【赤狼】女子高生軍師、富士山を割る。34 ~if論~

 

 

 

 

 実際、10日後に帰って来たんだから、ずっといればよかった。

 でも、それは、全部、結果論だよね。

 あのまま進んだかもしれなかった。本当に、このお城に戻って来なかったかも、しれなかった。

『臨機応変』がこんなに身に沁みる。

『if論』って本当に、無駄なんだな。

 もし……とか言ったって、その『もし』になってないなら、意味ない。

『今在る』ことだけで、次を考えないといけないんだ。

 今回、お城に帰っては来たけど、次も同じ事態になったら、またみんなで出ていくんだろう。前回帰ったから今回も居ていいんじゃないか、とはならない気がする。

 忙しい……

 私は、連れ歩かれてるだけだけど、忙しい。

『現代』でも『一度引っ越し』しただけで疲れてた。

 あれが、たかが二カ月で二度、あったんだ。

 山から下ろされて、ラキから移動させられて……

 しかも、その半分は『移動し続け』。

 疲れて当然だ。

 よくこんな生活できるなキラ・シ。

 そして、よく、まだ生きてるな……私。

 ずっとずっと大変なんだけど、今みたいに、たまに、ぽくっとある『ヒマ時間』を凄く楽しんで、いられる。

『幸せだ』って思える。

 こんなこと、『現代』では感じなかった。

「ル・マちゃん……かわいいね」

 頬をさするとニャ、と笑ってくれる。私の手に頬ずり。吊り眼だし、猫みたい。

 本当に美少女。

 サル・シュくんがいなかったら、キラ・シ一美人。

 あまり美人とか不細工とか、他人に考えたことなかったけど、美人がそばにいる幸せって、けっこう、凄い。

 それでいうと、私は美人ではないから、ル・マちゃんにはあんまり利点はないな。ごめんなさい。

「ハルは、いつもナニカ考えてるな」

 ル・マちゃんの指が私のくちびるに触れて、ビクッとなった。ル・マちゃんまで、咄嗟に手を放す。

 くちびるから、凄い、しびれが来た。

「痛かったかっ? ゴメンっハル! そんな触らなかったつもりなんだけどっ……いつもより赤かったから……」

 そりゃ赤いよね、あんな……キスされたら……

「ガリさんのキスで、くちびるが敏感になってるだけ……」

 これ、食事できるのかな……

 今、ル・マちゃんに触られた瞬間、頭がピンク色に弾け飛んだみたい。

 喋ったら舌が動いて……中がジワジワする…………これで痛いとかだったら、毒でも仕込まれたのかって疑うレベル。

「そうだよな……何度もすると、凄く気持ちよくなるよな。俺も、サル・シュにされるたび、なんか、凄く、なる」

 そんな同意、いらない……

「でも、サル・シュくんは、いやなんだ?」

 ……ル・マちゃんが、ちょっと、くちびるを尖らせた。

 サル・シュくん、本当に、かわいそう……

 胸にたまったものをゴロンと吐き出したら、その息にも感じた。ガリさん、本当にヒドイ人だ。

「私のファーストキス…………ガリさんになっちゃった………………」

 リョウさんとしたかったのに……

 ……したけど……

 私からしたけど…………

 あんなの、キスじゃなかった……

 いや、キスにカウントしておこう。そしたらファーストキスはリョウさんだ。うん、ファーストキスってあんなもんだよね! そうだよね! そうだよっ!

 ちゃんとファーストキスはリョウさんだった!

 あまりにガリさんが凄かったから忘れてた!

 ファーストキス忘れるなっ私! 自分からしたのに!

「ふぁーすときす?」

「初めてのキス」

「きす?」

「口と、口でくっつくこと」

「ああ、じゃあ、オレはサル・シュだな。あれ、気持ちいーよなー」

 ん?

「……ル・マちゃんがサル・シュくんにキスされたの、昨日が初めて、だよね?」

 先月はキスまでされてなかった筈。

「ん? サル・シュしょっちゅうしてくるぞ?」

「しょっちゅうってどれぐらい?」

「二人きりになったらいつも」

「え?」

「ハルがあっち向いたときとか。チュッ、て……たまに頭抱え込まれて、昨日みたいに息が切れてもされる……」

 サル・シュくんが、マキメイさんの首をひっつかんでキスしてたの、思い出した! でも、そんな頻度でっ?

「アレを中に入れたいのに、我慢してるの凄いよな。我慢するぐらいならしなきゃいいのに、っていつも思う。気持ちいいからいいけど」

「ル・マちゃん、泣いてまで嫌がってなかった?」

「嫌がっては、ない、ぞ? あれやられたらなんでか泣くだけで。頭ボーっとするから、転がってるだけで、ずっと気持ちいい」

「はっ?」

 ル・マちゃんが、ビクッて少し下がった。

「は……ハルが……なんか、重大そうに考えてるなー、とは……、思った、けど…………どう言ってイイかわかんなかったし………………アレ、いつもだから」

「いつも……ですって……?」

「う…………」

 ル・マちゃんとかリョウさんとか、サル・シュくんとか、なんか凄い付き合い長い気がするけど、出合ってまだ三カ月、よく話をするようになって、丸一カ月ちょっとなんだよね……

 こないだの生理から、今回の生理まで……だけ。

 100年一緒にいる気がする。だからつい、最近のことだけで、前もそうだと、思ってしまっていた。キラ・シの二カ月前なんて、私、全然知らないんだ。

 山を降りてたときなんて、殆ど喋らなかったし、私、失神してたし。記憶、ほとんどない。

「……サル・シュくんに話を聞きたい……」

『明日』って言ってた。今から彼の部屋にいこうかな。もう女の人いないよね。

 今さらムカムカ来た。

 肚立つ、あの男っ! どうしてくれよう。

「今回は、サル・シュも出陣した」

「えっ!」

「本当なら、リョウ・カも連れて行きたかったと思うけど、子供も女も俺もハルも連れて行くか、サル・シュをおいていくか、リョウ・カをおいていくか、で、リョウ・カをおいてく方を選んだみたい」

 だからガリさん、あんな、……あんなだったんだ?

 なにかの『節目』だったんだ?

『12年……山の中を駆けずり回ったな……リョウ、……お前と……』

 まだ27才のガリさんが、12年?

 15歳の時から、ずっと、ここへ降りる道を探してた?

 ル・マちゃんの、予知夢を信じて……

『殺したいほど憎んでいる男でないなら、出陣は綺麗に見送れ』

 ガリさん……死ぬ覚悟が…………ついて、るんだ……?

 だから、ガリさんが私に触れても、リョウさんが怒らなかったんだ?

 最後、かも、しれないから……

『駄目なら死ねばいい』

 リョウさんのあの覚悟は、もちろん、ガリさんにも、あるよね? キラ・シの人達みんなに、あるよね?

 もう、このあたりの女の人、全部妊娠させたから?

 キラ・シの子が、どんどん生まれるから?

 女の人が勝手に育ててくれるから?

 自分たちは、いいの?

「全力で行く気だ。父上」

「……全部さらえてくる、って……言ってた……ガリさん……」

 今さら、震えが、来た。

 温存していたサル・シュくんまで引っ張りだして、総力戦……だよね? リョウさんが行ったときが、本当の総力戦……だろうけど…………きっと、『駄目』なら、リョウさんが、私達をつれて逃げるんだ。

『キラ・シの母』を守るために。族長はリョウさんになって、キラ・シは続く。だから、四位のサル・シュくんじゃなく、『副族長を残した』んだ。

 副大統領とかと一緒。族長が死んだときの、すぐ代わりをするために、副族長はいるから。

 サル・シュくんも……戻って来ないかも、しれない……

『もうっ、ル・マちゃんを脅してる材料はないからねっ! 逆にねっ! ル・マちゃんのために、リョウさんに嘘をつき続けるって言った、サル・シュくんの言葉は、残ってるんだからねっ!』

『明日だ』

 あんなのが、彼との最後の、言葉……?

 

 

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