実際、10日後に帰って来たんだから、ずっといればよかった。
でも、それは、全部、結果論だよね。
あのまま進んだかもしれなかった。本当に、このお城に戻って来なかったかも、しれなかった。
『臨機応変』がこんなに身に沁みる。
『if論』って本当に、無駄なんだな。
もし……とか言ったって、その『もし』になってないなら、意味ない。
『今在る』ことだけで、次を考えないといけないんだ。
今回、お城に帰っては来たけど、次も同じ事態になったら、またみんなで出ていくんだろう。前回帰ったから今回も居ていいんじゃないか、とはならない気がする。
忙しい……
私は、連れ歩かれてるだけだけど、忙しい。
『現代』でも『一度引っ越し』しただけで疲れてた。
あれが、たかが二カ月で二度、あったんだ。
山から下ろされて、ラキから移動させられて……
しかも、その半分は『移動し続け』。
疲れて当然だ。
よくこんな生活できるなキラ・シ。
そして、よく、まだ生きてるな……私。
ずっとずっと大変なんだけど、今みたいに、たまに、ぽくっとある『ヒマ時間』を凄く楽しんで、いられる。
『幸せだ』って思える。
こんなこと、『現代』では感じなかった。
「ル・マちゃん……かわいいね」
頬をさするとニャ、と笑ってくれる。私の手に頬ずり。吊り眼だし、猫みたい。
本当に美少女。
サル・シュくんがいなかったら、キラ・シ一美人。
あまり美人とか不細工とか、他人に考えたことなかったけど、美人がそばにいる幸せって、けっこう、凄い。
それでいうと、私は美人ではないから、ル・マちゃんにはあんまり利点はないな。ごめんなさい。
「ハルは、いつもナニカ考えてるな」
ル・マちゃんの指が私のくちびるに触れて、ビクッとなった。ル・マちゃんまで、咄嗟に手を放す。
くちびるから、凄い、しびれが来た。
「痛かったかっ? ゴメンっハル! そんな触らなかったつもりなんだけどっ……いつもより赤かったから……」
そりゃ赤いよね、あんな……キスされたら……
「ガリさんのキスで、くちびるが敏感になってるだけ……」
これ、食事できるのかな……
今、ル・マちゃんに触られた瞬間、頭がピンク色に弾け飛んだみたい。
喋ったら舌が動いて……中がジワジワする…………これで痛いとかだったら、毒でも仕込まれたのかって疑うレベル。
「そうだよな……何度もすると、凄く気持ちよくなるよな。俺も、サル・シュにされるたび、なんか、凄く、なる」
そんな同意、いらない……
「でも、サル・シュくんは、いやなんだ?」
……ル・マちゃんが、ちょっと、くちびるを尖らせた。
サル・シュくん、本当に、かわいそう……
胸にたまったものをゴロンと吐き出したら、その息にも感じた。ガリさん、本当にヒドイ人だ。
「私のファーストキス…………ガリさんになっちゃった………………」
リョウさんとしたかったのに……
……したけど……
私からしたけど…………
あんなの、キスじゃなかった……
いや、キスにカウントしておこう。そしたらファーストキスはリョウさんだ。うん、ファーストキスってあんなもんだよね! そうだよね! そうだよっ!
ちゃんとファーストキスはリョウさんだった!
あまりにガリさんが凄かったから忘れてた!
ファーストキス忘れるなっ私! 自分からしたのに!
「ふぁーすときす?」
「初めてのキス」
「きす?」
「口と、口でくっつくこと」
「ああ、じゃあ、オレはサル・シュだな。あれ、気持ちいーよなー」
ん?
「……ル・マちゃんがサル・シュくんにキスされたの、昨日が初めて、だよね?」
先月はキスまでされてなかった筈。
「ん? サル・シュしょっちゅうしてくるぞ?」
「しょっちゅうってどれぐらい?」
「二人きりになったらいつも」
「え?」
「ハルがあっち向いたときとか。チュッ、て……たまに頭抱え込まれて、昨日みたいに息が切れてもされる……」
サル・シュくんが、マキメイさんの首をひっつかんでキスしてたの、思い出した! でも、そんな頻度でっ?
「アレを中に入れたいのに、我慢してるの凄いよな。我慢するぐらいならしなきゃいいのに、っていつも思う。気持ちいいからいいけど」
「ル・マちゃん、泣いてまで嫌がってなかった?」
「嫌がっては、ない、ぞ? あれやられたらなんでか泣くだけで。頭ボーっとするから、転がってるだけで、ずっと気持ちいい」
「はっ?」
ル・マちゃんが、ビクッて少し下がった。
「は……ハルが……なんか、重大そうに考えてるなー、とは……、思った、けど…………どう言ってイイかわかんなかったし………………アレ、いつもだから」
「いつも……ですって……?」
「う…………」
ル・マちゃんとかリョウさんとか、サル・シュくんとか、なんか凄い付き合い長い気がするけど、出合ってまだ三カ月、よく話をするようになって、丸一カ月ちょっとなんだよね……
こないだの生理から、今回の生理まで……だけ。
100年一緒にいる気がする。だからつい、最近のことだけで、前もそうだと、思ってしまっていた。キラ・シの二カ月前なんて、私、全然知らないんだ。
山を降りてたときなんて、殆ど喋らなかったし、私、失神してたし。記憶、ほとんどない。
「……サル・シュくんに話を聞きたい……」
『明日』って言ってた。今から彼の部屋にいこうかな。もう女の人いないよね。
今さらムカムカ来た。
肚立つ、あの男っ! どうしてくれよう。
「今回は、サル・シュも出陣した」
「えっ!」
「本当なら、リョウ・カも連れて行きたかったと思うけど、子供も女も俺もハルも連れて行くか、サル・シュをおいていくか、リョウ・カをおいていくか、で、リョウ・カをおいてく方を選んだみたい」
だからガリさん、あんな、……あんなだったんだ?
なにかの『節目』だったんだ?
『12年……山の中を駆けずり回ったな……リョウ、……お前と……』
まだ27才のガリさんが、12年?
15歳の時から、ずっと、ここへ降りる道を探してた?
ル・マちゃんの、予知夢を信じて……
『殺したいほど憎んでいる男でないなら、出陣は綺麗に見送れ』
ガリさん……死ぬ覚悟が…………ついて、るんだ……?
だから、ガリさんが私に触れても、リョウさんが怒らなかったんだ?
最後、かも、しれないから……
『駄目なら死ねばいい』
リョウさんのあの覚悟は、もちろん、ガリさんにも、あるよね? キラ・シの人達みんなに、あるよね?
もう、このあたりの女の人、全部妊娠させたから?
キラ・シの子が、どんどん生まれるから?
女の人が勝手に育ててくれるから?
自分たちは、いいの?
「全力で行く気だ。父上」
「……全部さらえてくる、って……言ってた……ガリさん……」
今さら、震えが、来た。
温存していたサル・シュくんまで引っ張りだして、総力戦……だよね? リョウさんが行ったときが、本当の総力戦……だろうけど…………きっと、『駄目』なら、リョウさんが、私達をつれて逃げるんだ。
『キラ・シの母』を守るために。族長はリョウさんになって、キラ・シは続く。だから、四位のサル・シュくんじゃなく、『副族長を残した』んだ。
副大統領とかと一緒。族長が死んだときの、すぐ代わりをするために、副族長はいるから。
サル・シュくんも……戻って来ないかも、しれない……
『もうっ、ル・マちゃんを脅してる材料はないからねっ! 逆にねっ! ル・マちゃんのために、リョウさんに嘘をつき続けるって言った、サル・シュくんの言葉は、残ってるんだからねっ!』
『明日だ』
あんなのが、彼との最後の、言葉……?
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