するしか、なかった。
誰かにすがりたかった。
でも、誰にすがればいいかもわからなくて、自分で立ってるしかなくて……混乱して、一カ月もずっと筋肉痛で、馬なんかに乗せられて、ベッドでも寝られなくて、毎日恐怖で失神してて、体中痛くて、怖くて、悲鳴ばかりあげてた。
私、うるさかったよね………………でも、他に何もできなかったの…………怖かったの……死んで終わりになるなら、死にたかったの……そのほうが、楽だと、何度も思ったんだよ…………」
抱きしめて、くれた。
あたたかい。
リョウさんあたたかい……
「いろんな本読んで、知識だけは知ってたけど……実地でしたことなくて………………人が殺されてるのとか見たことなかったし…………身内が死んだこともなかったし……死体なんて見たことなかったし…………馬にも乗ったことなかったし…………一人で、あんな山道、歩いたことも、ないし…………あんな、大量の血を……見たことも……なかったんだよ…………私も、擦り傷以外、怪我なんて、したこと、なかった……」
「それは、気付いてた」
「怖かったの…………」
「だから、守ってた」
「怖かったの………………」
もっと、抱きしめて、くれた。
「嘘ついて……ごめんなさい…………」
「気にしてはいない。ハルも気にするな」
「ごめんなさい……」
背中さすってくれる。
大きな手。
あたたかい手。
ずっと守ってくれていた、手。
「リョウさんが好き」
もう一度、キス、する。
「早く、抱いて、欲しい」
もう一度、キス。
「『リョウさんの女』だ、って言われたい」
マキメイさんが、凄く強くなった。
元々『お母さん』の部分では強かったけど、サル・シュくんに抱かれて凄く幸せそう。
私も、そんなつながりが欲しい。
『一人じゃない』って、実感したい。
早く……はやくっ!
「ハルのそれは嬉しいが……」
が?
あ、だから、私、今、生理中だってば。今日明日は無理なんだ……
「あと二カ月は、抱く気はない」
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